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後編
7(完)
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キーラの膝の裏を押し上げて、大きく開いた足の間に、ジラントは体を割り込ませた。
この状態で、彼が少しでも腰を突き入れれば、交わりは成立する。
ジラントは、真顔で尋ねた。
「キーラ、愛してる。でもお前が僕を許さず、そして僕と同じ気持ちでないのならば……諦める」
土壇場で、このセリフである。一種の脅しではないだろうか。
キーラは唇を曲げた。
――言いたいことを言って、気持ち良くなる奴ばっかじゃないっつーの!
「あなたが好きだ」と自分の想いを暴露してしまえば、恥ずかしさのあまり、死んでしまう人間だっているのだ。
だがジラントは、なあなあで済ます気はないらしい。じっとそのまま挿入寸前の状態で、キーラの答えを待っている。
キーラはため息をつき、腹をくくった。
「私も……あんたのことが好きだよ。ずっと前から」
「キーラ……!」
ぱあっと花が咲くかのように、ジラントは微笑んだ。清廉な彼の笑顔に見惚れながら、キーラはつけ加える。
「でも! 私、めんどくさい奴だからね! 一度恋人にでもなろうものなら、いつだって構ってもらうし、一生つきまとってやるから!」
本当はずっと、言いたかったことだ。
いつだって、満たされなかった。
愛して欲しい。縋りつきたい。いつでも、いつまでも。
自分でも鬱陶しいと思っている。嫌われたくなかったから、言えなかっただけだ。
決死の覚悟で言ったのに、ジラントはそんなことかとばかりにあっさり答えた。
「任せろ。ずーっと一緒だ。お前が嫌だと言ったら、枷を嵌めて鎖で繋いでやる!」
「あんた、懲りてないな!?」
――ともかく、こうして、二人は結ばれることになった。
二人の絆を強めるための太く硬い杭が、キーラに打ち込まれる。
「うっ……ん……」
十分慣らされていても、飲み込むときには痛みが伴った。
しかし、空虚だった部分が埋まっていく――。その感覚に、喜びと満足感があった。
キーラが思わず涙をこぼすと、ジラントが口づけてくる。
「痛いか? ごめん……」
キーラは首を振る。
「幸せ」だなんて、恥ずかしくて、到底言うことはできないが。
「好きだ、キーラ」
「本当に、ずっと一緒だからね……?」
「うん……」
掠れた声。なにかに耐えるように引き結んだ唇。汗ばんだ肌。
ジラントの、全てが愛しい。
キーラは幼馴染の背中に腕を回し、しがみついた。
「あ……っ」
キーラの中を何度か行き来したのち、ジラントは彼女の最も深い場所にその想いを吐き出した。
「たくさん出てる……」
自らの器が愛する男の精液で満たされていくのを、キーラは恍惚として感じ入った。
森の天上を覆う葉たち。その隙間から漏れ降りる日差しは、苛烈だった。露で湿気た大地を焼くかのように、ギラギラと強い。旅立ちの朝には、お誂え向きかもしれないが。
「ラプシン様や家族には、カラツィフを出ると言ってきた」
「でも留学するにも、お金ないでしょ? どうせなら私を殺したことにして、ジジイからお金をふんだくってくれば良かったのに」
「――そんな金、受け取れないし、受け取りたくない」
キーラの提案を聞いて、ジラントは少し怒ったような顔になった。そしてひとつ、咳払いをする。
「僕はジグ・ニャギ教の僧侶になるよ。――最初は苦労するかもしれないが、絶対に幸せにするから、ついて来てくれないか?」
答えなんて、初めから決まっている。
キーラが頷くと、ジラントは安堵したのか、笑顔になった。
「もしかしたら、ラプシン様は、なにか勘づいているかもしれない。お前は生きていると――」
「どうだか……。なんにしろ、ジジイの前に顔を出さなきゃいいんでしょ?」
ジラントは心配そうだが、キーラのほうはあっさりとしたものだ。
長年抱えていたものを投げ捨て、心が軽くなっている。
いつかまた親のことを思い出し、寂しく悲しくなるのかもしれないが、そのときもそばには、ジラントがいてくれるのだろう。
――だから、大丈夫。
話をしながら、二人は旅支度を整えていった。とはいえ、荷物は多くない。ジラントの例の魔法のカバンに詰め込んでしまうだけで、十分事足りる。
「お前の服とか、せっかく集めたり作ったりしただろうに、持っていけないのは可哀相だな……」
