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星と月が出会う夜 第7夜
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「りっ‥リリィ?」
リリィベルを呼ぶ声がした。
はっと我に返った2人は身体を離して
声がした方を向いた。
「あっお父様‥‥」
頬を染めて恥ずかしそうに父を見た。
「こっ‥皇太子殿下っ!?なぜ‥‥うちのリリィと‥?」
ダニエルは、持ってきたグラスを落としそうになった。
そんなダニエルにテオドールは穏やかに話し掛けた。
「ブラックウォール伯爵、驚かせて申し訳ない。
庭に出たら、リリィベル嬢が居て、話をしていたのだ。
そのグラスは、リリィベル嬢にか?」
そう言ってグラスに目を向けた。
「あっはい‥‥」
状況をうまく把握出来てないダニエルだったが、
スッと持っていたグラスをテオドールが受け取った。
「?!」
「すまない、落としそうだったのでな。」
ニコッと笑って、グラスをリリィベルに渡した。
「さぁ‥父上が持ってきてくれたぞ?」
「あ‥はい‥」
グラスを受け取ろうとするリリィベルの指がテオドールの手に触れた。リリィベルの触れた手は、グラスを持っているテオドールの手が少し絡みつく。
「で‥殿下‥‥」
湯気が出そうな程リリィベルは赤くなっていた。
「ふっ、落とさないように、だ。」
ニヤッと笑ってグラスから手を離した。
リリィベルは水を飲むどころではなかった。
「殿下、娘のそばにいて頂き感謝致します。
体調が優れないようで‥そろそろ下がろうかと‥」
頭を下げて、ハッキリと告げてきたダニエル。
「もう体調は良くなったようだが?見ろ?健康的な顔色だ。
綺麗な桜色をしている。暗がりに‥」
テオドールは、下がらせるつもりは無かった。
「‥‥‥っ‥‥」
ダニエルはチラッとリリィベルを見た。
グラスを持ったまま固まっている。
「リリィベル嬢、先程の話だが‥どうだ?踊れそうか?」
「どういうことですか?」
驚いたダニエルにテオドールは更に続ける。
「リリィベル嬢をダンスに誘ったんだ。初めての社交界デビューだ。その相手を私にさせて欲しいとお願いしたのだ。
私では不服か?」
これは皇太子の圧だった。
汗を垂らして、ダニエルは目を瞑った。
「とんでもございません殿下‥光栄でございます。」
「私は今日ホールで初めて踊った。望まぬ相手とな‥
だから‥可憐な彼女と、この記憶を塗り替えたくて‥
頼まれてくれないか?」
少し申し訳なさそうにダニエルを見た。
「頼むなどとおっしゃらないで下さい。
殿下のお心のままに‥。」
「あぁ‥良かった。ありがとう。これで楽しい誕生日になりそうだ。」
ニカっとテオドールは本当に嬉しそうに笑って見せた。
「リリィベル嬢、いいな?身体は大丈夫か?」
爽やかな笑顔のテオドールにリリィベルは笑った。
「‥はいっ‥殿下!」
そして、テオドールはエスコートではなく、
リリィベルの手を握ったのだった。
「おい、リリィ??」
慌ててダニエルが声をかけた。だが。
笑いあった2人は
城のホールに向かい駆け出したのだった。
ホール内では、皇帝と皇后がテオドールの姿を探していた。
「まったく‥何をしてるんだ‥。」
皇帝は呆れた表情をしていた。
先程、王女と踊ったテオドールを見ていた。
けれど、テオドールは王女に目を合わす事もなく、
ただ人形のように踊っただけ‥
それだけではなく、ホールに王女を置き去りにしたのだ。
「ふふっ‥無理に誘うからよっ、清々したわっ」
扇子で口元を隠して笑っている皇后だった。
「知らんぞ私は‥‥‥使節団がなんて言ってくるだろうか」
「それは、あなたの出番では?」
「そっ‥テオドールがやらかしたのだ!」
「テオは望まぬダンスを踊ったのです‥。
本来ダンスは誘われるのを待つもの。はしたなく自分から誘うからよ。いい気味だわ。品がないもの。仕方ないわね。」
目を伏せ、当たり前よ、と扇子で隠す。
「だがなぁ‥‥あれはまずいだろ‥恥をかかせたのだぞ?」
「自分からかきに行ったのでは?テオと踊るなんて100年早いのよ。入場のパートナーをしただけでも、ましてや踊ってもらったのだから、感謝してほしいくらいだわ?」
母は息子の事には厳しいのだ。
そんな時、庭の方からテオドールが入ってきた。
「「!!!!笑ってる‥‥‥」」
テオドールを見れば声を上げて笑って息を少し切らしていた。
テオドールに続き入ってきたのはブラックウォールの令嬢だ。
2人して笑って庭から現れたのだ。
しかも、手を繋いで
「まぁ‥‥」
皇后は扇子の裏で笑って見せた。
「なっ‥‥なにがどうなってるんだ‥‥‥」
皇帝は混乱していた。
だが、ご機嫌なテオドールは何を思ったか、リリィベルを連れてあの王女の元へ向かった。
一気に青ざめる皇帝だった。
しかし
「あっクレア王女!ここにいたか!」
満面の笑みで王女に声掛けたのだ。
これほど気が気でないのは、初めてだった。
「っっ殿下‥‥なぜ私をっっ」
声をかけられた王女は顔を真っ赤にして怒っていた。
しかしテオドールは王女の肩をポンポン叩き出した。
「ははっ王女と踊れて楽しかった。
ダンスは良いものだな。お陰で今日は楽しくて仕方がない!
