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星と月が出会う夜 第4夜

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ブォン!!!

ブォン!!!

木刀が風を切る音が響く。
「・・・・・・・」

あれから何時間経ったのだろう・・・・。

修練場の脇から、皇帝はその姿を見ていた。
「・・・・まったく・・・・」

真剣に素振りをする息子を父は見ていた。

晩餐会で、見事な牽制をした。大したものだった。
俺を称賛し、側室の子である王女を娶るつもりがないこと。王太子とは友好にし、国を脅かすつもりはない。
と、そう告げたのだ。

ブォン!!!!

ずっと気が晴れるまでそうしているつもりなのだろう‥‥。

皇帝は指輪の宝石を3回指先で叩いた。

「お呼びですか?こんな夜更けに。いやがらせですか?」
ロスウェルが静かに眠そうに現れた。

「静かにしろ。」
そう言われたロスウェル、皇帝の視線の先にいる皇太子を見た。

「うぁ・・・・怒ってますね。」
「あぁ・・・皇太子が故だ。」
「陛下は、怒ると相手をつけて剣を振り回していましたね。陛下よりマシですね。
迷惑かけないで、いい子です。」
「うるさい・・・。ロスウェル、テオドールの姿をしばらく晦ます術をかけておけ。」
「えっ。無断で?」
「あぁ、今使節団が来ている。隣国の王女が、テオを追いかけまわしては困るのだ。」
「あぁ、顔は良いですもんねぇ、陛下に似て。」
「ふんっ・・・褒めてやらんぞ。」
「少しでも楽にさせてやりたい・・・。誕生祭は恐らく、王女をパートナーにしなければならんだろう。
隣国の客人。貴族達も馬鹿なことまで考えまい・・・。」

「ふーん・・・・まぁいいですけど。皇太子殿下の命令ではないので、陛下から血を2倍貰いますが?」
「あぁ、構わん。可愛い我が子の為だ。なんぼでもくれてやろう…。」

そう言ってロスウェルに手を差し出した陛下だった。
「はーい・・・・じゃあチクっとしますね。2か所」
「あぁ・・・。」

微笑みながらテオドールを見つめた。

皇太子。我が息子、テオドール。苦しませたくない。
だが、避けては通れない。

お前が真に愛する人に巡り合うまで、そのファーストダンスを守ってやりたかった。
だが、私がマーガレットの結婚を一度我慢したように、時には思うようにいかない日がある。

だが、父親として、血を垂らして役に立つなら安いものだ…。



・・・・どうか・・・・・


「・・・・・?」
はっと気が付くと、素振りの音は止んでいた。
ロスウェルを影に押し込んで、自身も身を隠した。


見ると、テオドールは、空を見ていた。
その横顔は、苦しみ、悲しみ…
それだけじゃない。

星を見て、愛しさを滲ませていた。

誰かを切望する。愛故に悲しい瞳・・・・。


「・・・・・・・・・」

皇帝は、じっとその横顔を見ていた。


テオドールは・・・・誰を待っている・・・・?



しばらく眺めていると、テオドールは木刀を放り投げ俯いた。

そして、その場を後にした。



「ロスウェル」
「はい、陛下」
「術をちゃんとかけたか?」
「あ、」

まだ術は掛かっていなかった。



それから1週間。王女の目に皇太子が留まる事はなかった。また皇太子も王女を目に入れることはなかった。どんなに王女が皇太子を探し回ろうと…すぐそばを通っても…。


「こちらのお色はいかがですか?皇太子殿下。」
仕立て屋が、様々な色の衣装を見せてくれるが、皇太子は興味がなかった。

「・・・・・そなたらが良いと思う物を選んでくれ、私は何でもいい。」
ソファーの肘置きに肘をついて頬杖をついている。

これで何十着見せられた事か…覚えても居ない。

「殿下、使節団が来ているのですから、ちゃんと選んでください。」
フランクが横からワーワー言っているが、それも耳に入らない。
「なんでも構わん。俺は誕生祭には興味はない。」

興味があるのは、レイラの記憶を取り戻す時間のみ・・・・。

「じゃあ適当なジャケットを合わせますので、シャツを着替えて合わせましょう!」
フランクに背を押され、部屋の衝立の方に歩かされた。
「へいへい・・・・」

衝立の裏で、動きたくないテオドールは手を動かなさい。
「なんで私が殿下の服を脱がさなきゃならないんですがっ!」
「それはお前が俺の側近で、お前が子爵の息子で俺がお情けで置いてやってるからだ。
放っておいたら出世も出来なさそうだったからな。それなのにお前は生意気だな。」

ぽけーっとしながらテオドールは上を向いていた。

「あれっ・・・殿下こんなの付けてたんですか?」
フランクがそれを手に取った。

「っ!!」
下を向いた先には、ネックレスにつけた指輪に触れているフランク。

「っっ触んじゃねぇ!!!!!」
「うっっ!!」

テオドールはフランクを蹴飛ばしてしまった。ガシャーンと音を立て衝立とフランクが倒れる。

「っっ・・・・・」
指輪を握りしめたテオドールは、怒りを露わにしていた。


「ってぇっ・・・・・・で、殿下・・・っ」
腹を押さえてフランクがふらりと立ち上がる。

ハッと正気に戻る。

「あっ・・・・悪い・・・フランク・・・・・・」
動揺しながら謝り、指輪を握りしめていた。

「殿下・・・それ・・・」
「うるさいっ!この事に触れる事は許さんっ!!!!!」
すごい剣幕で怒鳴りつけた。

「・・・・申し訳ありません・・・・殿下・・・・・。」

フランクがそっと頭を下げた。


「・・・・・・・・・すまねぇ・・・・・・・」
くるっと後ろを向き、フランクに謝った。
「あとは自分で選ぶから、お前はもう下がれ。」

「はい・・・・・。」

下がっていくフランク
「医務室へ行け・・・いいな・・・・。」
「はい・・・。」

フランクは未だに困惑していた。

いつも自分本位な振舞いと荒い口調ではあった。だが、強く尊敬できる面もたくさんあった。
自分が下級貴族の子爵家の息子なのに、側近にしてくれたこと。
なぜかと理由を聞いたら、ただ、「嘘をつかなさそうだから。」と言っただけだ。
どんなに殿下に生意気な口をきいても、本気で怒られた事などなかった。

さっきの皇太子は、怯えに似ていた。

大切な物が壊されてしまいそうな怯えと恐怖心が溢れていた。


「・・・・・・・・・」
指輪を見つめたテオドールはまた、悲しさに胸が震えていた。

人目にさらした事のない自分の唯一。心臓とも思えた。


キュッと指輪を握りしめて、皆に背を向けて仕立て屋に告げた。




「濃紺の色に・・・・銀の刺繍が流れるように縫ってあるやつあっただろ・・・

ジャケットはそれにしろ。あとはそれに合わせてくれ・・・・」
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