潔癖淫魔と煩悩僧侶

犬噛 クロ

文字の大きさ
上 下
12 / 21
第二話 ハッピー性奴隷ライフ

6

しおりを挟む

 食材を集会所で分けてもらい、メグは夕食を自炊することにした。

「フハハハハ! お前も女神様のとりこにしてやろうかあ! ら~~ら、らららら~、ら~~ら、らららら~~」

 鼻歌混じりにメグが作ったのは、当たり前のように二人分。
 なかなか美味しくできたハンバーグとスープをテーブルに並べて、待つ。
 待つ……。
 ――待つが。
 とっぷり夜が更けても、来客はなかった。

「なぜだ……!」

 尻が痛くなるほど座り続けたダイニングチェアの上で、メグは悔しさに涙を滲ませながら、ギリギリと爪を噛んだ。








「ふあ……」

 欠伸をしながらナイトウェアに着替えたディオローナは、自室のベッドに体を横たえた。
 いつもに比べてあまりにすいすいと仕事が進むので、つい夜中まで働いてしまった。

 ――圧倒的だ……。

 男との交わりを断って、一年以上。いや、もっとだろうか。
 体力は日々衰えていき、歩くことすら億劫だった。それが昨日、新入りの贄と事を済ませた途端、肌や髪、爪は潤いを取り戻し、視界は鮮明に戻った。考えもすっきりまとまるようになり、体は羽が生えているかのように軽い。
 ――やはり自分は、男なしでは生きていけないのだ。

「なんて浅ましいのだろう……」

 何十回、何百回目か繰り返した自嘲ののち、ディオローナは瞼を閉じた。――はずだったが。

「!?」

 異様な気配を感じて、ディオローナは飛び起きた。ベッドの片隅に、黒い影が見える。
 急いで近くにあったランプを灯し、影に突きつけると、そこには――。

「こんばんは」

 照れ笑いを浮かべている、メグラーダ・フィランスがいた。

「お、お前……! どうして……!? いや、どうやって!? 外から鍵がかかっていただろう!?」

 男性が居住しているロッジは、夜八時に在宅を確認したあと、施錠される決まりになっている。夜間、男は外に出ることを禁じられているのだ。

「窓からボンボアを出して、扉を開けてもらいました。だって扉に付いてたの、打掛式の簡単な鍵でしたから」

 男性の小屋の窓は小さいが、確かに鳥を放つくらいはできるだろう。そして彼らの玄関扉に設置されているのは、メグが言ったとおり、打掛錠である。横に倒したバーが留め具に固定され、かんぬきになるタイプの錠だ。原始的な仕組みの鍵だが、フクロウまでもが使いこなせるとは。――いや、ボンボアが特別なのだろう。

「な、なんでここに……?」

 ベッドの上で距離を取り、ディオローナはこわごわ尋ねる。すると、笑っていたはずのメグは表情を一変させ、泣きそうな顔で叫んだ。

「僕は逆に、あなたに問いたい! なんで、来てくれないんですか!? なんで!?」
「――は?」

 意味が分からず、呆然とするディオローナの前で、メグは切々と訴えた。

「あんなことを、僕にしておいて! 用が済んだら、ほったらかしですか!? ひどい! むごい! ディオローナさんはそんな人じゃないって――チンポだけが目当てのクソビッチだなんて、思いたくなかった! きっと今夜、来てくれるって。そして初体験のやり直しをしてくれるって……! 僕、僕……、信じて……! 晩ごはん作って、待ってたのにーーーー!」

 最後にはメグは、ベッドの上で四つん這いになり、わーっと泣き出してしまった。

 ――なんだこれは。

 うざい。いや、面倒くさいことになったと思いつつも、放置するわけにもいかず、ディオローナはメグの肩に手を置いた。

「いや、えーと、うーん……。お前は自分の立場を、正しく理解しているか? お前は私たちのエサなんだぞ? 用済みといえば確かにそうで、出すもん出してもらったらそれでいいというか……。それ以上のつき合いは、必要ないというか」

