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愛の執念
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皇太后の離宮、温室にあるティーテーブル。紅茶と菓子を前に皇太后とライリーは椅子に腰かけ、
瞳を合わせた。
「そうか・・・会ったのだな。」
ティーカップをソーサーに置き皇太后は言った。
「はい。陛下・・・・。」
ライリーは皇太后を強く見つめた。
「なぜ…婚約発表が突然起こったのですか!なぜ私達には一言も!」
「…皇族には秘密がある…。あれは、私にも知らせはなかった。
なに・・・。婚約など、いつでも破談に出来るであろう。」
その言葉にライリーは悔し気に口にした。
「あの女は・・・・この城で・・・・殿下と時を過ごしっ・・・・
卑しくも寝所を共にしているではありませんか!!」
襲撃は、ヘイドン侯爵が雇った暗殺者だった。
「父上が、早々に手を打ち・・・その身を連れ去るつもりが・・・・。
もうっ・・・婚約者でありながらっ・・・殿下とっ・・・。」
人知れず戻ってきた暗殺者が父に報告したのを聞いたのだった。リリィベルはすでに住まいに皇太子妃の部屋を与えられ、けれどその部屋はからっぽで、皇太子の部屋にいると・・・。
そして、何故かバルコニーの鍵穴を探しても見つけられないし、入る手立てがなかったと…。
あの女は、あの皇太子の腕に包まれ・・・夜を過ごした。
「そう声を荒げるなライリー嬢・・・綺麗な顔が台無しだ。
それに、寝所を共にしたからなんだというのだ。そんなものに気を取られていては
妻などやっていけません。男はいつでもその身を移して歩くのだ。まるで花に移り歩く虫のようにな。」
ライリーは唇を嚙みしめた。
それでも、悔しいものは悔しいのだ・・・・。
愛する人が、他の女をその腕で抱きしめる姿など・・・・。
「ライリー嬢。すでに、あの娘は私の手中にあるも同然だ。
ヘイドン侯爵に伝えよ。前皇帝陛下の側室が私に盛った毒を、また使う時がきたとな・・・。」
ライリーは目を見開いた。
「それは・・・・」
皇太后はニヤリと笑みを浮かべた。
「当時の皇太子が暴いた側室が盛ったという毒、あれは・・・。」
「知っております・・・。」
ライリーは睨むように皇太后を見た。
「知っております・・・。私は。あれは、側室を追いやるため、わざと着せた罪。
皇太后陛下を侮辱するその女を追いやるために、侯爵家が手を打ったのですから・・・・」
そう言ったライリーに、静かに皇太后は笑みを返した。
「・・・舞踏会があるらしいな?」
「えぇ・・・・皇后陛下がご準備されているようです。」
皇太后はふっと息を吐き、眉をひそめた。
「あれは、オリヴァーの愛に包まれ、能天気に過ごしていた娘だ。皇后に相応しくない。
ただ一人、ひたすらに愛される女など、私は、見ていて虫唾が走るのだ。」
「まさか…皇后陛下に…?」
「あの娘に毒を盛ったところで、警備が強化されるだけ・・ならば、皇后が倒れた間を狙い、
攫うなり、殺すなり、好きにしろ。王都に着て間もなく皇太子の婚約者等にその身を置くなど、身の程知らずなのだ・・・。そう思うであろう?」
ライリーは静かに笑みを浮かべた。
「皇后も、まさか自分の管轄する宴で自分に毒が盛られるとは思うまい・・・。
狙われるのは、リリィベルだけだと、皇帝も皇太子も警戒するはずだ。」
「・・・・陛下は以前、その毒を・・・・」
「はははっ・・・私がそんな物口にするものか、飲んだ者を真似して演技しただけ・・・・。
治療を施した医者も手を組んだものだ。偽の治療だ。そやつも死んだ。
少々飲んだだけなら、数日寝込めば回復する。だが、多量に飲むと死んでしまうがな。
死なない程度に、飲ませてやれ・・・。あの娘の関心が薄れるように。」
ライリーはにこっと笑った。
「ふふっ・・・・攫った後は、殺します・・・。二度とその姿を殿下に見せぬよう。
そして・・・私は、あの方の心を癒して差し上げるのですから・・・・。」
絶対に・・・生かしておくものか・・・・。
「ハリー、どうだ?順調か?」
皇太子はその身を魔塔に置いていた。
「えぇ、殿下が言ったように、集中しながらやると成功するようになりました。」
「おぉ!すげぇな。出来んじゃーん。もったいねぇって思ってたんだよ。魔術。」
「しかし、よくこんな事思いつきましたね?」
その言葉に、皇太子は自分の頭をポンポンと叩いた。
「頭の作りが違うんだよ。」
「あぁ、形ですか?」
「中身だよっ!」
魔術が展開され、色彩が飛び交う。
「あと、もう一個の方は?調べてみたか?」
