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第二話 ハッピー性奴隷ライフ
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しおりを挟む食材を集会所で分けてもらい、メグは夕食を自炊することにした。
「フハハハハ! お前も女神様のとりこにしてやろうかあ! ら~~ら、らららら~、ら~~ら、らららら~~」
鼻歌混じりにメグが作ったのは、当たり前のように二人分。
なかなか美味しくできたハンバーグとスープをテーブルに並べて、待つ。
待つ……。
――待つが。
とっぷり夜が更けても、来客はなかった。
「なぜだ……!」
尻が痛くなるほど座り続けたダイニングチェアの上で、メグは悔しさに涙を滲ませながら、ギリギリと爪を噛んだ。
「ふあ……」
欠伸をしながらナイトウェアに着替えたディオローナは、自室のベッドに体を横たえた。
いつもに比べてあまりにすいすいと仕事が進むので、つい夜中まで働いてしまった。
――圧倒的だ……。
男との交わりを断って、一年以上。いや、もっとだろうか。
体力は日々衰えていき、歩くことすら億劫だった。それが昨日、新入りの贄と事を済ませた途端、肌や髪、爪は潤いを取り戻し、視界は鮮明に戻った。考えもすっきりまとまるようになり、体は羽が生えているかのように軽い。
――やはり自分は、男なしでは生きていけないのだ。
「なんて浅ましいのだろう……」
何十回、何百回目か繰り返した自嘲ののち、ディオローナは瞼を閉じた。――はずだったが。
「!?」
異様な気配を感じて、ディオローナは飛び起きた。ベッドの片隅に、黒い影が見える。
急いで近くにあったランプを灯し、影に突きつけると、そこには――。
「こんばんは」
照れ笑いを浮かべている、メグラーダ・フィランスがいた。
「お、お前……! どうして……!? いや、どうやって!? 外から鍵がかかっていただろう!?」
男性が居住しているロッジは、夜八時に在宅を確認したあと、施錠される決まりになっている。夜間、男は外に出ることを禁じられているのだ。
「窓からボンボアを出して、扉を開けてもらいました。だって扉に付いてたの、打掛式の簡単な鍵でしたから」
男性の小屋の窓は小さいが、確かに鳥を放つくらいはできるだろう。そして彼らの玄関扉に設置されているのは、メグが言ったとおり、打掛錠である。横に倒したバーが留め具に固定され、かんぬきになるタイプの錠だ。原始的な仕組みの鍵だが、フクロウまでもが使いこなせるとは。――いや、ボンボアが特別なのだろう。
「な、なんでここに……?」
ベッドの上で距離を取り、ディオローナはこわごわ尋ねる。すると、笑っていたはずのメグは表情を一変させ、泣きそうな顔で叫んだ。
「僕は逆に、あなたに問いたい! なんで、来てくれないんですか!? なんで!?」
「――は?」
意味が分からず、呆然とするディオローナの前で、メグは切々と訴えた。
「あんなことを、僕にしておいて! 用が済んだら、ほったらかしですか!? ひどい! むごい! ディオローナさんはそんな人じゃないって――チンポだけが目当てのクソビッチだなんて、思いたくなかった! きっと今夜、来てくれるって。そして初体験のやり直しをしてくれるって……! 僕、僕……、信じて……! 晩ごはん作って、待ってたのにーーーー!」
最後にはメグは、ベッドの上で四つん這いになり、わーっと泣き出してしまった。
――なんだこれは。
うざい。いや、面倒くさいことになったと思いつつも、放置するわけにもいかず、ディオローナはメグの肩に手を置いた。
「いや、えーと、うーん……。お前は自分の立場を、正しく理解しているか? お前は私たちのエサなんだぞ? 用済みといえば確かにそうで、出すもん出してもらったらそれでいいというか……。それ以上のつき合いは、必要ないというか」
男たちを囲い暮らしてもう百年近く経つが、こんなことで責められたことは一度もなく、ディオローナは戸惑った。
「やっぱひどい! やっぱむごい! やり逃げ、やり捨て! 人でなし!」
しかしメグはブレない、怯まない。滑舌良く、そして熱っぽく、ディオローナを責め立てた。
「あ、うん。私らは人じゃないな、ズメウだな」
「言い訳です、それは! 逃げちゃダメだ!」
メグは四つん這いの姿勢のまま、カッと目を見開き、ディオローナを見上げた。
「いいですか、僕は……! 僕はもう、あなたを愛するしか、道がないんです!」
「は?」
「我らジグ・ニャギ僧侶は、一穴主義!」
「……は?」
メグの熱量に圧倒されたディオローナは、ただひたすら彼の話を聞くことしかできない。
「ジグ・ニャギ教の僧侶は、女神ニャーギ様に『生涯ただ一人の女性を愛し、守る』ことを誓っています! つまり、セックスの相手は一人だけ! それをあなたは……! あっさり簡単に、しかも無残に、僕の童貞を奪った!」
「あー……。それは申し訳ないことをした……」
ようやく事情を理解したディオローナは、気まずそうにメグから目を逸した。
それにしても、パートナーは一生に一人とは。
ジグ・ニャギ教とやらの教義は、随分と潔癖である。ディオローナはかの教団に、少し興味を持った。
「でも今回は事故というか、私が一方的にお前を食べたわけだから……。あ、そうだ! その旨、一筆書いてやろうか? 教団の偉い人にそれを見せれば、許してもらえるんじゃないか?」
ディオローナが提案するも、メグは首をぶんぶん横に振り、激しくそれを拒絶した。
「そういう問題じゃないです! ていうか、童貞かどうかなんて、そもそも他人が判断できるもんじゃない! あくまで自己申告なんだから! でも僧侶は偽ったりしません! 聖職者だから! そう、自分を偽ったりは――!」
急に声のトーンを落とし、メグはちらっと上目遣いにディオローナを見詰めた。大きな青い瞳に、妖しい光が灯る。
「だって僕、感じちゃったんです! 体は正直だったんです! 口では嫌と言いつつ、チンポはこんなに……ていう、エロ創作にありがちな状態だったんです!」
息を荒げながら、四ツ足で、メグはディオローナに迫った。その様はまるっきり、餓えた獣のようだ。
「下品に僕を貪りながら、だけど女王様のように気高く美しく、嗤うディオローナさん……! ああ……! 思い出しただけで、僕……僕……っ!」
「えっ、ちょ……!」
ディオローナはずりずりと尻で後ずさるが、すぐに背中に壁が当たる。
形勢逆転。これでは昨日の出来事を、立場を変えて再現したようなものだ。
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