37 / 240
星と月が出会う夜 第7夜
しおりを挟む
「りっ‥リリィ?」
リリィベルを呼ぶ声がした。
はっと我に返った2人は身体を離して
声がした方を向いた。
「あっお父様‥‥」
頬を染めて恥ずかしそうに父を見た。
「こっ‥皇太子殿下っ!?なぜ‥‥うちのリリィと‥?」
ダニエルは、持ってきたグラスを落としそうになった。
そんなダニエルにテオドールは穏やかに話し掛けた。
「ブラックウォール伯爵、驚かせて申し訳ない。
庭に出たら、リリィベル嬢が居て、話をしていたのだ。
そのグラスは、リリィベル嬢にか?」
そう言ってグラスに目を向けた。
「あっはい‥‥」
状況をうまく把握出来てないダニエルだったが、
スッと持っていたグラスをテオドールが受け取った。
「?!」
「すまない、落としそうだったのでな。」
ニコッと笑って、グラスをリリィベルに渡した。
「さぁ‥父上が持ってきてくれたぞ?」
「あ‥はい‥」
グラスを受け取ろうとするリリィベルの指がテオドールの手に触れた。リリィベルの触れた手は、グラスを持っているテオドールの手が少し絡みつく。
「で‥殿下‥‥」
湯気が出そうな程リリィベルは赤くなっていた。
「ふっ、落とさないように、だ。」
ニヤッと笑ってグラスから手を離した。
リリィベルは水を飲むどころではなかった。
「殿下、娘のそばにいて頂き感謝致します。
体調が優れないようで‥そろそろ下がろうかと‥」
頭を下げて、ハッキリと告げてきたダニエル。
「もう体調は良くなったようだが?見ろ?健康的な顔色だ。
綺麗な桜色をしている。暗がりに‥」
テオドールは、下がらせるつもりは無かった。
「‥‥‥っ‥‥」
ダニエルはチラッとリリィベルを見た。
グラスを持ったまま固まっている。
「リリィベル嬢、先程の話だが‥どうだ?踊れそうか?」
「どういうことですか?」
驚いたダニエルにテオドールは更に続ける。
「リリィベル嬢をダンスに誘ったんだ。初めての社交界デビューだ。その相手を私にさせて欲しいとお願いしたのだ。
私では不服か?」
これは皇太子の圧だった。
汗を垂らして、ダニエルは目を瞑った。
「とんでもございません殿下‥光栄でございます。」
「私は今日ホールで初めて踊った。望まぬ相手とな‥
だから‥可憐な彼女と、この記憶を塗り替えたくて‥
頼まれてくれないか?」
少し申し訳なさそうにダニエルを見た。
「頼むなどとおっしゃらないで下さい。
殿下のお心のままに‥。」
「あぁ‥良かった。ありがとう。これで楽しい誕生日になりそうだ。」
ニカっとテオドールは本当に嬉しそうに笑って見せた。
「リリィベル嬢、いいな?身体は大丈夫か?」
爽やかな笑顔のテオドールにリリィベルは笑った。
「‥はいっ‥殿下!」
そして、テオドールはエスコートではなく、
リリィベルの手を握ったのだった。
「おい、リリィ??」
慌ててダニエルが声をかけた。だが。
笑いあった2人は
城のホールに向かい駆け出したのだった。
ホール内では、皇帝と皇后がテオドールの姿を探していた。
「まったく‥何をしてるんだ‥。」
皇帝は呆れた表情をしていた。
先程、王女と踊ったテオドールを見ていた。
けれど、テオドールは王女に目を合わす事もなく、
ただ人形のように踊っただけ‥
それだけではなく、ホールに王女を置き去りにしたのだ。
「ふふっ‥無理に誘うからよっ、清々したわっ」
扇子で口元を隠して笑っている皇后だった。
「知らんぞ私は‥‥‥使節団がなんて言ってくるだろうか」
「それは、あなたの出番では?」
「そっ‥テオドールがやらかしたのだ!」
「テオは望まぬダンスを踊ったのです‥。
本来ダンスは誘われるのを待つもの。はしたなく自分から誘うからよ。いい気味だわ。品がないもの。仕方ないわね。」
目を伏せ、当たり前よ、と扇子で隠す。
「だがなぁ‥‥あれはまずいだろ‥恥をかかせたのだぞ?」
「自分からかきに行ったのでは?テオと踊るなんて100年早いのよ。入場のパートナーをしただけでも、ましてや踊ってもらったのだから、感謝してほしいくらいだわ?」
母は息子の事には厳しいのだ。
そんな時、庭の方からテオドールが入ってきた。
「「!!!!笑ってる‥‥‥」」
テオドールを見れば声を上げて笑って息を少し切らしていた。
テオドールに続き入ってきたのはブラックウォールの令嬢だ。
2人して笑って庭から現れたのだ。
しかも、手を繋いで
「まぁ‥‥」
皇后は扇子の裏で笑って見せた。
「なっ‥‥なにがどうなってるんだ‥‥‥」
皇帝は混乱していた。
だが、ご機嫌なテオドールは何を思ったか、リリィベルを連れてあの王女の元へ向かった。
一気に青ざめる皇帝だった。
しかし
「あっクレア王女!ここにいたか!」
満面の笑みで王女に声掛けたのだ。
これほど気が気でないのは、初めてだった。
「っっ殿下‥‥なぜ私をっっ」
声をかけられた王女は顔を真っ赤にして怒っていた。
しかしテオドールは王女の肩をポンポン叩き出した。
「ははっ王女と踊れて楽しかった。
ダンスは良いものだな。お陰で今日は楽しくて仕方がない!