また帝国に来た際にはまた踊ろうではないか。」
「でっ‥殿下、本当ですか?」
テオドールの笑顔に王女は少し笑みを浮かべ始めた。
「もちろんだ。ダンスはいいものだ。また機会があれば。」
「殿下ぁ‥‥」
そう言われて頬を染めたのも束の間。
テオドールはリリィベルの手を引いてその場を去っていく。
はっと気づいた時、テオドールが女性の手を引いていく後ろ姿を見た。赤く染まった頬は少しずつ青ざめていく。
「でっ殿下っ‥‥待って!」
そんな王女の声にテオドールは振り向いた。
「すまないがダンスがしたいのだ!楽しさに目覚めてしまってな!」
そう言ってホールの中心へ足早に向かっていく‥‥
その間も皆に手を振った。
「私と踊りたい者がいたら、今度踊ろう。」
皇太子の微笑みはフル装備だった。
そして、ホールの中心にリリィベルと立った。
「はぁ‥っ、大丈夫か?」
「はいっ‥殿下‥」
足早に来たからお互い少し息を切らしている。
間を置いて、テオドールは演奏者に目配せをした。
向き合って立ち、2人で優雅に礼をした。
テオドールがリリィベルの腰を引き寄せた。
リリィベルはテオドールの肩に手を置いた。
互いの手を取り見つめあった。
演奏が始まる。
音楽と共に、2人は優雅にそのステップを踏み出した。
その2人の姿を皆が見ている。
2人は寄り添う花のように、2人で1羽の蝶のように、
その衣装までもまるで導かれたように一対となっていた。
テオドールがリリィベルの耳元に唇を寄せた。
「皆が見ているな?」
その顔には笑みが浮かんでいる。
「はい‥殿下‥」
リリィベルも笑みを返した。
そして、囁き合う。
「みなお前を見ていると思うと、複雑だ」
「殿下を見ているのでは…?」
「皆お前に見惚れている…俺にはわかるんだ。」
「なぜ…複雑なのですか?」
「私の家系は代々、大事なもんは隠しておくんだよ」
「まぁ‥殿下‥私を大事だと?」
「もちろんだ‥私の中ではこれがファーストダンスになっているのだ。大事だろ?」
「それはなんて光栄なのでしょう‥」
「お前もはじめての相手は俺なんだろ?」
「殿下?1つ聞いても?」
「なんだ?」
「殿下は、いつもそのような口調なのですか?」
「ははっ、裏ではな。皇太子と、本性は別なんだ。
‥‥口が悪いのは気にくわねぇか?」
「ふふっ‥いいえ?なんだか‥ちょっと似合います。
初めて会った私に素を、見せてくださっているのですか?」
「あぁ、お前と居ると、不思議と気が緩むんだ‥」
「それは光栄です。殿下っ」
音楽は少しアップテンポに移行していく。
弾むように踊り舞う。
「リリィベル嬢、願いを聞いてくれないか?」
「ふふっ、何ですか?」
「リリィと、呼びたい‥」
「それが殿下の願いなのですか?」
「あぁそうだ!喉から手が出そうだ」
「ふふふっ‥光栄です!」
笑って受け入れると、音楽に合わせてリリィベルの身体はふわっと高く持ち上げられた。
「わぁ!」
テオドールはリリィベルをふわりと持ち上げくるりと回った。
「良かった!!リリィ!もう撤回できねーぞ?」
その予想外の動きに、テオドールの笑顔に、
リリィベルは嬉しそうに笑った。
「あははっ!!殿下っ、目が回りますよっ?」