「別にいいよ。また新しいの揃えるし。ワクワクするわー! あ、これも持っていくの?」
キーラが指差したのは、先日ジラントがばら撒いた、大人のおもちゃたちだ。机の隅に放り出してあったそれらを、ジラントは慌ててカバンに押し込んだ。
「持ってくんだ……」
「いや、残していっても……。あとで誰かにここを発見されたとき、気まずいだろうが」
「ていうか、私にあれこれしようって計画だったんでしょ? なんでオナホまで用意してんの?」
「なにをどう揃えたらいいか、よく分からなくて……。一式詰め合わせって売り文句の福袋を買ったら、入ってたんだ」
「ふくぶくろ……」
用意も済み、いよいよ出発だ。
小屋の外へ出れば、戸口の前で一匹の仔ぎつねが、ちょこんと座り、待ち構えていた。
「ユラン! 入ってくれば良かったのに」
キーラはしゃがみ込むと、ユランの頭を撫でた。あとから出てきたジラントは、警戒心剥き出しの目つきで仔ぎつねを見下ろしている。
「いよいよ巣立ちか?」
「うん、そう。短いつき合いだったけど、ユランも元気でね。あんまり悪さしちゃダメだよ。本当に退治されちゃうからね!」
ユランにお別れを言ってから、キーラはジラントと連れ立って歩き出した。
新天地へ向かって――。
だが十歩ほど進んだところで、キーラは振り返った。
――ユランはまだ、そこにいた。きちんと座ったまま、キーラたちを見詰めている。
「……一緒に来るー?」
「!」
そう声をかけると、ユランは横に寝ていた耳をぴこっと立てた。
「豪華なエサは用意できないけどー!」
「リンゴがあればいい!」
化けぎつねを旅に誘うジーラを見て、ジラントはぎょっと驚いている。
「おい! あいつ、連れてく気か!?」
「あんたが尻尾を切っちゃったせいで、あの子の人生設計、狂っちゃったんだよ? 責任取ってあげなよ!」
「マジか……」
ユランは走り出し、キーラにぴょんと飛びついた。
「これからもよろしくね、ユラン!」
「――うん」
ユランは抱き留めてくれたキーラの胸に、何度も頭を擦りつけた。
――どうやらここにも、寂しがりやがいたようだ。
こうして二人と一匹は、新しい巣を目指し、出発した。
あるべきものは、あるべき場所へ。
居場所なきものは、自ら探しに旅立つ。
全ては丸く収まった。これはそういう話である。
~ 終 ~
この状態で、彼が少しでも腰を突き入れれば、交わりは成立する。
ジラントは、真顔で尋ねた。
「キーラ、愛してる。でもお前が僕を許さず、そして僕と同じ気持ちでないのならば……諦める」
土壇場で、このセリフである。一種の脅しではないだろうか。
キーラは唇を曲げた。
――言いたいことを言って、気持ち良くなる奴ばっかじゃないっつーの!
「あなたが好きだ」と自分の想いを暴露してしまえば、恥ずかしさのあまり、死んでしまう人間だっているのだ。
だがジラントは、なあなあで済ます気はないらしい。じっとそのまま挿入寸前の状態で、キーラの答えを待っている。
キーラはため息をつき、腹をくくった。
「私も……あんたのことが好きだよ。ずっと前から」
「キーラ……!」
ぱあっと花が咲くかのように、ジラントは微笑んだ。清廉な彼の笑顔に見惚れながら、キーラはつけ加える。
「でも! 私、めんどくさい奴だからね! 一度恋人にでもなろうものなら、いつだって構ってもらうし、一生つきまとってやるから!」
本当はずっと、言いたかったことだ。
いつだって、満たされなかった。
愛して欲しい。縋りつきたい。いつでも、いつまでも。
自分でも鬱陶しいと思っている。嫌われたくなかったから、言えなかっただけだ。
決死の覚悟で言ったのに、ジラントはそんなことかとばかりにあっさり答えた。
「任せろ。ずーっと一緒だ。お前が嫌だと言ったら、枷を嵌めて鎖で繋いでやる!」
「あんた、懲りてないな!?」
――ともかく、こうして、二人は結ばれることになった。
二人の絆を強めるための太く硬い杭が、キーラに打ち込まれる。
「うっ……ん……」
十分慣らされていても、飲み込むときには痛みが伴った。
しかし、空虚だった部分が埋まっていく――。その感覚に、喜びと満足感があった。
キーラが思わず涙をこぼすと、ジラントが口づけてくる。
「痛いか? ごめん……」
キーラは首を振る。
「幸せ」だなんて、恥ずかしくて、到底言うことはできないが。
「好きだ、キーラ」
「本当に、ずっと一緒だからね……?」
「うん……」
