勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
上 下
469 / 514

【226話】 リリアと事務所の中の人達

しおりを挟む
リリア達はルーダ港の街に戻ってきている。
バーンズ団を壊滅し、お頭のバーンズ以下、お尋ね者を捕まえ、あるいはお持ち帰りしてきた。
山中では別の班が作戦中であり、街中にも賊の手下がいると考えられる、派手には出来ないので馬車を事務所に着けるとビケットの知り合いの保安部と保険ギルド等に連絡された。
ビケット、ブリザは賞金首、行方不明者届の照会や書類関係で忙しくなる。
「皆、集まって。まずはお疲れ様。良くやってくれたわ。まだ確認できていないけど約束の報酬とボーナスも出せそうね。これ以降は報酬に上乗せになっていくから引き続きがんばってね。私とビケットは確認と書類で今日は忙しいわ。ミスニス達はバーンズの引き渡しまでこのまま周囲の警戒をして、その後休憩したら午後にはジャックに戻ってバンディ達と合流、リリア達は今日一日この街で休息して良いそうよ。明日の朝この事務所に集合。宿泊先はちゃんと報告してよ。それから今回は首尾よくいったけどまだ作戦中よ。皆街中の行動は気を付けて、特にリリア達は派手に騒がないでゆっくり休んでよ。では解散」ブリザがブリーフィングを行った。

「ねぇ、ブリザ、ちょっと相談があるんだよね」リリアはブリザを呼び止めた。
ブリザがリリアを振り返る。
「ダカットの事なんだけど… 今回ダカットはメッチャ頑張ったし、夜中も良く見張りをして情報収集してくれたんだよね…」リリアが言う。
「… 忙しいのよ、要点だけ伝えてちょうだい」ブリザは淡々としている。
「ダカットもボーナスとか出るかな?」リリアは少し言いにくそう。
その場の皆がリリアの方を見た。
「ダカットは住民登録しているの?税金は納めてる?… じゃ、出ないわよ、以上」ブリザは即答すると保安部関係者がうろつく輪に入っていった。
「無理に決まってるさ、それが許されたら何でも支払いに入ってしまう。ちゃんと税金を納めている認められた国民じゃないと無理だぜ」マルカスに笑われた。
「自分の取り分から労ってやる事だな。ダカットに刷毛でも新調してやったらいい」デューイも笑う。
「しかたないな… 何か軽んじられている感があるけどな…」ダカットが呟く。
「サラ達も貰ってないみたいだし諦めだね」リリアが言う。

「ブリザ、書類か何か手伝おうか?」
解散はしてもらったがリリアはブリザに声をかけた。
疲れてクタクタ、早くお風呂にでも入ってベッドに飛び込みたいが、まだ気が張っていて眠い感じでもない、書類でも手伝って覚えておけば何かの時にはまた呼ばれるかも知れない。リリアが身に着けた勇者の街中サバイバル術。
「リリア、まだいたの?休んだらいいわよ… 書類は複雑だから… まだ休まないなら事務所の裏で賞金首と囚われていた女性の引き渡しをしているわ。まだ書類に少しかかると思うけど、引き渡しの書類にサインがされる瞬間まではこちらの責任。今奪還されたらこちらの損失になる。可能性は低いけど暇なら引き渡しまでその辺ウロウロして… 囚われていた女性達に何か買ってきてお世話してあげて」ブリザにお金を渡されて頼まれた。


リリアはダーゴを連れてコーンスープ、ドーナツ、ティーを沢山買って戻ってきた。
事務所の裏手に回ると衛兵達とビケット達がいた。
保険ギルドの人等も荷物の確認をしている。
建物の裏手だが、明らかに物々しい、仕方がない事だが目立つと言えば目立つ。
ミスニス達が事務所周囲で囚人を奪還にこないか警戒している。

