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前編
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気がつけば、見知らぬ天井をぼんやりと眺めていた。
なにがあったのか……。キーラの頭の中で、竜との遭遇と闘い、その一部始終が再生されていく。
ジラントと二人で出向いた、オルガ川の風景。
立ちはだかった暗黒竜ユラン。
――いや。
ユランは竜ではなかった。別の生きものだったはずだ。
そして、奴を退治してくれたのは、ジラント……? 確か、そうだったはずだ。
「そういえば、ジラントは……?」
キーラは体を起こし、辺りを見回した。
ジラントの姿は、近くにないようだ。
キーラが寝かされていたのは、簡素なベッドだった。上下の布団は少々硬く重たく、そしてシーツと枕は匂う。不快ではなかったが、ほんのりメンソールの香りが混じった、どこかで嗅いだような匂いだった。
窓からいくらか入ってくる陽の明るさからいって、今は朝だろうか。もしかしたらカラツィフを出たときから、日付が変わっているのかもしれない。
「ここは……?」
キーラはどこぞの小屋にいるらしい。見覚えのない場所だ。
ベッドから降りようとして、足に違和感を覚えた。なんだか重たいと思って確かめてみれば、足首に金属製の枷がはまっている。
「ん? なにこれ?」
円形の枷は足首をきっちり囲うように付けられており、外すことはできなかった。繋ぎ目の部分に鍵穴があり、そこが施錠されているらしい。枷からは鎖が伸びており、南京錠を介して、ベッドの支柱に留められていた。
「んーーーー!」
力任せに鎖を引っ張ってみるが、びくともしない。キーラは諦めて、足首に枷をつけたまま、うろうろと歩き回った。
枷とベッドの支柱を繋ぐ鎖はだいぶ長く、部屋の中であれば自由に動けるようだ。
「どこだ、ここは……」
ひとつしかない窓を覗くが、木立しか見えなかった。キーラのいる小屋は、森の中に建っているらしい。
続きの部屋もない一室のみのこの小屋は、見るからに安普請だし、ショボショボの内装からなにから、手作り感に溢れた建物だった。
粗末な室内に置かれている家具は、ベッドのほか、机と本棚くらいである。
机の上には紙の束や筆記具、ランプなどが、ごちゃごちゃと乗っていた。本棚には書物が、タイトルや巻数、厚さや背表紙の高さなど、一切揃えることなくバラバラに並んでいる。
――この「整理整頓」という概念を知らないような無秩序な状態に、キーラは覚えがあった。
「ジラントだよね、この有様は……」
キーラは自信を持って断言した。机の上や本棚の混沌具合が、ジラントの部屋と一緒なのだ。
それに、ベッドの匂い。よくよく思い返せば、あれはジラントの匂いだ。
「犬か、私は」
キーラは自分に呆れた。
それはさておき――。
子供の頃に何度か通った彼の家とは違うようだから、つまりここは別宅といったところか。
そう言えばジラントはよく、「兄弟姉妹が多くて、家も狭いから、勉強に集中できない」とこぼしていた。だから、一人で籠もれる場所を作ったのだろうか。
「あいつ、自分で小屋を建てたのか……。でも、ここもジラントの部屋だとしたら……。んー……」
キーラは本棚に向かうと、一段分の本をごっそり取り出してしまった。するとその奥、背板にぴったり並行になるよう横向きに、別の本が並んでいる。
――これがジラントの、ヤバい本を隠すときの手段だ。
キーラはそれらの数冊を手に取ると、ページをめくり出した。
「どれどれ……」
ジラントの秘蔵の書はいわゆる絵物語で、タイトルは「美少女監禁・虐待日誌」だとか「処女強姦・調教の愉楽」等々――。題名どおり、暴力と背徳のストーリーを綴ったものだった。
目を背けたくなるような作品群を、批評家の目線で冷静に読み進めつつ、キーラは首を傾げた。
「これは、なんか違うな……?」
キーラは凶悪な本たちを一旦脇に置き、今度は本棚の一番下の段を漁り出した。そこにも先ほどと同様の手口でいかがわしい本が隠されていたが、しかし最初に見つけたものと比べると、趣がだいぶ異なっていた。
新規に暴かれた本の表紙には、「僕の可愛いご主人さま」だとか「ご褒美は女神様のお仕置き」だとか、恥ずかしくもポップなタイトルが踊る。絵柄もだいぶ可愛い。内容はといえば、男性が奥手で女性が積極的。やたらと男性主人公に都合のいいストーリー展開であることはさておき、いやらしいというよりは、微笑ましいが先に立つような内容だった。
「にひひ……。あいつの好みは熟知してるし。ラブコメ脳なんだよね~」
キーラはしてやったりと笑ったあと真顔になり、先に床に積んだ、サディズムに傾倒した本たちに目をやった。
「――なのに、なんでこんな本を?」
好みじゃないオカズを、ジラントはなぜ、わざわざ手に入れたのだろう?
