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【26.5話】 井戸の女 ※ルーダ港道中の話し※
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ランカシム砦から東に進むとイアール村がある。ランカシム砦からポート・オブ・ルーダとは直線上とは言い難いが、イアールに休憩がてら立ち寄るには良い場所。
町と村の中間といった大きさだろうか、ルーダリア王国の登録村の証に王国のバナーがはためいている。
その村にいくつか井戸があるのだが、そのうちの一つの井戸をめぐる話し。
「おい、そこの母娘、井戸の水を汲んだだろう」いかにもガラの悪そうな男三人組が旅装備の母娘に因縁をつけている。
母親はどうやら少し剣を使い、何かの初級召喚が出来るらしく、ペンダントを見つけているが、恐らくこの状況を打開出来るほどのスキルではないであろう。
「よそ者がこの村で井戸を使うなら使用料を俺達に払って貰わないと困るんだよ」
娘はすっかり怯えているようだ。旅をする程なので母親は落ち着いているが、娘もいる手前、大人しく黙っている。何にせよ井戸水に使用料をふっかけられて困っていることは確かだ。
村人も気の毒そうに母娘を見ているが、誰も抵抗はできない。村のシェリフは何をやっているのだろうか?
井戸水に金を取るだけでも言語道断なのに、一汲み100Gと法外な値段を脅し取ろうとする。払えなければ母娘で働いてもらうと典型的な脅し。
母親も困って、10Gで許してくれと、お金を取り出そうとした。粗末な旅装備の母娘にとってはなけなしの金だろう。
その時、どこからかスタスタと女が井戸にやってきて水を汲み始めた、母娘と男達の押し問答のすぐ傍で。
全く、問答をしている人間を気にする素振りも無く桶を井戸に投げ込むと、カラカラとロープで桶を引き上げる。汲み上げた水を自分の水筒に入れると、桶に残っている水を雑に自らの口に流し込む。
また、桶を井戸に投げ込んで水を汲み上げ、アッと言う間に母娘から水筒を取り上げると、桶の水で満たしてあげて、さっと母娘に返す。母娘もあっけに取られながら受け取る。
あまりに、堂々と自然にやるのでその場の全員があっけに取られて見ている。
よく見るとその女は、背が高くポニーテールを高く結いあげている。狩人の皮装備に弓、腰には短剣を帯びた姿。
“この女、この状況がわからなのか?”皆息を飲んで見ている中、女はまた桶を井戸に放り込むとカラカラと水を汲み上げる。
桶から口に水を流し込むと残りは顔から胸元に浴びるように桶を返して水浴びをしてみせ、微笑みながら男達に視線を投げかけてきた。まるで、
“あら?何か言うべき事があるんじゃないの?汲み放題なら井戸の水、まだまだ使わせてもらいますよ”とでも言っているような表情。
整った顔立ちだが、いかにも気が強そうな目に形の良い唇。
男達をじっと見据えながら、また桶を井戸に投げ込んで、まだ水を汲む気らしい。
“いいの?水汲んじゃいますよ”と言いたげに男達から目をそらさず汲み上げる。
「お… お、おい、おまえ、よそ者だろ」男の一人が我に返ったかのようにようやく口を開いた。
女は手繰っていたロープを放すと、やれやれといった感じでゆっくりと足元に置いた弓の一端を拾い上げる。
「この井戸の水を汲んだら一回100Gを…」
そこまで言いかけた時に女は
「せいやっ!」と踏み込んで、手にした弓で男の顔面を強打し、ぶちのめしてしまった。
ぐうの音も出ない一瞬の出来事。全員唖然としている。
“いやぁ、思ったより大ヒットしちゃったぁ… 弓壊れちゃう”といった素振りで確かめていた弓を足元に置くと、こんどは鞘ごと剣を手にした。
二人の男も剣を構えたが、口をぽかんとさせている。一瞬静かな妙な間が出来た。
「ぃや! はっ!」短い呼吸と共に女が踏み込むと男二人もあっという間に地面に倒れている。二人は完全に目をまわしていて、一人はうずくまって呻いている。
「大の男が井戸周りで暇してるんなら働けばいいのよ」女は言う。
「あ、あの… お陰様で助かりました、ありがとうございました」深々お礼を言う母娘。
「あぁ… あたしね、国と国民の平和のために働かされているのよ、お仕事よ」と笑って女は答えてスタスタと歩き去って行った。
日中の出来事、その場の全員唖然として女の後ろ姿を見送っていた。
娘には揺れるポニーテールと弓を手に去る女の姿が目の奥に焼き付いたに違いなかった。
町と村の中間といった大きさだろうか、ルーダリア王国の登録村の証に王国のバナーがはためいている。
その村にいくつか井戸があるのだが、そのうちの一つの井戸をめぐる話し。
「おい、そこの母娘、井戸の水を汲んだだろう」いかにもガラの悪そうな男三人組が旅装備の母娘に因縁をつけている。
母親はどうやら少し剣を使い、何かの初級召喚が出来るらしく、ペンダントを見つけているが、恐らくこの状況を打開出来るほどのスキルではないであろう。
「よそ者がこの村で井戸を使うなら使用料を俺達に払って貰わないと困るんだよ」
娘はすっかり怯えているようだ。旅をする程なので母親は落ち着いているが、娘もいる手前、大人しく黙っている。何にせよ井戸水に使用料をふっかけられて困っていることは確かだ。
村人も気の毒そうに母娘を見ているが、誰も抵抗はできない。村のシェリフは何をやっているのだろうか?