解放された五人の女性たちは事務所内にいた。
ブランケットに包まって椅子等に座って呆然としている。
ネネが世話をしてあげていたようだ。
「ネネ、ブリザに頼まれて、食べ物買って来たよ」リリアが告げるとネネはリリアを見て何といえない微笑みを口元に見せた。
「皆さん、お腹空いたでしょ?…… えっと… もう大丈夫だよ… あの… 突然いっぱい食べるとお腹壊すかなと思って、スープとドーナツ、ティーを買って来たけど…」
リリアは明るく挨拶をしたがそんな雰囲気でもないようだ。何とも言い難い。
それなりに食事はしていたようだが、皆やつれ、疲労困憊している。
表情が無いというか呆然としているというか、あまり思考が働いていないようだ。
「リリア、助かって安心感等でショック状態だから… そこに食事は置いておいて、様子を見るしかないわよ」ネネが小声で言う。
「… わかったよ。ちょっと綺麗にして洋服を着替えさせてあげようよ、準備のローブがあったはずだよ」リリアは言う。
「ローブならそこに準備してあるわ、リリア勝手に着替えさせちゃだめよ。トラウマになっていて体にかってに触れられたらパニックになる人も多いよ、様子見ましょう」ネネ。
「そういうものなの…」リリアは頷くしかない。

リリアは女性をそれとなく眺める。
全員やつれてはいるが健康状態は悪くないようだ。
皆体に痣などがあり、何かしら暴力を振るわれたような形跡があった。
皆オモチャにされて遊ばれていたのだ。リリアは観測場所から何度も確認した。
リリアの確認に関わらず、周りにはオモチャにされていた女性達と認識されるであろう。
例えそうでなくても、周囲からはそう決めつけられた扱いになるだろう。
この先この人達はどうなるのだろうか?
身元が確認され次第家族に連絡が取られて引き取られるのだが…
引き取り人がいない場合は教会等で預かりの身となるようだ。
そう考えると教会とは体の良い社会の器のようになっていると言わざるを得ない。
“これからが地獄なのかも”リリアはふと思った。
「………」一人の少女が視線を上げてリリアと目があった。
色を失った虚ろな視線。
「… あ、あの… あたしリリアっていうの。勇者よ、もう安心…」
リリアの心の声を聞かれてしまったようで取り繕うように何か声にした。
「………」
少女がじっとリリアと見る。
何か自分が言わんとしていることが絵空事なのだと言われているような気がしてリリアは何を言った物かわからなくなり黙ってしまった。


事務所の外では賞金首の引き渡しが完了したようだ。
「ネネ、解放された女性五人の内、三人は捜索願が出ていたよね。他の二人も捜索願が出ている人か調べ中でしょ?」
リリアは荷物の整理をするネネに声をかけた。
「そうだっかな?… そうだね、調べてみて捜索願が出ている人なら連絡されるよ」ネネは手を止めず応対する。
「…そうなんだ… とりあえず捜索願の出ている三人だけでも早く家族に会えたらいいよね」リリアが言う。
「… あなたそれを彼女達の前で口にしたの?」ネネが振り返った。
「いや、それは言ってないけど…」リリアは言う。
「絶対余計な事を言わない方がいいよ。捜索願が出ているからって引き取りに来てくれるとは限らないからね」
ネネが衝撃的な事を言う。
「えぇ?… だって家族でしょ、来るでしょ」リリア。
ネネは怖い顔してリリアに顔を寄せて小声で言う。
「あのね… 確か良家の出かなにかでしょ?内容が内容だと捜索願が取り下げられ引き取られない事だっていっぱいあるのよ… 家族でしょって?そうよ家族よ、でも来ない場合もあるの… 理由までは言わせないでよ、体裁のある高家程引き取り来ない事多いわよ。来ても何だか渋々だったりよくある事よ、だから余計な事言わないの。休憩しないならブリザに聞いて補充品の買い物でも行ってきなよ」
ネネは凄い怖い顔をしていた。

「… 助かった意味ないじゃない…」
リリアがポツリと呟くとネネに「つまんねぇこと言ってねぇで仕事しろってんだよ!ヘボ勇者ぁ!」
メッチャ怒鳴られた。
しおりを挟む

処理中です...