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4.ゴーストハウスへようこそ!
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「なんなんだ、まったく……」
イズーはズキズキと痛む頭をさすりながら、幻燈とその背後に目をやった。
「ところで、除霊は成功したんだろ? なんだ、そいつらは」
幻燈の後ろには生気のない――いや、死んでいるのだから当たり前といえば当たり前なのだが、虚ろな顔つきをした亡者が二体、ぼんやりと佇んでいた。朽ちかけた外見のせいで判別が難しいが、彼らはおそらく男性と女性だろう。年齢はそこそこいっていそうだ。
「いえね、この人たちは心残りがあるとかで、まだ霊道を通りたくないと言うんですよ」
幻燈は口髭を撫でながら、錫杖を肩に担いだ。その拍子に錫杖から、しゃんと涼やかな音が立つ。コスプレの道具だというからちゃちなものかと思えば、幻燈の錫杖は案外しっかり作られているようだ。かなり重く、イズーも先ほど殴られたときは痛かった。それを軽々と扱っているのだから、幻燈は逞しい見た目どおり、相当な力持ちだ。
「つまり、天上に昇りたくないということか?」
「そういうことですね」
亡者たちはくり抜かれたようにぽっかり空になった目を、イズーたちに向けている。
「……………………」
イズーはなんだか嫌な予感がした。
その日風吹は、十九時頃に帰ってきた。
住み慣れた部屋だというのに、風吹はまるで初めて足を踏み入れるかのように忍び足で廊下を進み、居間で帰りを待っていたイズーに尋ねた。
「あの……。除霊ってやつは、無事済んだのかな? 幽霊はいなくなった?」
「ああ、もう大丈夫だ」
幻燈は謝礼を受け取り、既にこの部屋をあとにしている。台所の壁と西側の窓に貼った御札も用済みということで、撤去してあった。だから風吹から見れば、いつもどおりの我が家に戻っているはずである。
「ああ、良かった~! 今日はありがとうね、イズー!」
風吹はようやく笑顔を取り戻した。そんな彼女の前で、イズーは表情を曇らせる。
――言えない……。
「なんだか空気が美味しく感じる~! やっぱり幽霊がいないからかな~! あはは!」
そう、言えるわけがない。嬉しそうに深呼吸を繰り返す風吹のすぐ横に、おどろおどろしいオーラを放つ不気味な亡者が、二体も突っ立っているなんて。
幻燈は言った。亡者二体には、心残りがある。
それは――。
「風吹」
イズーは風吹を抱き締め、優しく口づけた。
「ん……」
軽く舌を絡ませて離れると、風吹はイズーの頬に触れた。
「今日もするの? いいけど、待って。シャワー浴びてくるから……」
「いやだ」
「もー、またそれ!? 最近のイズー、駄々っ子みたいだよ! ……んっ」
ぶうぶう文句をこぼす風吹の唇を、イズーは再び塞ぐ。そのまま風吹の背中と後頭部に手を回して抱き抱えると、少し強引にソファへ押し倒した。
「わっ! また、ここでするの!?」
ズレたメガネを直しながら不満気に言う風吹に、イズーは伸し掛かった。ソファが二人分の体重を受けて、ぎしっと軋む。
「なんか、変な癖、ついちゃったのかな……」
困ったようにぼやくものの、風吹は抵抗しなかった。それをいいことに、イズーは彼女のシャツのボタンを外し、大きく左右に開く。ブラジャーの肩紐を下ろし、背中へ手を差し入れると、風吹も渋々上体を起こし、ホックを外す手助けをしてくれた。おおよその準備が整うと、イズーは顔を上げ、近くに控えていた亡者たちに目で合図を送る。
――来い。
愚鈍に見えた亡者たちも、このときばかりは俊敏に、イズーたちに襲い掛かってきた。
幻燈の話では、この亡者二体は夫婦で、病気かケガのせいで、まだ若い時分から性的な交渉ができなくなってしまったらしい。心残りとはつまりそのことで、「もう一度、夫婦二人で燃えるようなセックスをしてみたい。願いが叶ったならば、喜んで天に召されよう」とのことだ。
しかし亡者たちには肉体がなく、彼らの願いを実現しようとするならば、誰かの手を借りなければならない。だから「イズーと風吹で亡者たちを取り込んでやって、セックスの快感を共有し、十分楽しんだら、彼らも満足して天に昇るだろう」――と、幻燈の見立てと提案は、そのようなものだった。
――頑張らねば……!
