勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
上 下
495 / 517

【237.5話】 緊急招集の午後 ※年明け後の話し(前編)※

しおりを挟む
リリア達はウルエ村に到着、もう夜中。
「ネーコ、ラビは馬車で寝る支度と、お湯を沸かしておいてください、挨拶だけしてすぐに戻ります。リリアは私と一緒に来てください」コトロが馬車を下りると指示をだした。
各ギルドに緊急招集がかかって、至急この村に集まれる冒険者が集まってきている。冒険者ギルド・ルーダの風、フルメンバーも大急ぎでやってきた。


この日の午後
リリアが、ミランダ達とお茶をしてバー・ルーダの風に戻って来ると、コトロが慌ただしく迎えた。
「あ、リリア、よかった、今探しを出そうかと思っていたところです。すぐに出発の準備を、ギルド・ゴーントレットがルーダ・コートの街のギルドに緊急招集を出しています。すぐに出発です」コトロが言う。
「緊急招集?それって、集まれるギルメンは全員集合なやつだよね、何があったの?今からどこに行くの?」リリアが目を丸くする。
ルーダの風に立ち寄ったミランダ達も驚いている。
「ゴーントレットのメンバーを乗せた馬車が数台、消息不明になったそうです。とにかくウルエの村目指して出ます」コトロが準備をしながら言う。
「マジ?私達もギルドに戻るから」
ミランダ達も慌ててバーを出ていく。

「今夜から私が戻るまでバーはネーコとラビの二人で… いや、今日から数日バーは休みにします。ラビ、こんな時に出す看板が納屋にあったはずです、“緊急のためギルドバーは休み”と書かれた看板。それを出せばお客さんも事情を察してくれます。皆、外泊、野外活動の準備です。リリアはお使いお願いします。アーマー&ローブに伝言、ルーダの風は便乗させてもらう予定を変更。こちらで馬車を用意するので、出発の時刻にメインゲートに集合しますって伝えて、リリアは急いでレンタワゴンしてきてください。二人分のベッド機能付きの馬車を借りてください」コトロが言う。
「わ、分かった、とにかく、借りてきてバーの前に戻るよ」リリアが答える。
「ごめんなさい!後で払い戻すから領収書を全部とっておいて!」
コトロが付け加える声を背にリリアも大急ぎでバーから出て行った。


出発準備を整え、ゲートに集合した他のギルドの馬車と共に連なって街を出る。
もうおやつ時を過ぎる時間、現地到着は夜中になる。
夜中は魔物の活動も増え、賊の出現も頻発するようになる。こちらも団体を組むのがベスト。

郊外に出ると、別の馬車数台と合流した。城壁内を大きな集団で待機していると不法集会罪等で怒られるそうだ。ある程度集まったら、外に出て他の者達を待つらしい。
馬車が七台程列になり山野に出る。
検問所で止められたが、先頭の馬車が説明し、全車通行。
監視タワーの兵士の目が厳しく光っている。
「街から出る方向なので簡単ですが、戻りは厳しいですよ。もっとも、バラバラになって戻りますけど」コトロが手綱を手に呟く。

ルーダの風の馬車はレンタワゴン。これにギルド紋章を取ってつけた様にかけてある。
コトロが手綱を握り、リリアが護衛席、ネーコとラビは馬車で待機。
「何がどうしんだよ」ダカットが不安がる。
リリアは連なる馬車を眺める。
各ギルドのサイズが馬車を見れば一目瞭然だ。
大きなギルドの馬車は多目的軍用車両の様な立派な馬車に、誇らしげにギルドのバナーが靡いている。
色々な馬車が連なり、もちろん小さな馬車もあるが、レンタワゴンしているのはリリアの所属するギルド・ルーダの風だけ。
リリアには少し不満。
「馬車も馬も維持が大変なのですよ。見栄を張る必要はないです。前のギルマスはそれで失敗しているのです。ウチはその分借金返済と給料に反映させます」コトロが事あるごとに言っている。


日が山に入り、各車、ランタンを煌々と点けて先を急ぐ。
「ニャン、ピョン、お疲れ様、操車と護衛、あたし達が変わるわよ」
日暮れまでリリアとコトロはネーコとラビに馬車を任せて車内で休んでいたが、いよいよとなって交代。
「二人ともお疲れ様でした。車内で寝ていてください」コトロも交代。
暗くなるここからが正念場だ。危険が多くなる。
「リリたん達、大丈夫ピョン?魔物が出てあまり休めてなかったピョン」
「休んだと思ったら退治に起こされたニャン、きつかったら変わるニャン」
魔物も多く、あまり休めなかったが仕方がない。
「大丈夫だよ、ゆっくりお茶して寝てなよ」リリアが声をかける。


