ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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「皇太后陛下‥‥」

翌日の昼、皇太后の住む離宮に招かれていたライリーが、そこを訪れた。

「まぁ、ライリー嬢、今日もとても美しいわ?
皇太子もさぞ、そなたを気に入ってくれるでしょう。
ゆっくりお話しなさってね?私の事は気にせずに‥」
皇太后はライリーの両手を握りしめた。

目一杯着飾って現れたライリーだった。

それは、誕生祭で見たリリィベルを真似た様でもあったドレスだった。生地の色はピンク色だが、マーメイドラインのドレスに、ショールを羽織っていた。違うとすれば、膝からスリットが入ってる事だろうか‥。正に男を誘惑する様なドレスであった。体のラインがハッキリと分かる装いだ。そして、ブラウンの髪は綺麗に編み込み片側に流している。

離宮の庭園にあるテーブルで、皇太后とライリーがお茶をして、皇太子の到着を待つ。

「本当にあなたは頭も良くて、美しい‥きっと皇太子にもあなたの良さが伝わるでしょう‥。」
「皇太后陛下、皇太子殿下は私には勿体ないお方です。
男性でありながらあんなに綺麗で、聡明で‥ただ、私も皇太子殿下と一度ダンスを踊ってみたいです‥。」
「ふふふっ、建国祭はあなたがパートナーになるのよ?
あなたと皇太子ならよく似合うわ?きっと素晴らしいダンスが出来るわよ。」


本人がいない間に、話はどんどん進んでいく。






「皇太子殿下、ようこそいらっしゃいました。」

「あぁ、先日は失礼した。どうか許してくれ。」

「とんでもございません。殿下、私の方こそ、
ご無礼をお許し下さい‥‥」

「なんの、そなたの大事な娘を攫ったのだ。怒って当然だった。」


皇太后とライリー嬢のお茶会と同時刻、テオドールは
ブラックウォール家を訪れていた。

手紙を出した翌日。それもまた、彼らにとっては急な話だった。けれど、翌日に行くとしっかり書いていたテオドールだった。

テオドールはリリィベルの前に立ち、その手をとって
手の甲に口づけした。

「リリィベル嬢、変わりないか?」
「殿下‥お会い出来てとても嬉しいです‥。」
頬を染めてリリィベルはテオドールを見つめた。
その顔にテオドールも柔らかな笑みを浮かべる。

そんなやり取り見ながら、ダニエルは薄々勘づいていた。

「殿下‥‥応接間にご案内致します。」

「あぁ、リリィベル、そなたも一緒に‥」
リリィベルに手を差し出し、テオドールはリリィをエスコートする。


応接間にて、ソファーに向き合ったダニエルとテオドール。
そして、リリィベル。

「ブラックウォール伯爵、私は回りくどい事は出来ん‥
リリィベル嬢を今年行われる建国祭の私のパートナーに指名したい。」

「‥‥‥‥それが、どういう意味か‥‥」
ダニエルは少し眉を下げた。

「あぁ、私はそなたの娘を、リリィベルを妃に迎えたい。
そなたの許しを経て、正式に皇室から婚約の申し入れをする。そなたのたった1人の大事な娘だ。私が憎いだろう‥
けれど、私は、そなたの娘を心から思っている。」