最後に残ったこの亡者たちを払わなければ、真の安寧を風吹に与えたことにはならない。だからイズーは張り切った。
亡者のうち夫はイズーに、妻は風吹に、それぞれ憑依している。イズーは視覚のチャンネルをあえてズラし、霊視を弱めた。亡者の不気味な顔がちらちら浮かんでは、勃つものも勃たなくなるからだ。
「ん……?」
イズーに組み敷かれた風吹が、顔をしかめている。
「どうした?」
「なんか急に頭が重たくなって。なんだろ……?」
「……肩でも凝ってるんじゃないか? 終わったら、マッサージしてやろう」
「うん、ありがとう」
イズーが適当に誤魔化すと、風吹は健気にも礼を言った。騙しているようで申し訳ない気もするが、そもそも幽霊を追い払って欲しいというのは、彼女の願いだ。ならば、協力してもらわねば。
イズーにも夫側の幽霊が憑いているわけだが、そういえば確かに体が重くなった気がする。思い起こせば、元の世界では精霊に憑依されていたようなものだが、それと亡者に取り憑かれるのは勝手が全く違うようだ。精霊は生命力を与えてくれるが、亡者は逆に吸い取ろうとする。
くらくらしながら手を伸ばして、イズーは風吹の裸の胸を揉んだ。たっぷり重みのあるそれを下からすくい上げ、柔らかい肉に指を沈める。先端を指先でつまみ、こねた。
「あっ、ん……!」
小さな肩を震わせ、控えめな嬌声を上げる風吹を見ているうちにたまらなくなって、イズーはツンと上を向いた乳首にむしゃぶりついた。
「あっ、イズー……! ふ、あん……っ!」
「風吹、可愛い……」
犬のように息を荒げ、べろべろと舐め回す。何度か繰り返すと、風吹の胸の頂きは色が濃く変わった。唾液に濡れて光る乳首を眺め、イズーは芸術品でも作り上げたかのように悦に入った。
「イズー。なんか変だよ。この間したばっかりなのに、目がギラギラしてる……」
少し引き気味の、風吹は正しい。イズーは、いつものイズーではないのだ。
久しぶりの官能に酔う亡者の意識が流れ込んできて、頭がぼうっとする。ヤスリにこすられているように、心臓がじりじりと痛い。鼓動も早くなった。風吹を犯すことしか考えられなくて、油断をすればよだれでも垂らしそうだ。自分の獣じみた顔を見られるのが嫌で、イズーは風吹をうつ伏せにひっくり返すと、彼女によく似合っているグレーのタイトスカートを捲り上げた。
「きゃっ!」
イズーは風吹の形の良い尻を撫で回し、それだけでは飽き足らず、頬ずりした。
「風吹、風吹……! ああ、スベスベで、美味しそうだ……!」
「ちょ、い、イズー!? く、くすぐったいよ……!」
甘い香りを吸い込みながら、この間は伝線させないようにそっと脱がせたストッキングを、今日は一転、イズーは荒々しく破いた。
「あっ、ひどい!」
「どうせ五足千円のやつだろう?」
「値段は関係ない! まだまだ履くつもりだったのに!」
涙ぐましい抗議が聞こえているのかいないのか、イズーは風吹の股間を覆うストッキングをビリビリ裂いてしまうと、下着に触れた。ねちねちと指を縦に動かしていると、爽やかなライトブルーの布地に、染みがどんどん広がっていく。
「あっ、あ……っ! やぁ……!」
ソファに突っ伏した風吹は、顔の両脇に置いた拳を握り締め、なにかに耐えているようだ。その隙に、イズーはびっしょりと濡れて濃く染まったショーツのクロッチを脇にずらし、中身と対面する。
薄い陰毛に装飾された、複雑な形の割れ目。知性的な美人の風吹が、こんな野性味溢れる性器を隠し持っている。そのギャップに、イズーはいつも興奮してしまう。
