勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【189話】 謎の娘

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リリア、コムラ、ホックはルーダ・コートの街に向かっている。
立ち往生するような事が無ければ夕方には到着予定。

「この辺を抜けたら街の周辺は巡回兵もいるし邪魔者は出てこなくなるわよ」護衛席のリリアが言う。
この地方も夏を抜け秋に向かう季節か少し涼しくなり始めた。
コムラは途中の村に寄っては情報収集をしながら少しづつ積み荷を売りさばき、見本になりそうな品物を買い込んでいる。

商人ギルド・ウッドルーツのコムラとホック
話しを聞くところによるとウッドルーツはフリート帝都に二店舗、付近のサントレースの街に一店舗お店を構える商人ギルドのようだ。個人店なら立派なものだがチェーン展開の商売としては極小。
コムラの地元の特産品と帝都の店舗を繋ぐ意味でコムラを責任者としてサントレースに出店したが商売敵がひしめく帝都の二店舗よりサントレース店が業績をあげたので若いコムラだがギルド内では一目置かれる存在になったようだ。若い成功人は燃えている。
今回、内陸の商品と海の商品を売りさばく販路拡張を推進してフリート帝国からルーダリアの海の玄関、つまりルーダ港まで商談にいくそうだ。
「ウッドルーツを大陸一の商人ギルドにしてみせます!」
冷静なコムラだが、そのことを語る時は興奮気味になる。
ギルド内で資金を前借りし、前借りした資金で商品を都合し、販路拡張責任者として国境を渡って来た。
ドワーフのホックは品定めと技術アドバイザー担当のようだ。元々は銀と宝石を中心とした工芸職人。

「ふーん… コムラってあたしと年はあまり変わらないでしょ?よくお金貸してくれたね。きっと優秀なのね」リリアは感想を述べる。

「襲われて荷物を失ったら職を失います。先を急ぎましょう」とコムラは言いつつも村などではしっかりと情報収集をしている。


そのコムラとホックから見るリリア
最初は当然“どこの馬の骨だ?”的存在のちょっとした美人、スタイルの良い軽装備の娘。
弓と剣、それにホウキを所持して歩いている。
時々ホウキに話しかけ、剣を抜く時は何だかひとしきり叫び白刃を輝かせて魔物に立ち向かう。
「あの娘、剣を抜く時、魔物に何か叫んでるぞ?」コムラとホックは顔を見合わせる。

鋼の鎧も買えないその辺にいる娘が護衛を務めると言う。ルーダリアの護衛の質を疑わざるを得ないが、他に頼める者も見つからず、一様武器を手にするこの娘を馬車に乗せた。
大した役に立ちそうでもないが「悪事はしないようだし、道案内程度はするだろう」そんな程度で雇った。

「あの娘、リリアですか?幹線情報に明るいし、弓の腕も凄いですね」
「見たかい?軽装備だが良い革製品じゃ。弓は軍の士官レベルが手にする上品、剣も業物じゃ。何かさけんどるのは呪文かなにかじゃろ。ダガーもエンチャント品じゃ」
「それに… クレジットの腕輪… あれを身に付けるなら相当に成功している冒険者じゃぞい」
ポニーテールの娘が魔物を倒す姿を馬車から眺めながら二人は顔を見合わせる。
「あの娘… なに者だ?…」

ポニーテールに何者か尋ねる
「あたし?冒険者、勇者よ、その次の質問も読めてるから先に言うわね。自称ではなくルーダリア王国の公認勇者。王国の本物勇者、本当に勇者。勇者だけど魔法は使えないの。何で勇者と知ると次の質問は魔法が使えるかどうかなのかしらね?ってか勇者=魔法を使える奴と思っているなら質問しなくても勝手に信じ込んでればよいのにね… だって魔法が使える勇者家系は全部フリート帝国が持っていっちゃてるじゃない… この辺にいる勇者の子孫は残り物の方だよ。 優秀?… えっへっへ…優秀かなぁ? あぁ、クレジットの腕輪?… ランカシム砦を勝利に導いて国から賞金が出て、リアルゴールドの専属モデルで稼いでるの。 弓はその時の上司に貰ったの。剣はリアルゴールドとハンズマンから作ってもらったの。リアルゴールドとハンズマンの偉い人知ってるのよ… 普段は冒険者として仕事して、勇者として人助けしてるんだよね。 勇者が一人で馬車の護衛?… 別にいいじゃない… 勇者の勝手でしょ。フリートでは勇者は王宮付きのスーパーエリート? エリートじゃなくて悪かったわねぇ、一人でウロウロしている勇者でごめんなさいねぇ、ここにはここのルール、あたしにはあたしのやり方があるの!」

「… あの娘の言葉は真実なんでしょうか… あのリアルゴールドとハンズマンの幹部を知っているとなれば大変な存在です。それに本当に勇者となれば国王にもお目通り可能です」
「…一大商人ギルドと工芸職人ギルドじゃからのう… 気立ての良い娘のようだから、悪くは言いたくないが… ちぃと頭がおかしいとしか思えん」
「しかし、いずれもバカバカしいと笑って済ませられない部分はありますね」
二人はポニーテールの娘が魔物をぶった切る姿を見ながら顔を見合わせる。
「結局あの娘… なに者だ?…」
やっぱり理解不能…


リリアに尋ねる
「特産品? ルーダ港にいったら貿易品がいっぱい入って来てるよ。ルーダ・コートの街でも買えるけどね。この辺ならポテトとコーンかな?後はトマトかな?どこでもたくましく育ってくれるからね。 あ!リリアの故郷は水が良くてワインを作ってるんだよね。今度いっぱい買ってよ。 物価?… ちょっとわかんないな… 人気ある商品は高く売れて人気無いと値がさがるんだよね… 勇者に商売を聞いちゃだめよ、勇者は商売に向かないって言葉があるの」

「商売に関しては完全にその辺の娘ですね…」
「世の中広い、計り知れんぞい」
馬車から飛び降り弓を射る姿を見ながら二人は顔を見合わせる。


「よくわからない娘だが半分本当だとしても幸運に巡り合ったかも知れませんね。ルーダ・コートの街に着いたら詳しくわかるでしょう。それに護衛としてもかなり優秀な人のようですよ」
コムラは何枚かの皮紙をホックに差し出した。
「あぁ、わしも見たぞ。あの娘が描き加えたという地図、なかなか良く出来ているようじゃ」
数枚はコムラがルーダリアに来てから宿屋等で買い求めた地図、もう数枚はリリアが自分で描き込みを行った地図がある。
「宿や道で売られる地図でその土地の行政や物流のレベルがわかると言いますが… リリアさんが修正している地図はかなりの精密なようですよ。感心させられます」
「土地を良く知っているようじゃな、ルーダ港まで護衛を任せて安心なようじゃ」


「さ、片づけてきたよ、出発よ。もうこの先は安全になるからリリアは居眠りしているかもね、今日は久しぶり我が家のベッドね」
リリアはひょいと馬車に飛び乗ると弓とホウキを抱えて座った。
居眠りしているかもも何も居眠りする気満々。


馬車は街に向かってゆっくりと発車した。
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