ストンとリリィベルを下ろして流れるように踊る。
「ならば、リリィ、俺の事も名前で呼べ。」
「えっ?」
「俺がいいって言うんだ。呼べ。」
「っ‥‥‥‥」
その言葉にリリィベルは頬を染めた。
「ほらっ呼んでみろ。もうすぐダンスが終わってしまうから‥早く‥‥‥」
「て‥テオ‥ドール殿下?」
恥ずかしそうに呟いた。
「ちがう。」
「えぇっ?」
狼狽えたリリィベル。だが、テオドールはリリィベルの身体を傾けてその腰をしっかり掴んで離さない。
「‥‥テオ‥‥‥そう呼べ。」
「っ‥‥‥」
「ほら‥このまま止まるぞ?」
悪戯に笑うテオドール。
だが、すぐに顔を近づけて、真剣にリリィベルに告げた。
「…リリィ、俺は…1人の男として言っている。」
テオドールの肩にしがみ付いていたリリィベル。
コクンっと息を呑んで、口を開いた。
「‥っ‥‥‥テオ‥‥‥‥」
耳元でリリィベルはその名を呼んだ。
「‥‥‥それでいい‥‥俺はお前を特別に思っている。」
あぁ、やはり声も同じだ。
恥じらい方も‥‥
ただ世界が違うだけ、幼馴染として出会ってないだけ‥‥
全てを愛しく思う‥‥‥。
全身から思いが溢れてくる‥‥‥。
夢の中で顔は見せてくれなかったのに‥
一致していく‥
なんだ‥レイラ‥‥同じ顔してるじゃないか‥‥
髪と瞳の色が違うだけ‥‥
思い出したぞ‥‥この可愛い顔を‥‥‥
俺だけが知っていた。
俺のレイラ‥‥
いや、俺の、リリィ‥‥‥
‥‥‥もう、2度と離さない‥‥‥‥。
リリィベルを呼ぶ声がした。
はっと我に返った2人は身体を離して
声がした方を向いた。
「あっお父様‥‥」
頬を染めて恥ずかしそうに父を見た。
「こっ‥皇太子殿下っ!?なぜ‥‥うちのリリィと‥?」
ダニエルは、持ってきたグラスを落としそうになった。
そんなダニエルにテオドールは穏やかに話し掛けた。
「ブラックウォール伯爵、驚かせて申し訳ない。
庭に出たら、リリィベル嬢が居て、話をしていたのだ。
そのグラスは、リリィベル嬢にか?」
そう言ってグラスに目を向けた。
「あっはい‥‥」
状況をうまく把握出来てないダニエルだったが、
スッと持っていたグラスをテオドールが受け取った。
「?!」
「すまない、落としそうだったのでな。」
ニコッと笑って、グラスをリリィベルに渡した。
「さぁ‥父上が持ってきてくれたぞ?」
「あ‥はい‥」
グラスを受け取ろうとするリリィベルの指がテオドールの手に触れた。リリィベルの触れた手は、グラスを持っているテオドールの手が少し絡みつく。
「で‥殿下‥‥」
湯気が出そうな程リリィベルは赤くなっていた。
「ふっ、落とさないように、だ。」
ニヤッと笑ってグラスから手を離した。
リリィベルは水を飲むどころではなかった。
「殿下、娘のそばにいて頂き感謝致します。
体調が優れないようで‥そろそろ下がろうかと‥」
頭を下げて、ハッキリと告げてきたダニエル。
「もう体調は良くなったようだが?見ろ?健康的な顔色だ。
綺麗な桜色をしている。暗がりに‥」
テオドールは、下がらせるつもりは無かった。
「‥‥‥っ‥‥」
ダニエルはチラッとリリィベルを見た。
グラスを持ったまま固まっている。
「リリィベル嬢、先程の話だが‥どうだ?踊れそうか?」