女のあそこというのは下品でグロテスクなのに、どうしてこうもいやらしいのだろう。目が離せない。イズーは秘裂を割り、現れた窪みに中指を入れた。
「んっ、う、イズー……っ! あんまりしたら、やだ……っ!」
指を出し入れすると、肉壁が柔らかく噛みついてくる。今すぐペニスを突っ込んでやりたい。衝動が亡者の分も流れ込んできて、いつもの倍以上興奮している。なんとか堪えて、イズーは履いていたハーフパンツのポケットから避妊具を取り出し、袋を噛んで破った。ゴム製の中身を陰茎にかぶせていると、自分に憑いている亡者の不満を感じた。そりゃあ直に挿入したほうが気持ちはいいだろうが、しかしこれは絶対に譲れない。きちんとしなければ、風吹に嫌われてしまうのだから……。
「風吹。ちゃんとつけたから……」
そう断りを入れると、風吹の体からふっと力が抜ける。許しを得たとばかりに、イズーは風吹の下着を更にずらし、一息に後ろから貫いた。
「あっ……! やっ、大き……っ!」
イズーは風吹の腹に手を回し、下半身だけ起こさせると、小振りの尻を掴んで腰を打ちつけた。
「気持ちいい……! 風吹……っ!」
「んっ、ふ、あっ……!」
この快感を別の誰かと共有しているなんて、興ざめなので、イズーは心を無にするよう努めた。
女を後ろから突く、動物のような交わり。このような体位を試すのは初めてだった。衣服も下着も脱がさず繋がって、怒られるかと思ったが、意外にも風吹は悦んでいるようだ。
人の性癖には、SとMの二種類があるという。風吹は間違いなく前者だろうと思っていたのだが、何度か彼女と体を重ねるうちに、イズーはそう単純なものではないのだと考えを改めた。
風吹はいわゆるスイッチヒッターで、その場の雰囲気や相手によって、攻め手にもなれるし、受け手にもなれるのだ。気持ちが良くて、楽しめれば、どちらでもいいのだろう。
とんでもない淫乱に聞こえるかもしれないが、器用で賢くなければそのようには振る舞えない。少なくともイズーは、そんな風吹に敬意すら抱いている。役者の違いを感じるのだ。
――でも今日はもしかしたら、勝てるかもしれない。
イズーが動くたび風吹の華奢な体は跳ね、雄の侵入を許した雌穴からはどっと愛液がこぼれ落ちた。甘酸っぱい芳香を放つそれが、肉棒に激しくかき混ぜられて泡立つ様も、背後から交わるこの格好ならばよく見える。
「ふ、ん、んんっ……!」
「風吹も、気持ちいいか?」
「ん、きもち、いい……っ、きもちいいよぉっ……!」
体を伸ばして、風吹の頭を撫でてやりながら、イズーはほくそ笑んだ。
もっともっと、鳴かせてやりたい。しかし優位に立ち、支配したいというその想いが、イズーの心に奢りを生んだ。
風吹のブルーの下着をめくって、結合部を眺める。陰茎を膣にねじ入れ、退くたび、その上の小さな蕾がひくひくと可愛らしく蠢いていた。イズーはゆるやかに動きながら、こぼれ落ちた愛液を指に塗り、風吹の菊座に触れた。途端、彼女の全身がぴんと固くなる。
「やっ、そこは……! いやっ、やめて!」
「ふふ、体は正直だぞ? ぎゅうぎゅう締めつけてくる……」
イズーはニヤニヤ笑いつつ、各所で使い古された台詞を吐いた。ノリノリである。
「あっ、いやっ、やああああっ! やだっ、やだってば!」
細かいシワに添ってイズーが指を動かすと、風吹は激しく身悶えた。
「そこはいやなの……。お願い、イズー、もうやめて……」
風吹はなんとかよろよろ体を起こすと、四つん這いになり、顔だけ振り返って、イズーに懇願した。
だが、行為の最中に女が言う「イヤ」は、本当は嫌ではない。「もっとして」と同意だ。
――ネットには、そう書いてあった……!
