勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【192話】 行き倒れの女

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リリア、コムラ、ホックの三人は荷馬車でルーダ港を出発して周辺の村々の調査に出た。

コムラ達の積んできた商品は二日で完売。もっとも積んできた商品自体の店頭売り上げはあまり問題ではない。サンプルとして持って来て今後の通商の交渉材料の意味合いが大きい。
コムラとしてはフリートからの品々は他の大手商人ギルドが流通させていてルーダリア国内でも思ったより珍しい物ではなかったのが残念だが、港からフリートに輸入する物はそこそこ商売になるようだ。
「それでも大きい商人ギルドとの価格競争になったら厳しいですね」コムラが言う。
ホックが品定めする魔法グッズや工芸品の方が利幅は大きくなるが手間や経験が必要な上に量が少ない。コムラも悩むところ。
そんなわけでまだ未発掘の独自商品を探しに回る旅。
現在馬車は空っぽ。買い付けた商品は取り置きでフリートに帰る際に積み込む約束。


今朝から海辺地帯を移動しながら漁村を回っているリリア達。
希少で商売になりそうなものと言うのはなかなか見つからない。珍しくあっても商売になる量が無い。
「海藻類等でスパイスや薬になるような物が運びやすくて量が捌ける?だったらリリアちゃんが作る薬草どう?評判いいのよ。 …あぁ、回復2、3回分あっても商売ならないね…」
難しい物である。
馬車は海辺の松林を抜ける。潮風が肌に触る感じ。

「あれ?… 人だよね?… 行き倒れ… かな?」
リリアはコムラに馬車を止めさせた。道に人が倒れている…
「……… 女の人みたいね… ちょっとあたし見てくるよ… 馬車を後退させてさっきの分岐道で待ち合わせましょ」
リリアは周囲も見まわしながら指示を出した。
「ここで待っていますよ。何か問題でも?」コムラとホックが顔を見合わせて聞き返す。
「… うーん… 怪我している人、行き倒れ、色々出くわすけど… 長距離移動して来たって感じでもない女の人が一人で倒れるって… あんまり見たことないんだよね」
リリアは呟くように言うと装備を整えて馬車を下りる。
「リリアは感が働くからな… 気を付けようぜ」ホウキが注意する。
「わかりました。指示の通りにします。お気をつけて」
コムラが馬車を反す。
リリアは周囲を警戒しながら行き倒れている人物に近づいた。

「大丈夫ですか? どうかしました?」
倒れている人物に近づいて声をかけた。弓に矢をかけながら周囲にも気を配る。
倒れているのは人間の女性のようだ。短めの髪に衣服と革の装備、武器類を所持していないようだ。物理系女のようだが装備を見ると冒険者でも旅行者でもないようだ。地元民が山等に入る時のような格好だが…
「ねぇ、大丈夫?」
リリアは再び少し距離を取って声をかけてみた。
「………」返事がないただの屍の… いや、生きてはいるようだ。
「ダカット、どう?」リリアは背負ったダカットに聞く。
「… わからないな… 特に他に気配は感じないけど」ダカットが答える。
リリアは周囲を見回した。松林の中でさざ波の音が聞こえる。
「リリアからコムラ。そっちは異状ない?」
「こっちは何も無いですよ、指示の地点にむかってます」
通信のイヤリングから返事が返ってきた。
「大丈夫ですか?」
リリアは弓を手に女性を少し抱えた。
「… あぁ… た、旅の方ですか? すみません…」女は弱々しく答える。
「あたしリリア。ルーダリア王国の勇者なの。もう安心よ、状態を見るから動かないでね。お名前は?どこの人?」
リリアは女性の上半身を抱えて怪我の状態を見てみた。特に外傷はないようだ。
「傷は無いみたいですけど… 数日食べていない?… 貧血みたいなものかしら? ちょっとまってね、チーズと干し肉ならあるよ」リリアはポーチを探る。
「ゆ、勇者? 護衛じゃないの?」女性が聞き返す、辛そうだ。
「え?あぁ… 勇者って聞きなれないでしょ、えっへっへ。勇者を証明する物はないんだけどね、これがギルド証なの。ここ、リリア、ね?まぁ、冒険者、勇者」

言いかけた時だった。
「おい、リリア、何故護衛って…」
ダカットの声がリリアの耳に届くのと、リリアが女の言葉に気がつくのと同時だった。
“……しまった 何かいる?”
「…リリア、林の中!」ダカット
「こちらコムラだ!馬車が!賊!賊!」
全て同時だった。

「助けて!ごめんなさい!助けて!」
弓を手にしようとしたリリアに女が抱き着いてきた。腕ごと巻き付かれ半ば引き倒されるように抱き着いてくる。

リリアは女にすがり付かれて倒れながら人影が二つ林から走り出すのを認めた。
「ちょっと!放して!放して! 危ないよ!」リリアが叫ぶ。

「でかした!殺せ!」
「やっちまえ!」
しがみつかれ倒れ込むリリアには男が二人飛び出てくるのがゆっくり見えた。

短剣を手に襲い掛かる男達
何かを言いながらしがみつく女
リリアは不意を突かれて倒れ込みながらもなんとか女の腕を振り切った、冒険者としての反射神経と筋力
ダカットが何か叫んでいる

「わぎゅ!!」
倒れ込むリリアの背中に刃物が走った。
一つはダカットの柄で阻まれ軽傷だったが、一つは脇腹の裏に。大激痛。
リリアは地面で反転するとダガーに手を…
「ぐへ!!」
そのまま仰向けで右肩を短剣で貫かれてしまい、ダガーを手にしたが激痛で落としてしまった。
「… ぃっぶ… ぐっくふぅ… っい…」
失神するような激痛、脇腹にもまだ短剣が残っている。できれば失神してしまいたが、今は失神=死である。なんとか踏ん張る。

「メグ、良くやった、仕留めたぜ」
「おい、いい女だ。殺さずお持ち帰りだ」
「女より荷物でしょ。早く分け前を貰いにいきましょうよ」
男と女が会話をしている。
「俺は馬車の方を見てくるぜ、荷物の山分けだ。あいつら目を離すとくすねようとするからな」
「じゃぁ、俺はこの女に一番乗りだ!荷物は多少くれてやる。どうせ回されて1ヶ月もしたら擦り切れちまうんだからたっぷり楽しませてもらうぜ」
「まだ武器を持ってるよ。全部取り上げちゃいなよ。この女は勇者って名乗ってたよ」
「勇者?勇者だかなんだか知らないが、今は死にぞこないさ」
三人はリリアを見下ろして笑っている。


リリアは血だまりに倒れて痛みに震えながらこの会話を聞いていた
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