「どういうことですか?」
驚いたダニエルにテオドールは更に続ける。
「リリィベル嬢をダンスに誘ったんだ。初めての社交界デビューだ。その相手を私にさせて欲しいとお願いしたのだ。
私では不服か?」
これは皇太子の圧だった。
汗を垂らして、ダニエルは目を瞑った。
「とんでもございません殿下‥光栄でございます。」
「私は今日ホールで初めて踊った。望まぬ相手とな‥
だから‥可憐な彼女と、この記憶を塗り替えたくて‥
頼まれてくれないか?」
少し申し訳なさそうにダニエルを見た。
「頼むなどとおっしゃらないで下さい。
殿下のお心のままに‥。」
「あぁ‥良かった。ありがとう。これで楽しい誕生日になりそうだ。」
ニカっとテオドールは本当に嬉しそうに笑って見せた。
「リリィベル嬢、いいな?身体は大丈夫か?」
爽やかな笑顔のテオドールにリリィベルは笑った。
「‥はいっ‥殿下!」
そして、テオドールはエスコートではなく、
リリィベルの手を握ったのだった。
「おい、リリィ??」
慌ててダニエルが声をかけた。だが。
笑いあった2人は
城のホールに向かい駆け出したのだった。
ホール内では、皇帝と皇后がテオドールの姿を探していた。
「まったく‥何をしてるんだ‥。」
皇帝は呆れた表情をしていた。
先程、王女と踊ったテオドールを見ていた。
けれど、テオドールは王女に目を合わす事もなく、
ただ人形のように踊っただけ‥
それだけではなく、ホールに王女を置き去りにしたのだ。
「ふふっ‥無理に誘うからよっ、清々したわっ」
扇子で口元を隠して笑っている皇后だった。
「知らんぞ私は‥‥‥使節団がなんて言ってくるだろうか」
「それは、あなたの出番では?」
「そっ‥テオドールがやらかしたのだ!」
「テオは望まぬダンスを踊ったのです‥。
本来ダンスは誘われるのを待つもの。はしたなく自分から誘うからよ。いい気味だわ。品がないもの。仕方ないわね。」
目を伏せ、当たり前よ、と扇子で隠す。
「だがなぁ‥‥あれはまずいだろ‥恥をかかせたのだぞ?」
「自分からかきに行ったのでは?テオと踊るなんて100年早いのよ。入場のパートナーをしただけでも、ましてや踊ってもらったのだから、感謝してほしいくらいだわ?」
母は息子の事には厳しいのだ。
そんな時、庭の方からテオドールが入ってきた。
「「!!!!笑ってる‥‥‥」」
テオドールを見れば声を上げて笑って息を少し切らしていた。
テオドールに続き入ってきたのはブラックウォールの令嬢だ。
2人して笑って庭から現れたのだ。
しかも、手を繋いで
「まぁ‥‥」
皇后は扇子の裏で笑って見せた。
「なっ‥‥なにがどうなってるんだ‥‥‥」
皇帝は混乱していた。
だが、ご機嫌なテオドールは何を思ったか、リリィベルを連れてあの王女の元へ向かった。
一気に青ざめる皇帝だった。
しかし
「あっクレア王女!ここにいたか!」
満面の笑みで王女に声掛けたのだ。
これほど気が気でないのは、初めてだった。
「っっ殿下‥‥なぜ私をっっ」
声をかけられた王女は顔を真っ赤にして怒っていた。
しかしテオドールは王女の肩をポンポン叩き出した。
「ははっ王女と踊れて楽しかった。
ダンスは良いものだな。お陰で今日は楽しくて仕方がない!
