エンジョイ!さくりふぁいす

犬噛 クロ

文字の大きさ
上 下
6 / 13
前編

6(完)

しおりを挟む
 キーラは態度を軟化させた。

「なんだかよく分からないけど……。痛くしないでくれるなら……おとなしくする」

 自らの体を抱き締めるようにして、キーラは弱々しく言った。
 ジラントの喉が、ごくっと鳴る。

「あ、うん……。可哀相なことはしない……。なるべく……。だから……」

 これからレイプすると宣告しておきながら、「可哀想なことはしない」とは。
 ジラントは言うこともやることも一致せず、不安定だ。
 そこに、キーラは勝機を見た。

「あの……。ジラント。先に服を脱いでくれる? 恥ずかしいから……」
「わ、分かった……」

 ジラントはキーラに従い、ベッドの上で服を脱いだ。そして彼の格好が、股間を覆う一枚のみとなったところで、キーラは動いた。
 右手で放り出されたままの筒型の道具を取り、左手でジラントの下着を掴み、一気にずり下げる。現れたジラントの陰茎は、若さゆえか、既に高々と天を指していた。

「ちょ、な、なにやって……!」

 慌てふためくジラントに構わず、キーラは筒型の道具を彼の肉棒にかぶせた。そして素早く上下に動かす。

「いたっ! やめ……! いだだだだ……っ!」

 どうやらあまり良くないらしい。
 キーラが振るう筒型の道具は、女性の性器を模した性具である。主に男性が自慰に使う――。キーラはジラントの隠し持っていた本を盗み見て、それがどういうものかは知っていた。が、実際に使うのはもちろん初めてだ。
 なかなか難しい……。キーラはジラントの表情に注意を払いつつ、ねっとりと筒を動かした。

「これでどうだ!」
「うっ……」

 全体を擦るように大きくストロークさせたあとは、先端のでっぱりを狙い、小刻みに、集中的に攻める。
 筒の内部にはなにがしかの液体が塗られていたようで、ジラントの陰茎と擦れるたび、ねちゃねちゃと湿った音がした。
 女の、しかもよく知るキーラの手によって快感を引き出されることに、ジラントは戸惑っているようだ。しかしそれ以上に興奮していることは、彼の雄そのものが肥え、張り詰めていく様子から明らかだった。

「やめろ……! これじゃ逆だろ……っ!」

 自分から引き剥がそうと、ジラントはキーラの肩を押した。

「いたぁい! ケガしちゃう! 女の子に暴力振るう気ぃ!?」

 キーラはわざとらしく悲鳴を上げた。

「くそっ……」

 ジラントの腕が止まる。この男は昔から口で攻撃するばかりで、どんなにケンカが激化しようとも、キーラに物理的な危害を加えることは一切なかったのだ。

「あっ……。もう……やめ……っ!」
「でも、すごく気持ち良さそうだよ、ジラント。あんた、こういうシチュエーション好きでしょ? 昔からそういうのばっか、読んでたじゃない。男が女にいじめられるやつ」
「あれは……っ、読みものとして好きであって……! あっ、ああ……っ!」
「ジラント、可愛い……」
「ばっ……」

 ジラントは中腰のまま、キーラに手淫されている。男性にしては白い肌を赤く染め、息を乱しながら耐えている彼は、なんとも言えず色っぽい。
 釣られて、キーラも妙な気分になってきた。

 ――これ、やばい。早く終わらせないと……!

 キーラは筒型の道具でジラントを犯しながら、もう一方の手を肉棒の根本に伸ばした。

「ここは? 気持ちいいの?」

 指先で、ふにふにと柔らかく頼りない睾丸をくすぐってやると、ジラントの体が跳ねた。

「あっ、そこは……!」
「あはは! おもしろーい!」

 真っ赤に怒張したペニスと、それにぶら下がる塊を同時に弄びながら、キーラはジラントを見上げた。
 ジラントの、メガネの奥の黒い瞳は潤み、しかしギラギラと光っていた。恥ずかしいのだろうし、欲望に身を任せたいという衝動も見え隠れする。
 目の前に絶好の獲物がいるのに、襲いかかれない。
 枷をつけられているのは、ジラントのほうだ。理性が、彼を繋ぎ留めている。

 ――こんなんで、よく人を、陵辱しようなんて言えたもんだな……!?

 キーラの頭に、呆れと疑念が浮かぶ。
 ジラントは本当に、キーラを汚したかったのだろうか?

