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あなたのために
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「‥‥皇太子殿下。」
「‥‥なんだ。」
涙が枯れて、テオドールは自身の執務室のソファーに無気力に座っていた。
そばにいたのはロスウェルだ。
「これを‥‥」
ロスウェルは1つの箱を手に持っていた。
「‥‥‥‥‥」
箱を開けると、小さな宝石のついたアンクレットだった。
「なんだ‥‥」
アンクレットを眺めて呟いた。
「リリィベル様に婚約祝いの贈り物です。私の極限の魔術を施しました。これをその身につけて頂ければ、もし、殿下の側を離れていた場合であってもその身体を傷付けるすべての物を弾く究極の防御が出来ます。無心で近づく者などおりません。なので、必ず害ある者からリリィベル様をお守りします。
矢を弾き、剣を弾き、その身を隠す事も出来ます。
これはあくまで、殿下とリリィベル様が離れてた場合です。
お側にいる時は、殿下が必ずリリィベル様をお守りするのですから。これは護身用です。
どうぞ、受け取って下さい。」
「‥‥‥‥」
そのアンクレットをきゅっと握りしめた。
テオドールは、ロスウェルを見上げた。
「ロスウェル?」
「はい」
「リリィベルと出来ればその素顔のままで会って欲しい。」
その言葉にロスウェルは笑って見せた。
「‥それは、リリィベル様にも、忠誠を誓う意味でしょうか?」
「あぁ」
「契約は出来ませんが、こちらも動きやすくなる事でしょう‥。」
「お前達の存在をリリィベルに告げるが、いいか?」
「陛下からも、魔術師全員で、リリィベル様をお守りするよう言われております。皇帝陛下と、皇太子様のご要望に反対する、そんな不届き者は私の魔塔にはおりません。」
ロスウェルは静かに、膝をつき頭を下げた。
「皇太子殿下、我らにリリィベル様を守る様、ご命令下さい。」
「‥‥‥‥‥‥」
テオドールは鋭い眼つきでロスウェルの前に立ち、自身の掌を剣で切った。掌から、多量の血がポタポタと流れ落ち、
ロスウェルのローブと、その額を濡らした。
テオドールの瞳に決意が灯る。
「ロスウェル・イーブス。」
名を呼ぶと、ロスウェルの全身は暁色に輝き、手の甲の魔術紋様が炎のように燃え上がった。
「俺の命令をよく聞け。その魔術を持って、俺が居ない全ての時間をリリィベルを守る盾となるのだ。
‥この血の量では、不足か?」
「いいえ、十分でございます。」
「俺はどんな手を使ってでも、腐った連中を吊し上げる。俺にどんな事があっても、お前達はリリィベルを最優先し、どんな敵をも防ぐのだ。女も子供も例外ではない。」
「はい、殿下。」
「しかとその身に刻め、わかったな。」
ロスウェルは顔を上げて、笑みを浮かべた。
「はい、殿下。」
テオドールの顔は険しいままだった。
「夕食後、リリィベルに今回の事を伝える。呼んだらすぐに来い。わかったな。」
「承知しました。」
テオドールは執務室を出て行った。その後に点々と血がついて歩く。
ロスウェルはその血の跡を見て、痛々しい思いだった。
「‥‥‥必ず、お守りしますよ。あなたの身も心も‥星に愛されし、月の主と月を守る、その星を‥‥」
テオドールは廊下を歩きながらシャツの袖をビリッと破り、掌に巻き付けた。
泣いても、嘆いても、時間は待ってくれない。
失ってからでは、取り戻せない。
ならば、俺は、その大量の暗殺者共を、
切って捨ててやろう‥‥‥‥。
「テオ様‥‥この手は、どうされたのです?!」
自室に戻ると、リリィベルが待っていた。
テオドールが現れた事で、ピアとリコーが姿は消えていく。
それを見届けて、テオドールは笑みを浮かべた。
「ちょっと、稽古をして切ってしまった。心配するな」
「‥‥テオ様、傷を洗いましょう?」
「あぁ、わりぃ」
メイドに救急箱を持って来させた。濡らしたタオルで傷を拭うリリィベル。
