潔癖淫魔と煩悩僧侶

犬噛 クロ

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第三話 魔物、豹変

7(完)

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 昨日の情事で、ディオローナはメグに絶頂へ導かれた。
 天へ駆け上がるような浮遊感のあと、マグマに突き落とされたような灼熱を味わい――。
 魔力が装填された満足感よりも強い、女としての悦び。
 ――あれを、また、欲しい、と。
 だからきっと、ディオローナの女の部分は、よだれを垂らして、今か今かとそのときを待ち望んでいるのだ。

「えー、僕があなたを開発しちゃったんですかぁ? わあ~、それは光栄だな~!」

 気に障る喋り方と表情で、メグははしゃいだ。

「だから、触るな! 今は、嫌なんだ!」

 堕ちる。すなわち、依存してしまいそうで――。
 再び暴れようとするディオローナの中心に、メグは指を潜り込ませた。

「やっ、ああ……っ!」
「いいじゃないですか、別に。楽になっちゃいましょうよ?」

 すっかり準備が整っていたディオローナの小さな窪みは、メグの指を貪欲に迎え入れた。
 二本の指に交互にひだを撫でられ、かき回される。
 ディオローナは誰かに、なにかに、追い駆けられているような感覚に陥った。
 逃げ切れず、とうとう捕まる。
 目の前が、チカチカと明滅した。

「ん、う……いや、いや……っ! いやあ!」

 短い悲鳴を上げて、ディオローナの体が跳ねる。直後、彼女は荒い呼吸を繰り返し、動かなくなった。

「そうやって、そのまま……。なにも考えず、僕を食べてしまえばいい……」

 メグはディオローナの細く長い足をそれぞれ両脇に抱え、中心に己を据えた。

「あ……」

 腰が持ち上がったせいで、結合部が丸見えになってしまう。血管の浮き出たグロテスクな肉の杭が、自分に打ち込まれていく様子を、ディオローナは濁った目で見詰めた。

「あああっ!」

 達したばかりの体で受け止めるには、刺激が強すぎる。打ち寄せてきた快感の波は大きく、ディオローナは顎を反らした。

「ディオローナさん、最高……! 気持ちいい……っ!」

 メグは夢中になり、ガツガツと腰を打ちつけた。膨らんだ亀頭から根本までを使って、ディオローナの壁を擦る。

「あ、あ……っ!」

 先端で最奥を叩くと、嬌声が一段高くなる。ディオローナの弱点に気づいたメグは、自身を深く埋めて、小刻みに彼女の奥を突いた。

「あっ、いやっ、いや……!」

 全身から汗が吹き出す。またなにかが、迫ってきている――。
 捕まりたくないのに、逃げる間もなく、ディオローナは再び達してしまった。

「あっ、あああああっ!」

 膣内が痙攣し、メグのペニスを締め上げる。

「僕のチンポでイッちゃったんだ……。ふふ、可愛くていやらしくて、やっぱり最高ですね……。――俺の、俺だけのディオローナ……」

 夢見るような目つきでつぶやきながら、メグは腰の動きを緩め、思いの丈をたっぷり吐き出した。








 ディオローナとの交わりを一旦解いてから、メグはにこやかに尋ねた。

「精液、足りました? なんならちょっと休憩して、もう一回か二回……」

 脳天気な笑顔を浮かべたメグは、ディオローナを覗き込んだ。二人の目が合うと、ぼんやりしていたディオローナの瞳が焦点を結ぶ。
 ディオローナはボロボロと大粒の涙をこぼした。

「えっ!?」

 メグは慌て、彼女にすり寄ろうとした。するとディオローナは飛び起き、近くにあった枕で、メグを殴った。

「お前なんか嫌いだ! バカ! バカ!」
「えっ、そんな!? 一生懸命、ご奉仕したのに!」

 枕でメグの顔を連打しながら、ディオローナは泣き叫んだ。

「私がどんな気持ちでいたのか――苦しいのか、知らないくせに! ずっとずっと、百年も……! それを簡単に、楽になっちゃえばいいとか……!」
「いいじゃないですか!? どこが悪いんですか!?」
「どうせお前には、永遠に縛られ続ける気持ちなんて、分からないだろ!? なのに、バカだとか、愚かだとか……!」

 ディオローナのそれは、完全なる八つ当たりである。だが、止まらない。
 ずっと抑え込んでいた感情が吹き出して、自分を嘲笑したメグにぶつけずにはいられなかった。

「ついこの間会ったばかりのお前に、なにが分かるっていうんだ!」

 ディオローナがそう怒鳴りつけると、メグはふと真顔になり、彼女が振り回す枕を掴んだ。

「いや、会ったばかりじゃないです。もうずーっと前に会ってますよ、僕ら」
「え?」

 いきなりの告白に、ディオローナはきょとんと目を丸くした。

「十五年前の晴れの日、あなたの側には一匹のフクロウが――『グラウクス』がいた……」
「なぜ、その名を……!?」

 グラウクス。
 それはディオローナが飼っていたフクロウの名だ。
 メグは恨みがましい口調で言った。

「やっぱり、すーっかり忘れちゃってるんだ。思い出してくれるかな~って思ってたけどぉ、駄目っぽいですね。まったく、ひどいのはどっちなんですかねえ?」

 ディオローナは正体を見極めるようにメグの顔を見詰めるが、やはりピンとこない。過去、彼となにがしかの関係を持った記憶はないのだが。――多分。

「そんな、まるっと忘れちゃうかなあ? たった十五年くらい前のことですよ?」
「十五年前……?」
「僕だって、あなたに運命を捻じ曲げられた一人なんですから!」

 形勢逆転。
 責められるほうが責める方に転じ、メグはディオローナに詰め寄るのだった。














 長い間、眠っていたような気もするし、ほんの束の間、まどろんだだけのような気もする。
 もしかしたら、今も夢の中にいるのだろうか。
 そろそろ起きなければ。――起きなければ?
 瞼を開けたつもりだったが、なにも見えないのは、なぜか。
 ただ、眩い。そして、なにもない。なにも。
 手も、足も――そう、自分には体がない。
 しかし唯一、怒りだけは残っている。
 ――あの女。
 黒く長い髪の、紫の瞳の、鬼神の如き力を持つ、女戦士の。

 ディオローナ。
 ディオローナ。

 ――ディオローナ!

 そうだ、俺はあいつに殺されたのだ。
 絶対に許さない。許すものか。
 必ず、引き裂いてやる……!

「そんなに恨んでいるのか。――貴様の仇の名は、ディオローナといったか」

 俺はあの女の名をつぶやいていただろうか。口もないのに?
 ――それは、突然、としか言いようがなかった。

 目の前に、女が立っている。

 誰だ? どこから来た。
 比較対象にするべき自分自身の体がないので、正確には分からないが、随分と背の高い女のような気がする。
 均整の取れたプロポーションをして、仏頂面なのが気に入らないが、ともかく美しい女だ。

「お前は、誰だ?」

 声に出せない問いをぶつけるが、女には伝わったようだ。

「我は、ニャーギ」

女はそう答えた。





~ 終 ~

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