99 / 517
【50.5話】 その夜 ※※※
しおりを挟む
「…… んん…」
夜中、リリアは目を覚ました、何か空気が動くような気配を感じた。
“おトイレ… 喉が渇いた…”リリアがベッドから身を起こした時だった。
「リリア、あんたはこれ持って教会の裏にお行き」
メルがリリアを起こして袋を渡す。
「… 母さん… 父さんは?…」リリアが眠そうに問う。
「寝ぼけている場合じゃないよ、襲撃だよ、父さんはもう出たよ」
外では、叫び声、悲鳴が響きだした。大きな物音がする。
「教会の裏… 袋…」リリアは呟いてハッとする。
リリアの家の約束事だ。盗賊に襲われた場合は、非常食と薬草の入った袋を持って教会裏の墓地に行くのだ。
盗賊の目的は金目の物、墓地なんて最後の最後、村を襲ってみたが金目の物が全然なかった場合、腹いせに墓荒らしをする程度、言わば盗賊が最後の最後まで寄り付かない場所だ。
そこに数日分の食料を持って隠れるのである。緊急事態でも最大警戒レベル。
“ドックン”っとリリアの心臓が血を送り出す振動が体中に響き、いっきに体が、頭が、細胞レベルで目覚めえる感覚。
「か、母さんは?」リリアが呼ぶ。
「今日は多いよ、村も怪我人が出る、私は自警団の詰め所に行ってるよ、早く行きな!」メルは準備しながら呼ぶ
リリアはコクコクと頷くと袋を手に一目散に扉を出た。
混乱の村を走り抜ける。建物の影に入りながら走る。叫び声があがり、炎が揺れる。人の影が巨人の様に蠢く中を墓地に向かって走る。他の子供達も同じ方向に走っていく。
子供は捕まったらとんでもない目に合わされる、特に女の子ならなおさらだ。
リリアは墓地の墓石の裏に身を隠した。何度経験しても恐怖の時間。
他の子供達も墓裏に隠れている。皆震えながら息を殺して潜む。恐怖と不安で泣き叫びたいところだが、そんな事をしてみても何の意味の無い事を良く理解している。
子供によりそれぞれだが、リリアは決まった場所に潜む。リリアの潜むお墓の裏には大きいお墓があり、裏からでも少し見え難い様に思える。
リリアの側でリオンが縮こまり耳を塞いで震えている。リリアは縮こまらないタイプ。
お墓から顔を上げて見ると、向こうの通りを人影がウロウロし、叫び声が聞こえる。
しばらくすると村が静かになった。
“終わったな…”リリアには何となく雰囲気がわかる。問題は誰がお墓に現れるか…
盗賊が現れたら、逃げなければいけない。
ガウとメルの話しなら、盗賊だった場合はそのまま森に逃げ込み、街の教会を目指し村には戻らない事だ。袋の食料と薬はリリアが街まで逃げる分らしい。
村人なら「もう大丈夫だ」っと声がかかる。
この「もう大丈夫だ」はそんじょそこらの大丈夫とはわけが違う。
盗賊を討ち果たし、家屋の隅々までシェリフ、自警団が確認し、シェリフ・リーダーのガウが、脅威の殲滅を確認した時点で、ガウ自身から発せられる解除宣言。
静まった後のこの静けさが一番の恐怖…
もう戦闘は終わっているはずだ、リリアには何となくわかる。しかし、今夜は普段よりずいぶん時間がかかっている。村が防衛したならもうとっくに大丈夫宣言出てもよさそうなのに…
「おーい!もう大丈夫だ!出てこい!」見慣れた人影、聞きなれたシェリフの声。
子供達が一斉に墓地から出る、とにかく家族の元へ。リリアも走り出す。
ガウはまだ忙しいはずだ、とりあえず母、メルの下にへ、早くほっとしたい、抱きしめられたい。
リリアは詰め所に一目散、ダッシュ、詰め所の扉までもう少し…
「母さん!母さん! ぐぇ!」叫びながら戸口に入ろうとして、誰かに掴まれた。
「ドリおばさん…」見るとドリがリリアの襟首を掴んでいる。入り口まで後数歩だというのに…
「…… リリア… おまえ… 先にガウに会っておいで…」
「ドリおばさん、母さんはここよ、詰め所にいるよ」
「…… 詰め所は後だ、今は入れない… 先に父さんに会っておいで」
リリアが進もうとすると、また力を込めて止められた。見ると、詰め所内には血が広がっているのが見えた…
何か… 見てはいけないもの…
リリアはドリを振り払うとガウに会うために村の外れまで駆けだした。
リリアは家の前で待機させられていた。一度村外れまで行ったが、ここでも引き留められて家で待っていろと言うのだ。この対応… 見たことがある…
「父さんはゴーレムと呼ばれる戦士よ… 母さんは魔法を使えるんだから…」
リリアは力なく呟く。村最強のコンビに万が一もあるはずがない。
シェリフ達がリリアの下にやってきた。リリアは怖くて誰の顔も見ず、揃い立つ足元ばかり見ていた。
「リリア… 隊長の剣… と、メルのペンダントだ… 教会で会える…」
リリアはキョトンとして、それらを受け取るだけだった。
辺りにはまだ焦げた匂いが充満していた…
