5 / 517
【3話】 酒場のリリアとピエンとディルハン
しおりを挟む
リリアと一行はルーダ・コートの町の酒場にいる。ディルハンが王都周辺は夜でも安全と言っていたが、やはり安全を優先したのだろう。日暮れとともにルーダリア城下町に向かうのを諦め、ルーダ・コートの門をくぐって、王室関係舎に宿をとった。
この大陸では日没後は魔物、大型動物類、盗賊、人さらい、殺人鬼、黒魔術士等が暗躍し、外出は極端に危険が増す。旅人、キャラバン等は日の出とともに城門等から傭兵を連れて隊をなして出発し、日没までには村、街、城下に入るのが一般的だ。そのため、日の出前の門は傭兵を探す側と雇われたい者でにぎわっている。主要道路には日没前までにたどり着ける距離にかならず小さいながらも村程度の場所が点在し、旅人の安全と商売を行っている。
舎に入ると、リリアとピエンの希望で町の酒場にディルハンとくりだしてきて、腰を落ち着けたところだった。酒場は活気であふれ、リリアは好物の鶏肉料理を楽しんでいた。
「リリア様は、お洋服はその旅服だけですか?」ピエンが聞く。
「リリアかリリィでいいわよ。そもそもなんで様なの?」
「あぁ、それはですね、勇者様の子孫ですし、王国にお迎えされたら、立場上は国級の剣客扱いで、偉い人になるんです。直接王様にお目通りも可能なお立場ですよ。」
「… とりあえず、リリアでいいわ。様なんて皮肉の時にしか聞いたことないし」とリリア。
「で、では僕の事はピエンで呼んでください、リ、リリア」ちょっと目をそらしながら言うピエン。
「ウッフ、今更照れるの?」笑うリリア。ディルハンは気に入らなさそうに聞いている。
「で、旅服だけど、そうよ。これしか無い」
そういうリリア、厚手の布服に皮のロンググローブとロングブーツ、腰は村のシェリフが使う木と革張りの防具、男性用なのだろうか、お尻の発育が目立っている。腰のベルトはダガーやナイフが装備されている。ひと際目立つのは皮のコルセットをぴったりと腹部に巻いていることだ。豊かな胸が大きく乗っかるように強調されている。
「アハ、これね、胸当てがどれもきつくてね。そのうち専用に作ってもらわないと」何となく目線を感じたリリア。
「あ、いや、いや、これは失礼しました。あの、ご就寝… 寝るときは?」
「旅の時は上を脱ぐだけよ。もっとも普段は防具を着けて寝ないといけないような場所だらけだけどね」
「は、はぁ、なるほど…」
「ピエン、今想像したでしょ、鼻血出てるわよ」
「え!? わっ!」慌てて拭うピエン。
「うっふ、冗談よ冗談、ウフフフフ」悪戯っぽく笑うリリア。
ディルハンは何か言いたげに、苦虫を噛み潰したような顔で黙って葡萄酒を飲んでいる。
「ピエンはディルハンさんの事、ディルって馬車で呼んでたけど」話題を変えるリリア。
「そうですね。仕事以外では学校の同期ってこともありディルです。仲が良いんですよ、僕達。僕は商人の息子なので、その後の貴族の学校には行ってないですが。それもあり、今回は同席させてもらえました」
「親しいのね。ディルハンさん見ているとそんな感じには見えないけどね」
ディルハンは眉を寄せてこの声を聞き流している。ピエンが続ける。
「僕の予想ですが、リリアは王室に迎えられると思いますよ。ここまでの印象ですがね。武芸が出来、教養もある程度あり、マナーも… ある程度はあるようですし、何といっても容姿が良いので王室に迎えられれば、国民から人気が出そうです。王国の良い宣伝になると思います」
「ピエンそういえば、他にも候補者がいるって話」リリアは握ったフォークを立てて聞く。
「恐らく、心配ないでしょう。管理室の調べでは、一人は力はあるけど無学、一人は血筋は良いですが、病弱な上、家族一同を遠路から呼び寄せるのが条件でして、多分仕事として管理室長もいやがるのでは…」メモを見ながら、思い出したように続けるピエン。
「そういえば、商売で成功されている勇者の血筋がおりました。近くの港町にいて、なかなかキレものの美女のようです」
「商売で?勇者の血筋で商売上手い人いるの?絶対偽物でしょ」ちょっと声を高めるリリア。
「いや、調べは済んでいます。かなりちゃんとした家系です、ただ…」
「ただ… 何なの、もうどんな勇者の血筋でも驚かないわよ」
「娼婦街で娼館の宿主でして…」メモから目を離して食事するピエン。
ディルハンは口元を曲げ、先ほどから何か言葉を飲んでいるらしい。
「娼婦?いいじゃない。なんか問題?」と、軽く答えるリリア。
信仰にもよるがここではそのような職業も蔑まれるものではない。冒険者達も自由に行きずりの恋を楽しむし、契りがなければ、不特定と交わる事も問題ではない。娼婦街にしても、奴隷となる子共をある程度救えて人並みの暮らしをさせているのが現状で、館主はだいたい面倒見がよい。若くして魔獣に食われるならまだしも、狂った魔術師の手先にされたり、行き倒れてアンデット化するよりかなりマシな人生。
「まぁ、娼館ってだけでは… ですが、やはり奴隷商人と関りがあっては王国のイメージが…」
「あ、あぁぁ、言葉も出ないわ…」お皿のすみをつつくリリア。
「かなりの美人らしんですけね、リリア」
「ピエン、それは全然関係ないでしょ」
笑い声をあげる二人。
さっきから口をムズムズと歪めていたディルハンが大きな声で二人に割って入った。
