勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【220話】 リリアは接敵

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リリアは弓を手に、ホウキを背中にそれとなくスタンバイ。
「リリア、始まるのか?き、気をつけろよ」耳元でダカットが囁く。
リリアは小さく頷いた。
ここでは前方のビケット達にはイヤリングで伝達が出来る距離ではない。
ブリザの魔力を使って通信の強度を上げなければいけない距離だろう。

そのまま馬車を進ませると小さな道が出て来た。よく見ないと気がつかない程の小道。
“!”
木々の間から小さな馬車が出て来た。馬車は車手が一人乗っていて荷台に幌が被せてある。
右手から街道に向かって進んでくる。
リリアが報告するまでもない、ブリザはもちろん後ろに乗っているメンバーも全員気がついた。
馬車はスピードを少し上げたようだ。
ブリザもそれを見て馬車の速度をあげると、相手も速度を上げ始めた。明らかにリリア達の馬車の進路を塞ごうとしている。
「ブリザ、あれ」リリアが確認する。
「恐らく間違いない、賊よ」ブリザが答えた。
ブリザはさらにスピードを上げる。もうあまり距離はないが、やはり相手も速度を上げてどうしてもリリア達の馬車の前に出るようだ。
「馬車を止めたら車手から」ブリザが言う。
「あたしから射るの?もし一般人だったら?基本的に対人戦苦手」リリア。
「私が責任持つ。間違いない、私利私欲のために人の命を奪ってきた連中」

リリア達が賞金稼ぎと知ってか知らずかさだかではないが、恐らくビケット達の馬車を孤立させるために道を塞いで分断するつもりだろう。
「ピーピ、ピーピ…」
ブリザが短く口笛を通信のイヤリングで送信した。
知らない者が聞いたらただの雑音か送信間違いとしか思わないが、後続のリリア達の馬車が接敵した合図。
相手の馬車がグングン近くなる。
「馬車を停止させたらやるのよリリア」ブリザが言う。
“ドックン!”
リリアの鼓動が激しくなる、戦いの前の緊張感、対人戦を始める緊張感。リリアは少しだけ後悔の念が頭をよぎる。
「3… 2… 1… それ!」
速度を上げてやり過ごすと見せかけてブリザは勢いよく馬車を停車させた。
相手の馬車はそのまま街道に飛び出してきた。

馬車が停止すると同時にリリアは護衛席に立ちあがった。
素早く矢筒から矢を抜いて弓につがえて引き絞る。
距離は10も無いだろう。馬車を足止めするには馬か馬車手を射らなければならない。
馬車手はリリア達の馬車の前で道を塞ぐように街道に出てくると手綱を絞って停車しようとしているのが見える。
“馬より… 人ね…”リリアが思う。
人を傷つけるのは抵抗があるが、罪のない馬を射るのはもっと心もとない。
リリアの矢先が車手を捉えると男の顔がはっきりと見えた。
クイックエイム、クイックショット
“……”
リリアは男の顔をはっきりと見て…
「ぐぅ!」
リリアの放った矢が男の左肩に刺さり男が声を上げたのが見えた。
リリアは一瞬ためらってしまった。もし一般人だったら…
「やぁ!」「よっ!」
デューイ達が武器を手に荷台から飛び出していく。
「このぉ!」「冒険者か!」「やっちまぇ!」
同時に相手の荷台の幌が跳ね上がり武器を手にした男たちが次々飛び出してくる。
“!…”
リリアは素早く次の矢を取り出すと弓につがえた…
「ふぐぅ…」
今度の矢は馬車手の男の左目を射抜いていた。
リリアは馬車を飛び降りつと十分手加減をしながら素早く馬の脚に矢を撃ちこみ、素早く森の中に身を隠した。

リリアは木陰に身を隠しながら馬車の戦況を見守る。どうやら乱戦になってリリアの行方には誰も気がついていないようだ。
「せい!」
リリアがダーゴを追いかける賊を一人射抜いた。
ダーゴがリリアの元へ走り込んできた。
相手の馬車から六名程度賊が出て来ただろうか、デューイ達の力で十分勝てそうだ。
ブリザも予定通り馬車を回して街に戻り始めた。
「よし、皆さすがね。リリア達も急ぐわよ」
リリアとダーゴは人目を避けながらビケット達の馬車を追う。結構距離があるので早く追いつかなければ。

“さすがゴブリンね”リリアは感心。
リリアは背が高いので足は速いが、斜面を走ったり、倒木を超えたりする身軽さがダーゴにはある。良い駆けっこ勝負になっている。

「…!」
鳥の鳴き声の様な雑音がリリアの耳に入ってきた。
「ダーゴ、聞こえた?急ぐわよ!」リリアが言う。
ビケットの馬車も接敵した合図だ。リリア達は木々を縫うように走る。
“いた!既に戦闘になっている”
曲道に沿って進むと視界が開けビケット達の馬車が現れた。意外に近くまで来ていた。
木陰で息を整えながら様子を見る。
賊は十名以上だろうか?ビケット達と馬車を巡り乱戦になっている。
前方二車両に配乗されたメンバーは戦闘のプロが雇われている。撃退するのが仕事ではなく、可能な限り時間を稼いで戦力を削り荷物を置き去りにして撤退をする仕事、練習を重ねてきている、まず問題はなさそうだが…
道の反対側に気配がするので見ると、デューイ、バンディ、それに続きミスニスが追いついてきて身をひそめるのが見えた。
さすがウルフマン、俊足。それにエルフのミスニスも動きが早い。

「ダーゴ、周囲に敵はいないよね?」リリアが確認する。
「あぁ、今のところ」ダーゴが答える。
「はっ!やっ!」
リリアは素早く矢を放った。賊が倒れる。
それを見てミスニスも矢を射かける。
最終的に荷物を奪わせるにしても賊の戦力を削れるだけ削らなければいけない。
余裕でアジトに返すより、追い詰められれば追い詰められるほど必死になり周りが見えなくなる。それだけ追跡もバレにくい。
プレッシャーをかけられるだけかけなければ失敗する。

リリア達も身を隠しながら距離を詰め、矢で援護する。
何人か倒したが新たに何人か賊が森から出てくるのが見えた。
敗戦濃厚となり、見張り役たちが加勢に来たのかもしれない。
リリアはそこから数本矢を射る。
乱戦中の味方に当てるわけにはいかない。気をつけながら射るのでリリアでも全部命中とはいかない。

“ギュ”
リリアが次の弓を絞った時だった…
「リリア!後ろ」ダーゴが小さく鋭く言った。

“!…”
リリアは慌てて森の中を振り返る…
確かに何か気配がした…

リリアは弓を構えながら気配を伺う。
ふぅっと肺に貯めていた息を吐くと喉を震わしながら口から洩れて行った。緊張で震える。
ダーゴはナイフを構えている。

“茂みの中?”
何かが複数茂みにいるようだ…
リリアは弓からダガーに持ち替えなかったことを少し後悔した
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