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【142話】 いつも優者
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満月の前日となった。
個人差があるようだがライカンスロープが変身するのは今日から三日間。昨夜あたりから変身する例もあるらしいが滅多にない事。昨晩は平穏だった。
リリア、ブラックとダカットの三人は昼食をすませた。
もっともダカットはホウキなのでテーブルに立てかけられて眺めていただけ。
一応リリアはホウキに宿っていることは村人に説明しているが、いまだに「何だって飯食うのにホウキ持って来やがるんだ」的な視線を受ける。
リリア達の予想通りテディかリラックがライカンスロープなら今夜から三日間が勝負だ。
まだこの二人のどちらかが変身すると決まったわけではないのでリリア達の予想は村長等一部の人しかしらない極秘事項だ。
リリア達は、確証を得ようとテディとリラックの行動を特に見張ったが…
「ブラック、どう思う?」リリア。
「他の村人はもちろん、あの二人も行動からはわからないっす。ただ、恐らく本人も気が付いていないパターンじゃないっすか?」ブラックが言う。
家族も含め怪しいところは全然ない。そうと言われればそうも見える、違うと否定されれば違うともとれる… そんな風。
ライカンスロープが村人にいたとして、本人も家族も名誉なことではない、村の中にそんなのが紛れていると知ったらパニックにもなりかねない。密かに穏便に済ませたかったが、村の中は物々しくなってきた。
午後になって、パウロ・コートの住民安全課から派遣されてきた兵士達と髭を生やしたのがやってきたのだ。安全課のライカンスロープ対策班らしい。
この連中も基本的には「移動中に立ち寄ってみました」風情を装っているが、場違い、そぐわない、村にフィットしていない。
「あの連中は何だ?」村人が噂する。
リリアに笑顔はない。
人が何かに変身して法律を犯した途端、退治されてしまうのだ。昼間は人なのだ、家族がいて生活しているのだ。退治はあまりにも可哀そうすぎる。
「ライカンスロープを発見したら報告ってあったから… こうと知っていたら自分達だけでやったのに…」リリアはしょげている。
リリアは通報人として安全課から来た髭を生やしているのに呼ばれた。
リリア達は対策本部で一通り説明した。
「…それで、あたしとしはこれからの事もあるし、本人達のためにも穏便な感じに済ませたいの。夜になったら二人をそれぞれ見張って、あたしがリラックを、ブラックがテディの行動を見張るから、変身したらみんなで取り押さえて、朝までどこかの部屋に閉じ込めておきたいの。それで、家族と今後について話し合って対応を…」リリアが説明する。
「貴殿の合図で誰が取り押さえるって?… 我々の手の者が?… ふん、ここからは我々が仕切る、素人にうろつかれてはかえって危険だ… 勇者リリア?… 誰だか知らんが… 遊びじゃないのだぞ、逃げた犬を捕まえるのとはわけが違う… 公認勇者?… 国王が認めた?… わかったわかった、必要なら呼びにいかせるから… こっちは忙しいんだ、さぁ帰った帰った」
めっちゃ髭パワーを発揮されて半ば追い出された。
「どうしよう、あたしのせいで誰か不幸になっちゃう。村長に相談… いや、王国の役人は止められないよね… テディとリラックに直接話す… それで、今夜は外に出ないようにしてもらうか、どこかに引っ越してもらう」リリアが言い出した。
リリア達は対策本部を追い出されてから村外れで過ごしている。
「先輩、気持ちはわかるっすけど… テディさんとリラックさんがライカンスロープと決まったわけではないですし… 今月の満月だけ乗り切ってもこの先があるっす。考え方っす。被害にあっている誰かが助かると思えばっす」後輩が先輩を説得する。
「俺、若くして死んで、森の中にいたからわからないけど… ブラックの言う通りだよ。リリアはやることやったんだ。ここで役人や村人と対立するのは良くないぜ。連中がやるってんだから任せておけばいいんだよ」ダカットも心配する。
「やれるとこやったっす。被害者のことを考えるっす。そもそも放置したら関係ない人がもっと不幸になっていたのを阻止できたっす。先輩、ゾンビやスケルトンを退治するっすけど、あの何割かはもともと人っす。でもゾンビになって人を襲って、襲われた人間がゾンビになる脅威を考えたら退治するっす。同じっすよ!」
確かに…
ゾンビ、アンデッド、スケルトンは退治する。
“この人たちも、もともとは一般人だったのかな?”とチラっと頭をかすめる事があるものの、退治に問題無い。
だけど、今回は完全に昼間は人、いや、満月以外は人なのだ。退治はいき過ぎな気がする…
リリアは不満そうに黙っている。
村外れで子供達の声が遠く聞こえるのみ。
ブラックとダカットはリリアを見つめる。
「…… ねぇ、やっぱりゾンビとは違うと思うの。変身以外は人だし、普段は普通に生活しているのよ。あたし勇者だし… 救えるチャンスがあるなら救いたいの…」リリアが言い出した。
何か決心した時の表情をしている。
「やめとけよ… 気持ちはわかるよ。俺だって何とかしたいよ… だけど、大した悪でもないが、一般人と比べたら悪だよ。退治にせよ捕獲にせよ事実を知ったら本人だって納得かも知れないし… いや、きっと納得するぜ。なぁ、リリア、自分の立場も考えろよ」ダカットが言う。
「ダカット兄貴の言う通りっすよ。リラックさんとテディさんの件も大事っすけど、先輩がもめてしまったら全然勇者の意味ないっす」ブラック。
「…… リリアに考えがあるの、お願い!これだけ聞いて、やれることやりたいの。全員救いたいの!」
ブラックとダカットは顔を見合わせた…
個人差があるようだがライカンスロープが変身するのは今日から三日間。昨夜あたりから変身する例もあるらしいが滅多にない事。昨晩は平穏だった。
リリア、ブラックとダカットの三人は昼食をすませた。
もっともダカットはホウキなのでテーブルに立てかけられて眺めていただけ。
一応リリアはホウキに宿っていることは村人に説明しているが、いまだに「何だって飯食うのにホウキ持って来やがるんだ」的な視線を受ける。
リリア達の予想通りテディかリラックがライカンスロープなら今夜から三日間が勝負だ。
まだこの二人のどちらかが変身すると決まったわけではないのでリリア達の予想は村長等一部の人しかしらない極秘事項だ。
リリア達は、確証を得ようとテディとリラックの行動を特に見張ったが…
「ブラック、どう思う?」リリア。
「他の村人はもちろん、あの二人も行動からはわからないっす。ただ、恐らく本人も気が付いていないパターンじゃないっすか?」ブラックが言う。
家族も含め怪しいところは全然ない。そうと言われればそうも見える、違うと否定されれば違うともとれる… そんな風。
ライカンスロープが村人にいたとして、本人も家族も名誉なことではない、村の中にそんなのが紛れていると知ったらパニックにもなりかねない。密かに穏便に済ませたかったが、村の中は物々しくなってきた。
午後になって、パウロ・コートの住民安全課から派遣されてきた兵士達と髭を生やしたのがやってきたのだ。安全課のライカンスロープ対策班らしい。
この連中も基本的には「移動中に立ち寄ってみました」風情を装っているが、場違い、そぐわない、村にフィットしていない。
「あの連中は何だ?」村人が噂する。
リリアに笑顔はない。
人が何かに変身して法律を犯した途端、退治されてしまうのだ。昼間は人なのだ、家族がいて生活しているのだ。退治はあまりにも可哀そうすぎる。
「ライカンスロープを発見したら報告ってあったから… こうと知っていたら自分達だけでやったのに…」リリアはしょげている。
リリアは通報人として安全課から来た髭を生やしているのに呼ばれた。
リリア達は対策本部で一通り説明した。
「…それで、あたしとしはこれからの事もあるし、本人達のためにも穏便な感じに済ませたいの。夜になったら二人をそれぞれ見張って、あたしがリラックを、ブラックがテディの行動を見張るから、変身したらみんなで取り押さえて、朝までどこかの部屋に閉じ込めておきたいの。それで、家族と今後について話し合って対応を…」リリアが説明する。
「貴殿の合図で誰が取り押さえるって?… 我々の手の者が?… ふん、ここからは我々が仕切る、素人にうろつかれてはかえって危険だ… 勇者リリア?… 誰だか知らんが… 遊びじゃないのだぞ、逃げた犬を捕まえるのとはわけが違う… 公認勇者?… 国王が認めた?… わかったわかった、必要なら呼びにいかせるから… こっちは忙しいんだ、さぁ帰った帰った」
めっちゃ髭パワーを発揮されて半ば追い出された。
「どうしよう、あたしのせいで誰か不幸になっちゃう。村長に相談… いや、王国の役人は止められないよね… テディとリラックに直接話す… それで、今夜は外に出ないようにしてもらうか、どこかに引っ越してもらう」リリアが言い出した。
リリア達は対策本部を追い出されてから村外れで過ごしている。
「先輩、気持ちはわかるっすけど… テディさんとリラックさんがライカンスロープと決まったわけではないですし… 今月の満月だけ乗り切ってもこの先があるっす。考え方っす。被害にあっている誰かが助かると思えばっす」後輩が先輩を説得する。
「俺、若くして死んで、森の中にいたからわからないけど… ブラックの言う通りだよ。リリアはやることやったんだ。ここで役人や村人と対立するのは良くないぜ。連中がやるってんだから任せておけばいいんだよ」ダカットも心配する。
「やれるとこやったっす。被害者のことを考えるっす。そもそも放置したら関係ない人がもっと不幸になっていたのを阻止できたっす。先輩、ゾンビやスケルトンを退治するっすけど、あの何割かはもともと人っす。でもゾンビになって人を襲って、襲われた人間がゾンビになる脅威を考えたら退治するっす。同じっすよ!」
確かに…
ゾンビ、アンデッド、スケルトンは退治する。
“この人たちも、もともとは一般人だったのかな?”とチラっと頭をかすめる事があるものの、退治に問題無い。
だけど、今回は完全に昼間は人、いや、満月以外は人なのだ。退治はいき過ぎな気がする…
リリアは不満そうに黙っている。
村外れで子供達の声が遠く聞こえるのみ。
ブラックとダカットはリリアを見つめる。
「…… ねぇ、やっぱりゾンビとは違うと思うの。変身以外は人だし、普段は普通に生活しているのよ。あたし勇者だし… 救えるチャンスがあるなら救いたいの…」リリアが言い出した。
何か決心した時の表情をしている。
「やめとけよ… 気持ちはわかるよ。俺だって何とかしたいよ… だけど、大した悪でもないが、一般人と比べたら悪だよ。退治にせよ捕獲にせよ事実を知ったら本人だって納得かも知れないし… いや、きっと納得するぜ。なぁ、リリア、自分の立場も考えろよ」ダカットが言う。
「ダカット兄貴の言う通りっすよ。リラックさんとテディさんの件も大事っすけど、先輩がもめてしまったら全然勇者の意味ないっす」ブラック。
「…… リリアに考えがあるの、お願い!これだけ聞いて、やれることやりたいの。全員救いたいの!」
ブラックとダカットは顔を見合わせた…
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