「ねぇ、状況は悪いの?」
リリアは濃紺になり、月がはっきりしだした空を眺めながらコトロに聞く。
「貴族の娘さんがルーダリア城下の学校に入学とかで、引っ越しと移動をゴーントレットが引き受けたそうです。娘と引っ越しの道具等を馬車に積んで護衛を伴って出発して… 昨日からウルエの先で消息不明だそうです」
「…… 全ギルドに招集って聞いたことあったけど、始めてだよ」リリア。
「馬車で2台か3台かで移動なら、ゴーントレットは半分以上のメンバーを失っています。賊に襲われたという話もありますし… ギルマスのルフトハンスは貴族にパイプを持っていて仕事もらっていますから… プライドがかかっていますよ。それに我々としても盗賊に壊滅させられたとあっては仲間に申し訳がありません。妥当な選択と言って良いでしょう」コトロ。

先ほどからたまに通信のイヤリングから各車の雑談が入ってくる。
「アイク、ペルーシア、バーディックもいたんだろ?大丈夫だぜ」
「あぁ、イヤリングのレンジ外で野宿してました!っとか言いながら悪びれもせず出てくるぜ」
「俺、アイクがまだ駆け出しのガキだった時に…」
男冒険者の冗談が続いている。

「全員招集だとギルマスも全員出るの?お店を閉めるのは意外だったけど…」リリアはしばらく聞こえてくる雑談を黙って聞いていたがコトロに質問した。
「私は普段バーにいますが、緊急時にまでリュートを引いて酔っぱらいの相手をしている程、のん気でもありませんよ。最初はネーコとラビにお店を任せてどこかの馬車に便乗しようかと思っていましたが… 恐らく、村の宿はいっぱいでしょうし、そうなると寝る場所は確保しないといけません。他ギルドに気を使って縮こまっているより、自分達の馬車を用意したほうが良いと思いました。どうせ馬車を用立てるならネーコとラビも来て活動した方がメンツが立ちます」コトロ。
「ふーん… どこのギルドもこんな場合は全員集合?」リリアが聞く。
「他のギルドは他のギルドの事なので何とも言えませんが、大きなギルドなら雑務やバックアップを街に残していると思いますよ。このような場合はお互い様ですから、集められる主力は集めていると思います」
コトロの説明が終わるとしばらくリリアは黙って通信を聞いていた。


日が暮れ、リリア達は魔物を退けながら村まで道を急いだ。


夜中、ようやく村に到着して、各車馬車を止める。
ゴーントレットの新人が皆を迎える。
「皆さん、お疲れ様でした。宿の食堂が開放されています。先に来たメンバーはもう休んでおりますが、案内役がいます。明日の朝からブリーフィングを行うので今日は、食堂に用意した食事を食べ、休んでください。宿はもう満室です、寝床が入用の人は食堂にいるメンバーに相談してください。是非食事してお休みください」


コトロはネーコ達に短く指示を出すとリリアを伴い宿屋に向かった。
「皆さん、お疲れ様です、どうぞ、お使いください」
食堂に入るとゴーントレットのスタッフ働いていて、新人がタオル類を差し出してくれた。
小さな食堂にビュッフェスタイルの食事が用意してあり、壁には書き込みされたマップが張られてある

リリアが見ると、見知ったメンバーが食堂の隅に寝具を引いて寝ている。
部屋も溢れる様に雑魚寝状況なのだろう。

今、到着したメンバーが入ってくると食堂は少し騒がしくなった。
「コトロ、リリア、大変だったでしょう、お疲れ様」
カレーラがリリア達を見つけて挨拶に来た。
青白い顔に微笑みを浮かべている。
「状況は?… そうなの… 明日の朝からですね…」コトロがカレーラと言葉を交わす。
周囲もマップの前に集まったり、他のスタッフから状況を聞いている。
リリアが見るにカレーラにもやつれが見える。
「ハンスは娘さんのご両親を迎えに街に戻ったわ。朝までにはここに戻るって。とにかく今日はもう休んで、お風呂も沸いている、スープも温めなおすから。寝る場所あるの?コトロ達」カレーラ。
「私達は馬車で寝るから、食べ物なんて冷えていたって大丈夫ですよ、我々も食事を貰って馬車で休みますから、カレーラ達も… 休んだらいいですよ。 リリア、食事四人分を持って馬車に戻りましょう」コトロが声をかける。

リリアはコトロの言葉に頷くとカレーラにハグをした。
「カレーラ、大丈夫だよ、皆明日には戻るよ、必ず戻るよ、あなたに、皆様に神のご加護を」
カレーラはリリアの肩に頬を寄せると小さく頷いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。  しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...