勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
上 下
103 / 517

【52.5話】 昼食のラビぴょん

しおりを挟む
リリアとラビはルーダ港の屋台の並ぶ商業区を歩いていく。
リリアはラビの手を引き、スタスタと賑わいの中をすり抜けるように歩く。
ディルの金玉を蹴り上げて建物を出た直後は相当怒りが顔に出ていたリリアだが、今ラビがリリアを見ると、もう全然気にもしていない様子。

この時期は街でも村でも収穫祭の準備が進められる。ルーダ港でも収穫祭まで1週間になり、秋から冬にかけて涼しくなるシーズン。ルーダリアの地方は冬と言え、雨でも降ってジッとしていない限りは半袖で過ごせる。
収穫祭前とあって、普段よりだいぶん人も多くなっている。恐らく、それを見越しての試合スケジュールなのだろう。


さて、ラビ達は娼館街の一画で昼食中。普段、契約試合のミーティングの後はリアルゴールドの偉い人と食事するのだが、今日はリリアが大暴れして飛び出してきてしまい、
「二人だけなら面白い場所があるのよ」と、さっさと歩くのでついてくると娼館街にも食事処があり、その一角で食事中。

「ここ、通りも見えるし、賑わってるし、安いし、美味しいし、ルーダ港で時間つぶしなら最高の場所よ」と、リリアはシーフードパスタを食べながら、ニコニコと通りを眺めている。周りの客は娼婦、娼夫、お客、その他の理解しがた恰好をしている客で繁盛している。治安の悪さに目をつぶれば、活気が溢れ経済的な場所な上に確かに、意味不明な面白さがある。ラビは海の幸と山の幸の盛り合わせサラダを食べながら、機嫌を直してニコニコしているリリアを眺めている。
「あ、あそこ、娼婦が客引きでもめてるでしょ?… あの男あんな事して… ほらほら用心棒が飛んできた、あぁ、あの人ボッコボコだなぁ… あの娘、二人同時に客取るのよねぇ、凄い体力。あたしも体力は自信あるのよ、リリアなら5人同時くらい平気、したことないけど… あっはっは、ピョン今の見た?お店からつまみ出されて階段からひっくり返ったわよ」
ちょっと下世話な趣味だが、楽しそうにしているリリアを見ているとラビも何だか楽しくなってくる。
恐らくラビよりリリアは5、6歳年下だろう。無茶が過ぎるところがあるが、明るく生き生きとして、全身全霊で生活するリリアを見ていると理由もなく応援したくなる。
「リリアがこんな所に来るから驚いた?ピョンとあたし、寝るのかと思った?」リリアが笑っている。
「大丈夫ピョン。ラビも最初ここに来た時は、よくここでご飯してたピョン」ラビが答える。
「ラビ、娼婦してたの?稼いだ?一日何人と寝るの?」
「違うピョン、ラビは最初仕事が無かったから、昼は港湾の倉庫で在庫確認と夜はそこの裏にある娼館で掃除婦してたピョン」ラビは苦笑い。
「ふぅん… ラビも苦労してるのねぇ。あたしならここで働くなら娼婦かなぁ… 稼げて、男と寝れる… 一度で二度美味しい」
「そんな簡単に稼がせて足を洗わせてはくれないピョン。リリたんの体力でも大変ピョン」ラビがサラダを食べきりながら言う。
「…… 闘技場で下着になるよりマシよ。何が国の勇者よ、ねぇ?」リリアは呆れている。
「確かに、娼婦以上に体張ってるピョン… ねぇリリたん…」
ラビが言いかけたが、リリアは自分のパスタを食べきるとサッと席を立って、ラビに声をかけた。
「ラビ、ハチミツ野菜ジュースを飲みながら、リリアのポスター見学巡りしようよ。最近、リリアのポスターの落書きを見て回るの楽しみなの。結構傑作があるのよ」
リリアが立ち上がってラビを促す。
「…… リリたん…」ラビは小さく呟いたが、すぐ笑顔になって答えた。
「目に画鋲が刺さって、乳首とか落書きしてあるやつピョン? 見に行くピョン。笑えるピョン」
ラビも席を立つ。


見た目より真面目で、仲間思いのところがあるリリアをラビは大好きだ。
ラビにはリリアが勇者向きな性格とはあまり思えない、能力的にも…
仕事を引き受けるたびに「皆に神のご加護を!」と挨拶しながら、バー・ルーダの風を出ていくリリアが二度と帰って来ないのではかと心配しながら見送る。
ラビが唯一憂鬱な瞬間。しかし、リリアは自分の生還に微塵の疑いも無いようだ。下手にアドバイスしない方がよいのかも…
「リリたん、最近ご馳走になってばかりピョン、ラビが野菜ジュースご馳走ピョン」
「そ!じゃ、苦いの苦手なリリアはハチミツダブルよ」リリアは笑顔で振り返る。
「通は、素の野菜ミックスぴょん」ラビが答える。
破廉恥な姿の娼婦が香水を漂わせて通りすがって行った。

「明日は勝って、戦績二勝一敗ピョン」
「リリアの勝ち負けなんて誰も気にしてないよきっと」
「ラビはリリたんの勝ちに賭けるピョン」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。  しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...