また帝国に来た際にはまた踊ろうではないか。」
「でっ‥殿下、本当ですか?」
テオドールの笑顔に王女は少し笑みを浮かべ始めた。
「もちろんだ。ダンスはいいものだ。また機会があれば。」
「殿下ぁ‥‥」
そう言われて頬を染めたのも束の間。
テオドールはリリィベルの手を引いてその場を去っていく。
はっと気づいた時、テオドールが女性の手を引いていく後ろ姿を見た。赤く染まった頬は少しずつ青ざめていく。
「でっ殿下っ‥‥待って!」
そんな王女の声にテオドールは振り向いた。
「すまないがダンスがしたいのだ!楽しさに目覚めてしまってな!」
そう言ってホールの中心へ足早に向かっていく‥‥
その間も皆に手を振った。
「私と踊りたい者がいたら、今度踊ろう。」
皇太子の微笑みはフル装備だった。
そして、ホールの中心にリリィベルと立った。
「はぁ‥っ、大丈夫か?」
「はいっ‥殿下‥」
足早に来たからお互い少し息を切らしている。
間を置いて、テオドールは演奏者に目配せをした。
向き合って立ち、2人で優雅に礼をした。
テオドールがリリィベルの腰を引き寄せた。
リリィベルはテオドールの肩に手を置いた。
互いの手を取り見つめあった。
演奏が始まる。
音楽と共に、2人は優雅にそのステップを踏み出した。
その2人の姿を皆が見ている。
2人は寄り添う花のように、2人で1羽の蝶のように、
その衣装までもまるで導かれたように一対となっていた。
テオドールがリリィベルの耳元に唇を寄せた。
「皆が見ているな?」
その顔には笑みが浮かんでいる。
「はい‥殿下‥」
リリィベルも笑みを返した。
そして、囁き合う。
「みなお前を見ていると思うと、複雑だ」
「殿下を見ているのでは…?」
「皆お前に見惚れている…俺にはわかるんだ。」
「なぜ…複雑なのですか?」
「私の家系は代々、大事なもんは隠しておくんだよ」
「まぁ‥殿下‥私を大事だと?」
「もちろんだ‥私の中ではこれがファーストダンスになっているのだ。大事だろ?」
「それはなんて光栄なのでしょう‥」
「お前もはじめての相手は俺なんだろ?」
「殿下?1つ聞いても?」
「なんだ?」
「殿下は、いつもそのような口調なのですか?」
「ははっ、裏ではな。皇太子と、本性は別なんだ。
‥‥口が悪いのは気にくわねぇか?」
「ふふっ‥いいえ?なんだか‥ちょっと似合います。
初めて会った私に素を、見せてくださっているのですか?」
「あぁ、お前と居ると、不思議と気が緩むんだ‥」
「それは光栄です。殿下っ」
音楽は少しアップテンポに移行していく。
弾むように踊り舞う。
「リリィベル嬢、願いを聞いてくれないか?」
「ふふっ、何ですか?」
「リリィと、呼びたい‥」
「それが殿下の願いなのですか?」
「あぁそうだ!喉から手が出そうだ」
「ふふふっ‥光栄です!」
笑って受け入れると、音楽に合わせてリリィベルの身体はふわっと高く持ち上げられた。
「わぁ!」
テオドールはリリィベルをふわりと持ち上げくるりと回った。
「良かった!!リリィ!もう撤回できねーぞ?」
その予想外の動きに、テオドールの笑顔に、
リリィベルは嬉しそうに笑った。
「あははっ!!殿下っ、目が回りますよっ?」