自分は痛くないはずなのに、痛い顔をしていた。真剣な眼差しで少し涙目で・・・・。その顔をじっと見つめた。
「‥‥‥‥」
〝あきっ・・・消毒ポンポンするね?〟
〝あっ・・・うん・・・・・〟
その姿を見て、前世の礼蘭を・・・思い出した
「テオ様・・・?大丈夫ですか?」
「あぁ・・・・。」
テオドールは切なく微笑んだ。
手に包帯を巻かれ、ぎゅっとその手を握りしめたリリィベル。
「よしっ・・・・これで、痛いのは飛んで行きますよ?」
〝よしっ・・・・これで痛いの飛んでくよ?〟
その笑顔を・・・俺はいつも守りたくて・・・・・。
俺は・・・・強くなる決意をしたんだ・・・・。
「っ・・・・・」
「テオ様?」
テオドールはリリィベルを強く抱きしめて、瞼の裏に涙を閉じ込めた。
「ありがとう、リリィ…痛いのは…すぐ飛んで行く…。愛してるよ。リリィ…。」
「私も…愛しています…。」
愛しいお前を守りたくて、もっと…もっと…力が欲しい…。
お前を失いたくない…。
失いたくないんだ‥‥。
夕食は、2人で食べた。きっと皇帝はロスウェルから話を聞いている事だろう。
俺の情けない姿を見て、気を遣ってくれたのだろう…。
テオドールの自室にて、リリィベルとソファーに座る。
「リリィ、大事な話があるんだ。」
「なんですか?」
「今から、人を連れてくるから、そいつに会ってほしい。」
「・・・?はい・・・・。」
少し首を傾げて、リリィベルは頷いた。
テオドールは、ブレスレットの宝石を3回叩いた。
「お呼びですか。殿下。」
「わぁっ・・・」
どこからともなく現れたロスウェルにリリィベルは吃驚してその身を震わせた。
「リリィ、落ち着け。」
「あなたは…どこから?」
目を丸くしてリリィは問いかけた。
ロスウェルはにっこりと笑みを浮かべて、指をパチンっと鳴らした。
「あっちから?」
人差し指で適当なところを指した。
「バカ言うな。真に受けるだろうが。」
「ははっすいません。」
適当に笑い、ロスウェルは2人の前に膝をついた。
「リリィベル様、初めましてではありません。」
「え・・・?」
「あなた様をお屋敷からお迎えに上がりました。ロスウェル・イーブスと申します。」
その名に聞き覚えがちゃんとあった。
「あ・・・れ・・・?でもこんなお若い方・・・・では?」
その言葉にロスウェルはまたクスっと笑って答えた。
「あれは仮の姿で御座います。この姿が私の本来の姿です。」
「・・・・そう・・・なのですか・・・・?」
まだ理解できていないリリィベルにだった。
テオドールはリリィベルの手を握り、真剣な顔で口を開く。
「この者は…皇帝陛下と皇太子に属する者。魔術が使える者だ。」
「魔術・・・・ですか?」
まるで物語を聞いているような顔つきだった。
「宜しければ、お見せしましょう。今から、陛下を連れてきます。2秒です。」
指を二本立てて笑って見せた。
「えっ?陛下を?」
リリィベルの声を聴いてすぐ、ロスウェルは指をパチンと鳴らしその姿を消した。
1秒
2秒
「こらぁっ!今着替えるところだ!!!」
シャツを脱ごうとしている皇帝をそこへ連れて戻った。
「わぁっ・・・お義父様!」
リリィは口元を両手で覆った。
「ね?2秒でしょう?」
ドヤっているロスウェルに、皇帝は外しかけていたボタンを呆れた顔して戻した。
「ロスウェル…先に言っとけよ・・・・。」
テオドールも呆れた顔をした。
「リリィベル様?信じて頂けました?」
「ロスウェル様は、魔法が使えるのですね‥‥。」
「そういう事にしておきましょう。」
「「はぁ・・・・」」
テオドールと父は似たような顔をしてため息をついた。
皇帝もその場に立ち合い話を進める。
「リリィ、魔術者は皇帝と皇太子の命令しか聞かない。そして、その存在は皇族だけ、皇帝と皇太子のみが知る秘密だ。」
「・・・まだ婚約者の私に・・・そのような秘密を・・・?」
「お前は知っておく必要がある・・・。お前も分かっているだろう?
私の婚約者になった事で、お前はその身を狙われている。」
「・・・・はい・・・・・」
リリィベルは少し俯いた。その顔にテオドールは眉を下げた。
「私のせいだ…。私がお前を…。」
「いいえっ!!!!」
リリィベルは力いっぱい否定をした。
「リリィ・・・」
「殿下…私は望んであなたの側にいると言いました!!あなたを愛しているから…。
どんなに人に恨まれようと…私は欲張りだから…あなたを独り占めしたいのだと・・・・」
少し怒った様にリリィは言った。
「・・・・・・・」
そして強い眼差しでテオドールを射抜く。
「あなたは・・・言いましたよね?あなたの言葉が、この身には重たいかと・・・。
重くても構いません…。私をその腕で閉じ込めて下さいと、お願いしたのは私です。」
リリィベルは、テオドールの頬を包んだ。
「私は…あなたと出会うために産まれてきたのです・・・・」
「・・・・リリィ・・・・」
テオドールの瞳が揺れる。
その言葉に笑みを浮かべていた皇帝とロスウェルだった。
「何を知っても、私はあなたの側を離れません。だから、言ってください。
怖がらないで…あなたの側にずっとおりますから…。」
「っ・・・あぁ・・・・」
グッと俯いて返事をした。少し眩しくて見られなかった。
臆病になって虚勢を張っていた自分が少し恥ずかしくて・・・・。
リリィはこんなに…強い女だった…。
「さすが、ブラックウォールの娘だな。」
「えぇ、度胸がありますねぇ、殿下と違って。」
「うるさい!」
皇帝は、事実を話し始めた。リリィベルはその事実を真剣に受け止める。
「つまり、多数の暗殺者が、私を狙っているのですね。依頼者は数知れずだと・・・」
「そうだ。婚約を発表した時から、暗殺者は来ている。お前たちの部屋はロスウェル達が
結界を張り、誰も踏み込めないようにしている。」
「そうだったのですね‥‥。」
リリィベルは少し俯いた。
「ロスウェル達の魔術は他の者は知らぬ故、その結界を見破る者はいないだろう。
私は、闇ギルドを根絶やしにするつもりだ。そして、お前の暗殺を依頼した者たちすべてを
排除する。」
「・・・・・そう・・・ですか・・・・・・」
リリィベルは弱々しく返事を返した。
「リリィ、お前も用心してくれ、いくら弾いているとはいえ、敵は顔をみて分かる訳じゃない。
女であろうが、子供であろうが…決して気を抜くな…。」
テオドールはリリィベルの両手を包んだ。
「お前を…絶対に守り抜いて見せる。」
「テオ様・・・・信じております。」
リリィベルはテオドールに笑って見せた。
「あぁ…信じてくれ…髪一筋でも傷つけさせない…。」
ロスウェルはその空気をぶち破るように声を上げた。
「殿下、あれ渡してください!」
「・・・・・チッ・・・・・わかってるよ・・・・」
「あー今舌打ちしたこの人ーーー、わるーい」
ロスウェルは皇帝を見ながら言い、テオドールを指さした。
「やめろ。ロスウェル。」
テオドールはポケットから箱を取り出した。
「これはロスウェルが作った護身具だ。身に着けていてくれ・・・。」
そう言ってアンクレットを取り出した。
「綺麗ですね。ありがとう御座います。ロスウェル様。」
「いえいえいえいえいえいえいえ」
ロスウェルは嬉しそうに笑った。
「足元を陛下たちの前で出すわけには参りませんので、後ほど・・・。」
「はい。そうしてください。必ず、あなた様をお守りします。」
皇帝は満足気な顔をしてテオドールとリリィベルを見た。
「さぁ、話は以上だ。ロスウェルと私はこれで失礼するよ。ゆっくり休んでくれ。
何も心配せずにな。」
そう言って皇帝はロスウェルの肩を掴んだ。
「え?なんですか?」
きょとんとするロスウェル。
「バカ、連れてきたんだから送れバカ!」
「うーわー、ほんとイヤー」
そう言って2人は姿を消した。
静まり返った部屋。テオドールとリリィベルは顔を見合わせて笑った。
そして、テオドールはアンクレットをリリィベルの左足首につけ、その足の甲に口付けた。
「ふっ…初めてあった時から思ってましたけど、ロスウェル様は愉快な方ですね?」
「ははっ…母上も同じような事を言っていたな…。」
「お義母様も?」
「あぁ、知っている。俺が城下に住んでいたのを話しただろ?人知れず、無事に居られたのは
ロスウェル達が守ってくれていたからだ。だから、お前も大丈夫だぞ?」
そう言って笑って見せた。
「テオ様も…安心なさって?私はお側におりますから…どんな事があっても…。」
リリィベルはそっと、テオドールの頬に触れた
テオドールはリリィベルのその手に、自身の手を重ねた。
「あぁ…ずっと一緒だ…。」
お前を失わない限り・・・俺は生きていける・・・・。
「‥‥なんだ。」
涙が枯れて、テオドールは自身の執務室のソファーに無気力に座っていた。
そばにいたのはロスウェルだ。
「これを‥‥」
ロスウェルは1つの箱を手に持っていた。
「‥‥‥‥‥」
箱を開けると、小さな宝石のついたアンクレットだった。
「なんだ‥‥」
アンクレットを眺めて呟いた。
「リリィベル様に婚約祝いの贈り物です。私の極限の魔術を施しました。これをその身につけて頂ければ、もし、殿下の側を離れていた場合であってもその身体を傷付けるすべての物を弾く究極の防御が出来ます。無心で近づく者などおりません。なので、必ず害ある者からリリィベル様をお守りします。
矢を弾き、剣を弾き、その身を隠す事も出来ます。
これはあくまで、殿下とリリィベル様が離れてた場合です。
お側にいる時は、殿下が必ずリリィベル様をお守りするのですから。これは護身用です。
どうぞ、受け取って下さい。」
「‥‥‥‥」
そのアンクレットをきゅっと握りしめた。
テオドールは、ロスウェルを見上げた。
「ロスウェル?」
「はい」
「リリィベルと出来ればその素顔のままで会って欲しい。」
その言葉にロスウェルは笑って見せた。
「‥それは、リリィベル様にも、忠誠を誓う意味でしょうか?」
「あぁ」
「契約は出来ませんが、こちらも動きやすくなる事でしょう‥。」
「お前達の存在をリリィベルに告げるが、いいか?」
「陛下からも、魔術師全員で、リリィベル様をお守りするよう言われております。皇帝陛下と、皇太子様のご要望に反対する、そんな不届き者は私の魔塔にはおりません。」
ロスウェルは静かに、膝をつき頭を下げた。
「皇太子殿下、我らにリリィベル様を守る様、ご命令下さい。」
「‥‥‥‥‥‥」
テオドールは鋭い眼つきでロスウェルの前に立ち、自身の掌を剣で切った。掌から、多量の血がポタポタと流れ落ち、
ロスウェルのローブと、その額を濡らした。
テオドールの瞳に決意が灯る。
「ロスウェル・イーブス。」
名を呼ぶと、ロスウェルの全身は暁色に輝き、手の甲の魔術紋様が炎のように燃え上がった。
「俺の命令をよく聞け。その魔術を持って、俺が居ない全ての時間をリリィベルを守る盾となるのだ。
‥この血の量では、不足か?」
「いいえ、十分でございます。」
「俺はどんな手を使ってでも、腐った連中を吊し上げる。俺にどんな事があっても、お前達はリリィベルを最優先し、どんな敵をも防ぐのだ。女も子供も例外ではない。」
「はい、殿下。」
「しかとその身に刻め、わかったな。」
ロスウェルは顔を上げて、笑みを浮かべた。
「はい、殿下。」
テオドールの顔は険しいままだった。
「夕食後、リリィベルに今回の事を伝える。呼んだらすぐに来い。わかったな。」
「承知しました。」
テオドールは執務室を出て行った。その後に点々と血がついて歩く。
ロスウェルはその血の跡を見て、痛々しい思いだった。
「‥‥‥必ず、お守りしますよ。あなたの身も心も‥星に愛されし、月の主と月を守る、その星を‥‥」
テオドールは廊下を歩きながらシャツの袖をビリッと破り、掌に巻き付けた。
泣いても、嘆いても、時間は待ってくれない。
失ってからでは、取り戻せない。
ならば、俺は、その大量の暗殺者共を、
切って捨ててやろう‥‥‥‥。
「テオ様‥‥この手は、どうされたのです?!」
自室に戻ると、リリィベルが待っていた。
テオドールが現れた事で、ピアとリコーが姿は消えていく。
それを見届けて、テオドールは笑みを浮かべた。
「ちょっと、稽古をして切ってしまった。心配するな」
