勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【21.5話】 大根足 Dead or Alive ※過去の話し※

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昼食を済ませて、お皿を洗い終えたリリアは桶の水に手を浸してパシャパシャしていた。汲み上げたばかりの井戸水はひんやりとして心地よい。
「リリア、あんたまた山に行くんだろ」メルが薬草作りの準備をしながら言う。
リリアは振り返ってメルを見ると黙ってコクコクと頷く。
「じゃ、ちょっと大根足取って来ておくれ、出来るだけ多い方が良いけど、二足は欲しいねぇ」メルがリリアに頼む。
「母さん、夜はもしかして…」リリアの顔がほころぶ。
「そうだよ、今日は鶏と卵が手に入ったから、鶏鍋するよ」メルも笑顔。

リリアの家で大根足を取りに行くとなったら、たいてい夜に鶏鍋が出る。大根足をおろして添えて食べるのだ。リリアにとって、自分はこのために生まれて来たんだと思える瞬間。
大根では無い、大根足だ、味もワンランク上。
大根足は山、平原等に群生している。何故大根足かと言うと、ご存じの通り根の方が二股、三股、四股に分かれていて、危険を察知すると地面から「スポン!」と飛び出て、テケテケテケっとダッシュで逃げ回る。危険が去るとまた地面に刺さって成長を続けるのだ。生け捕りするとかなり美味しい。くたばって時間がたつと大根とさほど変わらない。
出来れば地面から出たところを取り押さえたい、地面から生えている連中は足を広げなかなか掘り出し難い上に、たいていくたばってしまう。
何故か二本足の“アシ”、三本足の“オス”、四本足の“チクショウ”と名前が変わる

リリアはちょっと考えてメルに質問する。
「母さん、何で3本足はオスなの?三本目の足があるってどういう事なの?」誰かの説明にあったが、リリアは足3本の動物が思いつかない。
「… リリア、あんたまた、オットーとシンと喧嘩してきたろ。さっき母親が薬草貰いに来てたよ」メルはリリアの質問には答えず別な話題をしだした。
「だって、あいつらがマーリンとクロエを畑に突き飛ばしたんだよ」リリアは口を尖らせる。
「その前はエマ、その前はユリエとジェシカの分かい?」
「だって… 先に手を出すのはいつも男の子達よ…」リリアは不満そうだ。
「あんたは何だって人の分まで喧嘩して帰って来るのかねぇ。母さんが薬草作って、あんたが喧嘩して回ってたら世話ないねぇ」
「だって、あいつら最近リリアのいないところでやるんだもん…」
いやいや、メルと争っても分が悪い。さっさと山に大根足を取りに行くに限る。
リリアが装備して弓を持つとメルがリリアに言った。
「大根足、 Dead or Alive」
「デッド・オワ・アライブ?」リリアは聞き返したが、
「早く行っといで」メルにはぐらかされた。
メルのあの表情はリリアをからかっている時の顔だと思いながらリリアは家を後にした。


さて、リリアはいつもの装備と共に、網等捕獲道具を持って山に入る。
大根足は鳥のような習性を持っていて、一足が腰を落ち着けると、その周囲は安全と認識し、次々と側に集まるのだ。だから群生している。追い込み収穫が的確で効率が良い。
出来れば人数をかけた方が良いのだが、リリアは単独でやる。
リリアは山の中で気配に気がつくのも、自らが気配を消すのも長けている。大根足に近づける。
ところが、村の男の子達はワイワイやるので、全然だめだ。ピクニック気分で騒ぐので大根足は全部逃げて行ってしまう。影も形も見つけられない。
ガウに頼んだこともあったけど、ガウも適任ではない。まず、ノッシノッシ歩きが察知される。
「父さん、静かに歩いてよ」っと注意するのだが、ノッシノッシが止められないらしくノッシノッシしているから逃げられる。しまいには、
「リリィ!大根足はまだかぁ!」っとデカい声で呼ぶのだ。まったく話にならない。
メルも適任ではないようだ。まず、山に入ると50歩づつくらいに一休みが入る。これでは1週間かかっても狩場につかない。
結局何回めかの休憩で、手作り弁当を一緒に食べて帰って来ただけだった。本当にピクニック。まぁリリアにとっては楽しい思い出の一つにはなっているが。結局リリアの結論から言えば、リリア一人が一番、効率的となっているのである。


「む、いるいる、大根足さん、ヘイズおばさんの足さん」大根足発見だ。30足くらいはいるようだ。村の太っちょヘイズおばの足が思い出される。
連中は比較的に水辺に近い、平地で木々が少ない、日当たりの良い場所にいるのだ。リリアには見当がつく。
そっと回り込み木々を利用して網と仕掛けを作る。脅かしてうまい事ここに追い込む作戦だ。
「ん、これでよし…」連中は脅かすとそれぞれの方向に四散する。10足いたら1足は捕まるけど、残り9足は生き残る、確率兵器みたいな連中だ。大き目な網に追い込む準備完了。
後は反対側から脅かせば良いのだ。楽勝楽勝。


「あわわわわわわわわ!」リリアはでっかい声を出し、手を振り回しながら大根足群に向かって走り混む。とても村の男の子に見せられる格好ではないが、これが効率的なのだ。
まぁ、よく考えたら、目が無い連中だから、手を振り回しても無意味かも知れないが。
大根足共が「ズババババ」っと地面から飛び出してきて逃げ回り始めた。
「わあ!わあ!わあ!」とにかく音で脅かして、網の方へ追い込む。
向かってくる奴は、通りすがりざまにひっつかまえて、網に向かってぶん投げる。足元に来る奴は蹴っ飛ばしていくまでだ。
網まで追い込むと、リリアは要領良く、ロープの一端を引っ張って大根足を一網打尽にした。


「あんた、大したもんだねぇ。一人で10足以上取ってくるだなんて」メルは網にかかった大根足を数えて感心している。
リリアは口を結んでちょっと得意そうにしている。
「ま、普段が普段だから、これぐらいしてくれないとねぇ」
リリアは得意そうに聞いている。
「全部aliveだね、お疲れさん」メルはリリアを労うと、3足ほど取り出して、リリアに続けた。
「残りは村の人に配っておいで。誰に配るかわかってるね」
「… 最近喧嘩したとこ?」リリアが聞き返すとメルはリリアの様な仕草でコクコクと頷いてみせた。


「……全然足りないよ、母さん」リリアはメルに言う
「あんたは… も一回山行って100足くらい捕まえてくるまで帰って来なさんな」
メルは完全に呆れていた。
家の中は出汁の香りが満ちていた。
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