ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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星と月が出会う夜 第2夜

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夕食の前にクレア王女は使節団と共に、玉座の前に居た。

「アレキサンドライトの皇帝陛下、皇后陛下にご挨拶申し上げます。
パラナウラ国第一王女 クレア・パナラウラで御座います。お目に掛かれて光栄で御座います。」
王女の綺麗なカーテシーと共に、ブルックス公爵は頭を下げ、その他の使節団一同は跪いた。

「よく来てくれた。パラナウラ国クレア王女。」
「とても可愛い王女様ね。」

笑顔で迎え入れた両陛下。

「此度は皇太子テオドール殿下の御誕生を祝う場に居られる事をとても光栄に思っております。
・・・・その。皇太子殿下は・・・?」

「・・・あぁすまない。皇太子は今、所要で席を外している。」
「そうでしたか・・・・」
しょんぼりとした顔を隠そうともせず、王女は俯いた。


・・・・本当は憂さ晴らしに騎士団とやりあっている・・・・・。


陛下の心中は複雑であった。

先程、皇太子とのやり取りがあり、皇帝の言葉に従いはしたものの。
テオドールは不機嫌だった。そう、不機嫌な時は決まって騎士団へ行き、
少し離れた見習いたちの修練場で狂ったように木刀を素振りして止まらない。

「そうですね・・・夕食時にと申していらっしゃったもの・・・」

「・・・・さようか。夕食時には顔を出すのでな・・・・・・」


・・・・そこからもう不機嫌だったかテオドール・・・・。


本来なら、出迎えと、両陛下の前に使節団が来る際に、皇太子も同席するはずだった。
だが、会ってすぐに夕食前には会わないという意思表示を示していたのだった。

「クレア王女は我が帝国は初めてだろう?」
「はい陛下、とても綺麗で美しい街並みで御座いました。特に中央広場にある噴水がとても綺麗で!」
「あぁ、そうか」
「はい!是非皇太子殿下と一緒に噴水を見に行きたいです!!!」
「・・・・さ・・・ようか・・・・。」

陛下の心中はさらに複雑だった。

王女は皇太子への好意を少しも隠そうとせず、堂々と告げてきた。

「皇太子は何かと忙しいが、時間があれば、きっと案内できるであろう・・・・。
本当に・・・忙しいのだ・・・・。何かとなっ。誕生祭も近い故、時間をとるよう伝えておこう。
伝えるだけなっ。」

陛下は最大限の努力をした。この後、テオドールの素振りが増えない事を祈るしかなかった。
立場上、言ったものの、息子に無理強いはしたくない。
けれど、どうやらパナラウラ国は、ひょっとしたら本当にテオドールとの婚姻を申し入れてくるかもしれない。

「あの陛下!」
元気な王女は止まらない。
「ど、どうした?」
「皇太子殿下には婚約している方はいらっしゃいますかっ!?確かいらっしゃらないはずでしたが!」
「あ、いやっ・・・うん、いや、あぁ・・・居ないな・・・・。なんでかなぁ・・・ははっ・・・。」

皇帝陛下は息子の話題に脆かった。

「あはっそうなんですねっ、嬉しい!よかったぁ!堂々とお願い出来るわっ」
まるで飛んで跳ねそうな勢いだった。
「あと、皇太子殿下のお好きな物はなんですか?甘い物はお好きかしら?ぜひ一緒にティータイムも出来れば・・・・。あ、それから誕生祭にお召しになる服のお色は?どんな色もお似合いになるでしょうね・・・
皇太子殿下はどんな本がお好きですか?あとあとっ好きな女性のタイプはっ」
「・・・・夕食時に聞いてみてはどうだ?・・・・王女っ?」
皇帝の顔はどんどん青ざめて居た。
「そうですねっ!お話したいですわっ!」

「・・・・・・・・」
そんな中、皇后陛下は扇子で口元を隠し、王女をじっと見ていた。

「じゃっ・・・・皆疲れているだろう。どうか夕食までゆっくり休んでくれ・・・・。
ブルックス公爵。」
「はい、皇帝陛下。」
「此度の訪問は有意義な時間になるよう祈っている。」
「はい、皇帝陛下。私も楽しみで御座います。」
ブルックス公爵は頭を下げた。


そして玉座の間からパナラウラ国の使節団と王女たちは去っていった。


はぁ・・・っと息をついた皇帝陛下。ずるっと玉座でその身を崩した。

「へいかぁぁっ!」

ビクッ!
隣から甲高い声で呼ばれた。

「こっ・・・皇后?どうした?」

皇帝が見た皇后はまるで鬼のような権幕で、こちらを睨んでいた。
「どうしたではありません!何ですかあの態度はぁっ許せませんんんんっ・・・・。」
いつもは皇帝の愛しいマーガレット皇后だったが、今だけはとてつもなく怒っている。
出会って初めてみる怒りだったかもしれない。

「なっなにがっ」
「露骨に皇太子皇太子皇太子と!なんですかあの品のない王女は!
自分勝手な振舞いが全面に出てたではありませんか!それにあなたも何です!?
はっきりしない態度で!皇帝としての威厳が足りません!息子の前ではあんな偉そうに命令したくせに!!
さっきのテオが可哀そうではありませんか!」

「いやっだからっ・・・・テオに申し訳なくてだな・・・・」
「まったくですぅ!あんな王女とテオは初めてのデートをしなければならないのですかっ!?
納得できませんんんんーーーー。」

ポカポカとその細い腕で皇帝を叩く皇后。

「なっ・・・どうしろと言うのだっ、それに一緒に来ているブルックス公爵は
私が皇太子時代にもいろいろあった厄介な人物なのだ!王女とは血縁だ。
こんな話が漏れたりでもしたら、本当に戦争になってしまうぞっ?頼むからやめてくれっ」

「んんんんんんん・・・・・」

顔を真っ赤にしながら皇后は怒りを我慢していた。

「はぁ・・・そう怒るな皇后。まだ若いのだ・・・・。」
「テオは一つ上でも、しっかり者で有名ですぅ!」
「それは皇太子としてだな・・・・・。見ろあれだって今頃木刀が折れるほど素振りしているのだぞ?
何本木刀がダメになる事やら・・・・。」

はぁっとため息をつく皇帝だった。

「然るべき相手を無理やりでも見繕ってやればよかったか?テオが望んだのだぞ?
誰とも婚約しないとな…。今回はやり過ごして貰わなければなるまい…。
世代交代した我が帝国の隙を狙っているのだ…。皇后も、フォローしてくれ。」

ふんっと皇后は鼻を鳴らしてまた扇子で口元を隠した。
「わかっておりますっ!テオは私が守りますっ!!あんな王女などテオに相応しくありません!
絶対!私は許しません!」


「はぁ・・・夕食がこんなに恐ろしいとはな・・・デビッドと皇位争いをしていた方が
まだマシであったわ・・・・。」

項垂れる皇帝陛下だった。




ブォンッ!!!!!
バシンッ!

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「殿下・・・一体何本木刀ダメにする気ですかぁ・・・?」

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

大量に折られた木刀を前にフランクは力なく言った。

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「あぁん?知るかっ!ダメになったら買えばいいだろうがっ!」

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「俺の私財を使っても構わんっ!」

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「いっその事俺専用の木刀をっ」

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「いやっ店ごと!」

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「買い取ってっ!」

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「俺にへし折られるためにっ!」

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「国中の職人っ!」

ブォンッ!!!!!
バシンッ!

「呼んで来いくそがぁぁっ!!!」

ブォンッ!!!!!


バシンっ
バキッッ!!!!


「・・・・・チッ・・・・・」

カランッと皇太子は折れた木刀を山積みになった木刀の側に放り投げた。

「あーあ・・・・・」
フランクがまたため息をつく。

「そんなに王女と腕を組んだのが嫌だったのですか?潔癖ですか?」
「うるさいっ」


腕に触れた王女も、含みを持たせた公爵の意見も、
皇太子としての立場と役目を命令された事も・・・・全部。


わかっている。皇太子としてどう振舞えばいいか。
ダンスなど、一回踊ってやれば済む話・・・
それで解決するなら、一回踊る事くらい・・・。


「くそっ・・・・・・。」
シャツの裾で流れてくる汗を拭った。

もう隠れてしまいたい・・・・・。



俺は・・・・・いつ・・・・・

レイラに会えるんだ・・・・・。



誕生日の度に、溢れるレイラの記憶。愛しい感情。
顔は分からない、でももっと見たい。ずっとその夢の世界に居たいほど・・・・。

でも、どこにいるか分からない・・・。


俺は、夢のように、レイラに触れたい・・・・。


いつの日だったか、レイラに触れる夢をみた。誕生日プレゼントに相応しい。

手を繋いだ。腕を組んで歩いた。その身体を抱きしめた。


記憶が増えるたびに、胸が苦しいくらい高鳴っていた。


あぁ・・・会いたい。この世でも・・・・。

また胸がとてつもなく苦しい・・・・・。泣きたい程に・・・・・。



「・・・チッ・・・・」
早く汗を流して、準備をしなければ・・・・。

空を見上げた。

もうすぐ夜になる。星が輝き、月が光を放つ。





「んっ・・・・。」
馬車に揺られる中、リリィベルは突然の胸の苦しみに声を漏らした。
「っどうしたっ?」
向かい側に座った父、ダニエルは慌ててリリィベルの隣に座った。


「なんでもありません・・・。お父様。」
少しだけ額に汗を浮かべ笑って見せた。
「ほらっ・・・だからあれほどっ・・・・。」
「本当に大丈夫ですっ!少し酔っただけですっ」
胸を少しさすって笑顔を必死で保っていた。

「本当か?本当に大丈夫なのか?」
「本当です。ほらっ・・・もうすぐ王都ですし、タウンハウスについたらゆっくりしましょう?」
「あぁ・・・・リリィ頼むから、無理はしないでくれ、隠さないで・・・・。」
「大丈夫です。お父様。なんてお顔をされているのですか?北部の鉄壁の顔が歪んでいますよ?
攻め入られてしまいますわ?」

「そんな冗談を言ってる場合ではないだろう・・・。」

「本当に大丈夫です。お父様、私王都にとても来たかったのご存じでしょう?」

「あぁ・・・・だが、どうしてそんなに・・・・・。」

リリィベルはふぅ・・・と深呼吸して、馬車の外を眺めた。

「・・・王都はとても・・・楽しい所だと思って・・・・。
行ってみたかったのです。きっと、キラキラしてるのでしょう。

だから、こんなに惹かれるのでしょう・・・・。」


馬車の窓から見える夜の星は、月の周りで煌びやかに光っていた。
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