夜中、リリアは目を覚ました、何か空気が動くような気配を感じた。
“おトイレ… 喉が渇いた…”リリアがベッドから身を起こした時だった。
「リリア、あんたはこれ持って教会の裏にお行き」
メルがリリアを起こして袋を渡す。
「… 母さん… 父さんは?…」リリアが眠そうに問う。
「寝ぼけている場合じゃないよ、襲撃だよ、父さんはもう出たよ」
外では、叫び声、悲鳴が響きだした。大きな物音がする。
「教会の裏… 袋…」リリアは呟いてハッとする。
リリアの家の約束事だ。盗賊に襲われた場合は、非常食と薬草の入った袋を持って教会裏の墓地に行くのだ。
盗賊の目的は金目の物、墓地なんて最後の最後、村を襲ってみたが金目の物が全然なかった場合、腹いせに墓荒らしをする程度、言わば盗賊が最後の最後まで寄り付かない場所だ。
そこに数日分の食料を持って隠れるのである。緊急事態でも最大警戒レベル。
“ドックン”っとリリアの心臓が血を送り出す振動が体中に響き、いっきに体が、頭が、細胞レベルで目覚めえる感覚。
「か、母さんは?」リリアが呼ぶ。
「今日は多いよ、村も怪我人が出る、私は自警団の詰め所に行ってるよ、早く行きな!」メルは準備しながら呼ぶ
リリアはコクコクと頷くと袋を手に一目散に扉を出た。
混乱の村を走り抜ける。建物の影に入りながら走る。叫び声があがり、炎が揺れる。人の影が巨人の様に蠢く中を墓地に向かって走る。他の子供達も同じ方向に走っていく。
子供は捕まったらとんでもない目に合わされる、特に女の子ならなおさらだ。
リリアは墓地の墓石の裏に身を隠した。何度経験しても恐怖の時間。
他の子供達も墓裏に隠れている。皆震えながら息を殺して潜む。恐怖と不安で泣き叫びたいところだが、そんな事をしてみても何の意味の無い事を良く理解している。
子供によりそれぞれだが、リリアは決まった場所に潜む。リリアの潜むお墓の裏には大きいお墓があり、裏からでも少し見え難い様に思える。
リリアの側でリオンが縮こまり耳を塞いで震えている。リリアは縮こまらないタイプ。
お墓から顔を上げて見ると、向こうの通りを人影がウロウロし、叫び声が聞こえる。
しばらくすると村が静かになった。
“終わったな…”リリアには何となく雰囲気がわかる。問題は誰がお墓に現れるか…
盗賊が現れたら、逃げなければいけない。
ガウとメルの話しなら、盗賊だった場合はそのまま森に逃げ込み、街の教会を目指し村には戻らない事だ。袋の食料と薬はリリアが街まで逃げる分らしい。
村人なら「もう大丈夫だ」っと声がかかる。
この「もう大丈夫だ」はそんじょそこらの大丈夫とはわけが違う。
盗賊を討ち果たし、家屋の隅々までシェリフ、自警団が確認し、シェリフ・リーダーのガウが、脅威の殲滅を確認した時点で、ガウ自身から発せられる解除宣言。
静まった後のこの静けさが一番の恐怖…
もう戦闘は終わっているはずだ、リリアには何となくわかる。しかし、今夜は普段よりずいぶん時間がかかっている。村が防衛したならもうとっくに大丈夫宣言出てもよさそうなのに…
「おーい!もう大丈夫だ!出てこい!」見慣れた人影、聞きなれたシェリフの声。
子供達が一斉に墓地から出る、とにかく家族の元へ。リリアも走り出す。
ガウはまだ忙しいはずだ、とりあえず母、メルの下にへ、早くほっとしたい、抱きしめられたい。
リリアは詰め所に一目散、ダッシュ、詰め所の扉までもう少し…
「母さん!母さん! ぐぇ!」叫びながら戸口に入ろうとして、誰かに掴まれた。
「ドリおばさん…」見るとドリがリリアの襟首を掴んでいる。入り口まで後数歩だというのに…
「…… リリア… おまえ… 先にガウに会っておいで…」
「ドリおばさん、母さんはここよ、詰め所にいるよ」
「…… 詰め所は後だ、今は入れない… 先に父さんに会っておいで」
リリアが進もうとすると、また力を込めて止められた。見ると、詰め所内には血が広がっているのが見えた…
何か… 見てはいけないもの…
リリアはドリを振り払うとガウに会うために村の外れまで駆けだした。
リリアは家の前で待機させられていた。一度村外れまで行ったが、ここでも引き留められて家で待っていろと言うのだ。この対応… 見たことがある…
「父さんはゴーレムと呼ばれる戦士よ… 母さんは魔法を使えるんだから…」
リリアは力なく呟く。村最強のコンビに万が一もあるはずがない。
シェリフ達がリリアの下にやってきた。リリアは怖くて誰の顔も見ず、揃い立つ足元ばかり見ていた。
「リリア… 隊長の剣… と、メルのペンダントだ… 教会で会える…」
リリアはキョトンとして、それらを受け取るだけだった。
辺りにはまだ焦げた匂いが充満していた…
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる