勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【188話】 リリアとコムラとホック

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「お!行商人がやって来たな。とりあえず街の方に戻れそうだ」
リリアは宿の食堂の壁にある連絡板を見て呟く。
村に立ち寄った旅行者が何か困った時、商人が何かを必要としている時、村で冒険者の手を借りたい時等にこの連絡板に連絡が出される。
街中で言うギルド・バーのジョブボードの様な役割だ。
“護衛求む 商人ギルド・ウッドルーツ コムラ”と書いてある。


リリアは久々王国の北の端にあるタン村に来ている。リリアが冒険者になりたての頃に一度通過して以来だ。相変わらず旅人は少なく、国境を警戒する兵士たちの陣が村周辺に見られる。

知り合いに頼まれてリリアはここまで馬車の護衛をしてきた。
「タン村までの護衛が見つからなくてね、リリアちゃん、お願い!」と頼み込まれた。
「身内の荷物運びでしょ?戻りの便がなくなっちゃうじゃない… あの村物流が少ないから帰りの商隊が見つからなかったら身銭切って帰ってこなくちゃいけないんだけど…」リリアが言う。
「そこなんだよ… 引き受け手がいないんだよ! リリアちゃん!頼む!少し色を付けて払うって言ってくれてるし頼むよ、勇者だろ、国民が困っていると思って… な?」手を合わせて拝んでいる。
「… 勇者ってそういう事じゃないんだけど… その値段じゃ帰りの便を探せず宿泊しながら帰って来たら赤字なんだけど…」リリアも困っている。
因みに駆け出しリリアが頼み込んでようやく護衛に付けたタン村便の手数料は今では3倍の料金に上がっている。
リリアの実績と信用も上がっているが、初心を忘れているぞ、リリア。
「国民が困っているのですから… 出番でしょ、勇者さん」コトロがカウンター越しに言う。
「何なのよ… こんな時だけ勇者、勇者って…」
とにかくリリアは承諾して護衛を引き受けた。


で、一昨日荷物と荷主は無事にタン村に到着したが案の定帰りの便が無い…
昨日と今日の午前、リリアは山で狩りをしてきて村に獲物を売ってバイト。むしろ黒字。
今日は午後の早めに宿に戻ってきてお昼寝をしていた。
リリアも村出身だから良くわかるが、よそ者が村周辺をウロウロするものではない。
煙たがられる。思いっきり出かけているか、部屋に引っ込んでいるのがお互いのためだ。
お昼寝を終えて夕方、宿の食堂に顔を出すと求人が出ていたのだ。
“これを逃す手は無い!”っとリリアは勇んで宿を出た。

タン村は戦争文化が濃い村で堅牢な木壁が回らされている。商人サイトはないので行商の宿泊地はない。リリアが探すと荷馬車が村の入り口付近に泊まっていた。あれに違いない。
「こんにちは、皆さんに神のご加護がありますように。あたしリリア、ルーダ・コートの街、冒険者ギルド・ルーダの風所属よ。護衛に着くわ」リリアが挨拶をする。
リリアが声をかけると在庫確認をしていると思われる人間男性とドワーフの男性が振り返った。
「こんにちは、リリア様の努力の種が実を結びますように。私たちはフリートから来ました。フリート帝国、商人ギルド・ウッドルーツ、コルトダ所領サントレースの街店所属のコムラ、こちらは相棒のホックと申します」
コムラは一瞬リリアに視線を送ると瞬時にニッコリと微笑んで挨拶をした。
「フリートの商人さんねぇ… どうりで… エル・モタの神でしたっけ? あたし、フリートの帝都までいった事があってね、馬車の装飾と恰好で何となくわかったよ」リリアが答える。
同じ荷馬車でも少し雰囲気が違うし、商売人の恰好も違う。
「これはこれは、世間に明るい方に出会えて光栄です。護衛をご希望ですね、私どもこれからルーダリア国内を海まで行く予定です」コムラ。
「… 積み荷は漬物類かしらね?内陸の物を運ぶなら漬物、砂糖漬け、塩漬け、お酒類かしら? あたしね、荷馬車の護衛経験は豊富よ。男より荷馬車に乗っている時間が多いからね、うっふっふ」リリアが鼻をひくひくさせて言う。
「これはこれは! 慧眼恐れ入ります。確かに荷物はプラムの漬物類とお酒、それから地元の織物になります。確かに護衛に相応しい経験の持ち主の様ですね。それに面白い!」
コムラとホックは顔を見合わせると大笑いしだした。
「ここまで護衛無しで来たの?」リリアが聞く。
「国境を超えるまでは同士に同行してもらいましたが国境は二人で超えてきました。国境はゾンビ共で危ないですが兵隊について行動して二人で何とか国境を越えてきました。ここから先は現地に明るい人を護衛につけたいのです」コムラ。
「ふーん… 二人で国境を越えたなら二人ともある程度剣が使えるのね… まぁ、旅行者として最低限のたしなみね… あたしね、荷馬車の護衛を結構専門にしてるんだよね。メッチャ適任よ」リリアが微笑む。
「… はい… 失礼ですが魔法は?」コムラがニッコリしている。
「魔法?使えないわよ… 弓と剣。弓はルーダリア一よ!それにおしゃべり相手にもなるわよ」リリア。
「無能力ですか… いや失礼。 国の言葉に女護衛は昼のウサギ、夜の華という言葉ありまして… 女狐が化けて乗り込み荷物を丸呑みする物語等有名で…」コムラはニッコリする。
「…… そ?… 他所の国に来て…確認のしようもないけど…商売する人ってそんな感じね… これでどうかしら?……… どう?まだ荷物を丸呑みしそうかしら?」リリアは左腕のロンググローブを少しずらすとクレジットの腕輪を見せた。
「… これは… リアルゴールドさんのクレジットの腕輪… 本物に間違いないですね」
あまり態度には出さなかったもののコムラとホックはリリアの腕にハマっている腕輪を見て顔を見合わせた。
リリアの顔をマジマジと見ている。
「腕前をお披露目しようと思ったけどやめたわ。矢は商売道具、無駄にしたくないの。 こうしましょ、あたしルーダ・コートの街まで行きたいの。そこまでタダで乗っけてくれたら道中ただで魔物を倒すわ。情報提供代とおしゃべり相手代で宿と食事代を出してちょうだい… それで良ければ乗せてもらうわ」リリアは口をキュっとしている。
「おしゃべりは期待していないので宿代だけですね」コムラはニッコリしている。
「そ、じゃ、余計な事いわないから… それでよろしくね… 棚卸中なら手伝おうと思ったけどやめくわ… 荷物が消えちゃったら困るものねぇ」リリアはそういうと宿に戻り始めた。
ポニーテールが揺れる後ろ姿。

「… リリアさん、お気を悪くされたら申し訳ない。今夜は契約を祝って食事を出させていただきます。良かったら宿の食堂に来てください」コムラ。
「あたしね、昨日、今日とジビエ料理の素材を村に提供しているの。リリアからのおごりになるのよ。 それじゃ、後でね」

コムラとホックはスタスタと歩き去るリリアの後ろ姿を眺めていた。
「あのホウキは何の呪いじゃろか…」ホックが呟いた。
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