掠れた声。なにかに耐えるように引き結んだ唇。汗ばんだ肌。
ジラントの、全てが愛しい。
キーラは幼馴染の背中に腕を回し、しがみついた。
「あ……っ」
キーラの中を何度か行き来したのち、ジラントは彼女の最も深い場所にその想いを吐き出した。
「たくさん出てる……」
自らの器が愛する男の精液で満たされていくのを、キーラは恍惚として感じ入った。
森の天上を覆う葉たち。その隙間から漏れ降りる日差しは、苛烈だった。露で湿気た大地を焼くかのように、ギラギラと強い。旅立ちの朝には、お誂え向きかもしれないが。
「ラプシン様や家族には、カラツィフを出ると言ってきた」
「でも留学するにも、お金ないでしょ? どうせなら私を殺したことにして、ジジイからお金をふんだくってくれば良かったのに」
「――そんな金、受け取れないし、受け取りたくない」
キーラの提案を聞いて、ジラントは少し怒ったような顔になった。そしてひとつ、咳払いをする。
「僕はジグ・ニャギ教の僧侶になるよ。――最初は苦労するかもしれないが、絶対に幸せにするから、ついて来てくれないか?」
答えなんて、初めから決まっている。
キーラが頷くと、ジラントは安堵したのか、笑顔になった。
「もしかしたら、ラプシン様は、なにか勘づいているかもしれない。お前は生きていると――」
「どうだか……。なんにしろ、ジジイの前に顔を出さなきゃいいんでしょ?」
ジラントは心配そうだが、キーラのほうはあっさりとしたものだ。
長年抱えていたものを投げ捨て、心が軽くなっている。
いつかまた親のことを思い出し、寂しく悲しくなるのかもしれないが、そのときもそばには、ジラントがいてくれるのだろう。
――だから、大丈夫。
話をしながら、二人は旅支度を整えていった。とはいえ、荷物は多くない。ジラントの例の魔法のカバンに詰め込んでしまうだけで、十分事足りる。
「お前の服とか、せっかく集めたり作ったりしただろうに、持っていけないのは可哀相だな……」
「別にいいよ。また新しいの揃えるし。ワクワクするわー! あ、これも持っていくの?」
キーラが指差したのは、先日ジラントがばら撒いた、大人のおもちゃたちだ。机の隅に放り出してあったそれらを、ジラントは慌ててカバンに押し込んだ。
「持ってくんだ……」
「いや、残していっても……。あとで誰かにここを発見されたとき、気まずいだろうが」
「ていうか、私にあれこれしようって計画だったんでしょ? なんでオナホまで用意してんの?」
「なにをどう揃えたらいいか、よく分からなくて……。一式詰め合わせって売り文句の福袋を買ったら、入ってたんだ」
「ふくぶくろ……」
用意も済み、いよいよ出発だ。
小屋の外へ出れば、戸口の前で一匹の仔ぎつねが、ちょこんと座り、待ち構えていた。
「ユラン! 入ってくれば良かったのに」
キーラはしゃがみ込むと、ユランの頭を撫でた。あとから出てきたジラントは、警戒心剥き出しの目つきで仔ぎつねを見下ろしている。
「いよいよ巣立ちか?」
「うん、そう。短いつき合いだったけど、ユランも元気でね。あんまり悪さしちゃダメだよ。本当に退治されちゃうからね!」
ユランにお別れを言ってから、キーラはジラントと連れ立って歩き出した。
新天地へ向かって――。
だが十歩ほど進んだところで、キーラは振り返った。
――ユランはまだ、そこにいた。きちんと座ったまま、キーラたちを見詰めている。
「……一緒に来るー?」
「!」
そう声をかけると、ユランは横に寝ていた耳をぴこっと立てた。
「豪華なエサは用意できないけどー!」
「リンゴがあればいい!」
化けぎつねを旅に誘うジーラを見て、ジラントはぎょっと驚いている。
「おい! あいつ、連れてく気か!?」
「あんたが尻尾を切っちゃったせいで、あの子の人生設計、狂っちゃったんだよ? 責任取ってあげなよ!」
「マジか……」
ユランは走り出し、キーラにぴょんと飛びついた。
「これからもよろしくね、ユラン!」
「――うん」
ユランは抱き留めてくれたキーラの胸に、何度も頭を擦りつけた。
――どうやらここにも、寂しがりやがいたようだ。
こうして二人と一匹は、新しい巣を目指し、出発した。
あるべきものは、あるべき場所へ。
居場所なきものは、自ら探しに旅立つ。
全ては丸く収まった。これはそういう話である。
~ 終 ~
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