勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【117話】 作戦「待ち合わせの日」

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ビケット達がお尋ね者捕縛決行の日。
正確に言えば作戦「待ち合わせの日」決行される日。
即時に知らせる手段はないが、作戦が開始されれば直ぐに知らせの使いが来るはず。
「決行されたか、成功か失敗かわからないの?」リリアがブリザに質問。
「後から知らせが来るはず。とにかく、結構を決めた日以降は見張りをして、ヨークマーが通るか通らないかを見張るの」と解説。
とにかく、本番開始でリリアも山道が望める位置に潜む。


潜伏するのでじぃっと息を殺し… と思われるかも知れないが、案外思ったより繊細ではない。
リリアは馬で駆け抜けられても対応できるように、弓の射線が道を縦断する高い位置の茂みに潜む。道から目線を上げる位置で距離もある。派手に顔でも出さなければ、少々動き回っても気が付かれる心配はない。
通行者が現れた時だけ集中して観察していればよいのだ、むしろ退屈との戦い。

未明から張り込みを初めて、朝日が昇り動き回り始めた植物系魔物を一人で退治。
「手早く退治しないと仕事にならないわね…」
見逃したり気取られたりできない。多少強引に倒していく。
「魔物バラの刺は痛いし、ファイアーフラワーは熱いし、スピッターのネバネバは被れるし…」
一人でブツブツ言いながらも退治。皮膚被れはお手製の薬草で回復。
茂みで待機していると朝一で村を出発してきたキャラバンが通り始めた。徒歩の旅行者、移動の冒険者、馬車の客、観察する。フラジュが迷彩しながら近くで確認しているはずだ。
ブリザからの合図もない。
日の出キャラバン達が通過すると一時はパラパラと通行者。
決行のタイミングからいってもヨークマーが現れる確率は午後以降だと予想できるが、いい加減に見張るわけにはいかない。山道に動きがあると緊張しながら見張る。
「皆まとまって行列してくれればこっちも楽なのにね…」
たまの通行者を眺めながら独り言のリリア。

お昼は茂みの中で、乾燥干し肉を水でふやかして長々と噛みながら道を眺める。
植物魔物を何体か倒す。少々痛い思いをするが、眠気覚まし。
小鳥のさえずりを聞いているとウトウトしてくる。影の長さで時間を計りながら干しブドウを一粒ずつ食べる。が、いつの間にかポケットも空になった。
「夕方になってきたし、今日は来ないんじゃない?それか見逃したか…」リリアは独り言。
リリアも見張っているが、距離のあるリリアの位置からは見分けがつかない。本人確認はほぼブリザとフラジュの腕前にかかっていると言っても過言ではない。


傾く日差し、緑の山もコントラストが出てくる時間帯。カッコーが森の中で鳴いている。
“朝が早かったし、どうにも眠くなるなぁ”リリアが目をしばしばさせる。
「ヒュッ」
通信のイヤリングから雑音とも鳥の鳴き声ともつかない音が一瞬入った。合図だ!
リリアは弓を握りなおし茂みから道を凝視する。
聞き逃しそうな程度の音だが何度も練習してきて合図だ、間違いない。

リリアが見ているとしばらくして、森の中を蛇行する道を曲がってくる三頭の馬が見えてきた。乗り手は二人、一人は空の馬の手綱を引いている。二人ともポンチョを羽織、フードを深くかぶり顔も装備がわからない。ヨークマー本人だろうか?本人であれば、もう一人は手下かなんかだろう。とにかく実行の合図。色んな場合を想定して準備してきた、その通りにやる。

射線の通る道の上を馬がやってくる。“キラキラ”と木々の間から光が反射した。
ブリザから“決行”の合図。
リリアは立ち上がって弓をかざしショットイメージ。大胆に立っているが、この距離なら特殊な能力でもあるか、よっぽどの注意力でもない限り気が付かないだろう。
“恰好からじゃ装備がわからないなぁ…”弓士なら困る場面、普通なら…
馬が手前に歩んでくる。距離100は切ったかな?
今回は矢をつがえて狙えない。構えたらすぐに射らないといけないのだ。弓をかざしてイメージする。
距離80程度まで来た。印まで後少し。
リリア達にだけわかる印が道端にあり、その位置でリリアが弓で足止めする手順。その印まであとわずか。
「父さんリリアに力を… 母さん武器を手にするリリアにお許しを…」
“今ね!!”
リリアは矢筒から矢を引き抜いた。「シュパ!」矢の先に灯りが着いた。クラーケン事件から持ち帰った魔法効果付きの救難信号矢が点火。
素早く矢をつがえると“ズバッ”と矢を放つ。

リリアの放った矢は空中に虹の線を引いて馬のすぐ足元に刺さった。
馬が驚いていななきながら暴れる。
「バフ!バフ!」
足止めした馬に対してスモークが立ち込め、スクロールで数体のスケルトンがクリエートされ、ブリザのストームが騎乗の者を襲う。
「なんだ!」「待ち伏せだ!」男の叫び声と馬の鳴き声が山中に響く。

リリアは高所から軽快に道に下りると、弓を構えながらスモークが立ち込め、スケルトンが立ち塞がる現場に用心深く近づいて行く。
「ゴーレム!フラジュ!抑えるわよ!」
ブリザの声が森の間から響いてきた。
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