ハリーは悩まし気な顔をした。
「あー・・・まぁ。でも、結構危険ですよ?今はまだ。先程のモノと合わせても危険です。」
「だよなぁ・・・・。」
「でも、もし成功すれば・・・・。私たちは・・・・。」
「あぁそうだ。きっと・・うまくいく・・・・。」
悪戯に笑い合うテオドールとハリー。
それは人知れず行われていた。2人の研究。
午後になり、皇太子はリリィベルの部屋を訪ねた。
部屋に入ると、仕立て屋と宝石商が来ていた。
「あ、テオ!こっちにきてあなたも見て?」
皇后が明るい声でテオドールを呼んだ。皇后の隣でリリィベルが微笑んでいる。
「母上、あんまりリリィを振り回さないでくださいね。
急に婚約記念の舞踏会だなんて、国中の仕立て屋が悲鳴を上げますよ。」
その言葉に皇后は不満気な顔で口を窄めながら言った。
「あんな発表だけで終わらせるわけないでしょ?あなたたちが大ホールの中心で踊って、開会よ?
とても素敵でしょ?誕生祭でのあなた達のダンスはとても綺麗だったもの。」
「わかりましたから、そんな顔なさらないでください。」
「あっ、お義母様、テオ様にはこのお色が似合うのでは?」
そう言ってリリィベルはカタログを見せた。
「どれどれ?あっ本当ね?センスがいいわリリィ。デザインはどうする?」
2人でカタログを広げ、顔を近づける。すっかり仲良しだった。
「はっ・・・・」
皇太子は、諦めがちに笑った。この場で俺の出る幕はない。
女性二人は楽しそうだ。仕立て屋のデザイナーと話しをしたと思えば、
それに合わせる宝石商人と話す。なんとも忙しない。
けれどテオドールはソファーに座り頬杖をついて、リリィベルの楽しそうなその顔を眺めていた。
カタログに目を通す流れる視線も、弧を描く唇も、小さく話したり笑ったりするその唇を、ずっと。
それだけで、午前中の疲れは吹っ飛んだ。
しばらくし、目星をつけた所で女性たちは一息ついたのだった。
そこへ皇帝も訪れた。
「どうだ?衣装は決まったか?」
皇太子は瞳を閉じた。
「・・・・・・・・・・」
父上もずいぶん来るな・・。元々母上の所に通っていたのか?
笑顔で母上の隣に座る父上。本当に仲の良い夫婦だ。
さて、父上もきたことだし・・・。
隣に座るリリィベルを横目に見て、その手を握った。
「リリィ?少し散歩に行かないか?昼間の中庭は初めてだろう?」
「はい!テオ様!」
嬉しそうにリリィベルは返事を返してくれた。立ち上がり2人は手を繋いだ。
「ということで、父上、母上、私たちは散歩してきます。」
「あぁ。行っておいで。」
両親は笑顔で送ってくれた。
皇太子宮の端にある長い階段を降りると、中庭につながる通路に当たる。
その通路は皇帝、皇后宮とも繋がっていて各方面から降りてもここへたどり着き、中庭へ出られるのだ。
あの誕生祭の夜、言葉を交わした噴水の前に2人は立った。
「わぁ・・・昼間に見るのも綺麗ですね。涼しげだわ。」
リリィが少しその水を掬った。
「この時期にはぴったりだろう?」
2人は噴水から少しだけ離れたベンチに座った。
しかし、リリィベルは、頬を赤く染めて首を傾げた。
「テオ様?」
「なんだ?」
「誰かに見られたらはしたないです・・・」
「いいんだ。俺たちは婚約者で、俺たちに物申すものはいない。」
ベンチでは、テオドールの大股に開いた足の間に、リリィベルが座っているのだ。
後ろを振り返りリリィベルが口を開く。
「そういえば、さっきお話聞いてました?」
「なんだ?」
「衣装のお色の話ですよ?」
その言葉にテオドールは少し目を逸らした。
「あっ・・・そのお顔は聞いてなかったという事ですね?」
リリィベルは少し頬を膨らませた。
テオドールは無言でリリィベルを抱きしめた。
「わりぃ・・・聞いてなかった。お前の顔を見るのに忙しかったんだ。」
「もぉ・・・そんな事言っても駄目ですよ?」
「リリィ、許せ、なんでも聞いてやるから。な?」
「ふふふっ、何でもですか?」
抱き合って、笑い合って幸せな時間だった。
その光景を、離宮からの帰りのライリーが遠くから見ていた。
リリィベルを後ろから抱きしめて、笑う皇太子、その腕を掴み笑うリリィベル。
何を話しているかは分からない。けれど2人は絶えず話をして、目線を合わせ笑っている。
「・・・・・・・・・」
ライリーの目にはそれが憎たらしい光景。
愛していた。あの小さな王子様だった時から・・・・・。
あの人の瞳に、自分が映りたいと・・・・。
父から言われるそれだけではなく、自ら望んだ。あの王子様のお姫様になりたいのだと。
だが、現実はどうだ・・・・。
愛する王子様は、突然現れた取るに足らぬ女を・・・お姫様に?
