【完結済】犬とロボットと彼氏

犬噛 クロ

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 成績も運動神経も抜きん出ているわけではない。真ん中あたりのポジションで、特別目立つわけでもなかった。
 容姿はまあまあ整っているほうかもしれないが、よく言えば柔和、悪く言えばいつもヘラヘラと締まりのない顔つきをしている。
「男らしい」とか「頼り甲斐がありそう」とか、そういった力強い形容詞とは縁遠い少年。
 今や死語となりつつある、草食系男子。
 それが、梅田 凛太郎だった。
 ――だが。
 貝塚 瑠璃にとって彼は、かけがえのない人物だったのだ。

 日本に帰ってきてからしばらく、瑠璃は新しい環境に馴染むことができなかった。特につらかったのは、転入した中学校での生活だ。瑠璃はクラスメイトたちの、格好のからかいの的にされてしまったのだ。
 皆、外国帰りの瑠璃の、一挙手一投足を挙げ連ねて笑う。異文化の影響を受けたイントネーションやジェスチャーが、日本から出たことのない子供たちに違和感を覚えさせたのだろう。悪気はなかったのかもしれないが、あまりに幼稚な振る舞いである。
 本人の意図せぬところで妙な注目を浴びて、こき下ろされる毎日に、瑠璃は大いに傷ついてしまった。やめて欲しかったが、そう訴えれば訴えるほど同級生たちは面白がってヒートアップするし、教師たちすらこれらが良いコミュニケーションだと勘違いしている始末だった。
 帰国したばかりで忙しそうな両親の手をわずらわせるのも憚られて、誰にも相談できず、瑠璃はノイローゼ一歩手前まで追い詰められていた。
 ――そんなある日、いつものようにクラスの男子が、瑠璃にちょっかいを出したときのことだ。

「別におかしくないじゃん」

 凛太郎の一声は、クラスのざわめきを一瞬で静かにさせた。
 凍りついた空気を再び溶かしたのは、しかしほかでもない凛太郎自身である。彼はいつものようにへらっと笑い、続けて言った。

「瑠璃ちゃんより、俺のほうが面白いって! 見て見て!」

 そう叫んでから凛太郎は、当時売れっ子だった芸人のものまねを始めた。すると唖然とする瑠璃を取り残して、周囲は爆笑に包まれたのだ。凛太郎の芸の巧みさにではなく、下手くそさに、である。

「バーカ、全然似てねえよ!」
「つまんねー!」

 各々が凛太郎にツッコミを入れ、彼らの関心は瑠璃から外れた。
 そんなことが何度かあって、いつの間にか瑠璃を必要以上に構う生徒はいなくなった。
 嘲笑の標的から外されれば、近づいてくる人々もいる。こうして瑠璃にも友達ができた。
 その後も凛太郎は瑠璃を気遣い、あれこれ話しかけてくれた。

「今度『すべらない話』のDVD貸してあげるからさ、外国のマンガ貸してくれない?」

 そんな風に凛太郎が薦めてくれたお笑いやドラマ、漫画などは、なるほど流行るのが納得できるほど面白かったし、瑠璃も夢中になったものだ。おかげで友達との話題も増えて、その後は学校に通うことも楽しくなった。

 カッコいいわけじゃないし、どっちかというと三枚目。
 けれど、大好きで、大切な人。
 憧れの存在。救世主。
 だけど私にとって凛くんは、それだけではなくて――。


 自分こそがロボットのようだ。
 好きな人に命令されれば、何でもしてしまう。――どんなに恥ずかしいことだって。

「瑠璃ちゃんを見てたら、前がきつくなっちゃってさあ。なんとかしてくれない? 痛いんだ」
「え……?」

 なんのことだろう。だが呼ばれているからと、瑠璃は自慰を中断し、ふらふらと彼の元へ寄った。
 手を動かせない凛太郎は、「ここ、ここ」と、目線で自らの股間を指している。彼のジーンズの前はパンパンに膨らんでいて、確かに窮屈そうだった。

「脱がしてくれる?」
「ん……」

 瑠璃は跪くと、凛太郎のベルトを外し、ジーンズのファスナーを下ろした。

「下着ごと取っちゃって。精液を提供するって約束しちゃったし、どうせ君にはまるっと見られることになるんだろうから」
「え」

 瑠璃は戸惑ったものの好奇心には勝てず、地味な柄のトランクスごと、凛太郎のジーンズを引きずり下ろした。途端、ボロンと育ちきった陰茎がこぼれ出て、目を丸くする。
 太くて、硬くて、ピンと直立していて……。叩かれたらケガしそう。見るからに危険なこんなものを、男は隠し持っているのか。

「瑠璃ちゃんのオナニーをじっくり鑑賞してたら、こんなになっちゃってさー。あ、恥ずかしいから、あんまり見ないでね」

 見るなと言う割に、凛太郎に恥じ入る様子はなく、彼は自分の性器を堂々と晒している。

「……………」
「メアリーさんが新しいホースを持ってきたら、すぐに射精できるように、準備しておこうか」

 瑠璃はまるで視線を固定されたかのように、男根から微塵も目を離さず、観察している。凛太郎はそんな彼女を新しい遊びに誘った。

「瑠璃ちゃん、上に乗ってよ。んで、あそこをくっつけ合おう」
「えっ、やだ!」

 瑠璃の拒否にもめげず、凛太郎は更にけしかける。

「気持ちいいよ、きっと。俺のって、瑠璃ちゃんの指よりは大きくて太いでしょ? ――それに、想像したら興奮しない? ちんちんとおまんこで、ゴシゴシし合うって」
「な、そういう下品な単語、出さないで……!」
「はは。恥ずかしがってる瑠璃ちゃん、可愛い」
「……………」

 凛太郎は余裕綽々だ。両手を肘置きに縛られて、だが玉座に就いているかの如く尊大である。そして動けないくせに、瑠璃が自分に従うことを疑っていないのだ。
 ――そしてそのとおり、瑠璃はこの王様の言うがままになるのだろう。
 どうしても逆らえない。思い返せば、昔からそうだった。
 粗暴なヤンキーも、学年で一番の秀才も、知らず凛太郎の顔色を伺っている。彼はそんな、不思議な存在だった。

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