勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【40話】 試合後のインタビュー

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リリアは勝利者インタビューを受けている。
後ろには関係者が居並び、記者とインタビュアーに囲まれている。

コングに勝ったらしい… リリアはほとんど記憶にない…
立ち上がると奇声を発しながら、コングを鞘ごと殴りつけ続けたらしいのだ。
コングに殴られては防ぎ、捻られては振り払い、蹴られては立ち上がり、とにかく執念で戦い続け最終的には勝利した。決して勇者らしくなく、華麗でもなかったが、泥臭く何とかギリギリの勝利。リリアらしいと言えばらしいが、勇者のイメージとは程遠い勝利。
しかし、その恰好悪さが逆に新鮮で大衆の心に響いたようだ、結構凄い歓声だった。

リリアは試合終了と同時に一度控室に戻された。
防具がメチャクチャだ。リリアもメチャクチャ…
右目は腫れあがり、ほとんど見えていない。額と鼻から血をしたたらせている。
あばらが痛い… たぶん折れている。呼吸すると、動くと音がする…
フォー・バレイ・ストーリーのミス・オイワのような顔になっている。
いや、ミス・オイワとリリアが並んでいたら十中八九ミス・オイワに結婚申し込みが殺到するだろう。それほどすごい…
まぁ、ポーションさえ飲んだらたちどころに治るのだが…

「リリア様、一試合目ですよ、鎧がボロボロです。演出が過ぎます!」
「防具の予備を持ってきておいてよかっ た、早く着替えて」
「ちょっとこれはやり過ぎだよ、完全に鎧がゆがんでる、修理、修理」
「顔の血、何とかして… 鼻血が止まらない?いいから、拭くだけ拭いて」
「インタビュー始まるよ!とにかく体裁を整えて」
皆口々にかってな事を言いながら、リリアの血で染まった防具をひん剥き、無理矢理新品をあてがう。ラビはリリアの怪我に驚いてオロオロしている。
「お願い、着替えより、ポーション… 一口でいいの、ポーション」リリアは力なく訴えるが誰も聞いちゃくれない。立っているのもつらい。ポーションさえ飲めれば回復するのだが、みんな鎧と宣伝の事しか頭に無いようだ。
「時間が無い、これでいい、さぁ早く早く」
リリア以外の外見が整ったら、抱えられるようにしてインタビューに駆り出された。


インタビュー… インタビュアーの女の子、記者、けっこう引いている。客席からどう見えているかわからないけど、近くで見ると新品鎧に身を包んだリリアは、大怪我状態で止血も間に合っていない。なかなか衝撃的なビジュアル。口の中も切っているから無理して笑うと、並びの良い歯が赤く染まっている。皆の顔が“この人大丈夫か?”と物語っている。
勝利品は体力回復ポーション1年分。
リリアは思う…
“1年分もいらないから、今1本、いや一口飲ませて…”
そもそもコングが勝っていたら、コングにポーション1年分が与えられたのであろうか?
インタビューは無事進む。用意された質疑応答。
「今日のこの勝利をファンとスポンサーの…」とか「~が提供してくれた、このリリアモデル勇者セットのお陰で…」とか「ピンチもありましたけど、リリアモデルの剣の切れ味のお陰で…」とか「女勇者としてリリアモデルを着れることを…」とか「子供たちに夢と希望をあたえる勇者として…」とか、ロレツは回っていないがリハーサル通り答えるリリア。
実際のところはギルド側のお陰で無茶な対戦相手に刀身も抜けない剣で鞘ごと猿のデカいやつをぶん殴る女勇者として目に余る試合をして、大怪我の上、未だに回復もさせてもらえてない、絶対に良い子の皆は真似しないでね!って内容だったのだが…


インタビューも最後の質問。ここだけリリアの自由発言が許されている。
“これで最後だ、あっちこっち痛いけど、ポーション飲んでお家に帰れる… 父さん、母さんリリアは何だかんだ生き残りました”リリアはほっと一安心。
「勇者リリア選手、最後に今日集まってくれたファンに一言」聞かれるリリア
「…… 早くポーション飲んで、お家に帰りたいです…」本音で涙ぐむリリア。
「早くポーション飲めると良いですね!皆さんリリア選手に盛大な拍手!」こちらも本音だろう。


この後控室で色々怒られたリリアだったが、次の日“大猿を鞘でぶっ倒す、型破りな女性勇者登場”とメインイベント以上に話題をさらって、スポンサー達は大喜びだったらしい。
イルミネーションマッチ第2試合も予定通り組まれます。リリアがんば!
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