一度も、見てはくださらなくても、いつかは、然るべき私が、王子様のお姫様になり、
いつか、愛する眼差しで見て下さると・・・・。
「!!!!!・・・」
私の王子様は・・・。自身が姫とする・・・その女と、甘く口づけを交わす・・・・。
「・・・・・・・・・・」
ライリーはグッと唇を噛み、睨みつけていた。その甘く、長い口づけを・・・・。
あの方の唇に、触れた・・・・?
あの手で髪を撫でられ・・・頬に触れられ・・・・
何度も唇を合わせては・・・。瞳を合わせ・・・。
吸い寄せられるように、また唇を重ねる・・・・・・。
そのうち、女は抱き上げられ、膝に乗せられると、王子様の首に手を回した。
まるで世界は2人だけのように、夢中で口づけを交わし続ける。
氷のように冷たかった王子様は、あのような瞳をするのね・・・・。
蕩けそうな眼差しと、その唇で、想いを伝えるように・・・・。
2人が交わす口づけを黙って見つめた。
「あの口を・・・裂いて、剝ぎ取ってやるわ・・・・。絶対に。」
王子様の唇を穢す者は、口を裂かれて死ねばいい・・・。
瞳を合わせた。
「そうか・・・会ったのだな。」
ティーカップをソーサーに置き皇太后は言った。
「はい。陛下・・・・。」
ライリーは皇太后を強く見つめた。
「なぜ…婚約発表が突然起こったのですか!なぜ私達には一言も!」
「…皇族には秘密がある…。あれは、私にも知らせはなかった。
なに・・・。婚約など、いつでも破談に出来るであろう。」
その言葉にライリーは悔し気に口にした。
「あの女は・・・・この城で・・・・殿下と時を過ごしっ・・・・
卑しくも寝所を共にしているではありませんか!!」
襲撃は、ヘイドン侯爵が雇った暗殺者だった。
「父上が、早々に手を打ち・・・その身を連れ去るつもりが・・・・。
もうっ・・・婚約者でありながらっ・・・殿下とっ・・・。」
人知れず戻ってきた暗殺者が父に報告したのを聞いたのだった。リリィベルはすでに住まいに皇太子妃の部屋を与えられ、けれどその部屋はからっぽで、皇太子の部屋にいると・・・。
そして、何故かバルコニーの鍵穴を探しても見つけられないし、入る手立てがなかったと…。
あの女は、あの皇太子の腕に包まれ・・・夜を過ごした。
「そう声を荒げるなライリー嬢・・・綺麗な顔が台無しだ。
それに、寝所を共にしたからなんだというのだ。そんなものに気を取られていては
妻などやっていけません。男はいつでもその身を移して歩くのだ。まるで花に移り歩く虫のようにな。」
ライリーは唇を嚙みしめた。
それでも、悔しいものは悔しいのだ・・・・。
愛する人が、他の女をその腕で抱きしめる姿など・・・・。
「ライリー嬢。すでに、あの娘は私の手中にあるも同然だ。
ヘイドン侯爵に伝えよ。前皇帝陛下の側室が私に盛った毒を、また使う時がきたとな・・・。」
ライリーは目を見開いた。
「それは・・・・」
皇太后はニヤリと笑みを浮かべた。
「当時の皇太子が暴いた側室が盛ったという毒、あれは・・・。」
「知っております・・・。」
ライリーは睨むように皇太后を見た。
「知っております・・・。私は。あれは、側室を追いやるため、わざと着せた罪。
皇太后陛下を侮辱するその女を追いやるために、侯爵家が手を打ったのですから・・・・」
そう言ったライリーに、静かに皇太后は笑みを返した。
「・・・舞踏会があるらしいな?」
「えぇ・・・・皇后陛下がご準備されているようです。」
皇太后はふっと息を吐き、眉をひそめた。
「あれは、オリヴァーの愛に包まれ、能天気に過ごしていた娘だ。皇后に相応しくない。
ただ一人、ひたすらに愛される女など、私は、見ていて虫唾が走るのだ。」
「まさか…皇后陛下に…?」