ストンとリリィベルを下ろして流れるように踊る。
「ならば、リリィ、俺の事も名前で呼べ。」
「えっ?」
「俺がいいって言うんだ。呼べ。」
「っ‥‥‥‥」
その言葉にリリィベルは頬を染めた。
「ほらっ呼んでみろ。もうすぐダンスが終わってしまうから‥早く‥‥‥」
「て‥テオ‥ドール殿下?」
恥ずかしそうに呟いた。
「ちがう。」
「えぇっ?」
狼狽えたリリィベル。だが、テオドールはリリィベルの身体を傾けてその腰をしっかり掴んで離さない。
「‥‥テオ‥‥‥そう呼べ。」
「っ‥‥‥」
「ほら‥このまま止まるぞ?」
悪戯に笑うテオドール。
だが、すぐに顔を近づけて、真剣にリリィベルに告げた。
「…リリィ、俺は…1人の男として言っている。」
テオドールの肩にしがみ付いていたリリィベル。
コクンっと息を呑んで、口を開いた。
「‥っ‥‥‥テオ‥‥‥‥」
耳元でリリィベルはその名を呼んだ。
「‥‥‥それでいい‥‥俺はお前を特別に思っている。」
あぁ、やはり声も同じだ。
恥じらい方も‥‥
ただ世界が違うだけ、幼馴染として出会ってないだけ‥‥
全てを愛しく思う‥‥‥。
全身から思いが溢れてくる‥‥‥。
夢の中で顔は見せてくれなかったのに‥
一致していく‥
なんだ‥レイラ‥‥同じ顔してるじゃないか‥‥
髪と瞳の色が違うだけ‥‥
思い出したぞ‥‥この可愛い顔を‥‥‥
俺だけが知っていた。
俺のレイラ‥‥
いや、俺の、リリィ‥‥‥
‥‥‥もう、2度と離さない‥‥‥‥。
リリィベルを呼ぶ声がした。
はっと我に返った2人は身体を離して
声がした方を向いた。
「あっお父様‥‥」
頬を染めて恥ずかしそうに父を見た。
「こっ‥皇太子殿下っ!?なぜ‥‥うちのリリィと‥?」
ダニエルは、持ってきたグラスを落としそうになった。
そんなダニエルにテオドールは穏やかに話し掛けた。
「ブラックウォール伯爵、驚かせて申し訳ない。
庭に出たら、リリィベル嬢が居て、話をしていたのだ。
そのグラスは、リリィベル嬢にか?」
そう言ってグラスに目を向けた。
「あっはい‥‥」
状況をうまく把握出来てないダニエルだったが、
スッと持っていたグラスをテオドールが受け取った。
「?!」
「すまない、落としそうだったのでな。」
ニコッと笑って、グラスをリリィベルに渡した。
「さぁ‥父上が持ってきてくれたぞ?」
「あ‥はい‥」
グラスを受け取ろうとするリリィベルの指がテオドールの手に触れた。リリィベルの触れた手は、グラスを持っているテオドールの手が少し絡みつく。
「で‥殿下‥‥」
湯気が出そうな程リリィベルは赤くなっていた。
「ふっ、落とさないように、だ。」
ニヤッと笑ってグラスから手を離した。
リリィベルは水を飲むどころではなかった。
「殿下、娘のそばにいて頂き感謝致します。
体調が優れないようで‥そろそろ下がろうかと‥」
頭を下げて、ハッキリと告げてきたダニエル。
「もう体調は良くなったようだが?見ろ?健康的な顔色だ。
綺麗な桜色をしている。暗がりに‥」
テオドールは、下がらせるつもりは無かった。
「‥‥‥っ‥‥」
ダニエルはチラッとリリィベルを見た。
グラスを持ったまま固まっている。
「リリィベル嬢、先程の話だが‥どうだ?踊れそうか?」