 男たちを囲い暮らしてもう百年近く経つが、こんなことで責められたことは一度もなく、ディオローナは戸惑った。

「やっぱひどい! やっぱむごい! やり逃げ、やり捨て! 人でなし!」

 しかしメグはブレない、怯まない。滑舌良く、そして熱っぽく、ディオローナを責め立てた。

「あ、うん。私らは人じゃないな、ズメウだな」
「言い訳です、それは! 逃げちゃダメだ!」

 メグは四つん這いの姿勢のまま、カッと目を見開き、ディオローナを見上げた。

「いいですか、僕は……! 僕はもう、あなたを愛するしか、道がないんです!」
「は?」
「我らジグ・ニャギ僧侶は、一穴主義!」
「……は?」

 メグの熱量に圧倒されたディオローナは、ただひたすら彼の話を聞くことしかできない。

「ジグ・ニャギ教の僧侶は、女神ニャーギ様に『生涯ただ一人の女性を愛し、守る』ことを誓っています! つまり、セックスの相手は一人だけ! それをあなたは……! あっさり簡単に、しかも無残に、僕の童貞を奪った!」
「あー……。それは申し訳ないことをした……」

 ようやく事情を理解したディオローナは、気まずそうにメグから目を逸した。
 それにしても、パートナーは一生に一人とは。
 ジグ・ニャギ教とやらの教義は、随分と潔癖である。ディオローナはかの教団に、少し興味を持った。

「でも今回は事故というか、私が一方的にお前を食べたわけだから……。あ、そうだ! その旨、一筆書いてやろうか? 教団の偉い人にそれを見せれば、許してもらえるんじゃないか?」

 ディオローナが提案するも、メグは首をぶんぶん横に振り、激しくそれを拒絶した。

「そういう問題じゃないです! ていうか、童貞かどうかなんて、そもそも他人が判断できるもんじゃない! あくまで自己申告なんだから! でも僧侶は偽ったりしません! 聖職者だから! そう、自分を偽ったりは――!」

 急に声のトーンを落とし、メグはちらっと上目遣いにディオローナを見詰めた。大きな青い瞳に、妖しい光が灯る。

「だって僕、感じちゃったんです! 体は正直だったんです! 口では嫌と言いつつ、チンポはこんなに……ていう、エロ創作にありがちな状態だったんです!」

 息を荒げながら、四ツ足で、メグはディオローナに迫った。その様はまるっきり、餓えた獣のようだ。

「下品に僕を貪りながら、だけど女王様のように気高く美しく、嗤うディオローナさん……! ああ……! 思い出しただけで、僕……僕……っ!」
「えっ、ちょ……!」

 ディオローナはずりずりと尻で後ずさるが、すぐに背中に壁が当たる。
 形勢逆転。これでは昨日の出来事を、立場を変えて再現したようなものだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【R-15】私だけの秘密のノート

黒子猫
恋愛
〈こちらの作品は、シチュエーションCDシナリオの形式で書いています。 佐藤くんのセリフがメインとなっていますので、自分に話しかけているように想像すると、ドキドキが増しそうです……💕〉 [あらすじ] 私の前に突然現れた、女性を癒す謎の生物〈佐藤くん〉。 最初は驚いたけれど、徐々に奇妙な共同生活を楽しむようになっていた。 ある日、家に帰宅すると、〈佐藤くん〉が秘密のノートを読んでいたようで……。 [キャラ紹介] 〈佐藤くん〉突如主人公の前に現れた女性を癒す謎の生物。主人公に合わせ、人間の姿形になっている。彼の名前「佐藤くん」は、人間(日本)の中ではメジャーな名前なので、そう名乗っている。 〈貴女〉 OL。突如現れた佐藤くんに最初は困惑していたが、徐々に受け入れ、今では風変わりな同居生活を楽しみつつある。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...