イズーは、風吹のもうひとつの陰洞に置いた指に、力を入れた。飲み込まれる――。その直前、風吹の瞳に怒りの炎が灯ったことに、イズーは気づかなかった。
「んっ」
風吹は両手両足をついた格好のまま、自ら尻をイズーに押しつけ、前後に動き出した。
「えっ……!?」
イズーの余裕は、瞬時に吹っ飛んだ。自分で動けば刺激を予想できるし、やり過ごすこともできる。しかし相手の好きなように動かれてしまえば、堪えきれない。立場は、あっという間に逆転してしまった。
小さな凹凸を持つ濡れた肉ヒダが、限界近くまで膨らんだ陰茎を包み込み、扱く。しかも自身が風吹の性器に食まれる様が、眼前に晒されているのだ。視覚までも犯されて、ついこの間まで童貞だったイズーが耐えられるわけがない。
「よ、よせ、ふぶき……っ! あ、あああっ!」
必死の懇願を、今度は風吹が無視する番だ。
「く……っ! あっ、出る……っ!」
我慢できず、イズーは風吹の尻を掴むと、がむしゃらに腰を振り、射精してしまった。
「あっ、あああ……」
「……………………」
一段落着いたところで、風吹はイズーから離れた。そしてボロボロに破かれたストッキングと、体液を吸って重くなったショーツを脱ぎ、スカートの裾を整える。ブラジャーをつけ直し、最後にシャツのボタンを留めるが、その間イズーにできたのは、避妊具を外すことくらいだった。
「……さて。覚悟はいいかな、イズー」
「えっ……?」
風吹はシャツの腕をまくりながら、イズーに向き直った。
そういえばことを終えたのに、イズーと風吹に憑いた幽霊は、一向に離れようとしない。――なぜだ。
イズーはズキズキと痛む頭をさすりながら、幻燈とその背後に目をやった。
「ところで、除霊は成功したんだろ? なんだ、そいつらは」
幻燈の後ろには生気のない――いや、死んでいるのだから当たり前といえば当たり前なのだが、虚ろな顔つきをした亡者が二体、ぼんやりと佇んでいた。朽ちかけた外見のせいで判別が難しいが、彼らはおそらく男性と女性だろう。年齢はそこそこいっていそうだ。
「いえね、この人たちは心残りがあるとかで、まだ霊道を通りたくないと言うんですよ」
幻燈は口髭を撫でながら、錫杖を肩に担いだ。その拍子に錫杖から、しゃんと涼やかな音が立つ。コスプレの道具だというからちゃちなものかと思えば、幻燈の錫杖は案外しっかり作られているようだ。かなり重く、イズーも先ほど殴られたときは痛かった。それを軽々と扱っているのだから、幻燈は逞しい見た目どおり、相当な力持ちだ。
「つまり、天上に昇りたくないということか?」
「そういうことですね」
亡者たちはくり抜かれたようにぽっかり空になった目を、イズーたちに向けている。
「……………………」
イズーはなんだか嫌な予感がした。
その日風吹は、十九時頃に帰ってきた。
住み慣れた部屋だというのに、風吹はまるで初めて足を踏み入れるかのように忍び足で廊下を進み、居間で帰りを待っていたイズーに尋ねた。
「あの……。除霊ってやつは、無事済んだのかな? 幽霊はいなくなった?」
「ああ、もう大丈夫だ」
幻燈は謝礼を受け取り、既にこの部屋をあとにしている。台所の壁と西側の窓に貼った御札も用済みということで、撤去してあった。だから風吹から見れば、いつもどおりの我が家に戻っているはずである。
「ああ、良かった~! 今日はありがとうね、イズー!」
風吹はようやく笑顔を取り戻した。そんな彼女の前で、イズーは表情を曇らせる。
――言えない……。
「なんだか空気が美味しく感じる~! やっぱり幽霊がいないからかな~! あはは!」
そう、言えるわけがない。嬉しそうに深呼吸を繰り返す風吹のすぐ横に、おどろおどろしいオーラを放つ不気味な亡者が、二体も突っ立っているなんて。