「どういうことですか?」
驚いたダニエルにテオドールは更に続ける。
「リリィベル嬢をダンスに誘ったんだ。初めての社交界デビューだ。その相手を私にさせて欲しいとお願いしたのだ。
私では不服か?」
これは皇太子の圧だった。
汗を垂らして、ダニエルは目を瞑った。
「とんでもございません殿下‥光栄でございます。」
「私は今日ホールで初めて踊った。望まぬ相手とな‥
だから‥可憐な彼女と、この記憶を塗り替えたくて‥
頼まれてくれないか?」
少し申し訳なさそうにダニエルを見た。
「頼むなどとおっしゃらないで下さい。
殿下のお心のままに‥。」
「あぁ‥良かった。ありがとう。これで楽しい誕生日になりそうだ。」
ニカっとテオドールは本当に嬉しそうに笑って見せた。
「リリィベル嬢、いいな?身体は大丈夫か?」
爽やかな笑顔のテオドールにリリィベルは笑った。
「‥はいっ‥殿下!」
そして、テオドールはエスコートではなく、
リリィベルの手を握ったのだった。
「おい、リリィ??」
慌ててダニエルが声をかけた。だが。
笑いあった2人は
城のホールに向かい駆け出したのだった。
ホール内では、皇帝と皇后がテオドールの姿を探していた。
「まったく‥何をしてるんだ‥。」
皇帝は呆れた表情をしていた。
先程、王女と踊ったテオドールを見ていた。
けれど、テオドールは王女に目を合わす事もなく、
ただ人形のように踊っただけ‥
それだけではなく、ホールに王女を置き去りにしたのだ。
「ふふっ‥無理に誘うからよっ、清々したわっ」
扇子で口元を隠して笑っている皇后だった。
「知らんぞ私は‥‥‥使節団がなんて言ってくるだろうか」
「それは、あなたの出番では?」
「そっ‥テオドールがやらかしたのだ!」
「テオは望まぬダンスを踊ったのです‥。
本来ダンスは誘われるのを待つもの。はしたなく自分から誘うからよ。いい気味だわ。品がないもの。仕方ないわね。」
目を伏せ、当たり前よ、と扇子で隠す。
「だがなぁ‥‥あれはまずいだろ‥恥をかかせたのだぞ?」
「自分からかきに行ったのでは?テオと踊るなんて100年早いのよ。入場のパートナーをしただけでも、ましてや踊ってもらったのだから、感謝してほしいくらいだわ?」
母は息子の事には厳しいのだ。
そんな時、庭の方からテオドールが入ってきた。
「「!!!!笑ってる‥‥‥」」
テオドールを見れば声を上げて笑って息を少し切らしていた。
テオドールに続き入ってきたのはブラックウォールの令嬢だ。
2人して笑って庭から現れたのだ。
しかも、手を繋いで
「まぁ‥‥」
皇后は扇子の裏で笑って見せた。
「なっ‥‥なにがどうなってるんだ‥‥‥」
皇帝は混乱していた。
だが、ご機嫌なテオドールは何を思ったか、リリィベルを連れてあの王女の元へ向かった。
一気に青ざめる皇帝だった。
しかし
「あっクレア王女!ここにいたか!」
満面の笑みで王女に声掛けたのだ。
これほど気が気でないのは、初めてだった。
「っっ殿下‥‥なぜ私をっっ」
声をかけられた王女は顔を真っ赤にして怒っていた。
しかしテオドールは王女の肩をポンポン叩き出した。
「ははっ王女と踊れて楽しかった。
ダンスは良いものだな。お陰で今日は楽しくて仕方がない!
また帝国に来た際にはまた踊ろうではないか。」
「でっ‥殿下、本当ですか?」
テオドールの笑顔に王女は少し笑みを浮かべ始めた。
「もちろんだ。ダンスはいいものだ。また機会があれば。」
「殿下ぁ‥‥」
そう言われて頬を染めたのも束の間。
テオドールはリリィベルの手を引いてその場を去っていく。
はっと気づいた時、テオドールが女性の手を引いていく後ろ姿を見た。赤く染まった頬は少しずつ青ざめていく。
「でっ殿下っ‥‥待って!」
そんな王女の声にテオドールは振り向いた。
「すまないがダンスがしたいのだ!楽しさに目覚めてしまってな!」
そう言ってホールの中心へ足早に向かっていく‥‥
その間も皆に手を振った。
「私と踊りたい者がいたら、今度踊ろう。」
皇太子の微笑みはフル装備だった。
そして、ホールの中心にリリィベルと立った。
「はぁ‥っ、大丈夫か?」
「はいっ‥殿下‥」
足早に来たからお互い少し息を切らしている。
間を置いて、テオドールは演奏者に目配せをした。
向き合って立ち、2人で優雅に礼をした。
テオドールがリリィベルの腰を引き寄せた。
リリィベルはテオドールの肩に手を置いた。
互いの手を取り見つめあった。
演奏が始まる。
音楽と共に、2人は優雅にそのステップを踏み出した。
その2人の姿を皆が見ている。
2人は寄り添う花のように、2人で1羽の蝶のように、
その衣装までもまるで導かれたように一対となっていた。
テオドールがリリィベルの耳元に唇を寄せた。
「皆が見ているな?」
その顔には笑みが浮かんでいる。
「はい‥殿下‥」
リリィベルも笑みを返した。
そして、囁き合う。
「みなお前を見ていると思うと、複雑だ」
「殿下を見ているのでは…?」
「皆お前に見惚れている…俺にはわかるんだ。」
「なぜ…複雑なのですか?」
「私の家系は代々、大事なもんは隠しておくんだよ」
「まぁ‥殿下‥私を大事だと?」
「もちろんだ‥私の中ではこれがファーストダンスになっているのだ。大事だろ?」
「それはなんて光栄なのでしょう‥」
「お前もはじめての相手は俺なんだろ?」
「殿下?1つ聞いても?」
「なんだ?」
「殿下は、いつもそのような口調なのですか?」
「ははっ、裏ではな。皇太子と、本性は別なんだ。
‥‥口が悪いのは気にくわねぇか?」
「ふふっ‥いいえ?なんだか‥ちょっと似合います。
初めて会った私に素を、見せてくださっているのですか?」
「あぁ、お前と居ると、不思議と気が緩むんだ‥」
「それは光栄です。殿下っ」
音楽は少しアップテンポに移行していく。
弾むように踊り舞う。
「リリィベル嬢、願いを聞いてくれないか?」
「ふふっ、何ですか?」
「リリィと、呼びたい‥」
「それが殿下の願いなのですか?」
「あぁそうだ!喉から手が出そうだ」
「ふふふっ‥光栄です!」
笑って受け入れると、音楽に合わせてリリィベルの身体はふわっと高く持ち上げられた。
「わぁ!」
テオドールはリリィベルをふわりと持ち上げくるりと回った。
「良かった!!リリィ!もう撤回できねーぞ?」
その予想外の動きに、テオドールの笑顔に、
リリィベルは嬉しそうに笑った。
「あははっ!!殿下っ、目が回りますよっ?」
ストンとリリィベルを下ろして流れるように踊る。
「ならば、リリィ、俺の事も名前で呼べ。」
「えっ?」
「俺がいいって言うんだ。呼べ。」
「っ‥‥‥‥」
その言葉にリリィベルは頬を染めた。
「ほらっ呼んでみろ。もうすぐダンスが終わってしまうから‥早く‥‥‥」
「て‥テオ‥ドール殿下?」
恥ずかしそうに呟いた。
「ちがう。」
「えぇっ?」
狼狽えたリリィベル。だが、テオドールはリリィベルの身体を傾けてその腰をしっかり掴んで離さない。
「‥‥テオ‥‥‥そう呼べ。」
「っ‥‥‥」
「ほら‥このまま止まるぞ?」
悪戯に笑うテオドール。
だが、すぐに顔を近づけて、真剣にリリィベルに告げた。
「…リリィ、俺は…1人の男として言っている。」
テオドールの肩にしがみ付いていたリリィベル。
コクンっと息を呑んで、口を開いた。
「‥っ‥‥‥テオ‥‥‥‥」
耳元でリリィベルはその名を呼んだ。
「‥‥‥それでいい‥‥俺はお前を特別に思っている。」
あぁ、やはり声も同じだ。
恥じらい方も‥‥
ただ世界が違うだけ、幼馴染として出会ってないだけ‥‥
全てを愛しく思う‥‥‥。
全身から思いが溢れてくる‥‥‥。
夢の中で顔は見せてくれなかったのに‥
一致していく‥
なんだ‥レイラ‥‥同じ顔してるじゃないか‥‥
髪と瞳の色が違うだけ‥‥
思い出したぞ‥‥この可愛い顔を‥‥‥
俺だけが知っていた。
俺のレイラ‥‥
いや、俺の、リリィ‥‥‥
‥‥‥もう、2度と離さない‥‥‥‥。
1
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる