勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【148話】 最悪の選択

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リリアは森に入って逃げた奴隷を探し始めた。
十名いる奴隷の内、四名が逃げ出したようだ。その四名の内、二名はすぐに捕まった。
残り二名を探す。
探すのだがリリアは一体誰を探すのかわかっていない。周りに聞くとエルフの女と狐耳の女の子だと言う。
「狐耳の?… ハイネルとエルフのアメルネスカね…」
リリアは探しながら、首輪をされ小さく膝を抱えてうずくまる少女と絶望の表情でうな垂れた美人エルフの姿を思い出していた。
「良かった、逃げ出す元気があるのね…」大して意味の無いことだがリリアは呟いた。
人間絶望が大きすぎると、逃げる機会があっても行動しなくなるものである。逃げる意思が奴隷に残っているようだ。

「そっちはどうだ!」「怪我しているはずだ、遠くへはいけないぞ」「この斜面の下は探したか?」何人かで思いおもいに捜索する。
「女、そっちの斜面を回って崖の下を探してくれ」
リリアに指示がきた。
「… わかったよ…」リリアは力なく返事して重い足取りで斜面を回る。

“何のため探すのだろうか… 探してどうするのだろうか… 見つかりませんように… リリアが見つけませんように…”リリアは祈るような気持ちで斜面を下る。
斜面を下りると池に出てきた。穏やかな光景。見ると鹿の親子が水飲みに来ている。
「ここでブラブラして適当に戻ろう」リリアは呟きながら池を右手に見ながら崖沿いに歩き出した。
「………? 気配が…」
リリアは足を止めて気配を伺った。野山にいる時、リリアの感覚は鋭くなる、ハンターのセンス。
「… あれか… スライムとローパーが沸いてるね」
水辺だけあってヌルヌル系が沸いている。別に退治する必要も無いが、奴隷が攻撃されても可哀そうだ。魔物退治に時間を潰されたと言い訳にしても良いだろう。
「調整射撃ね」
距離、ローパーの大きさ、時間潰しに最高だ、弓を構えて集中…
「…… っぅわ!…」
リリアは短く声を上げて地面にひっくり返った。
弓に集中し始めたが、背後から何者かに襲われたのだ。気配はこれだったのか?鹿と魔物に気を取られた。
「… 人でなしの人間ども! よくも家族を!よくも私をオモチャに!」
エルフの女性だ。奴隷の首輪で魔法等は封じられているのだろう。石を手に背後からリリアに襲い掛かって来た。リリアは肩と背中を石で殴りつけられひっくり返った。
「… 待って!大声出さないで!… 見つかっちゃうよ!… 痛い!待って!待って!痛いよ!」
馬乗りになってエルフが必死に石を振るってくる。武器で反撃するわけにもいかず、リリアは素手で抵抗する。
「っつ… っう! っく!」
細身のエルフが石を振り下ろしてくる。魔法系の人種だが今後の人生が地獄となるかのターニングポイントだ。信じられないような力を発揮してくる。
「… 待って!痛い! お願い信じて! あたし、奴隷商の仲間じゃないの!勇者よ!公認勇者リリアよ! 痛い!やめて!」
エルフ女性の耳にリリアの声が届かないのだろう。しばらくこの状況が続き、リリアは必死の抵抗と説得。


「落ち着いた?… あなた、アメルネスカでしょ。売られるエルフでしょ? 落ち着いて話を聞いて。あたし、勇者リリアよ。奴隷商人とは関係ないの。出来れば助けたいの。騒いで見つかったら助けられるものも助けられないよ」
何とかエルフを落ち着かせたリリア。あっちこっち打撲している。
「………」アメルネスカは脱力している。
実際に自分が奴隷を見つけるまで助けたいとも助けられるとも思っていなかったが、リリアは何故か助けたいと口走っていた。
「狐耳の少女は?ハイネルは?」リリアが聞くとアメルネスカはゆっくりと岩陰を指さした。小さい影が岩陰に隠れているようだ。

ハイネルに声をかけて出てきてもらった。アメルネスカは急に拍子抜けしたのか呆然として座り込んでいる。
「皆怪我してるのね… リリアも… 傷だらけだよ… まぁ、勇者してたらこんなの傷の内に入らないけどね、えっへっへ。とりあえず皆で回復ね…」
言ってみたが、ポーション類は全部預けて来てしまった。薬草類でアメルネスカ達に応急処置をする。