「甘いものばっかじゃ飽きるから、たまには辛口のものをって? そういうものなのかな?」
どうにも腑に落ちず、考え込んでいると、外から足音が近づいてきた。
キーラは慌てて本を棚に戻すと、ベッドに飛び乗った。
間もなく扉が開いて、一人の青年が現れた。――ジラントである。
「起きたか」
「ジラント……。あっ、えーと……。ここ、あんたの小屋? 作ったの?」
「ああ……」
「へえ~! 器用だよね、あんた。なんでも出来ちゃうし」
「……………」
ジラントの表情は硬く、雰囲気もいつもと違っている。見ているこちらが落ち着かなくなるほど、彼は追い詰められた様子だった。
――だが、それはなぜだろう?
「あの……。竜を倒してくれたんだよね? カラツィフを救ってくれて、ありがとう」
いつもからかってばかりの幼馴染に、キーラはベッドの上から深々と頭を下げた。
カラツィフが――故郷が、両親も住民も、全て無事で良かった。これは偽らざる本心である。
周りとうまくやっていけないのは、あくまでも自分の問題であることを、キーラは自覚しているのだ。
殊勝な態度の幼馴染を前に、だがジラントはますます苦しそうに眉根を寄せた。
「言うな。礼なんて……」
「え?」
どういう意味だろう。キーラが問いかけようとしたところで、ジラントは突然笑い出した。
「ははははは! このときを待っていたぞ! キーラ!」
「!?」
ジラントの芝居がかった口調と妙な勢いに、キーラはぎょっと身じろぎした。
「いつもいつも! この『俺』を馬鹿にしくさって! 今日こそ復讐してやる! 泣いても喚いても、やめてやらないからな! お前は、俺の、俺様の! 雌奴隷になるのだアッ!」
気でも狂ったのか――。ジラントの変容を見て、キーラは真っ先にそう思った。
が、威勢のいいことを述べた彼の目は、きょときょとと右に左に泳ぎまくっている。当の「雌奴隷」たるキーラを、見ようともしない。
「あんた……どうした!?」
なにか悪いものでも食べたのだろうか。
本気で心配しているキーラの疑問には答えず、ジラントは彼女のいるベッドに乗った。
「ね、ねえ、ジラント……? なんかあった? もしかして、病気とか?」
「……………」
キーラはシーツに尻をつけたまま後ずさり、ジラントはそれを追う。ぐっと距離を詰めてから、ジラントは腰に提げていたカバンを外し、逆さまにした。中から、なにかがバラバラと落ちてくる。
「なんでも出てくる魔法のカバン」。ベッドの上にぶち撒けられた、新たなアイテムは――。
「……なにこれ?」
キーラはそのうちの一つを手に取った。
一言で言えば、それは取っ手つきの棒だ。長さは二十センチ、直径は五センチほど。先端は丸く、胴体よりも大きく膨らんでいる。触感は柔らかいような、硬いような。
よく分からないまま取っ手を掴み、キーラはその棒を左右にぶらぶら揺らしてみた。するとジラントは血相を変え、それを奪い取った。
「うわあああああ! 女子がそんなもんを持ってはいけない!」
「は? あんたが出したんじゃん!」
そのほか晒されたカバンの中身は、正体不明の透明な液体が入ったボトルに、つぶつぶの球体がひと繋がりになった紐状のもの。そして、謎の太い筒だ。
これらは、どこかで見たことがあるような――?
「んー?」
キーラは名探偵よろしく、脳細胞を活性化させて思考に耽った。
奇妙な道具類を自ら持ち込んでおきながら、ジラントは真っ赤になって慌てている。――そう、ジラントの……。
「そうだ、さっき見つけた、スケベ本! あんた、あの本みたいなことを、私にする気なんでしょ!?」
「うっ……!」
ジラントは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにぎこちなく笑った。
「そっ、そのとおりだ! お前を躾けて、調教して、僕の――俺の肉便器にしてやる!」
あの猥雑な絵物語のような台詞をそのまんま吐き、しかしやはりジラントは、キーラを直視しようとはしないのだった。
「俺は絶対に忘れないぞ! あの日、『友達になれ』なんて――いじめられっ子の俺を哀れんで、馬鹿にして! お前には分かるまい! 俺がどんだけ惨めだったか!」
「そんな――」
キーラは絶句した。
ジラントがいじめられっ子だったなんて、そんな認識はなかったのだ。
だが――。
キーラは、森の中で兵士たちが語っていたことを思い出した。
『ジラントって悪気はないんだろうけど、ちょっとズレてるっていうか……』
『学校でも、ちょっと浮いてたって聞いたぞ……』
『めっちゃ頭いい奴って、どっか変わってるもんなんだよ……』
ジラントは学校で一番成績が良くて、常に冷静沈着で――。しかしよくよく振り返ってみれば、確かにキーラと遊んでいるとき以外、彼は一人のことが多かったかもしれない。
「覚悟しろよ! ヒイヒイあへあへ、言わせてやるからな!」
「は!?」
過去の自分は、ジラントのプライドを傷つけたのだろうか。が、あまりにゲスな彼の物言いに、キーラは怒りを覚えた。
ジラントは、こんな男ではなかったはずなのだが。
――でも、ここで逆らっても、火に油を注ぐだけかも……。
なにがあったのか……。キーラの頭の中で、竜との遭遇と闘い、その一部始終が再生されていく。
ジラントと二人で出向いた、オルガ川の風景。
立ちはだかった暗黒竜ユラン。
――いや。
ユランは竜ではなかった。別の生きものだったはずだ。
そして、奴を退治してくれたのは、ジラント……? 確か、そうだったはずだ。
「そういえば、ジラントは……?」
キーラは体を起こし、辺りを見回した。
ジラントの姿は、近くにないようだ。
キーラが寝かされていたのは、簡素なベッドだった。上下の布団は少々硬く重たく、そしてシーツと枕は匂う。不快ではなかったが、ほんのりメンソールの香りが混じった、どこかで嗅いだような匂いだった。
窓からいくらか入ってくる陽の明るさからいって、今は朝だろうか。もしかしたらカラツィフを出たときから、日付が変わっているのかもしれない。
「ここは……?」
キーラはどこぞの小屋にいるらしい。見覚えのない場所だ。
ベッドから降りようとして、足に違和感を覚えた。なんだか重たいと思って確かめてみれば、足首に金属製の枷がはまっている。
「ん? なにこれ?」
円形の枷は足首をきっちり囲うように付けられており、外すことはできなかった。繋ぎ目の部分に鍵穴があり、そこが施錠されているらしい。枷からは鎖が伸びており、南京錠を介して、ベッドの支柱に留められていた。
「んーーーー!」
力任せに鎖を引っ張ってみるが、びくともしない。キーラは諦めて、足首に枷をつけたまま、うろうろと歩き回った。
枷とベッドの支柱を繋ぐ鎖はだいぶ長く、部屋の中であれば自由に動けるようだ。
「どこだ、ここは……」
