勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【180.5話】 リリアとバニラとミンティアと ※少し前の話し※

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「痛い!いだだだだ… いひぃ… 痛い…」
リリアは群生するオバケバラに捕まり全身を棘だらけにされている。
全身の棘のツタで絡まれ気を失いそうなほどの激痛。
「いぎぃ… ぎぃ… いぃぃ…」
何とかダガーで振り払って脱出… なんとか事なきを得た。


パウロ・コートの街でリリアモデルの宣伝をしたリリア。スタッフのとんでもない失態を見て前日、リリアが入念に指示を出しておいた。
お陰で当日はオフェリアを呼んで少しはそれっぽい扱いを受けられた。
それから三日程パウロに滞在してオフェリアと過ごした。
「せっかくだから少し旅行に行こうよ!オフェリア」
リリアは誘ったが畑守の仕事は当分続くと言う。こういう仕事は期間で契約していると言うのだ。仕方がない…
リリアは気ままに一人でルーダ・コートの街まで帰る事にした。
今はその道中。

馬車移動も良いけど区間によっては歩くのも良い。ちょっと良い薬草を見つけながらぶらり移動。
この辺は水と緑が豊かで色んな植物が見つかる。ぶらりと道を外れて薬草探しをしていたらメガ熊に出くわした。
メガ熊はどデカいが熊だ。が、いわゆる動物。エンカウントしたからといって無条件で殺すものではない。特に山育ちのリリアは無駄には殺生しない。
お互いに見なかったことにしようとリリアは思っていたがメガ熊の方はそうではなかったようだ。
リリアの思いと裏腹に熊の方は殺生するき満々…
追いかけられ、慌てて崖を下ったら見事にオバケバラの群生地に転がりこんで棘にグルグルにされた。
さっきようやく振り切って脱出したところ。

「痛かったぁ… ポーションよポーション」
リリアは全身の棘を抜いてポーションを一気飲み。体にはパターンが出来て血が流れている。

回復を待ってリリアは道に出ようと木々の間を移動し始めた。
「おっと!こんな場所にリリス草だね…」リリアが呟き回り道。
ルーダリアで冒険者やっている人に改めて説明の必要はないと思うが、この大陸にはいくつか変わっていて扱いの難しい植物がある。比較的人里近くで見られる魔物や街中等で薬として見かける代表植物が以下。

一つは今リリアが見つけたリリス草
全高2m程度、白っぽいような紫のようなラッパ型の大きな花とつけるリリス草。
魔物リリスが男性を虜にするように、人間男性が近づくと花粉をまき散らす。
花粉を吸いこむと男性はリリス草に魅了され、リリス草と愛の行動をとるのだ。
精神支配の花粉は女性には作用しない。
リリアも何度か虜になった国民、冒険者を救出したことがある。
男性があられもない姿で夢中でリリス草を愛する格好はとても見られたものではない…
採取された粉は薬師、錬金術士等によって男性用媚薬となり、娼館等、高値で取引される。

ドリームマッシュ
シイタケに似た地味なキノコだが、三歳児程度の大きさがある。湿気の多い木陰に群生していて敵が近づくと粉をまき散らしながら跳ね回る。
粉体を吸いこむと眠気や幻覚に襲われる。幻想薬等の元。採取すれば高値で取引される。

テンゴクダケ
猫程度の大きさをしたピンク色のキノコ。ドリームマッシュのように粉体をまき散らしながら逃げ回る。
人間の男女、一部の動物に対し性的興奮を与える効果がり、一部の小動物は吸い込むと痙攣を起こす。
採取され媚薬として高値で取引される。娼館や拷問等に使われることがしばしばある。
使用するととにかく昇天ものらしい。

この辺が代表格だが他にも同じような特性を持つ植物は存在する。
採取は高価だがリリアはあまり仕事として採取にはいかない。
これらは精神プロテクトの魔法技能を有するか、範囲魔法で一網打尽が可能な者向けの仕事だ。
高価だからといってリリアが引き受けても、精神プロテクトのポーションを飲み続け弓で狩ってもリスクが大きくポーション代と釣り合わない。
リリアが引き受けて人を雇ってパーティーを組んでも全然儲けにならないのが現状。自分で身を守る能力を持っている人向けの仕事だ。つまり物理女リリアには向かない。


「リリス草が生えるなら自然が豊かなのは確かなのね…」リリアは呟いて遠回り。

「……? 人の声がしない?」リリアは林の中で足を止めた。
「… うん、声がするな…」ダカットが答える。
リリアは弓を構えて声のする方角を探す。だんだん声が近づいてきた。
「… この声は…」リリアが心配する。
「… あぁ、この声は…」ダカットも相づち。
木々の間から女性の嬌声が聞こえる。しかも二人。
「… 賊の仕業か?リリア… 気を付けるよ」ダカットが言う。
リリアはコクコクと頷くと慎重に声のする方に向かっていった。

