勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【15話】 隅っこ暮らしのリリア

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リハーサルを前日に終えて、勇者リリアの式典当日。リリアは控室にいた。
リハーサル前日にルーダリア王国に戻って来たリリアだが、城下町の賑わいにびっくりした。近隣の王族、有力者、貴族が招待され、お供などを連れてルーダリに入国している。
観光者も増えている、当然商売ギルドも普段の倍以上のお店をだしている。驚くほどの活気だった。

リリアはリハーサル後からほとんど寝ないで準備に入っていた。正確に言えば、リリアの準備に関わる人達がリリアを寝かせてくれない。
リリアは控室の一角でヘアメークやお化粧をしている。控室は蜂の巣をつついたような大騒ぎ。リリア専用の控室は無く、何だか大勢がメーク等をしている隅に座っている。
スタッフの会話が思い出される。
「リリア様のお控室が無いの?」と一人のスタッフが驚いて聞くと、どうやら、国賓の控室を割り当てる時にリリアの部屋は失念されていたらしい。とにかくどうにかしないと、との話で大部屋の控室の一角におさまったのだ。
その後色々大変な事がリリアの身に起きている。

まず、座ってかなり長時間放ったらかしで、リリアが疲れて居眠りをしていると、突然起こされ「こんな所でなに寝てるんだ」っと怒られる。じゃ、どこで何をするんだと聞くと全然話がかみ合わない、どうやらスタッフと間違われているらしい。私が今日主役のリリアだと告げると一悶着あって、やっと見るからに新人そうな担当が現れた。どうやらメークアップの担当も割り振ってなかったらしい。
明らかにおぼつかない手つきで先輩らしき人に怒られながらリリアに化粧を施す。リリアは不安いっぱい。その新人、鏡が無いというのでどこからか鏡を取って来たが、それが何と魔法の鏡。
“魔法の鏡ってその辺においてある物なの?”リリアは驚く。その魔法の鏡はご存じの如く顔が現れ、リリアにしきりに話しかけてくるのだ。何だか最近倉庫で埃を被っていたので久々人と話せて嬉しいらしい。なんでも鏡があれば、どこでも見通せるらしく博識で話が面白く良い暇つぶしなのだが、鏡本来の用途としては役にたっていない。新人さん鏡見てますか?

化粧やヘアメーク等を施され、魔法の鏡とおしゃべりしながら時間を潰していたら、リリアの、式典で勇者が着る鎧がようやく出来たといって防具業者がやってきた。
「鎧を着るの?」と尋ねると、勇者らしい姿で式典に出て欲しいとの事。青く、金の装飾、赤い宝石の鎧、盾、兜、剣の一式。どこかで見たことのある紋章…
「これの紋章って、勇者ロ…」まで言いかけたら、何だか周りが“お前、それ言う?”的な空気になったのでリリアは空気を読んで黙った。非常に直線的な思考とでもいうのだろうか、確かに勇者らしさは100点、オリジナリティは0点な勇者セット一式。
なんでも、本家ソルディア家の紋章は版権問題で使えないらしい。血筋が遠いとはいえ同族なのにケチくせぇ連中だ。この機に新しい紋章を制作したらしいのだが、版権問題でいったらこっちの方が問題ではないだろうか?リリアにはよくわからないがリリアのゴーストがそう囁くようだ。

その鎧を着せるのである、かなり無理に。
「いだだだ… いだ…」全然体にあっていない。胸とお尻がギュウギュウだ。それを4人がかりで無理矢理ねじ込むのだ。何でこんなサイズなのかリリアが聞くと
「時間が無くて寸法とれませんでした。今後の事もありますし、胸やお尻を特注サイズにするより汎用性を持たせました。サイズMです」との事。
しかも一部手触りがおかしい、着色した皮の様な手触りなので聞くと、どうやら一部まだ制作途中とのこと。ばれると不味いので分からないように振舞ってくださいと。光沢が全然違うし、ばれますよとリリアが言うと、「そこを何とか」と頼まれた。何とか出来る事なのだろうか?話がややこしい。
「何が、ようやく出来ました!だ。出来てねぇじゃん」と言ってやりたい。
しかし、今度リリアの防具を10%オフで制作してくれるというので、とりあえず我慢と努力である。鎧の方は胸やお尻がつかえるので、最終手段とばかりにリリアの体にローションを塗りたくって鎧をねじ込んでいく。
防具屋曰く
「勇者様、ご安心を。こういう場合は、これでいつも何とかなります」
「いつもこんな事になるの?」リリアはさすがに腹がたって言ってやったが、防具屋は必死過ぎて聞こえてないらしい。ご安心どころかご乱心寸前のリリア。
皆で鎧を着るために格闘していると、リハーサルから変更がありましたと誰かがやってきた。リリアはゆっくり話を聞ける状態ではないが、勝手に話しはじめて、一通り話し終わると満足げに帰っていった。リリアには何が何やらさっぱりわからない


ようやく、鎧の着付けを終え、リリアは椅子に座っていた。ローションで体中ベッタベタである。気持ちが悪い。防具業者は帰っていった。
「それでは勇者様、今後とも王室御用達の防具やを御ひいきに」っとにこやかに、満足げに帰っていった。
“これが御用達のクオリティか!”っと言ってやりたいがリリアが行くと次は10%オフになるらしいので、それまでは余計なことを言わず黙っておくに限る。

「やれやれ…」リリアは呟く。皆何やらりリリアに押し付けて満足げに帰っていくが、その分リリアには不満しか残らない。胸が苦しい、お尻が痛い、体ベタベタ。
新人さんは未だになにやらリリアをやたらいじくりまわしている。
「……スゥ」疲れ切って眠り始めたリリアに誰かが慌てた様子で声をかけた
「リリア様!ここでしたか、皆お探ししました。もう、始まります、さぁ早くこちらへ!」
「… え!あ! はい、誰もあたしの場所知らなかったの?」驚くリリア。急いで準備する。

明らかにまだメークアップの途中だった新人さんが慌てて手を停めて、満面の笑顔で言った。
「リリア様、とってもお似合いですよ。どうぞいってらっしゃいませ」
とっても満足そうな笑顔だった。
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