幻燈は言った。亡者二体には、心残りがある。
それは――。
「風吹」
イズーは風吹を抱き締め、優しく口づけた。
「ん……」
軽く舌を絡ませて離れると、風吹はイズーの頬に触れた。
「今日もするの? いいけど、待って。シャワー浴びてくるから……」
「いやだ」
「もー、またそれ!? 最近のイズー、駄々っ子みたいだよ! ……んっ」
ぶうぶう文句をこぼす風吹の唇を、イズーは再び塞ぐ。そのまま風吹の背中と後頭部に手を回して抱き抱えると、少し強引にソファへ押し倒した。
「わっ! また、ここでするの!?」
ズレたメガネを直しながら不満気に言う風吹に、イズーは伸し掛かった。ソファが二人分の体重を受けて、ぎしっと軋む。
「なんか、変な癖、ついちゃったのかな……」
困ったようにぼやくものの、風吹は抵抗しなかった。それをいいことに、イズーは彼女のシャツのボタンを外し、大きく左右に開く。ブラジャーの肩紐を下ろし、背中へ手を差し入れると、風吹も渋々上体を起こし、ホックを外す手助けをしてくれた。おおよその準備が整うと、イズーは顔を上げ、近くに控えていた亡者たちに目で合図を送る。
――来い。
愚鈍に見えた亡者たちも、このときばかりは俊敏に、イズーたちに襲い掛かってきた。
幻燈の話では、この亡者二体は夫婦で、病気かケガのせいで、まだ若い時分から性的な交渉ができなくなってしまったらしい。心残りとはつまりそのことで、「もう一度、夫婦二人で燃えるようなセックスをしてみたい。願いが叶ったならば、喜んで天に召されよう」とのことだ。
しかし亡者たちには肉体がなく、彼らの願いを実現しようとするならば、誰かの手を借りなければならない。だから「イズーと風吹で亡者たちを取り込んでやって、セックスの快感を共有し、十分楽しんだら、彼らも満足して天に昇るだろう」――と、幻燈の見立てと提案は、そのようなものだった。
――頑張らねば……!
最後に残ったこの亡者たちを払わなければ、真の安寧を風吹に与えたことにはならない。だからイズーは張り切った。
亡者のうち夫はイズーに、妻は風吹に、それぞれ憑依している。イズーは視覚のチャンネルをあえてズラし、霊視を弱めた。亡者の不気味な顔がちらちら浮かんでは、勃つものも勃たなくなるからだ。
「ん……?」
イズーに組み敷かれた風吹が、顔をしかめている。
「どうした?」
「なんか急に頭が重たくなって。なんだろ……?」
「……肩でも凝ってるんじゃないか? 終わったら、マッサージしてやろう」
「うん、ありがとう」
イズーが適当に誤魔化すと、風吹は健気にも礼を言った。騙しているようで申し訳ない気もするが、そもそも幽霊を追い払って欲しいというのは、彼女の願いだ。ならば、協力してもらわねば。
イズーにも夫側の幽霊が憑いているわけだが、そういえば確かに体が重くなった気がする。思い起こせば、元の世界では精霊に憑依されていたようなものだが、それと亡者に取り憑かれるのは勝手が全く違うようだ。精霊は生命力を与えてくれるが、亡者は逆に吸い取ろうとする。
くらくらしながら手を伸ばして、イズーは風吹の裸の胸を揉んだ。たっぷり重みのあるそれを下からすくい上げ、柔らかい肉に指を沈める。先端を指先でつまみ、こねた。
「あっ、ん……!」
小さな肩を震わせ、控えめな嬌声を上げる風吹を見ているうちにたまらなくなって、イズーはツンと上を向いた乳首にむしゃぶりついた。
「あっ、イズー……! ふ、あん……っ!」
「風吹、可愛い……」
犬のように息を荒げ、べろべろと舐め回す。何度か繰り返すと、風吹の胸の頂きは色が濃く変わった。唾液に濡れて光る乳首を眺め、イズーは芸術品でも作り上げたかのように悦に入った。
