勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【119.5話】 リリア先輩

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「たっだいまっと!」
リリアがバー・ルーダの風の扉を開ける。
扉に付いたベルがリンリンと心地よい音を立てた。
「お帰りなさい、リリアにお客さん」酒樽の入れ替えをしていたコトロが言うか否か、カウンターに座っていた戦士が物凄い勢いで立ち上がって挨拶をした。
「勇者リリア先輩っすね!始めまして!俺、ブラックっす。名はブラキオーネ、先輩を待たせていただいてたっす!!」
短髪で背が高くがっちりとした青年はやたらと直立し、大声ではっきりと自己紹介をするとリリアに礼を表した。
「あなたに神のご加護がありますように… で、誰?… 先輩?…」
リリアは挨拶もそこそこ自分を指さしながら不思議がっている。コトロと青年を交互に見ている。


昼過ぎから子供たちの青空クラスの教師をしていたリリア。
青空クラスは子供たちに剣、魔法等、その他特殊スキルを冒険者ギルドのメンバーがボランティアで教えるのだ。
週一回のペースで開かれ、持ち回りで当番が回ってくる。
貴族の子で剣技や魔法を教わりたい者は学校、師匠を付ける、道場、家庭教師等学べる機会はたくさんある。世の中金次第。
平民はボランティアから教わったりしているのだ。身分に関係なく参加できるのだが、貴族の子は滅多に見ない。「貴族が平民から師事を受ける」なんて考えられない事だそうだ。

「攻撃魔法を教わる子!」「精神魔法はこっちよ!」「剣、斧、槍は俺のとこだ!」「召喚はこっちの魔法陣の中で」
それぞれ習いたい事が習える。
「弓!弓よ!弓を習う子はここよ!」リリアも子供たちを呼ぶ。
リリアは子供に人気だが、弓は子供にあまり人気がない…
子供は剣を振るう戦士や呪文を唱える魔術師に憧れる。保護者も同じ事なら近接攻撃のスキルから習わせたいようで、弓を習う子は家が狩り、採取関係か弓兵の家系等。
どうでもよい事かも知れないが、他より弓を習う子供の集まりがいまいちなのはリリアにとって少し不満。
「弓って超かっちょよいのよ!遠くからやっつけちゃうのよ!」リリアはニコニコと小さなお客さんに愛想を振りまきながら弓を教える。
「お姉ちゃん、ハンター?アーチャー?レンジャー?それともスナイパー?」たまにこんな質問がある。
「お姉ちゃんは全部よ!オールマイティなの!すんごいんだから!」嘘ではない、確かにこなせる。でも、世間の言う戦闘のオールマイティは剣技、攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法程度は当たり前。それらと精神魔法、エンチャント等が出来る人間のことだ。
「父ちゃんが言ってたぜ、リリアは勇者だって」
「まじぃ!ねぇ!リリア、勇者なら魔法やってよ!」
リリアの一番痛いことろ、子供たちは純粋で残酷。
「リリアは勇者だけど、魔法は出来ないって言ってたぜ」
「嘘つけよ、魔法出来ないのに勇者になれるわけねぇじゃんかよ!」
「ばぁか!今時勇者なんか魔物退治しないから魔法使えなくたってなれるんだよ」
「嘘だ!勇者は戦えて魔法が使える、強い者だって俺の父ちゃん言ってたぞ!」
子供たちの喧嘩が始まった。
「あらあら、あたしの事で喧嘩はダメよぉ!」
笑顔で柔らかく諭すリリア、心の中では“いいぞぉいいぞぉ!ボブ、小生意気で親の教育がなっていないトムをぶちのめせ!”っとボブが優勢の間はやらせておく。

まぁ、とにかくボランティアの青空クラスから戻ってきたら突然、青年に先輩扱いされたリリア。
「あたし?… 先輩?…」自分を指さすリリア。
「うっす!突然ながら失礼します。俺、勇者を目指していて、ルーダリア王国公認勇者のリリア先輩がこのギルドにいるって聞いてやってきました!よろしくっす!」
リリアはコトロと視線が合った。コトロがじぃっとリリアを見つめている。
「…… あぁ、ちょっと、今荷物を置いてくるから… とにかくすぐ戻って来るから…」
リリアは私物を置きに自分の部屋に上がる。
「待たせてもらいます!うっす」
背後で青年の声がしている。


夜中過ぎ、ルーダの風も閉店。
リリアとブラックはバーで飲んでいた。
ブラック曰く、彼はフリートの村出身。
「村の出身?ブラキオーネって貴族の名前じゃないの?」
リリアが聞くとブラックが幼い時に親が准貴族の身分を買い取って名前を変えたそうだ。
その親は数年前に相次いで他界。
ブラックは体格にも恵まれ、剣技も、魔法もこなせるので勇者に憧れて冒険者ギルドに入った。勇者に憧れたもののフリート帝国で勇者は完全管理されているのだ。努力次第で勇者になれるものではない。
「魔法も出来るの?凄いじゃない、リリアは完全に物理系よ」
リリアが驚くとブラックは「俺、体育会系っす」と言っていた。
リリアは物理系と魔法系以外にタイイクカイ系という知られざるカテゴリーがあった事にさらに驚く。
最近リーダリア王国では女性勇者が指名されたと噂を聞き、自分にもチャンスがあるかとルーダリアまで来たらしい。リリアの噂を聞き“先輩”に会ってみたいと探し回ってここまで来たというのだ。
凄い熱量と言うのか、ツッコミどころもいっぱいだが、実行力は大したもの。
リリアがもっと驚くのは、情報を繋ぎ合わせてたどり着けるほどリリアが勇者として知られ始めているところか…

夜中を過ぎて
「先輩!また明日っす!」ブラックは宿に戻っていった。

「…明日?リリアは明日から仕事ですよね?」ブラックが帰った後にコトロがリリアに聞く。
「うん、何か… しばらくあたしの仕事についてくるって、あたし勇者の先輩だから」リリアは少し照れている。その気になっているっぽい。単純な先輩。
「… 悪い人じゃないですけど… いや、むしろ誠実な青年でしょうけど… 反対です。一緒に仕事したらどちらか、あるいはリリア達両方死にます」コトロが言う。
「何なのよ!リリアはこの半年以上けっこう真面目にやってきたのよ。子供扱いばっかりで、だいたいさっきもブラックがここに入ギルドしたいって言ったら断って!誰とパーティー組もうが大きなお世話!」
「リリアとあの青年のために言っているんです。二人は変に真面目過ぎます。どちらかが変に犠牲になって死ぬことを言っているんです」
リリアとコトロは久々に大ゲンカ。

「片づけたニャン、先に休むニャン」大ゲンカを尻目にネーコは上がる。
ラビはリリアが無茶をしださないかハラハラしながら見ている。
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