“あたし、どうしたら良いのだろう?”
ここで見逃したとして魔物の多い山中だ。見殺しにするのと大して変わりない。村や町まで行けたとして奴隷の首輪をされている。捕まるか、横領を受けてとんでもない人生が待っているか。無責任に扱われるなら買い取り主に届けた方が、ましな人生が待っているかも知れない。
「… ちょっとごめんね…」
リリアがアメルネスカ達の粗末な服に手をかけて肩を見てみた。
「………… ありがとう…」
奴隷の首輪をされ、二人とも肩には所有者の刻印が入っている。アメルネスカは性奴隷の印まで入っている。街まで辿り着いたとして…
“これなら娼館にいるほうがましか?…”

「おーい!女冒険者!そっちはどうだ!」呼ぶ声がする。
「あ、はーい… 池の側は魔物がいっぱい。戻りながら退治するから!この魔物ならこっちに逃げてはいないみたいよ!!」リリアが適当に返事をする。
時間が無い、一番良い策を見つけなければ…

「先輩…」後輩の声が影からする。
「げひゃ!!… びっくりしたぁ!突然何よ!どっから来たの!どうやってリリアを見つけたの?」ブラックに声をかけられてリリアは飛びあがる。
「俺、特定の人物の居場所がわかる魔法を知ってるっす。先輩は登録済みっす」ブラックがこっそり登場してきた。
「… ブラック… あたし奴隷を見つけたけど… これは見つけてないの…」リリアが呟く。
「……… 先輩、想像つきますよ。先輩は勇者っすから…… でも、無理があるっす。先輩の行為は犯罪っす。合法である以上、ちゃんと所有者に返すのが筋っす。中途半端に見逃すくらいなら関係者全員を不幸にするだけっす」目を細めてブラックが言う。
「……… ねぇ、何とかしたいの…」リリアが言う。
「なぁ、やめておけよ。偽善だぜ。この二人だけ救って満足か?馬車の連中はどうなる?馬車の全員を助けたとして、世の中の全奴隷はどうなんだ? 奴隷商だってまっとうに商売しるじゃないか。そいつだって権利があるだろ。一国民だろ。偽善や勘違いした正義感を振り回すものじゃないぜ。公認勇者だったら国のマニュアルに従うべきだ」逆さに背負ったホウキがリリアの背中越しに言う。
この意見ももっともだ…

「… もう死なせて… お願い、地獄よ… 家族の元に行きたい…」エルフが呟き始めた。
狐耳のハイネルがアメルネスカに必死に縋り付いている。
「おい、聞くなよ。商品を見つけて持ち主に返して終わりだ。俺だって賛成はできないけど、これが勇者として正解だ」ホウキが言う。
「… 死なせて… 家族に会いたい。エルフの聖地、安らぎの園に行きたい…」
「… 連れて帰ってお探し物を渡して終わりだ。奴隷にされた理由はある。犯罪者でもある。国がそう認めているんだぜ」
「親の引責とか… 貴族侮辱罪とか… そんなんじゃない…」
「それでもレッテルが張られている。書類も揃っている。自分の事を考えろよ。リリアが危なくなる」
「先輩、ダカット兄が言う通りっす。ここで逃がしたら、先輩も罪人及び奴隷逃亡補助、教唆、隠匿、下手したら逃亡首謀、今後次第では奴隷横領、窃盗の罪で先輩が奴隷にされるっす」
「… ここで逃亡して騒ぎになってるわ… 逃亡奴隷として更に地獄よ… 下手したら半獣半人性奴隷… 犯罪者牢獄の欲求不満解消…」
「だったら!早く返しに行って反省の態度を見せるべきだろ!!」珍しくホウキが声を荒げる。
「先輩、ダカット兄の言う通りっす」
「二人とも黙ってて!!特にダカットうるさい!ホウキのくせに!普段話して欲しい時に話さないからリリアは変人扱いされてるのよ!! こんな時だけ良くしゃべって! あんた黙ってただのホウキ… で………」
「…?  先輩?…」

「おーい、見つかったか?誰かいるのか?」
声がする、時間が無い。
「はーい、今、連れと魔物を掃除… 後、連れション中よ。連れ液体放出。それと連れ固形もする予定。来ないで!見られたら出る物も出ない。勇者と仲間はいつでも一緒!」リリアが大声で答える。
「… 殺して、お願い。家族に会いたい。エルフの園に… 自分では死ねないの!お願い、人助け、殺して、この先生きるのは地獄よ…」
アメルネスカがリリアにすがり付く。ハイネルはそのアメルネスカにしがみつき顔を伏せている。

「…生き地獄… か… その覚悟があるのね。死ぬ覚悟あるのね」
リリアは膝まづくとダガーを取り出した。
「や!先輩!!」「リリア!おまえ!!」
「その選択は最悪だ!」
後輩とホウキが非難の声を上げた。
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