「イズー。なんか変だよ。この間したばっかりなのに、目がギラギラしてる……」
少し引き気味の、風吹は正しい。イズーは、いつものイズーではないのだ。
久しぶりの官能に酔う亡者の意識が流れ込んできて、頭がぼうっとする。ヤスリにこすられているように、心臓がじりじりと痛い。鼓動も早くなった。風吹を犯すことしか考えられなくて、油断をすればよだれでも垂らしそうだ。自分の獣じみた顔を見られるのが嫌で、イズーは風吹をうつ伏せにひっくり返すと、彼女によく似合っているグレーのタイトスカートを捲り上げた。
「きゃっ!」
イズーは風吹の形の良い尻を撫で回し、それだけでは飽き足らず、頬ずりした。
「風吹、風吹……! ああ、スベスベで、美味しそうだ……!」
「ちょ、い、イズー!? く、くすぐったいよ……!」
甘い香りを吸い込みながら、この間は伝線させないようにそっと脱がせたストッキングを、今日は一転、イズーは荒々しく破いた。
「あっ、ひどい!」
「どうせ五足千円のやつだろう?」
「値段は関係ない! まだまだ履くつもりだったのに!」
涙ぐましい抗議が聞こえているのかいないのか、イズーは風吹の股間を覆うストッキングをビリビリ裂いてしまうと、下着に触れた。ねちねちと指を縦に動かしていると、爽やかなライトブルーの布地に、染みがどんどん広がっていく。
「あっ、あ……っ! やぁ……!」
ソファに突っ伏した風吹は、顔の両脇に置いた拳を握り締め、なにかに耐えているようだ。その隙に、イズーはびっしょりと濡れて濃く染まったショーツのクロッチを脇にずらし、中身と対面する。
薄い陰毛に装飾された、複雑な形の割れ目。知性的な美人の風吹が、こんな野性味溢れる性器を隠し持っている。そのギャップに、イズーはいつも興奮してしまう。
女のあそこというのは下品でグロテスクなのに、どうしてこうもいやらしいのだろう。目が離せない。イズーは秘裂を割り、現れた窪みに中指を入れた。
「んっ、う、イズー……っ! あんまりしたら、やだ……っ!」
指を出し入れすると、肉壁が柔らかく噛みついてくる。今すぐペニスを突っ込んでやりたい。衝動が亡者の分も流れ込んできて、いつもの倍以上興奮している。なんとか堪えて、イズーは履いていたハーフパンツのポケットから避妊具を取り出し、袋を噛んで破った。ゴム製の中身を陰茎にかぶせていると、自分に憑いている亡者の不満を感じた。そりゃあ直に挿入したほうが気持ちはいいだろうが、しかしこれは絶対に譲れない。きちんとしなければ、風吹に嫌われてしまうのだから……。
「風吹。ちゃんとつけたから……」
そう断りを入れると、風吹の体からふっと力が抜ける。許しを得たとばかりに、イズーは風吹の下着を更にずらし、一息に後ろから貫いた。
「あっ……! やっ、大き……っ!」
イズーは風吹の腹に手を回し、下半身だけ起こさせると、小振りの尻を掴んで腰を打ちつけた。
「気持ちいい……! 風吹……っ!」
「んっ、ふ、あっ……!」
この快感を別の誰かと共有しているなんて、興ざめなので、イズーは心を無にするよう努めた。
女を後ろから突く、動物のような交わり。このような体位を試すのは初めてだった。衣服も下着も脱がさず繋がって、怒られるかと思ったが、意外にも風吹は悦んでいるようだ。
人の性癖には、SとMの二種類があるという。風吹は間違いなく前者だろうと思っていたのだが、何度か彼女と体を重ねるうちに、イズーはそう単純なものではないのだと考えを改めた。
風吹はいわゆるスイッチヒッターで、その場の雰囲気や相手によって、攻め手にもなれるし、受け手にもなれるのだ。気持ちが良くて、楽しめれば、どちらでもいいのだろう。