「‥‥テオ様、傷を洗いましょう?」
「あぁ、わりぃ」
メイドに救急箱を持って来させた。濡らしたタオルで傷を拭うリリィベル。
自分は痛くないはずなのに、痛い顔をしていた。真剣な眼差しで少し涙目で・・・・。その顔をじっと見つめた。
「‥‥‥‥」
〝あきっ・・・消毒ポンポンするね?〟
〝あっ・・・うん・・・・・〟
その姿を見て、前世の礼蘭を・・・思い出した
「テオ様・・・?大丈夫ですか?」
「あぁ・・・・。」
テオドールは切なく微笑んだ。
手に包帯を巻かれ、ぎゅっとその手を握りしめたリリィベル。
「よしっ・・・・これで、痛いのは飛んで行きますよ?」
〝よしっ・・・・これで痛いの飛んでくよ?〟
その笑顔を・・・俺はいつも守りたくて・・・・・。
俺は・・・・強くなる決意をしたんだ・・・・。
「っ・・・・・」
「テオ様?」
テオドールはリリィベルを強く抱きしめて、瞼の裏に涙を閉じ込めた。
「ありがとう、リリィ…痛いのは…すぐ飛んで行く…。愛してるよ。リリィ…。」
「私も…愛しています…。」
愛しいお前を守りたくて、もっと…もっと…力が欲しい…。
お前を失いたくない…。
失いたくないんだ‥‥。
夕食は、2人で食べた。きっと皇帝はロスウェルから話を聞いている事だろう。
俺の情けない姿を見て、気を遣ってくれたのだろう…。
テオドールの自室にて、リリィベルとソファーに座る。
「リリィ、大事な話があるんだ。」
「なんですか?」
「今から、人を連れてくるから、そいつに会ってほしい。」
「・・・?はい・・・・。」
少し首を傾げて、リリィベルは頷いた。
テオドールは、ブレスレットの宝石を3回叩いた。
「お呼びですか。殿下。」
「わぁっ・・・」
どこからともなく現れたロスウェルにリリィベルは吃驚してその身を震わせた。
「リリィ、落ち着け。」
「あなたは…どこから?」
目を丸くしてリリィは問いかけた。
ロスウェルはにっこりと笑みを浮かべて、指をパチンっと鳴らした。
「あっちから?」
人差し指で適当なところを指した。
「バカ言うな。真に受けるだろうが。」
「ははっすいません。」
適当に笑い、ロスウェルは2人の前に膝をついた。
「リリィベル様、初めましてではありません。」
「え・・・?」
「あなた様をお屋敷からお迎えに上がりました。ロスウェル・イーブスと申します。」
その名に聞き覚えがちゃんとあった。
「あ・・・れ・・・?でもこんなお若い方・・・・では?」
その言葉にロスウェルはまたクスっと笑って答えた。
「あれは仮の姿で御座います。この姿が私の本来の姿です。」
「・・・・そう・・・なのですか・・・・?」
まだ理解できていないリリィベルにだった。
テオドールはリリィベルの手を握り、真剣な顔で口を開く。
「この者は…皇帝陛下と皇太子に属する者。魔術が使える者だ。」
「魔術・・・・ですか?」
まるで物語を聞いているような顔つきだった。
「宜しければ、お見せしましょう。今から、陛下を連れてきます。2秒です。」
指を二本立てて笑って見せた。
「えっ?陛下を?」
リリィベルの声を聴いてすぐ、ロスウェルは指をパチンと鳴らしその姿を消した。
1秒
2秒
「こらぁっ!今着替えるところだ!!!」
シャツを脱ごうとしている皇帝をそこへ連れて戻った。
「わぁっ・・・お義父様!」
リリィは口元を両手で覆った。
「ね?2秒でしょう?」
ドヤっているロスウェルに、皇帝は外しかけていたボタンを呆れた顔して戻した。
「ロスウェル…先に言っとけよ・・・・。」
テオドールも呆れた顔をした。
「リリィベル様?信じて頂けました?」
「ロスウェル様は、魔法が使えるのですね‥‥。」
「そういう事にしておきましょう。」
「「はぁ・・・・」」
テオドールと父は似たような顔をしてため息をついた。
皇帝もその場に立ち合い話を進める。
「リリィ、魔術者は皇帝と皇太子の命令しか聞かない。そして、その存在は皇族だけ、皇帝と皇太子のみが知る秘密だ。」
「・・・まだ婚約者の私に・・・そのような秘密を・・・?」
「お前は知っておく必要がある・・・。お前も分かっているだろう?