ひとつしかない窓を覗くが、木立しか見えなかった。キーラのいる小屋は、森の中に建っているらしい。
続きの部屋もない一室のみのこの小屋は、見るからに安普請だし、ショボショボの内装からなにから、手作り感に溢れた建物だった。
粗末な室内に置かれている家具は、ベッドのほか、机と本棚くらいである。
机の上には紙の束や筆記具、ランプなどが、ごちゃごちゃと乗っていた。本棚には書物が、タイトルや巻数、厚さや背表紙の高さなど、一切揃えることなくバラバラに並んでいる。
――この「整理整頓」という概念を知らないような無秩序な状態に、キーラは覚えがあった。
「ジラントだよね、この有様は……」
キーラは自信を持って断言した。机の上や本棚の混沌具合が、ジラントの部屋と一緒なのだ。
それに、ベッドの匂い。よくよく思い返せば、あれはジラントの匂いだ。
「犬か、私は」
キーラは自分に呆れた。
それはさておき――。
子供の頃に何度か通った彼の家とは違うようだから、つまりここは別宅といったところか。
そう言えばジラントはよく、「兄弟姉妹が多くて、家も狭いから、勉強に集中できない」とこぼしていた。だから、一人で籠もれる場所を作ったのだろうか。
「あいつ、自分で小屋を建てたのか……。でも、ここもジラントの部屋だとしたら……。んー……」
キーラは本棚に向かうと、一段分の本をごっそり取り出してしまった。するとその奥、背板にぴったり並行になるよう横向きに、別の本が並んでいる。
――これがジラントの、ヤバい本を隠すときの手段だ。
キーラはそれらの数冊を手に取ると、ページをめくり出した。
「どれどれ……」
ジラントの秘蔵の書はいわゆる絵物語で、タイトルは「美少女監禁・虐待日誌」だとか「処女強姦・調教の愉楽」等々――。題名どおり、暴力と背徳のストーリーを綴ったものだった。
目を背けたくなるような作品群を、批評家の目線で冷静に読み進めつつ、キーラは首を傾げた。
「これは、なんか違うな……?」
キーラは凶悪な本たちを一旦脇に置き、今度は本棚の一番下の段を漁り出した。そこにも先ほどと同様の手口でいかがわしい本が隠されていたが、しかし最初に見つけたものと比べると、趣がだいぶ異なっていた。
新規に暴かれた本の表紙には、「僕の可愛いご主人さま」だとか「ご褒美は女神様のお仕置き」だとか、恥ずかしくもポップなタイトルが踊る。絵柄もだいぶ可愛い。内容はといえば、男性が奥手で女性が積極的。やたらと男性主人公に都合のいいストーリー展開であることはさておき、いやらしいというよりは、微笑ましいが先に立つような内容だった。
「にひひ……。あいつの好みは熟知してるし。ラブコメ脳なんだよね~」
キーラはしてやったりと笑ったあと真顔になり、先に床に積んだ、サディズムに傾倒した本たちに目をやった。
「――なのに、なんでこんな本を?」
好みじゃないオカズを、ジラントはなぜ、わざわざ手に入れたのだろう?
「甘いものばっかじゃ飽きるから、たまには辛口のものをって? そういうものなのかな?」
どうにも腑に落ちず、考え込んでいると、外から足音が近づいてきた。
キーラは慌てて本を棚に戻すと、ベッドに飛び乗った。
間もなく扉が開いて、一人の青年が現れた。――ジラントである。
「起きたか」
「ジラント……。あっ、えーと……。ここ、あんたの小屋? 作ったの?」
「ああ……」
「へえ~! 器用だよね、あんた。なんでも出来ちゃうし」
「……………」
ジラントの表情は硬く、雰囲気もいつもと違っている。見ているこちらが落ち着かなくなるほど、彼は追い詰められた様子だった。
――だが、それはなぜだろう?
「あの……。竜を倒してくれたんだよね? カラツィフを救ってくれて、ありがとう」
いつもからかってばかりの幼馴染に、キーラはベッドの上から深々と頭を下げた。
カラツィフが――故郷が、両親も住民も、全て無事で良かった。これは偽らざる本心である。
周りとうまくやっていけないのは、あくまでも自分の問題であることを、キーラは自覚しているのだ。
殊勝な態度の幼馴染を前に、だがジラントはますます苦しそうに眉根を寄せた。
「言うな。礼なんて……」
「え?」
どういう意味だろう。キーラが問いかけようとしたところで、ジラントは突然笑い出した。
「ははははは! このときを待っていたぞ! キーラ!」
「!?」
ジラントの芝居がかった口調と妙な勢いに、キーラはぎょっと身じろぎした。
「いつもいつも! この『俺』を馬鹿にしくさって! 今日こそ復讐してやる! 泣いても喚いても、やめてやらないからな! お前は、俺の、俺様の! 雌奴隷になるのだアッ!」
気でも狂ったのか――。ジラントの変容を見て、キーラは真っ先にそう思った。
が、威勢のいいことを述べた彼の目は、きょときょとと右に左に泳ぎまくっている。当の「雌奴隷」たるキーラを、見ようともしない。
「あんた……どうした!?」
なにか悪いものでも食べたのだろうか。
本気で心配しているキーラの疑問には答えず、ジラントは彼女のいるベッドに乗った。
「ね、ねえ、ジラント……? なんかあった? もしかして、病気とか?」
「……………」
キーラはシーツに尻をつけたまま後ずさり、ジラントはそれを追う。ぐっと距離を詰めてから、ジラントは腰に提げていたカバンを外し、逆さまにした。中から、なにかがバラバラと落ちてくる。
「なんでも出てくる魔法のカバン」。ベッドの上にぶち撒けられた、新たなアイテムは――。
「……なにこれ?」
キーラはそのうちの一つを手に取った。
一言で言えば、それは取っ手つきの棒だ。長さは二十センチ、直径は五センチほど。先端は丸く、胴体よりも大きく膨らんでいる。触感は柔らかいような、硬いような。
よく分からないまま取っ手を掴み、キーラはその棒を左右にぶらぶら揺らしてみた。するとジラントは血相を変え、それを奪い取った。
「うわあああああ! 女子がそんなもんを持ってはいけない!」
「は? あんたが出したんじゃん!」
そのほか晒されたカバンの中身は、正体不明の透明な液体が入ったボトルに、つぶつぶの球体がひと繋がりになった紐状のもの。そして、謎の太い筒だ。
これらは、どこかで見たことがあるような――?
「んー?」
キーラは名探偵よろしく、脳細胞を活性化させて思考に耽った。
奇妙な道具類を自ら持ち込んでおきながら、ジラントは真っ赤になって慌てている。――そう、ジラントの……。
「そうだ、さっき見つけた、スケベ本! あんた、あの本みたいなことを、私にする気なんでしょ!?」
「うっ……!」
ジラントは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにぎこちなく笑った。
「そっ、そのとおりだ! お前を躾けて、調教して、僕の――俺の肉便器にしてやる!」
あの猥雑な絵物語のような台詞をそのまんま吐き、しかしやはりジラントは、キーラを直視しようとはしないのだった。
「俺は絶対に忘れないぞ! あの日、『友達になれ』なんて――いじめられっ子の俺を哀れんで、馬鹿にして! お前には分かるまい! 俺がどんだけ惨めだったか!」
「そんな――」
キーラは絶句した。
ジラントがいじめられっ子だったなんて、そんな認識はなかったのだ。
だが――。
キーラは、森の中で兵士たちが語っていたことを思い出した。
『ジラントって悪気はないんだろうけど、ちょっとズレてるっていうか……』
『学校でも、ちょっと浮いてたって聞いたぞ……』
『めっちゃ頭いい奴って、どっか変わってるもんなんだよ……』
ジラントは学校で一番成績が良くて、常に冷静沈着で――。しかしよくよく振り返ってみれば、確かにキーラと遊んでいるとき以外、彼は一人のことが多かったかもしれない。
「覚悟しろよ! ヒイヒイあへあへ、言わせてやるからな!」
「は!?」
過去の自分は、ジラントのプライドを傷つけたのだろうか。が、あまりにゲスな彼の物言いに、キーラは怒りを覚えた。
ジラントは、こんな男ではなかったはずなのだが。
――でも、ここで逆らっても、火に油を注ぐだけかも……。
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