また帝国に来た際にはまた踊ろうではないか。」
「でっ‥殿下、本当ですか?」
テオドールの笑顔に王女は少し笑みを浮かべ始めた。
「もちろんだ。ダンスはいいものだ。また機会があれば。」
「殿下ぁ‥‥」
そう言われて頬を染めたのも束の間。
テオドールはリリィベルの手を引いてその場を去っていく。
はっと気づいた時、テオドールが女性の手を引いていく後ろ姿を見た。赤く染まった頬は少しずつ青ざめていく。
「でっ殿下っ‥‥待って!」
そんな王女の声にテオドールは振り向いた。
「すまないがダンスがしたいのだ!楽しさに目覚めてしまってな!」
そう言ってホールの中心へ足早に向かっていく‥‥
その間も皆に手を振った。
「私と踊りたい者がいたら、今度踊ろう。」
皇太子の微笑みはフル装備だった。
そして、ホールの中心にリリィベルと立った。
「はぁ‥っ、大丈夫か?」
「はいっ‥殿下‥」
足早に来たからお互い少し息を切らしている。
間を置いて、テオドールは演奏者に目配せをした。
向き合って立ち、2人で優雅に礼をした。
テオドールがリリィベルの腰を引き寄せた。
リリィベルはテオドールの肩に手を置いた。
互いの手を取り見つめあった。
演奏が始まる。
音楽と共に、2人は優雅にそのステップを踏み出した。
その2人の姿を皆が見ている。
2人は寄り添う花のように、2人で1羽の蝶のように、
その衣装までもまるで導かれたように一対となっていた。
テオドールがリリィベルの耳元に唇を寄せた。
「皆が見ているな?」
その顔には笑みが浮かんでいる。
「はい‥殿下‥」
リリィベルも笑みを返した。
そして、囁き合う。
「みなお前を見ていると思うと、複雑だ」
「殿下を見ているのでは…?」
「皆お前に見惚れている…俺にはわかるんだ。」
「なぜ…複雑なのですか?」
「私の家系は代々、大事なもんは隠しておくんだよ」
「まぁ‥殿下‥私を大事だと?」
「もちろんだ‥私の中ではこれがファーストダンスになっているのだ。大事だろ?」
「それはなんて光栄なのでしょう‥」
「お前もはじめての相手は俺なんだろ?」
「殿下?1つ聞いても?」
「なんだ?」
「殿下は、いつもそのような口調なのですか?」
「ははっ、裏ではな。皇太子と、本性は別なんだ。
‥‥口が悪いのは気にくわねぇか?」
「ふふっ‥いいえ?なんだか‥ちょっと似合います。
初めて会った私に素を、見せてくださっているのですか?」
「あぁ、お前と居ると、不思議と気が緩むんだ‥」
「それは光栄です。殿下っ」
音楽は少しアップテンポに移行していく。
弾むように踊り舞う。
「リリィベル嬢、願いを聞いてくれないか?」
「ふふっ、何ですか?」
「リリィと、呼びたい‥」
「それが殿下の願いなのですか?」
「あぁそうだ!喉から手が出そうだ」
「ふふふっ‥光栄です!」
笑って受け入れると、音楽に合わせてリリィベルの身体はふわっと高く持ち上げられた。
「わぁ!」
テオドールはリリィベルをふわりと持ち上げくるりと回った。
「良かった!!リリィ!もう撤回できねーぞ?」
その予想外の動きに、テオドールの笑顔に、
リリィベルは嬉しそうに笑った。
「あははっ!!殿下っ、目が回りますよっ?」
ストンとリリィベルを下ろして流れるように踊る。
「ならば、リリィ、俺の事も名前で呼べ。」
「えっ?」
「俺がいいって言うんだ。呼べ。」
「っ‥‥‥‥」
その言葉にリリィベルは頬を染めた。
「ほらっ呼んでみろ。もうすぐダンスが終わってしまうから‥早く‥‥‥」
「て‥テオ‥ドール殿下?」
恥ずかしそうに呟いた。
「ちがう。」
「えぇっ?」
狼狽えたリリィベル。だが、テオドールはリリィベルの身体を傾けてその腰をしっかり掴んで離さない。
「‥‥テオ‥‥‥そう呼べ。」
「っ‥‥‥」
「ほら‥このまま止まるぞ?」
悪戯に笑うテオドール。
だが、すぐに顔を近づけて、真剣にリリィベルに告げた。
「…リリィ、俺は…1人の男として言っている。」
テオドールの肩にしがみ付いていたリリィベル。
コクンっと息を呑んで、口を開いた。
「‥っ‥‥‥テオ‥‥‥‥」
耳元でリリィベルはその名を呼んだ。
「‥‥‥それでいい‥‥俺はお前を特別に思っている。」
あぁ、やはり声も同じだ。
恥じらい方も‥‥
ただ世界が違うだけ、幼馴染として出会ってないだけ‥‥
全てを愛しく思う‥‥‥。
全身から思いが溢れてくる‥‥‥。
夢の中で顔は見せてくれなかったのに‥
一致していく‥
なんだ‥レイラ‥‥同じ顔してるじゃないか‥‥
髪と瞳の色が違うだけ‥‥
思い出したぞ‥‥この可愛い顔を‥‥‥
俺だけが知っていた。
俺のレイラ‥‥
いや、俺の、リリィ‥‥‥
‥‥‥もう、2度と離さない‥‥‥‥。
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