「… うゎ、この匂い… テンゴクダケだよね…」
リリアが声に近づくと甘く焦げたような独特な匂いが鼻を突く。
「… 匂いはわからないけど… テンゴクダケか… テンゴクダケを誰かがつかっているか…」
リリアは風上を慎重に見分けて再度声のする方向に接近を試みた。


「おほ! おほおおぉぉ! キノコ!キノコよぉ! もっとキノコ!もっともっと」
「あぁぁぁ… さいっこう! キノコ最高!キノコ素敵よおぉぉぉ! うほおぉぉ!」
リリアが木陰から覗くと女性二人がとんでもない姿でキノコにたかられている。キノコの中で喜びの声を上げている。
「…… ぅぁ…… 気の毒に… ダカット… ちょっと待っててね、助けてくる」
リリアが弓と剣を準備する。
「おい!誰か人を呼ぼうぜ。村で冒険者でもせめて村人かシェリフを呼ぼうぜ」ダカットが慌てて止める。
「もう声がかすれ声になってるよ… 多分一日、二日は経ってるよ。危ないよ」リリア。
「一人で救出は止めろって、村まで行って戻っても命に別状はないだろう」ダカット。
「あんな大きな声で… 賊に持って行かれちゃうか魔物にでも襲われかねないよ」リリアはハンカチで口を隠した。
「そんな程度で… 無理だよ… せめて精神プロテクトのポーションでも」ダカットが注意する。
「あんな高価なもの普段持ち歩いているわけないでしょ… あれは危ないわよ。緊急よ… 大丈夫、アスタルテの指輪がある…」リリアが手を合わせる。
「効果弱いんだろ?そんなのあてにならないぞ!」
「うるさいよ!これは勇者の務めなの。大丈夫よ。キノコを追い払って息を止めて助け出すから!」
ダカットは止めたがリリアは荷物とダカットを置くと救出に向かっていった。


「ぶはぁ… ぜぃぜぃ… 何とか… なった…」
川から上がって来たリリアは全身ずぶ濡れ。川原に倒れ込む。救出者二名もなんとか救助。
弓と剣でキノコを追い散らし、女性二名を助けたリリアはそのまま次々と女性を川まで運んで飛び込んだ。とにかく粉を洗い落とす。女性を交互に抱え川に飛び込んで体を洗ったのだ。
「…ムチャするなぁ… リリア、大丈夫か?」ダカットが心配する。
「吸い込んだよ… ちょっと気分が浮つくけど、気力のポーションで誤魔化せる… それより… この二人…  バニラとミンティアだよ…」

救助者は冒険者ギルド・ハイレベルに所属する魔法使い、バニラとミンティアだった。
確か二人とも高貴な家族出の高学歴ルーンマスター。どうやら採取に来て事故にあったようだ。
「あぅ… あぁ… もっとして… キノコぉぉ…」
二人ともまだ興奮から意識が戻らないようだ。辺りにはまだ甘い匂いが残っている。
魔法アイテムやローブも回収した。冒険者証を見るとやはりバニラとミンティアに間違いない。
「うふん… あう… ううん…」二人ともまだまだこちらの世界に戻れないようだ、だらしない表情で指が止まらない。
リリアはとりあえず二人にローブをかけてあげた。
「この二人どうするんだよ…」ダカットが心配する。
「… どうって… とりあえず村まで連れて行くよ」リリア。


リリアはなんとか落ち着き始めた二人を抱え最寄りの村へ。
そこから詳細は書かずに二人のギルドに手紙だけ出すと三日程滞在した。
二日程キノコに漬け込まれた二人はなかなか元に戻らなかったがようやくルーダ・コートの街まで帰れる感じになった。リリアは二人を駅馬車に乗せる。
馬車内は妙な雰囲気だった。
大きなとんがり帽子。オシャレな魔法衣、高価なマジックワンド、聖職者のローブ…
その立派な魔法使い、バニラもミンティアも熱に浮かれた表情で男性客を物欲しそうに凝視しては緩んだ表情でモゾモゾとしていた。
とても高学歴魔法使いの表情ではなかった。


その後、バニラもミンティアも冒険者ギルドを休業した後、引退していった。
話しを聞くと二人とも貴族高学歴の元魔法使いとして人気の娼婦となって娼館で働いているらしい
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