勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
上 下
275 / 517

【138話】 ベアクロ

しおりを挟む
「…… あぁ… 魔物か… すまない… ねえちゃん… 状況は…」ベアマン男性の冒険者が言う。
「…… あたし、勇者リリア。あなた今酷い状態よ。あたしの仲間があなたの仲間の救援に魔物の後を追ってる。重傷者二人、一人は助からない… あなた今… 最悪の状況だよ…」リリアはゆっくりとはっきりと説明してあげる。
ぎゅっと左手をベアマンの脇腹に当ててあげた。これ以上この男に話をさせるなら、マスマス腸が押し出されかねない。
「…… どうなっている、説明しろ…」ベアマンが促す。
「…… 右肩から腕を失っているの… 顔、胸にかけて切り下げられてる… お腹も… 深い傷になってるの……」リリアが声を震わす。
「もうちょっと起こせ… 自分で確かめる… 血で目が… 腕が…案外痛くないもんだ… 脇腹……… あぁ…わかった…」
ベアマンは少し自分の体をみて再び仰向けになった。
「ねぇ… 当分苦しいけど回復は間に合うよ… つらいけど、冒険は終わるけど別な人生があるよ… そうしましょうよ…」リリアが言葉をかける。
「…… ここから回復か… 地獄だ… 治っても腕がない… ギルドに長年積み立てが…家族は当分なんとかなる…」
「なんで皆そんなに潔いの?… 残される人の事はどうでもいいの?」
「おまえ… 駆け出しか… 冒険者は冒険が終われば全て終わりだ… 苦しませるな… 幻想薬を…」
「お願い、一緒にお家帰ろうよ、家族の元に帰ろうよ… ねぇ…お願い…」
「素人が… 地獄を味合わせるのか?… 俺は助からん…お前の仕事は仲間を助けることだ… 敵を討ってくれ… くたばったのは誰だ?名前を聞いたか?」
リリアは振り返って倒れている男を見た。名前は聞けなかった。
「エルフの魔法衣の男よ…」
この男も苦しそうだ、少し幻想薬を飲ませるリリア。
「… エリオットか… 俺は… うぐうぅぅ…」
ベアマンは言いかけて突然苦痛に震えだした。全身に力が入りリリアの手に何かが押し出されるのが感じられる。
「… わッ… 駄目よ… お願いお話し聞かせて… がんばって…」
リリアは急いで幻想薬を流し込んでいく。
ただ飲ませれば良い物でもない。鎮痛でき、理性が残る量を飲ますには経験とセンスがいるのだ。
「… 俺は… 俺… は…」
ベアマンは苦しがっている。
「先輩、道までおびき出します!援護頼むっす!」ブラックからの通信が何度か入る。
ベアマンの最後と救援とどっちが大切であろうか?リリアには判断不能だが今この男を放っておけないし、後輩君はなんとか切り抜けてくれるだろう。
「… ぐッ… はっ… はっ……… ふぅう…」
ベアマンは苦し気に短く呼吸をしていたが薬が効いてきたのか少し息が長くなった。
「リリアよ!わかる? ポーションを飲ますわ、家に帰ろう!あたしが連れて帰る」リリアが呼びかける。
「俺は… もういい…… 地獄だ… 名前はベアクロ… 家族に…   ぅ… ゴブッ!!」
少し楽になったのか話しかけ始めたが途端に大量に血を吐き出し始めた。
“もうだめだ…”リリアは膝に抱えてあげた。
「ベアクロ、残りを飲ますわ…」
吐血を続けるベアクロだ、幻想薬等いくらも胃に届く物ではないだろうが…

「…… あぁ… 空の下で… 大地の上で最後を迎える… 冒険者の誇りだ……… 冒険の無い日々等……  地獄だ…」
ベアクロは虚ろになっていく表情で天を掴む。
「あなた素晴らしい冒険者だったわ、ベアクロ。今日、あなたに出会えてよかった」
リリアはその手を握りしめる。
「ベアトリス、ありがとう、家族を… たの…」
リリアの手を一度しっかりと握りしめると旅だっていった…
「立派な最後よ… 家族に伝えるわ… お疲れ様でした」リリアが呟く。


ブラックが怪我人を抱えて道に出る。デスナイトとソールイーターの魔物グループはブラックと言えど一人では大変だった。かなり消耗し怪我もしている。
「先輩、退治してきました。怪我人二人連れて来たっす。二人林の中に… 後で戻らないと…」
男を抱えて泣いているリリアの傍らに来ると怪我人を下し、道端に胡坐をかいた。
「先輩… その人…」
リリアの抱えている男の様子を見たブラックは声をかける。
「ブラキーごめんね!あたしこの人を放っておけなくて、傍にいてあげたかったの!ごめんね!ごめんね!」
リリアは堰を切ったように泣き声を上げ始めた。

「… 先輩さすがっす。その人も幸せだったはずっす…」ブラックはポツリと声をかけると怪我人の治癒を始めた。
ブラックの耳にはリリアの泣きじゃくる声とシェリフ達の声が近づいてくるのが聞こえた。

林の中は静かだった…
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。  しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...