勇者の血を継ぐ者

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【224.5話】 リリアとニイ ※作戦開始前の話し※

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「おはようございます。今日もあなたに神のご加護がありますように」
リリアが装備を整え宿のカウンターに出るとニイがすでに出発の準備を整えて待っていた。
ここはルーダ港のリリアがちょこちょこ宿泊する宿屋である。
リリアは仕事のためビケットに呼ばれているが観光と下見を兼ねて数日早めにやってきている。
「アンナおばさん、リリアがニイさんを馬車停まで連れていくから安心して、いってきます」リリアが宿主に声をかける。
「悪いわねぇ、ちょっとよろしくね、リリアちゃん」アンナが笑顔で答える。
「国民のため、勇者の務めよ。さ、ニイさん、行きましょう」
リリアとニイは連れ立って宿を出て行った。


昨晩外食を済ませて宿に戻ってきたリリアはカウンターでアンナに呼び止められた。
「リリアちゃん、もう部屋に戻って休むのかい?それならマッサージでもどうだい?必要ない?… 実は、ここに泊まる旅のお客さんなんだけどね、バイトしながらの旅のお客さんがいて、仕事を紹介してあげたくてねぇ… リリアちゃんちょっとマッサージしてもらっておくれよ。そんないかがわしい仕事じゃないんだ、雇ってやってくれよ」アンナがリリアに声をかける。
「なんだか怪しくないか?」ダカットが呟く。
「アンナさんの知り合いなら信用はするけど… マッサージなんて別に…」
リリアが答えを渋っているとアンナがカウンターから出てきてリリアに耳打ちをする。
「実はね全盲のお客さんなんだよ。けっこうなお年で悪い人ではないみたいだよ。事情があって旅をしているんだよ、マッサージ頼んでおくれよ」
「全盲?あぁ、目が全然見えないのね。それでマッサージ… わかった、ちょっとしたら部屋に呼んでくれたらいいよ」リリアは承諾した。
事情を聞いたら承諾せざるを得ないといったところか…


リリアが部屋でゴロゴロしながら本を読んでいるとドアにノックがあり、ニイがやってきた。
「あっしはニイと申します。どうも失礼仕ります」ボソボソと挨拶しながら部屋に入ってきた。
“ニイ?変わった名前ね。外見からしても異国文化の人かな?“リリアの初見感想。

ニイは初老の人間男性、白髪頭、はやり目が見えていないのであろう、ぎこちなく瞬きをしては時折白目を見せている。
最近では貿易が盛んになり色んな文化の人をみるが、東の方の人だろうか?
この大陸の文化とは違った軽装備、杖で足元を探りながら部屋に入ってきた。

「………」
「…… えっと… じゃ、じゃあ、とりあえず寝っころがって… ってか、もう寝っ転がっているからマッサージお願いね」リリア。
寡黙な男性のようだ。リリアの方からお願いする。

ニイのマッサージは上手な方なのだろう、リリアも心地よくなる。
「冒険者?旅行者?珍しいお話聞かせてよ」リリアが土産話をせがむ。
ニイはボソボソと喋る男だが、リップサービスは悪くなかった。旅行等当たり障りのない話題はリリアに色々聞かせてくれた。なかなか面白い話を聞かせてくれた。
「お客さんはまだ若い、あっし見たてじゃ年は18,19,二十歳にはいってませんな。それに… この体つき、弓… お客さん弓を使いだ」ニイが言う。
「へぇ、わかるんだね、やっぱり目が見えない分手先が鋭いのかな?」リリアが答える。
熟練マッサージャーと言ったところだろうか。ニイは時々リリアが「目が見えているのかな?」と思わせるほど鋭い感をしているようだった。
まぁ、色んな能力の人がいるものだ、リリアもあまり気にもしない。

ニイは特に目的のある旅のようではなさそうだ。
はっきりとは答えないが、かいつまんで言うと一ヶ所に長くいる性分では無く、一ヶ所に長くいれる性分でもなく、足の向くままに旅をして回っていて、この港にたどり着いた、こんなところらしい。
「面白いねぇ。ニイさん、マッサージはもういいからちょっと外でお酒でも飲んで旅の話しをいっぱい聞かせてよ」
リリアが声をかけて二人は飲みに出かけた。
「このジィさん胡散臭いよ、目が見えるんじゃないか?」ダカットは不満そう。

おしゃべりリリアとボソボソニイは結構気が合うようだった。
ボソボソ話が逆に効果を高めるのかニイの旅行話は面白いものだった。

「もうそろそろこの港街を離れる?そっかぁ、まぁここは景気が良いけど治安が良くないものね、ニイさんならもっと落ち着いた街が良いかもね。ルーダリアの城下街とか周辺の村とかがいいのかな?えぇ!城下街まで歩く?いや、やめた方がいいよ、盗賊や人さらいが多いよ。大丈夫?…いやいや、ルーダリアの賊をなめちゃいけない!魔物も強いよ。リリアはこの国の勇者だからなんとかなるけど、目の見えないヨボヨボ老人なんて十歩くらい歩いたらスライムに消化されて食べられちゃうよ。こう見えてもリリアは凄腕だよ!… あ、そっか見えないのか… えっと…こう聞こえても弓は凄いのよ。だから今日まで生きてこれたけど、きっとニイさんはあっという間にトードに飲まれてる。あっという間劇場だよ。リリアが付き添えればいいけど、あたしも仕事できていて付き添えないよ。十日、いや二週間待てれば付き添うけど… そんなにここに居る気はない?うーん…じゃ、リリアが馬車賃だすからせめて城下までは馬車でいきなよ」
盲目のニイに歩かせるわけにはいかない、リリアは馬車停まで送る約束をした。


そして今朝、リリアとニイは落ち合って馬車停にむかった。
「良いわよね、気ままな一人旅も憧れるわね。城下街を目指すのね?あたしはルーダ・コートの街に住んでるの。ルーダの風ってバーが…酒場があるからいつでも寄ってね。仲間がいるよ、リリアは勇者だし冒険者としてウチのギルメン3人分の働きを…」リリアはニコニコとおしゃべりしながらニイと並んで歩いていく。

「あれぇ?ルーダリア城下街行き、ルーダ・コート、パウロ・コート、どこの駅馬車も満席だって。前はこの城門が始発だったけど、客が増えて港の方から始発が出るから確実に乗りたいならそっちがおすすめだって… 大した距離でもないし、そっち行こうか」
リリアが駅馬車のチケットを買おうとしたら既に満席のようだ。列が出来ている。
午前中に確実に席を確保するには船着き場付近の始発から乗るのが良いと言う、仕方が無いのでリリアはニイと移動。

「ニイさん、ちょっと坂道と階段が多いけど、船着き場の馬車停まで連れて行くよ」
リリアはニイの手を引くと活気に賑わう街中に戻り始めた。

ルーダ港の街の午前中は活気に満ち溢れている。
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