「わ、私の事はディルと呼んでくれ… リリア」
周りがちょっとリリア達を振り返った。
この大陸では日没後は魔物、大型動物類、盗賊、人さらい、殺人鬼、黒魔術士等が暗躍し、外出は極端に危険が増す。旅人、キャラバン等は日の出とともに城門等から傭兵を連れて隊をなして出発し、日没までには村、街、城下に入るのが一般的だ。そのため、日の出前の門は傭兵を探す側と雇われたい者でにぎわっている。主要道路には日没前までにたどり着ける距離にかならず小さいながらも村程度の場所が点在し、旅人の安全と商売を行っている。
舎に入ると、リリアとピエンの希望で町の酒場にディルハンとくりだしてきて、腰を落ち着けたところだった。酒場は活気であふれ、リリアは好物の鶏肉料理を楽しんでいた。
「リリア様は、お洋服はその旅服だけですか?」ピエンが聞く。
「リリアかリリィでいいわよ。そもそもなんで様なの?」
「あぁ、それはですね、勇者様の子孫ですし、王国にお迎えされたら、立場上は国級の剣客扱いで、偉い人になるんです。直接王様にお目通りも可能なお立場ですよ。」
「… とりあえず、リリアでいいわ。様なんて皮肉の時にしか聞いたことないし」とリリア。
「で、では僕の事はピエンで呼んでください、リ、リリア」ちょっと目をそらしながら言うピエン。
「ウッフ、今更照れるの?」笑うリリア。ディルハンは気に入らなさそうに聞いている。
「で、旅服だけど、そうよ。これしか無い」
そういうリリア、厚手の布服に皮のロンググローブとロングブーツ、腰は村のシェリフが使う木と革張りの防具、男性用なのだろうか、お尻の発育が目立っている。腰のベルトはダガーやナイフが装備されている。ひと際目立つのは皮のコルセットをぴったりと腹部に巻いていることだ。豊かな胸が大きく乗っかるように強調されている。
「アハ、これね、胸当てがどれもきつくてね。そのうち専用に作ってもらわないと」何となく目線を感じたリリア。
「あ、いや、いや、これは失礼しました。あの、ご就寝… 寝るときは?」
「旅の時は上を脱ぐだけよ。もっとも普段は防具を着けて寝ないといけないような場所だらけだけどね」
「は、はぁ、なるほど…」
「ピエン、今想像したでしょ、鼻血出てるわよ」
「え!? わっ!」慌てて拭うピエン。
「うっふ、冗談よ冗談、ウフフフフ」悪戯っぽく笑うリリア。
ディルハンは何か言いたげに、苦虫を噛み潰したような顔で黙って葡萄酒を飲んでいる。
「ピエンはディルハンさんの事、ディルって馬車で呼んでたけど」話題を変えるリリア。
「そうですね。仕事以外では学校の同期ってこともありディルです。仲が良いんですよ、僕達。僕は商人の息子なので、その後の貴族の学校には行ってないですが。それもあり、今回は同席させてもらえました」
「親しいのね。ディルハンさん見ているとそんな感じには見えないけどね」
ディルハンは眉を寄せてこの声を聞き流している。ピエンが続ける。
「僕の予想ですが、リリアは王室に迎えられると思いますよ。ここまでの印象ですがね。武芸が出来、教養もある程度あり、マナーも… ある程度はあるようですし、何といっても容姿が良いので王室に迎えられれば、国民から人気が出そうです。王国の良い宣伝になると思います」
「ピエンそういえば、他にも候補者がいるって話」リリアは握ったフォークを立てて聞く。
「恐らく、心配ないでしょう。管理室の調べでは、一人は力はあるけど無学、一人は血筋は良いですが、病弱な上、家族一同を遠路から呼び寄せるのが条件でして、多分仕事として管理室長もいやがるのでは…」メモを見ながら、思い出したように続けるピエン。
「そういえば、商売で成功されている勇者の血筋がおりました。近くの港町にいて、なかなかキレものの美女のようです」
「商売で?勇者の血筋で商売上手い人いるの?絶対偽物でしょ」ちょっと声を高めるリリア。
「いや、調べは済んでいます。かなりちゃんとした家系です、ただ…」
「ただ… 何なの、もうどんな勇者の血筋でも驚かないわよ」
「娼婦街で娼館の宿主でして…」メモから目を離して食事するピエン。
ディルハンは口元を曲げ、先ほどから何か言葉を飲んでいるらしい。
「娼婦?いいじゃない。なんか問題?」と、軽く答えるリリア。
信仰にもよるがここではそのような職業も蔑まれるものではない。冒険者達も自由に行きずりの恋を楽しむし、契りがなければ、不特定と交わる事も問題ではない。娼婦街にしても、奴隷となる子共をある程度救えて人並みの暮らしをさせているのが現状で、館主はだいたい面倒見がよい。若くして魔獣に食われるならまだしも、狂った魔術師の手先にされたり、行き倒れてアンデット化するよりかなりマシな人生。
「まぁ、娼館ってだけでは… ですが、やはり奴隷商人と関りがあっては王国のイメージが…」
「あ、あぁぁ、言葉も出ないわ…」お皿のすみをつつくリリア。
「かなりの美人らしんですけね、リリア」
「ピエン、それは全然関係ないでしょ」
笑い声をあげる二人。
さっきから口をムズムズと歪めていたディルハンが大きな声で二人に割って入った。
「わ、私の事はディルと呼んでくれ… リリア」
周りがちょっとリリア達を振り返った。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる