勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【225.5話】 ※224.5話の続き※

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リリアはニイと馬車駅に向かってルーダ港の街中を移動中。

「人混みは避けてこっちを通った方が早いし歩き易いと思うよ」
リリアはニイを連れて大通りから小道を通る。

ルーダ港は発展中で何やら混沌としている。もともと大して海に目を向けていなかったルーダリア王国は海辺の監視に小さな砦しか築いていなかった。
そこに兵士達の家族、その家族達を相手にする商売人が住んで町ができたのをきっかけに石造りの城郭ができた。
ルーダリア城下やルーダ・コート、パウロ・コートの壁とは比べ物にならない程小さな規模だが必要にして十分な壁。
その城壁の外には漁師町があり漁港があった。
今では海路からの流通が増え、町が凄い勢いで成長している。
昔築いた城壁内は旧市街となり、今では一部の貴族と政府関係者が住んでいる。
港町は勝手に人が住み着き、城壁外に勝手に街並みが広がっている状況。
いつの頃からか砦と港町の境が無くなり、全部をルーダ港の街と呼ぶようになった。
旧市街から港方面に街中を歩くと、区画整備もされていないようなごちゃごちゃとした混沌とした雰囲気になっている。

「何だか変な街並みに入り込んだね。人混みの中より歩き易いと思ったけど、道がごちゃついていて感じも良くないね」リリアは振りかえって話しかける。
「……」ニイは黙ってリリアについて来るのみ。
リリアは馬車や人足を避けて小さい道を行く予定だったが、思ったより道が入り組み足場も良くなく、治安もあまり良くなさそうに感じ始めた。
ガラの良くない連中が路上に屯している。繁栄の反動の裏町並みと言ったところか…

「… ニイさん、やっぱり大通りに戻ろうか」リリアが言った時だった。
「おい、待ちなよ!この道を通るなら通行料を出しなよ」男に声を掛けられた。
振り向くと三人のゴロツキが立っている。いかにもな風体。
「おぉ!可愛いお姉ちゃんじゃねえか、こりゃ通行料だけじゃないなぁ、皆で遊んでいこうよ」
リリアが再び振り向くといつの間にか前方にも三名男が立っていてニヤニヤしている。
「あなた達若いのに… まぁ、あたしはもっと若いけど… とにかく、女からお金を巻き上げようなんて男として最低よ。恥を知りなさい。あたしはこう見え…」
リリアが言いかけたが「うるせぇ、このアマ!」と叫んで一人が殴りかかってきた。
リリアは咄嗟に避けてダガーを取り出す。
「何よ、せめてセリフを最後まで聞きなさいよ。それからダカットは黙って。あたしこの王国の公認勇者だよ、勇者が助けを呼んでどうするの?一般人なんかリリアのローキックでくの字足にしてやるわ!ニイさん、早くリリアの後ろへ」
リリアモデルを抜いている暇は無さそうだ。肝心な時にあまり役に立たない剣。
リリアは壁を背にダガーを注意深く構える。
ニイは杖をつきながらリリアの後ろへと下がった。
「この女、冒険者か?」「関係あるかよ、こっちは六人いる、お金も体もいただいてジジイはあの世行きだ」「気を付けろ、動きはいいぞ」
男たちはリリア達を取り囲む。
「さぁ、輩共、道を開けなさい!こうみえてもあたしは本当の… ぅわ!この!」
リリアがセリフを言うとすると男達は攻撃してくる。リリアが応戦する。
「こいつ動けるぞ」「一斉に飛び掛かるか」「ジジイからやるか」
「こっちが誰かくらい名乗らせなさいよね!物語ならちゃんと最後までセリフを聞くでしょ?マナー… というか、仕来りというか… とにかく流れを無視しないでよ、空気読みなさいよ!」
エア勇者リリアが空気を読めよと輩に呼ばわっている。
「あたし」「やっちまえ」「ルーダリアの」「クソアマ!」「本物の」「この阿婆擦れ!」
リリアは変な掛け合いに巻き込まれながらトラブルに巻き込まれている。