私の婚約者になった事で、お前はその身を狙われている。」
「・・・・はい・・・・・」
リリィベルは少し俯いた。その顔にテオドールは眉を下げた。
「私のせいだ…。私がお前を…。」
「いいえっ!!!!」
リリィベルは力いっぱい否定をした。
「リリィ・・・」
「殿下…私は望んであなたの側にいると言いました!!あなたを愛しているから…。
どんなに人に恨まれようと…私は欲張りだから…あなたを独り占めしたいのだと・・・・」
少し怒った様にリリィは言った。
「・・・・・・・」
そして強い眼差しでテオドールを射抜く。
「あなたは・・・言いましたよね?あなたの言葉が、この身には重たいかと・・・。
重くても構いません…。私をその腕で閉じ込めて下さいと、お願いしたのは私です。」
リリィベルは、テオドールの頬を包んだ。
「私は…あなたと出会うために産まれてきたのです・・・・」
「・・・・リリィ・・・・」
テオドールの瞳が揺れる。
その言葉に笑みを浮かべていた皇帝とロスウェルだった。
「何を知っても、私はあなたの側を離れません。だから、言ってください。
怖がらないで…あなたの側にずっとおりますから…。」
「っ・・・あぁ・・・・」
グッと俯いて返事をした。少し眩しくて見られなかった。
臆病になって虚勢を張っていた自分が少し恥ずかしくて・・・・。
リリィはこんなに…強い女だった…。
「さすが、ブラックウォールの娘だな。」
「えぇ、度胸がありますねぇ、殿下と違って。」
「うるさい!」
皇帝は、事実を話し始めた。リリィベルはその事実を真剣に受け止める。
「つまり、多数の暗殺者が、私を狙っているのですね。依頼者は数知れずだと・・・」
「そうだ。婚約を発表した時から、暗殺者は来ている。お前たちの部屋はロスウェル達が
結界を張り、誰も踏み込めないようにしている。」
「そうだったのですね‥‥。」
リリィベルは少し俯いた。
「ロスウェル達の魔術は他の者は知らぬ故、その結界を見破る者はいないだろう。
私は、闇ギルドを根絶やしにするつもりだ。そして、お前の暗殺を依頼した者たちすべてを
排除する。」
「・・・・・そう・・・ですか・・・・・・」
リリィベルは弱々しく返事を返した。
「リリィ、お前も用心してくれ、いくら弾いているとはいえ、敵は顔をみて分かる訳じゃない。
女であろうが、子供であろうが…決して気を抜くな…。」
テオドールはリリィベルの両手を包んだ。
「お前を…絶対に守り抜いて見せる。」
「テオ様・・・・信じております。」
リリィベルはテオドールに笑って見せた。
「あぁ…信じてくれ…髪一筋でも傷つけさせない…。」
ロスウェルはその空気をぶち破るように声を上げた。
「殿下、あれ渡してください!」
「・・・・・チッ・・・・・わかってるよ・・・・」
「あー今舌打ちしたこの人ーーー、わるーい」
ロスウェルは皇帝を見ながら言い、テオドールを指さした。
「やめろ。ロスウェル。」
テオドールはポケットから箱を取り出した。
「これはロスウェルが作った護身具だ。身に着けていてくれ・・・。」
そう言ってアンクレットを取り出した。
「綺麗ですね。ありがとう御座います。ロスウェル様。」
「いえいえいえいえいえいえいえ」
ロスウェルは嬉しそうに笑った。
「足元を陛下たちの前で出すわけには参りませんので、後ほど・・・。」
「はい。そうしてください。必ず、あなた様をお守りします。」
皇帝は満足気な顔をしてテオドールとリリィベルを見た。
「さぁ、話は以上だ。ロスウェルと私はこれで失礼するよ。ゆっくり休んでくれ。
何も心配せずにな。」
そう言って皇帝はロスウェルの肩を掴んだ。
「え?なんですか?」
きょとんとするロスウェル。
「バカ、連れてきたんだから送れバカ!」
「うーわー、ほんとイヤー」
そう言って2人は姿を消した。
静まり返った部屋。テオドールとリリィベルは顔を見合わせて笑った。
そして、テオドールはアンクレットをリリィベルの左足首につけ、その足の甲に口付けた。
「ふっ…初めてあった時から思ってましたけど、ロスウェル様は愉快な方ですね?」
「ははっ…母上も同じような事を言っていたな…。」
「お義母様も?」
「あぁ、知っている。俺が城下に住んでいたのを話しただろ?人知れず、無事に居られたのは
ロスウェル達が守ってくれていたからだ。だから、お前も大丈夫だぞ?」
そう言って笑って見せた。
「テオ様も…安心なさって?私はお側におりますから…どんな事があっても…。」
リリィベルはそっと、テオドールの頬に触れた
テオドールはリリィベルのその手に、自身の手を重ねた。
「あぁ…ずっと一緒だ…。」
お前を失わない限り・・・俺は生きていける・・・・。
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婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。
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