「キーラ……!」
「あ……」

 ジラントは自ら腰を動かしたかと思うと、体を震わせながらキーラを抱き締めた。やがて筒型の道具の頂点に空いた穴から、とろりと白濁の液がこぼれ落ちる。

「わー……。イッたんだ……。男の子ってこうなるんだね~……」
「……くっ!」

 キーラが感動するやら驚くやらしていると、ジラントは自らの股間から筒を抜き取り、腹立ち紛れに近くのゴミ箱へ投げ捨てた。
 怒りと羞恥に悶えているジラントに向かって、キーラは勝利の雄叫びを上げた。

「ふっ、ふん! どうせエロ本で勉強して、私を痛めつけてやろうって思ったんでしょ! 付け焼き刃でドSご主人様になろうなんて、無茶だし無理だし! 百年早いんだよ! このチンカス!」
「ううっ……!」

 ジラントは悔しそうにキーラを睨むと、脱ぎ捨てた服を抱えて、裸のまま外へ飛び出していった。

「バーカバーカ! このドM童貞めー! あんたこそ、奴隷やってるほうがお似合いだー!」

 キーラは床に仁王立ちになると、幼馴染を思う存分罵った。が、小屋の扉が閉まると同時に、へなへなとその場に崩れ落ちてしまう。

「び、びっくりした……。怖かったよぉ……!」

 心臓が激しく鳴るせいで、息がうまくできない。
 ジラントとのつき合いは長いが、これまで二人は一度も、男女を意識するような行為をしたことはなかったのだ。
 それが藪から棒に、なぜ今あんなことを?
 なんとか立ち上がると、キーラはベッドに向かった。休もうと思ったのに、シーツの上は、ジラントが持ち込んだ卑猥な道具たちで散らかっている。それがまた、キーラの心情を逆なでした。

「まったくよー! 持って帰れっつーの!」

 イライラしながら道具を脇にどけ、ベッドにどっかり座る。
 直後、玄関のドアが開いた。驚きのあまり、キーラは心停止一歩手前の状態に陥った。

「うわあっ!? えっ、あっ!?」
「……………」

 しっかり服を着たジラントが、トレイを手に立っている。
 ジラントは、言葉が出せずにいるキーラをじろりと一瞥すると、持ってきたトレイをベッドに置いた。
 トレイには食事が乗っている。
 平静を装っているようだが、ジラントの耳は赤かった。謎の作戦が大失敗した今、彼もまたどういう態度を取っていいのか、分からないのかもしれない。
 襲うつもりが返り討ちに遭い、あんな醜態を晒したのだ。恥ずかしいのは当然だろう。
 無言のまま、ジラントは再び去った。しばらく待ったが、今度は戻ってこないようだ。

「は、はあああ~~~……」

 キーラは脱力した。しばらくして落ち着いてから、ジラントが運んでくれたトレイに手を伸ばす。
 トレイの上にはキーラの好物のくるみパンに、皮を剥いたリンゴ、そしてお茶が置かれていた。

「気持ちは嬉しいけど……」

 食欲がなくて、キーラは手に取ったパンを皿に戻した。

「なんでこんなとこに、いないといけないんだよお……」

 どうしてジラントは、キーラにわざわざ足枷なんて嵌めて、外へ出られないようにしたんだろう。雌奴隷にするとか肉便器にするとか、わけの分からないことをほざいていたが、もちろんそんな空事が本当の理由ではないはずだ。
 なぜなら彼には、そういった不道徳な願望に対する熱意が足りていない。

 ――ジラントは私にひどいことをしたいって感じでもなかったし、いやらしいことをしたいって感じでもなかったし……。

 襲われているほうにも、それは伝わるものだ。

 ――竜は、退治したんだよね? それとも、あれは夢だったの?

 どうして、帰らせてくれないのか――。
 不安に沈みながらも、キーラはふと頭を上げた。

「ん?」

 トントンと、外へ繋がる木の扉を、何者かが叩いている。

「ジラント……?」

 恐る恐る扉を開く。するとそこには、一匹の獣がいた。
 ちょこんと行儀良く座っているそれは、立ち耳に黄金の毛並み、そしてアーモンドにそっくりな形の赤い目をしていた。

「あれ……?」

 その獣は、昔キーラが図鑑で目にした生きものとそっくりだった。
 確か、「きつね」という――。
 手足は短く、小さく丸っこい。この個体は、まだ子供だろうか。

「君、どこから来たの?」

 キーラがしゃがみ込むと、仔ぎつねは――信じられないことに、人の言葉で話した。

「娘。お前、なにか食いもん持ってないか?」

 長いしっぽを、ぱったんぱったんとゆっくり左右に振って、仔ぎつねはキーラに尋ねた。




 ~ 終 ~


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...