潔癖淫魔と煩悩僧侶

犬噛 クロ

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第一話 始点にして終点

6(完)

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 メグとディオローナ。
 二人きりになっても、ディオローナは未練たらしく扉を見詰めている。

「……………………」
「あの~……。ほっとかれるの、つらいんですけど」

 フルチンだし。メグが間の抜けた声で助けを呼ぶと、ディオローナはようやく振り向いた。
 ――一瞬、別人かと思った。
 メグは驚いた。まるで恐ろしいものに出くわしたかのように、ディオローナの顔色は真っ青だったのだ。よく見れば、小さく震えてもいる。先ほどまでの、凛とした立ち居振る舞いが嘘のようだ。

「ディオローナさん……?」
「……っ!」

 弾かれたように身じろぎすると、ディオローナはキリキリ眉を吊り上げた。

「ふ、ふん……! 我慢のできない男だな!」

 虚勢であることが丸わかりのぎこちない笑みを浮かべながら、ディオローナは腰を屈めた。なにをやっているのかと思えば、彼女は長いスカートの裾から下着を抜き取り、捨て去ったのだった。

「え? え?」

 ――つまりあの長いドレスの下は、ノーパンということで……。
 想像しただけで、若いメグの肉棒は一息に硬くなってしまう。

「横になりなさい……!」

 ディオローナは床に座るメグを跨ぐように立つと、彼の肩を押した。女性の力だから抗うのは容易だが、メグはディオローナの勢いに押されるように、あっさり後ろに倒れた。

「な、なにをする気ですか……?」
「分かっているくせに」

 ディオローナは床に膝をつき、メグの下半身の上で中腰になった。そしてメグのペニスを掴み、自分のそれに宛てがう。
 一部始終は、ワンピースの長いスカートに隠されてしまい、メグにはなにが起こっているのか分からない。が、敏感な先端に当たる、濡れた柔らかい感触は、もしや――?

「あっ、でもあの、女の人はちゃんと準備しないと、痛いんじゃないでしょうか!? 縄をほどいてくれたら、僕、頑張ってご奉仕しますけども!」
「問題ない。男を悦ばせるためだけの……。私たちの体は、そのように作り変えられてしまった」

 メグが見上げれば、ディオローナは微笑んでいた。
 悲しそうに、悔しそうに。
 そして彼女は確かに、怯えていた。

「どうして……。そんな顔をするくらいなら、こんなことしなければいいのに……」

 襲われているのは自分なのに、酷い目に遭っているのは、彼女のほう。
 メグにはそうとしか思えなかった。

「……黙っていろ」

 ディオローナの脳裏に、過去が蘇る。
 男たちの――。
 汗と唾液と精液の匂い。
 咆哮。
 嘲笑。
 怖くて、気持ちが悪くて。

 ――だが、我慢しなければならないのだ。自分たちは、汚く濁った命の残りカスを恵んでもらって、生きる、惨めな存在なのだから。

『受け入れてしまえば、楽になる』
『とっても気持ちがいいことですよ』

 友人たちはそう言うが、嘘だ。
 嘘だ。

 ――こんなこと、何度やったって、慣れるわけがない……!

 叫びたくなる衝動をなんとか抑えて、ディオローナは首を振った。

 ――今は自分の中のなにもかもを消して、生贄を飲み込むことだけを考える……。

「う……」

 雄と繋がり始めたディオローナは、眉根を寄せ、苦しそうだ。しかしもはやメグに、彼女を気遣う余裕はない。

「あっ、ああっ……!」

 己を包み込むしっとりと濡れた柔肉には、ひとつひとつ粒がついているかのようだった。しかもそれはディオローナが体を動かすたび、絶妙な力加減でメグの陰茎を擦り上げる。

「だめ、です……! それ以上、動いたら……! あっ、出る、出ちゃいますッ……!」
「いい……。我慢しないで、イッてしまえ」

 メグが切羽詰まった声を上げるたび、ディオローナは容赦なく腰を上下させた。
 二人が交ってからおそらく一分も足たず、メグは達してしまった。

「あっ、はあっ……! はあっ……!」

 あまりに早い。男として恥ずべきなのだろうが、それにしても気持ちが良すぎた。

 ――遂に、童貞を捨ててしまった……!

 感慨深いような。――いやしかし、睦言を交わし合うこともなく、愛撫するもされるもなく、ただ性器同士をぶつけ合っただけ。
 これを、セックスといっていいのか。
 メグは息を整えながら、自分の上に君臨したままの、ディオローナの様子を伺った。

「ああ……」

 ディオローナは、恍惚の笑みを浮かべている。だが、性の快感に酔っているわけではなさそうだ。例えるなら空腹が満たされたかのような、そんな充足感を得たかのようだ。
 そしてディオローナは、メグが見ている前で、更なる光を纏っていく。
 髪や肌、爪。そして唇に、瞳。ディオローナを形作る様々な部位は潤いを増し、輝き出した。
 圧倒されるほどの美貌。
 女神か。それとも、悪魔か。

「ディオローナ、さん……」

 魂を奪われたように、メグはディオローナに見惚れた。
 ディオローナはメグの目を見据えて、微笑んだ。

「もっと……」

 小鳥の囀りのような愛らしい声でねだりながら、ディオローナは繋がったままの腰をぐりぐりと、円を描くように動かした。稚拙な動きが、だがメグの性感を煽る。

「あっ、あ……!」

 メグは再び射精してしまった。
 大量の迸りを肉の器で受け取っても、しかしディオローナは満足しない。自らを揺らし、メグも揺らす。

「まだ……。もっとよ……。もっと、たくさん、ちょうだい……」
「あっ、また……っ! 出る、出る……っ!」

 ――おかしい。
 いつもなら一度、二度精を放てば満足するはずなのに、今日はもう五度、六度と達している。
 命の危険を感じ、恐怖がメグを支配する。が、それに反して、陰茎はディオローナに操られたままだ。彼女が望むように、子種を差し出す。

「待っ、ちょ……! 死ぬ……っ!」

 睾丸から無理やり押し出した精液を、際限なく、噴水のように吐き出す。
 まさに、「搾り取られている」。
 メグの目は眩み、頭痛がひどくなってきた。心臓は割れんばかりに鼓動している。息も苦しい。
 このままでは――。

「う、う……」

 もう言葉を発することすらできない。手足を封じられ、転がされて、メグは精液だけを搾り取られている。
 まるで芋虫のようだ。しかしどこか慊焉とせぬ心持ちなのは、なぜなのか。
 メグの異状に、ディオローナはようやく気づいた。

「あ、これはいかん……」

 ディオローナはメグの瞼に手を乗せ、そこを閉じた。

「エウフロシュネに言っておきながら、私が壊してしまうところだったな……」

 ――真っ暗だ。

 体の感覚を失い、強烈な眠気に襲われる。
 こうしてメグラーダ・フィランスは、本日二回目となる意識消失を経験したのだった。




~ 終 ~


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