勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【11話】 行方不明の勇者

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リリアはベッドに寝ころびながら薄赤く透き通った液体の入った瓶をテーブルのランプにかざして見ていた。
数日ぶりにルーダリアの城下町に戻ってきて宿をとったのだ。
ボットフォードの国境に近い町まで護衛をした後は、順調に馬車の護衛をしながらルーダリア王国まで戻って来た。ちょっと所持金に余裕もできた。
宿をとると早速、着替え用の服を買い、水浴びを終え、洗濯を頼んで部屋に戻って来たところ。
そして一つ、前々から町で買ってみたかった物を手に入れていた。
「綺麗…」ベッドの上で嬉しそうに呟き、何度も透き通る液体の入った瓶をかざしては眺め、栓を外して香りを楽しむ。
「よっ…」ベッドから身を起こすと、瓶の栓を外して、そっと手で胸元に香水をつけてみた。香りが自分の周りに沸き立つようだ。街で道々すれ違う女性が漂わせる香りに憧れを持っていたリリア、ちょっと大人の仲間入りした気がする。
今リリアは、狩りの装備ではなく街や村で一般的な女性が着る服装をしている。
少し緊張をした面持ちで、ベッドの上でソワソワしていたが、
「よし!」意を決するとちょっとドキドキしながら宿屋の食堂に出ていった。

食堂に来てカウンターに座ったリリア。嬉し恥ずかし、ニヤニヤとドキドキが止まらない。
もっともドキドキは止まったらお迎えが来てしまう。それは困る。
狩り装備ではない服装に香水をつけて食堂にいる自分が恥ずかしいような… くすぐったい感じ。“ひさびさ、平服のリリアですよ、しかも香水までつけてます”っと周りの男の肩を叩いて回りたい、そんな気分。
少し残念なのは服が思ったより小さかったのか、丈はあっているのだが、胸がきつい。大きな胸をギュウギュウと押し込んでボタンをしたので、見るからに服の前がパンパンで胸が押し合いへし合いしている。まぁ、リリアにしたらこれは誇らしい事でもあるようだ。
リリアはとっても周りを意識しながら、人が混み始めた食堂のカウンターでお酒と食事を注文した。
残念だが、食堂の一小娘を誰も大して気に留めていなかった。


「………!!」隣に座る男達の会話を聞いてリリアはちょっと驚く。
聞き耳を立てると…
“ぅえ?!”リリアは驚いた。ルーダリア宮中で勇者として迎えられる調印をした女性勇者が行方不明という噂話をしている。男達は情報紙なる物に目を通しながら話している。
ディルをひっぱたいて、飛び出したのだからすっかりクビだと思っていた。もっとも自分が国の公認勇者であるかどうか、大してどうでもよいこと。
慌てて、自分のそばにある、束から何枚か情報紙を掴んで目を通す。

ここ何日分かの、そして色んな紙社の論調記事が踊る。
リリアが書類に署名した日の各紙
“追伸:今日、新しい勇者が署名しました”
“今度は女性勇者が署名した模様”
“調印式、関係者のみでひっそり”
「… 扱いちっちゃ…」どうでもよい事なはずだが、ちょっとムカつくリリア。
中には一切触れていない紙もある。

「…」その中で一紙だけ、トップに記事で文字が踊っている。
“勇者リリア、新たな王国の守護神”
そして、かなり好意的な記事が書かれている。
「……これが… 私?…」
闘神ヴァルキリーに模した、リリアらしい大きな挿し絵まで描かれている。胸がやたら大きい。
まじまじとその絵を眺めながらリリアは呟く。
「私、背中から羽が生えちゃってるよ…」
周りはワイワイと騒がしい。


「ふぅ…」全ての記事に目を通したリリアはため息をついた。
調印に関してはちっちゃい扱いだったが、リリアが城を飛び出してからはどこもドトップ記事扱いだ。しかもだいぶ誇張が入っている。
“勇者リリア、調印後行方不明!”
“宮中の文官とトラブルか?”
“調印後さっそく兵士と大太刀周り!”
“美人勇者、イケメン文官、マッチョ兵士の三角関係”
“金を持って夜町に消えるリリア”
“新女勇者は娼婦の過去?”
“夜の町の勇者リリア”
“胸とお尻だけ立派な勇者”
なんじゃコリャ!勝手放題にも限度がある。しかもなぜか名前まで出ている。
自分がリリアか周囲にわかるわけがないはずだが、急に人目に晒されている気がし始める。
何だか急に暑くなってきた、汗が出る。調印の日の記事は小さいのに行方不明になってからは連日リリアの名前で紙面が賑わっている。なんかとっても恥ずかしい。
何にせよ、クビになってなく、騒ぎになっている以上明日、せめて挨拶ぐらいは行かないといけない。ギルド活動はちょっと先送りだ。

「自首したら情状酌量されるのかな?…」気を落として呟くリリア。関係者が探し回っているかも知れない。

その時、突然後ろから肩をたたかれた。

「お嬢ちゃん、向こうで一緒に飲もうぜ。 名前なんて言うんだい」
びっくりしてリリアが振り向くと男が二人立っていた。
「わっ! あ! は、はい… ありがとう。 飲むけど、暑くてね… アハハ」
リリアは胸元で玉の様になって流れる汗を拭きながら続けた。
「名前はリリ… リリ… 子。 そう、リリ子よ」精一杯笑顔のリリアだ。
食堂は賑わい吟遊詩人が演奏の準備を始めていた。
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