「あなた達、女と老人を襲って、恥を知りなさい。しかも阿婆擦れって何よ!あんた達にリリアの何が… うが!」
何人かに刃物を振られリリアは左腕をざっくりと切られ反射的に振るったダガーが一人の肩に刺さった。
「ぅぅ…」リリアも相手もうめき声を出す。
ボタボタと血が滴る。激痛。
「やりやがったな!」「ジジィも死ぬんだ女もやれ」「海に捨てちまえ」「女は売り飛ばせ」
男達が口々に言う。
“ちょっとした金目的かと思ったらこいつら… 重罪人、常習犯か…”
リリアは自分の甘さを理解した。相手は本気だ。
「お嬢さん、あっしでよろしければ変わりましょうかい?」ニイが言う。
「大丈夫よ!あたしこう見えても本当の本物の勇者。盲目のお年よりを助ける立場なの。こんな連中リリアの竜巻旋風ビンタでいちころよ。後ろでのん気にお茶でもして… 環境音でも楽しんでいて」
リリアはダガーを構えなおす。
“リリアモデルの大剣を抜ければ相手は怯むかも…”
リリアは考えるがあの長いセリフを吐いて、キラーンとしている暇はなさそうだ。なんて役に立たないエンチャントアイテムだ!
“だけど相手は六人、こちらは盲目のマッサージャーとホウキのみ… まともにやりあったら敵わない… 一か八か”
「勇者リリア参上!商人ギル…」リリアが素早く剣を手にした時だった…
「ぐぅ!!」
リリアは一斉に襲われた。物語のようにセリフを待ってはくれない。
肩、腕、腹部に刃物が刺さる。
「リリア!だから助けを呼べって!」ダカットが叫ぶのが聞こえた。

リリアは体に痛みを感じながら相手を振り払うとヨロヨロと壁際に倒れ込んだ。
男達がリリアを見下ろしている。
リリアは自分の体を手で撫でてみた。ヌルっとした感覚、見ると手に血が大量についている。
“父さん、母さん、ごめんなさい… あたし勇者になったけど、街中で王国民に殺されるとは夢にも… 人間が魔物よりも恐ろしい… ゼフがよく教えてくれたのに…“
「ニイさん、逃げて、あたしはここまで…」リリアは呟きながらニイに視線を…

ニイはリリアの目の前に立っていた。
「あっしが何とかいたしやしょう」
ニイは言うと杖を両手に持ち替えた。
「杖から刃物… か、刀?」リリアは呆然と眺める。
「なんだ、目くらのジジィが!」「こいつ通せんぼしてるぜ」「こいつから先だ」輩が口々に言う。
“ニイさん、ダメだよ!逃げてよ“リリアはニイの後ろ姿に手を伸ばした時だった…

ニイの刀が夜空の流星のごとく空中に何度も閃光を放った。


「ニイさん、お元気で!ルーダ・コートの街に寄ることがあったらバー・ルーダの風を探してね!あなたの旅先に神のご加護がありますように!ありがとう!」
リリアはニイの乗った馬車に手を振る。
ニイもちょっと手を上げて挨拶をしてくれた。

「あの爺さん何者だよ。見えてないのにあっという間に六人を叩き斬ったぞ」ダカットが驚いている。
「リリアもびっくりしたよ。今度ばかりは覚悟したけど、あれは何のスキルかな?ビジョンのスキル?雰囲気的にはセンス・オーラ?… 一瞬で倒しちゃったね。杖から武器が出てくるなんて想像してなかったよ」リリアもまだ信じられない気分。
リリアは男たちの前に完全に行動不能に陥ってしまったが、ニイがあっという間に六人まとめて斬り捨ててしまった。
盲目のマッサージ士とばかり思っていた老人が剣の達人だったとは…
ってか気配だけであれだけ読めるのか?
目の前の出来事に唖然としているリリアはダカットに促されて慌てて回復のポーションをがぶ飲みした。何とか体力を回復。

その後リリアは回復しながら衛兵に通報。
事情聴取されたが近所の人がリリア達の正当防衛を証言してくれた。
「あっしが人を切った?ご冗談を、あっしは見ての通り目くらなもんで…」
全部リリアの手柄となった。まぁ、あまり喜べる気分でもないが…
聴取が終わってリリアはニイをようやく馬車に乗せ見送ったところだった。


「凄かったね、夢見てるのかと思ったよ。あの人の剣技、ローズより上かも」リリア。
「確実にローズより上だと思うぜ…」ダカット。
「あたしあの人ことをただの旅をしているマッサージのお爺さんかと思ってたからお土産はコッペパン一つ持たせておけばいいかなと思ってたけど、凄すぎて“髭オヤジ”のクリームパフを箱で持たせてあげたよ」リリア。
「…ちょっと基準がわからないけど… とにかく世の中凄い奴がいるな…」ダカット。
「あたし、お腹いっぱいお昼を食べたら宿で寝るよ」
リリアは馬車停を離れて中心街に向かって歩き始めた。
「おぅ、そうしろよ、まだ顔が真っ青だぞ、今日はゆっくりやすめよ」ダカットがアドバイスする。
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