勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【218話】 決行の前夜

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狂騎士の斧作戦十日目
いよいよ明日実行となった。

昨日までリリア達は街道と周辺地理の把握、アジトの逆探知を行っていた。
賊の見張り場所を突き止めたリリアはその周囲に連絡係とアジトがあると睨んだ。
危険で深入りは出来なかったが五名以下のグループが窃盗をしているようだ、アジトの場所もだいたい把握できた。しかし、賞金首はいないようだ。
ダカットは夜通し山中に放置され監視係りをさせられた。
疲れ知らずのホウキの宿りさん、ダカットによる活躍は大きかった。
メンバーの人数、場所をほぼ特定できたのもダカットの報告を頼りにリリアがちゃんとホウキを放置できたお陰だ。
「ダカット凄いよね!天職だよ、メッチャ役にたったよ」リリアが褒めちぎる。
「俺は山中に放置されるのなんて嫌だよ…」ダカットは愚痴っていたがこれほど完璧な監視人はいない。
ダカットの報告とリリアの追跡で一味の実態は把握できた。
また、別のグループと思われる見張り員も確認できた。

報告をもとに作戦が見直される。
「今回の情報は大きい。この情報と地図や統計を見ると恐らく力関係があり、テリトリーの様な物が存在している可能性が高い。大きなグループで二十人前後の盗賊を抱えているようだ。賞金首は大きなグループを組織していると考えるのが妥当だろう。恐らくリリアが見つけた見張り員の場所と規模からするなら… 賞金首が組織するグループはこの辺で犯行に及んでいると推測される…」
ビケットが説明し、作戦が見直され決行予定が数日伸ばしにされた。
賞金首以外の賊を潰してもあまり儲けにはならない。
リリアは指示されて何日間か定点観測を続けていた。

「ねぇ、この前からドッグスを何回か見かけているよ。それに、ドイル達も見かけるよ。彼らも賞金を狙っているんじゃないかなぁ。昨日なんか酒場でレギオン達に話しかけられて、リリアはここで何してんだ?とか、盗賊退治だろ?とか、誰と組んでるんだ?とか、色々聞かれたよ。あれは絶対探りを入れてたと思うよ」リリアが報告する。
「それらについてもだいたい把握している。いいんだ。彼らは力押しをしようとしているようだ。そこで少し情報を漏らした。恐らく決行の日、彼らも我々の動きをマークするはずだ。それに他にも手を講じてある」ビケットが言う。
「そんな事したら大乱闘になったり横取りされるぜ」ウルフマンのデューイが言う。
「計算通りになれば上手くいくはずだ。戦闘の規模は問題ではない。むしろ大騒ぎになっていくつもの賊が総力戦になれば良い目くらましになる。その先はリリア達ステルス戦力の腕次第だ」ビケットは自信があるようだ。
「おう、おまえに自信があるなら… 山に入ってからは任せてくれ」デューイはいちよう納得したようだ。

作戦決行直前まで密に打ち合わせが行われた。
リリアとダカットの情報はなかなか有力な働きをしていたようだ。


大きな盗賊団は町人や労働者等に紛れさせ目ぼしい荷物を狙っている。情報戦の世の中。今回はそれを逆手にとるのだ。ビケットの流す情報にそれらしい連中が釣られて来ているらしい。
街を出た街道で馬車が襲われたら、時間稼ぎしながら戦力を削るだけ削って最終的には荷物を放置して撤退。馬車二台の中にそれぞれターゲットの魔法をつけた荷物を複数含ませておいてお持ち帰りした場所をサーチ&ファインドの魔法でアジトを突き止めるのだ。
リリアの仕事は混乱に乗じて賊の追跡準備すること。
ステルス仕事は今回リリアを含め、ウルフマンのデューイとバンディ、エルフのミスニス、それにダーゴが務める。
リリアとミスニスはスナイパー要員、デューイとバンディは追跡要員、ダーゴはアシスタントだ。
これに奪われた荷物のサーチは魔法使いのモニカとブランディが行う。
後は、商人や護衛に扮し餌となる馬車に搭乗する。


「いよいよ明日だ、もう仕事の無いメンバーはゆっくり休んでくれ。セットアップに関わったメンバーは他のギルド、賊の手先に動向を見張られていると思い言動には気を付けるように。また、今夜は飲み過ぎたりあまり夜更かしをしないように。明日は集合しなくてよい、それぞれ決められた場所に待機してくれ。それでは成功を祈って、解散!」ビケットは皆を解散せた。


解散後自分の宿に戻ったリリアは部屋でゆっくりと休んでから出てきた。
「ダーゴ、居る?夕食食べに行こうよ!さっと食べて帰ってこよう」
リリアはダーゴを誘って外食に出た。


「おい、リリア、酒飲もうぜ」
ダーゴと二人でスープパスタ料理を食べていたらオークのドミングとゴルロアがテーブルにやってきた。
二人ともリリアの嫌いなドッグスの連中。
「………」
リリアもダーゴも顔を見合わせる。
ゴブリンのダーゴもオークは好きではない。とにかくオークはゴブリンをバカにしている。
「ごめん、あたし達今日はぱっと食べてさっさと寝るつもりなの」リリアは澄まして答える。
「そんな事言うなよ、珍しいとこで会ったし付き合えよ」ドミングが酒を四杯注文しながらいう。
「結構です、もうこのスープパスタ食べて果物プレートとデザート食べたら帰るの」リリア。
「じゃぁ、まだ時間あるじゃねぇか。付き合えよ」ドミング。
「電光石火で食べるのよ、果物もデザートも飲み物。スープパスタはそれ以上に飲み物。は?お酒要らないし、自分達で飲めば?付き合え?… 勝手にテーブルに来て付き合えって意味わかんないよ… 何が?… じゃぁ、はっきり言うわよ、嫌いなの!リリアの事も勇者の血を引く父さんの事もバカにしたでしょ!忘れたとは言わさないわよ!嫌い!大っ嫌いなの!」リリアがはっきりとカミングアウトする。まぁ、カミングアウトも何も見てすぐわかる…
ダーゴはリリアが思った以上にひょうひょうと言ってのけるので驚いてオドオドしている。
「ダーゴ、ビビることないわよ、ドッグスは散々リリアをバカにしてきたの。何しに来たのか知らないけどリリアは一緒にお酒飲む気になんかならないの」リリアは絶対引かない。
「このアマとゴブリンが… 下手にしてやればいい気になりやがって」ゴルロアが腹を立て始めた。
「ほらほら、本性が出たよ、どうせリリアと飲む気なんかないんだから。リリアが今どんな仕事してるか探りに来たんでしょ。お生憎ね、絶対おしゃべりしないんだから」
まぁ… リリアも悪い… とっても口調が挑発的だ。
ダーゴはビビっている。
「てめぇ!人間の女がいい気になりやがってよぉ!」
「やろうっての!やってやるわよ!リリアの経絡秘孔で脳みそ吹っ飛ぶわよ!」
店中に怒鳴り声が響きリリア達が立ち上がった時だった。

“ドドッ!”
大きな音と大気が揺れ動きリリア達はテーブルごと吹っ飛んだ。
リリア達はが見るとブリザがマジックワンドを手に立っている。
「ここまでなら見逃してやるわ、二人ともさっさと出ていきな」ブリザが構える。
「ちっ、ブリザかよ、おまえリリアの彼氏かよ」
「けっ、勇者が乳離れもしてねぇなんざ笑えるぜ」
ブリザの剣幕にドミングもゴルロアも捨て台詞を吐いて退散していった。
実際あの二人とブリザが本気になったらどっちが勝つかはわからない。
ただわかっているのはこの三人が本気で喧嘩したら店は半壊するだろう。

「ブリザ… びっくりたぁ… リリアは心臓が床にこぼれたかと思ったよ…」
ご飯まみれになったリリアが目を丸くしている。ダーゴも結構すっ飛んでいる。ってか周りの物も結構な勢いで飛び散っている。
「リリアが一番狙われると思ってね… ビケットがそれとなく面倒見ろって… あなたも負けん気が強いのねぇ… 全く…」ブリザは怒っているようだ。
「私が全部払うからあなた達はお持ち帰りして部屋で食べて寝なさい」ブリザ。
「はい…」リリア。
「それからちゃんとお店と周囲の人に謝りなさい」ブリザ。
言うとブリザ自身は発泡酒を注文して傍の席に座って飲み始めた。
「…はい」リリア。


この後リリアとダーゴでお店とお客に謝り、掃除して、お持ち帰りを頼んでお店を出た。
リリアは弁償金まで払わされた。
ブリザはリリア達を部屋まで送ると
「あんまり人に迷惑かけないように」と結構強い口調で注意し帰っていった。
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