とんでもない淫乱に聞こえるかもしれないが、器用で賢くなければそのようには振る舞えない。少なくともイズーは、そんな風吹に敬意すら抱いている。役者の違いを感じるのだ。
――でも今日はもしかしたら、勝てるかもしれない。
イズーが動くたび風吹の華奢な体は跳ね、雄の侵入を許した雌穴からはどっと愛液がこぼれ落ちた。甘酸っぱい芳香を放つそれが、肉棒に激しくかき混ぜられて泡立つ様も、背後から交わるこの格好ならばよく見える。
「ふ、ん、んんっ……!」
「風吹も、気持ちいいか?」
「ん、きもち、いい……っ、きもちいいよぉっ……!」
体を伸ばして、風吹の頭を撫でてやりながら、イズーはほくそ笑んだ。
もっともっと、鳴かせてやりたい。しかし優位に立ち、支配したいというその想いが、イズーの心に奢りを生んだ。
風吹のブルーの下着をめくって、結合部を眺める。陰茎を膣にねじ入れ、退くたび、その上の小さな蕾がひくひくと可愛らしく蠢いていた。イズーはゆるやかに動きながら、こぼれ落ちた愛液を指に塗り、風吹の菊座に触れた。途端、彼女の全身がぴんと固くなる。
「やっ、そこは……! いやっ、やめて!」
「ふふ、体は正直だぞ? ぎゅうぎゅう締めつけてくる……」
イズーはニヤニヤ笑いつつ、各所で使い古された台詞を吐いた。ノリノリである。
「あっ、いやっ、やああああっ! やだっ、やだってば!」
細かいシワに添ってイズーが指を動かすと、風吹は激しく身悶えた。
「そこはいやなの……。お願い、イズー、もうやめて……」
風吹はなんとかよろよろ体を起こすと、四つん這いになり、顔だけ振り返って、イズーに懇願した。
だが、行為の最中に女が言う「イヤ」は、本当は嫌ではない。「もっとして」と同意だ。
――ネットには、そう書いてあった……!
イズーは、風吹のもうひとつの陰洞に置いた指に、力を入れた。飲み込まれる――。その直前、風吹の瞳に怒りの炎が灯ったことに、イズーは気づかなかった。
「んっ」
風吹は両手両足をついた格好のまま、自ら尻をイズーに押しつけ、前後に動き出した。
「えっ……!?」
イズーの余裕は、瞬時に吹っ飛んだ。自分で動けば刺激を予想できるし、やり過ごすこともできる。しかし相手の好きなように動かれてしまえば、堪えきれない。立場は、あっという間に逆転してしまった。
小さな凹凸を持つ濡れた肉ヒダが、限界近くまで膨らんだ陰茎を包み込み、扱く。しかも自身が風吹の性器に食まれる様が、眼前に晒されているのだ。視覚までも犯されて、ついこの間まで童貞だったイズーが耐えられるわけがない。
「よ、よせ、ふぶき……っ! あ、あああっ!」
必死の懇願を、今度は風吹が無視する番だ。
「く……っ! あっ、出る……っ!」
我慢できず、イズーは風吹の尻を掴むと、がむしゃらに腰を振り、射精してしまった。
「あっ、あああ……」
「……………………」
一段落着いたところで、風吹はイズーから離れた。そしてボロボロに破かれたストッキングと、体液を吸って重くなったショーツを脱ぎ、スカートの裾を整える。ブラジャーをつけ直し、最後にシャツのボタンを留めるが、その間イズーにできたのは、避妊具を外すことくらいだった。
「……さて。覚悟はいいかな、イズー」
「えっ……?」
風吹はシャツの腕をまくりながら、イズーに向き直った。
そういえばことを終えたのに、イズーと風吹に憑いた幽霊は、一向に離れようとしない。――なぜだ。
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公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
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