「あの娘に毒を盛ったところで、警備が強化されるだけ・・ならば、皇后が倒れた間を狙い、
攫うなり、殺すなり、好きにしろ。王都に着て間もなく皇太子の婚約者等にその身を置くなど、身の程知らずなのだ・・・。そう思うであろう?」
ライリーは静かに笑みを浮かべた。
「皇后も、まさか自分の管轄する宴で自分に毒が盛られるとは思うまい・・・。
狙われるのは、リリィベルだけだと、皇帝も皇太子も警戒するはずだ。」
「・・・・陛下は以前、その毒を・・・・」
「はははっ・・・私がそんな物口にするものか、飲んだ者を真似して演技しただけ・・・・。
治療を施した医者も手を組んだものだ。偽の治療だ。そやつも死んだ。
少々飲んだだけなら、数日寝込めば回復する。だが、多量に飲むと死んでしまうがな。
死なない程度に、飲ませてやれ・・・。あの娘の関心が薄れるように。」
ライリーはにこっと笑った。
「ふふっ・・・・攫った後は、殺します・・・。二度とその姿を殿下に見せぬよう。
そして・・・私は、あの方の心を癒して差し上げるのですから・・・・。」
絶対に・・・生かしておくものか・・・・。
「ハリー、どうだ?順調か?」
皇太子はその身を魔塔に置いていた。
「えぇ、殿下が言ったように、集中しながらやると成功するようになりました。」
「おぉ!すげぇな。出来んじゃーん。もったいねぇって思ってたんだよ。魔術。」
「しかし、よくこんな事思いつきましたね?」
その言葉に、皇太子は自分の頭をポンポンと叩いた。
「頭の作りが違うんだよ。」
「あぁ、形ですか?」
「中身だよっ!」
魔術が展開され、色彩が飛び交う。
「あと、もう一個の方は?調べてみたか?」
ハリーは悩まし気な顔をした。
「あー・・・まぁ。でも、結構危険ですよ?今はまだ。先程のモノと合わせても危険です。」
「だよなぁ・・・・。」
「でも、もし成功すれば・・・・。私たちは・・・・。」
「あぁそうだ。きっと・・うまくいく・・・・。」
悪戯に笑い合うテオドールとハリー。
それは人知れず行われていた。2人の研究。
午後になり、皇太子はリリィベルの部屋を訪ねた。
部屋に入ると、仕立て屋と宝石商が来ていた。
「あ、テオ!こっちにきてあなたも見て?」
皇后が明るい声でテオドールを呼んだ。皇后の隣でリリィベルが微笑んでいる。
「母上、あんまりリリィを振り回さないでくださいね。
急に婚約記念の舞踏会だなんて、国中の仕立て屋が悲鳴を上げますよ。」
その言葉に皇后は不満気な顔で口を窄めながら言った。
「あんな発表だけで終わらせるわけないでしょ?あなたたちが大ホールの中心で踊って、開会よ?
とても素敵でしょ?誕生祭でのあなた達のダンスはとても綺麗だったもの。」
「わかりましたから、そんな顔なさらないでください。」
「あっ、お義母様、テオ様にはこのお色が似合うのでは?」
そう言ってリリィベルはカタログを見せた。
「どれどれ?あっ本当ね?センスがいいわリリィ。デザインはどうする?」
2人でカタログを広げ、顔を近づける。すっかり仲良しだった。
「はっ・・・・」
皇太子は、諦めがちに笑った。この場で俺の出る幕はない。
女性二人は楽しそうだ。仕立て屋のデザイナーと話しをしたと思えば、
それに合わせる宝石商人と話す。なんとも忙しない。
けれどテオドールはソファーに座り頬杖をついて、リリィベルの楽しそうなその顔を眺めていた。
カタログに目を通す流れる視線も、弧を描く唇も、小さく話したり笑ったりするその唇を、ずっと。
それだけで、午前中の疲れは吹っ飛んだ。
しばらくし、目星をつけた所で女性たちは一息ついたのだった。
そこへ皇帝も訪れた。
「どうだ?衣装は決まったか?」
皇太子は瞳を閉じた。
「・・・・・・・・・・」
父上もずいぶん来るな・・。元々母上の所に通っていたのか?
笑顔で母上の隣に座る父上。本当に仲の良い夫婦だ。
さて、父上もきたことだし・・・。
隣に座るリリィベルを横目に見て、その手を握った。
「リリィ?少し散歩に行かないか?昼間の中庭は初めてだろう?」
「はい!テオ様!」
嬉しそうにリリィベルは返事を返してくれた。立ち上がり2人は手を繋いだ。
「ということで、父上、母上、私たちは散歩してきます。」
「あぁ。行っておいで。」
両親は笑顔で送ってくれた。
皇太子宮の端にある長い階段を降りると、中庭につながる通路に当たる。
その通路は皇帝、皇后宮とも繋がっていて各方面から降りてもここへたどり着き、中庭へ出られるのだ。
あの誕生祭の夜、言葉を交わした噴水の前に2人は立った。
「わぁ・・・昼間に見るのも綺麗ですね。涼しげだわ。」
リリィが少しその水を掬った。
「この時期にはぴったりだろう?」
2人は噴水から少しだけ離れたベンチに座った。
しかし、リリィベルは、頬を赤く染めて首を傾げた。
「テオ様?」
「なんだ?」
「誰かに見られたらはしたないです・・・」
「いいんだ。俺たちは婚約者で、俺たちに物申すものはいない。」
ベンチでは、テオドールの大股に開いた足の間に、リリィベルが座っているのだ。
後ろを振り返りリリィベルが口を開く。
「そういえば、さっきお話聞いてました?」
「なんだ?」
「衣装のお色の話ですよ?」
その言葉にテオドールは少し目を逸らした。
「あっ・・・そのお顔は聞いてなかったという事ですね?」
リリィベルは少し頬を膨らませた。
テオドールは無言でリリィベルを抱きしめた。
「わりぃ・・・聞いてなかった。お前の顔を見るのに忙しかったんだ。」
「もぉ・・・そんな事言っても駄目ですよ?」
「リリィ、許せ、なんでも聞いてやるから。な?」
「ふふふっ、何でもですか?」
抱き合って、笑い合って幸せな時間だった。
その光景を、離宮からの帰りのライリーが遠くから見ていた。
リリィベルを後ろから抱きしめて、笑う皇太子、その腕を掴み笑うリリィベル。
何を話しているかは分からない。けれど2人は絶えず話をして、目線を合わせ笑っている。
「・・・・・・・・・」
ライリーの目にはそれが憎たらしい光景。
愛していた。あの小さな王子様だった時から・・・・・。
あの人の瞳に、自分が映りたいと・・・・。
父から言われるそれだけではなく、自ら望んだ。あの王子様のお姫様になりたいのだと。
だが、現実はどうだ・・・・。
愛する王子様は、突然現れた取るに足らぬ女を・・・お姫様に?
一度も、見てはくださらなくても、いつかは、然るべき私が、王子様のお姫様になり、
いつか、愛する眼差しで見て下さると・・・・。
「!!!!!・・・」
私の王子様は・・・。自身が姫とする・・・その女と、甘く口づけを交わす・・・・。
「・・・・・・・・・・」
ライリーはグッと唇を噛み、睨みつけていた。その甘く、長い口づけを・・・・。
あの方の唇に、触れた・・・・?
あの手で髪を撫でられ・・・頬に触れられ・・・・
何度も唇を合わせては・・・。瞳を合わせ・・・。
吸い寄せられるように、また唇を重ねる・・・・・・。
そのうち、女は抱き上げられ、膝に乗せられると、王子様の首に手を回した。
まるで世界は2人だけのように、夢中で口づけを交わし続ける。
氷のように冷たかった王子様は、あのような瞳をするのね・・・・。
蕩けそうな眼差しと、その唇で、想いを伝えるように・・・・。
2人が交わす口づけを黙って見つめた。
「あの口を・・・裂いて、剝ぎ取ってやるわ・・・・。絶対に。」
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