井戸水に金を取るだけでも言語道断なのに、一汲み100Gと法外な値段を脅し取ろうとする。払えなければ母娘で働いてもらうと典型的な脅し。
母親も困って、10Gで許してくれと、お金を取り出そうとした。粗末な旅装備の母娘にとってはなけなしの金だろう。
その時、どこからかスタスタと女が井戸にやってきて水を汲み始めた、母娘と男達の押し問答のすぐ傍で。
全く、問答をしている人間を気にする素振りも無く桶を井戸に投げ込むと、カラカラとロープで桶を引き上げる。汲み上げた水を自分の水筒に入れると、桶に残っている水を雑に自らの口に流し込む。
また、桶を井戸に投げ込んで水を汲み上げ、アッと言う間に母娘から水筒を取り上げると、桶の水で満たしてあげて、さっと母娘に返す。母娘もあっけに取られながら受け取る。
あまりに、堂々と自然にやるのでその場の全員があっけに取られて見ている。
よく見るとその女は、背が高くポニーテールを高く結いあげている。狩人の皮装備に弓、腰には短剣を帯びた姿。
“この女、この状況がわからなのか?”皆息を飲んで見ている中、女はまた桶を井戸に放り込むとカラカラと水を汲み上げる。
桶から口に水を流し込むと残りは顔から胸元に浴びるように桶を返して水浴びをしてみせ、微笑みながら男達に視線を投げかけてきた。まるで、
“あら?何か言うべき事があるんじゃないの?汲み放題なら井戸の水、まだまだ使わせてもらいますよ”とでも言っているような表情。
整った顔立ちだが、いかにも気が強そうな目に形の良い唇。
男達をじっと見据えながら、また桶を井戸に投げ込んで、まだ水を汲む気らしい。
“いいの?水汲んじゃいますよ”と言いたげに男達から目をそらさず汲み上げる。
「お… お、おい、おまえ、よそ者だろ」男の一人が我に返ったかのようにようやく口を開いた。
女は手繰っていたロープを放すと、やれやれといった感じでゆっくりと足元に置いた弓の一端を拾い上げる。
「この井戸の水を汲んだら一回100Gを…」
そこまで言いかけた時に女は
「せいやっ!」と踏み込んで、手にした弓で男の顔面を強打し、ぶちのめしてしまった。
ぐうの音も出ない一瞬の出来事。全員唖然としている。
“いやぁ、思ったより大ヒットしちゃったぁ… 弓壊れちゃう”といった素振りで確かめていた弓を足元に置くと、こんどは鞘ごと剣を手にした。
二人の男も剣を構えたが、口をぽかんとさせている。一瞬静かな妙な間が出来た。
「ぃや! はっ!」短い呼吸と共に女が踏み込むと男二人もあっという間に地面に倒れている。二人は完全に目をまわしていて、一人はうずくまって呻いている。
「大の男が井戸周りで暇してるんなら働けばいいのよ」女は言う。
「あ、あの… お陰様で助かりました、ありがとうございました」深々お礼を言う母娘。
「あぁ… あたしね、国と国民の平和のために働かされているのよ、お仕事よ」と笑って女は答えてスタスタと歩き去って行った。
日中の出来事、その場の全員唖然として女の後ろ姿を見送っていた。
娘には揺れるポニーテールと弓を手に去る女の姿が目の奥に焼き付いたに違いなかった。
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