その言葉にリリィベルは頬を染めた。
娘の顔を見たダニエルははぁっとため息ついた。

「リリィも、そうなのか?」

その問いに戸惑いながら、リリィベルは嬉しそうにダニエルを見た。
「‥はい、お父様‥私は殿下をお慕いしています‥」


「そうか‥‥‥」

厳しい顔で受け止めるダニエルだったが、なかなか声が出なかった。

「必ず大切にし、生涯愛し続ける‥‥。
だから、どうか、許してほしい‥‥」

テオドールは真剣に一押しした。

「‥‥皇太子殿下であれば、皇室の求婚状ですべてが解決するでございましょうに‥わざわざ、私の意見を聞いて下さるとは‥」


「あぁ、従わせるのは簡単だ。けれど、そなたが大事に育てた娘だ。無理強いなどしたくない。そなたの許しを得て、私はリリィベルを妃に迎えたい。」

真剣な瞳に、ダニエルは諦めを浮かべた表情を浮かべたが、重くその口を開いた。

「‥‥‥私は妻を早くに無くし、リリィを立派に育てると亡き妻に誓ったのです‥。幼い頃身体が悪かったリリィを無くなさいように‥何度も神に祈りました。

ここまで成長し、高貴なお方が大切にするとおっしゃって下さる‥ならば、私に言える事はただ、

宜しくお願いしますと‥‥ただ、それだけでございます‥」

少し驚いて、テオドールは身を乗り出した。
「では‥‥」

ダニエルは穏やかな笑みを浮かべた。

「少々お転婆な所がございますが、どうか、娘を宜しくお願い致します‥‥‥」
そう言って、テオドールに頭を下げたダニエルだった。


テオドールとリリィベルは喜びの笑みを浮かべた。

「ありがとう‥‥必ず、生涯大切にすると誓おう‥」
「お父様、ありがとうございます‥」

リリィベルはその目に涙を溜めていた。


「しかし、殿下‥1つ気になる点が‥‥」
「なんだ‥?」
「これは殿下の独断で?」
「いや、私は陛下達にリリィベル嬢を妃に迎えると告げている。」


そう言ったテオドールに、ダニエルは少し戸惑った表情を浮かべた。

「‥‥‥皇太后陛下は、ご存じですか?」

ピクっとしたテオドールの眉が、ゆっくりと険しくなり、
やがて、眉を顰めた。

「ブラックウォール家は、皇太后陛下と何かあるのか?」

「その‥」
言ってもいいものか‥と、ダニエルは頬をかいた。

「どんな話であろうと、そなたに危害は出させない。
話をしてくれ、皇太后陛下とは、意見が少々合わなくてな‥」

あの時の怒りが、蘇ってくる‥

「殿下‥‥‥私の父、アドルフ•ブラックウォールは、
当時、公爵令嬢だった皇太后陛下の‥‥‥縁談を、お断りしています‥‥。本来位の高い公爵家との縁談をこちらからお断りするなど、異例の事ではございますが‥」

皇太子は人差し指で唇を触り、目をぎらつかせた。


まさか‥‥ブラックウォール家で皇太后の秘密を知る事が出来るとは‥‥


「それで?」


「はい‥‥父は、母のグレースとは幼い頃からの仲が良く、大人になってからは恋人同士でありました。そんな中、皇太后陛下の生家、ブリントン公爵家との縁談話が出てきました‥。ですが。父は縁談をお断りし皇太后陛下の名誉を傷付けました‥‥

その後、皇太后陛下は、前皇帝陛下と結婚されて皇后陛下となられましたが‥

伯爵家の男に縁談を断られた公爵令嬢を皇帝陛下が妻に娶るのです。それだけでも、罪になる事でしょう‥。

父は皇室第二騎士団に所属し騎士団長を任されておりました。皇帝陛下のご命令により北部の地で帝国を守る命を受け、以降、父と母は北部は移住し黒き壁を守っておりました。」

その話に、テオドールは鼻を鳴らした‥
「どんな話かと思えば‥‥‥そのような‥‥」

「皇太后陛下は、元々皇帝の妃候補として名が上がっておりました。ですが父を見初めてかなりご執心だったようで‥陛下と結婚する前に、父との縁談を‥。
本来女性の家から男に縁談を持ち掛ける事はありませんので、当時のブリントン公爵と祖父とで取引をし、こちらから縁談を申し込んだ事になっております‥‥」

「それなのに破談となった。さぞ噂の的になったであろうな。そなたの祖父はどう思ったかは言うまでもないが。そなたの父はさぞ喜んだであろう。‥」

「はい、父はこれでよかったと。母のグレースと一緒ならば場所など関係ないと、喜んでおりました。

この話は私の乳母から聞いた話でございます。
乳母はグレースの生家で勤めていたメイドでございました。」


「なるほど‥ならば余計に私とはなんの関係もない話であったな‥‥‥」



ただの横恋慕で、縁談を取り付けたのにも関わらず、位の高い皇帝の妃候補の公爵令嬢が、伯爵家の男から縁談を断られ名誉を傷付けられたと、自分は望まぬ結婚をした。
伯爵家の男に縁談を断られた公爵令嬢が皇后となった。
皇帝にとっても、それはさぞ居心地の悪い話だ。

それが時を経て私が、ブラックウォール辺境伯の娘と恋に落ちパートナーとする事で、その執念が再発した‥という事か‥。粗方の事情は理解したが、ヘイドン侯爵の娘を推す理由は‥‥。まぁ、当時の自分と思い重ね、絶対に奪われる訳にはならないと、躍起になっているのかもしれない‥‥


「‥‥‥だからなんだと言うのだ‥‥。全く、皇太后陛下にはがっかりだ‥‥‥。そんな浅ましい女だったとはな‥」

「殿下、この事実を知るのは最早私しかおりません。
父も母も、私が20の時に馬車の事故で亡くなりました。
乳母もすでにこの世を去っております。」

テオドールはしばらく黙り込んだ。


元々皇帝の妃候補だった‥。逃れる為には、
アドルフと婚約しなければならなかった。また相当の執心。
皇帝は、どう思っていたのかなど今や知る術もない。

だが、アドルフを辺境地へやるには十分な理由となったはずだ。戦術に長けていた騎士団長の伯爵が居なくなれば、皇室としても損害は大きかっただろう。だから辺境伯にし北部へ遠ざけた。

そして、アドルフとグレースはもう死んでいる‥
馬車の事故?

‥‥本当か?




時を同じくして、皇太后の離宮に皇太子が現れた。
「来たわね、皇太子、待っていましたよ?」
皇太后の笑みが浮かぶ。

「皇太子殿下、ご機嫌麗しゅう‥」
ライリーが、うっとりと笑みを浮かべて礼をした。

「少々お待たせして申し訳ない。陛下、ヘイドン侯爵令嬢」
ほんの少しの笑みを浮かべて皇太子は言った。

椅子に腰掛け、メイドが注ぐ紅茶を手に取る。

「皇太子、今日のライリー嬢もとても美しいでしょ?」

「あぁ、そうですね。」

「まぁ、殿下嬉しいです。」
満面な笑みを浮かべて、ライリーは頬を染めた。

「皆そう言うでしょう。私が見るだけでは勿体ない事でしょう。」
皇太子は作り笑いを浮かべてそう言った。



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