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【2話】 車中の話
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揺れる馬車の中でリリアはしばらく内装に関心しながら外を眺めていた。町まで行くとしたら、大抵は歩きか馬に乗るかだ。商人、農夫の馬車に乗るとしても幌で雨風を凌ぐのが関の山、だいたいは荷物の間に挟まってる程度の経験しかない。フカフカの椅子に座りながら移動している自分が少し可笑しかった。ディルハンとピエンの会話が途切れた時にリリアは疑問に思っていたことを口にした。
「候補者って私の他にもいるんでしょ?前の勇者はなぜ死んだの?」
ちょっと間が開いたがディルハンが答えそうにないのでピエンが手帳を手にしながら答えだした。
「もちろんです。リリア様の他にも… 数名候補者はおられます。前の勇者は先日不慮の事故で…」
「それって、塔の上でドラゴンにやられたとか、ダンジョンの奥でメデューサに殺されたとか、黒魔術師の教団に乗り込んだとか」リリアが問いかける。
「い、いやぁ、それが溺死です。酔っぱらって水路に落ちて水路口にハマった状態で見つかったそうです。」いくぶん答えにくそうに言うピエン。
「え… そうなの… なんか、勇者ともなると… 想像を超える最後を迎えるのね」
「水路が塞がれて区画が水浸しだったそうです」
「そこ?」苦い笑いするリリア。
「実は、酒癖が悪く、酒場でもよく俺は勇者様だって気炎をあげて喧嘩していましたし、大変なお方でした」
「ま、まぁ普段はすごい人だったんでしょ?魔物を退治し、魔法と戦闘に長け、ギルドのリーダー的存在」ピエンに問いかけるリリア。
「戦闘技能はあり、剣は多少強かったようですが、魔法は使えませんでしたね。勇者として迎え入れられてすぐ、自堕落で何もしない生活になって酒に入り浸りでしたから、問題解決するどころか、勇者様自身が大問題でした」ちょっと笑うピエン。全く表情も変えないディルハン。
「全然笑えない… そんな人とっとと追い出せなかったの?」
「身辺調査して迎えた時はまともそうだったらしいのですがね。一度国で正式に宣誓までして迎えてしまった勇者を追い出したら王国のイメージダウンですし、勇者様がいてくれるだけでも対外的には政治効果があるようですし」とここまでピエンが言ったときにディルハンが苦々しく口を開き始めた。
「悪いが、今では王国の誰もが勇者の子孫に勇者たる実力があるなんて思ってもいなし、期待もしていな。ただ、伝説の勇者の子孫を国が保護しているって事実が他国へのアピールと宣伝に繋がり、民も安心してくれるだけです。が、ここ連続してあまりにも勇者が酷い状態が続き、管理室の規模は縮小され、予算もなくなる一方が現状です」
「ゆ、勇者ってそんなんなの?」何とも言えない表情のリリア。
「昔は有事には勇者の血が目覚め、なんて信じている人もいたが、そんな事は実際にはごく稀な例。勇者の子孫でなくても努力で勇者以上の働きをする人間の方が圧倒的に多い。そもそも伝説の勇者だって、生まれは平民として生まれて、勇者となったわけなのでこちらも仕事として行っている以外、勇者の子孫が王国に貢献できるなど全く期待してもいない」
「ディルハン…さん… でしたっけ? ずいぶんよね」
雰囲気を察してかピエンが割って入った。
「あ、でも実際にかなりの確率で高い魔法能力は戦闘技能を身に着ける勇者家系もあるんですよ」
「そうなの?そうよね。そうあってもいいわよね」普段は勇者の血筋を疎ましく思っていたリリアだが、あまりの評判を聞いて、ちょっとピエンの言葉に喜んだ。
「はい、伝説の勇者誕生からちょうど今年で100年。勇者だって人間、家庭を持ち、行きずりの恋もし、子供を授かり、その子孫達がいますが、本家のかなり直系のかたは代々勇者の実力を備えているみたいです。」
「ソルディア家系?それならそっちを候補に連れていったら…」と、首をかしげるリリア。
「それがソルディア家はフリート帝国にしっかり囲われていて、わが国では手出ししかねる状態のようです」
「はぁ… いっそ、そんな制度なくしたらぁ?」リリアは眉を寄せながら呆れながら言う。
「少なくとも今の国王は、勇者様を最低でも一人お迎えすることにより、政治的な意義を見出しているようで…」ピエンはそこまで言うと、ハッとして続けた。
「あ、でもリリア様はシェリフとしての戦闘技能、弓も出来るって話ですし、文字も計算も出来るんですよね?けっこうまとも… いや、資質は備わっていると思います」
「伝説の勇者エジン… ねぇ…」大きく胸を揺らしながらため息するリリアにピエンが付け加えた。
「リリア様なら少なくとも男性国民には人気出ると思いますよ」
リリアはまじまじとディルハンとピエンに目を配った。ディルハンは相変わらずうつむいて沈黙している。ピエンは屈託ない表情でリリアを見ている。
ちょっとした間を馬車の車輪とバネの音がうめいた。
リリアは車窓の外に目を落とすと、もう一度胸を弾ませながらため息交じりに呟いた。
「都に着いたらお肉買ってとっとと帰ろうかな…」
「その場合、徒歩でお帰りください」ディルハンの声が車室内に響いた。
「候補者って私の他にもいるんでしょ?前の勇者はなぜ死んだの?」
ちょっと間が開いたがディルハンが答えそうにないのでピエンが手帳を手にしながら答えだした。
「もちろんです。リリア様の他にも… 数名候補者はおられます。前の勇者は先日不慮の事故で…」
「それって、塔の上でドラゴンにやられたとか、ダンジョンの奥でメデューサに殺されたとか、黒魔術師の教団に乗り込んだとか」リリアが問いかける。
「い、いやぁ、それが溺死です。酔っぱらって水路に落ちて水路口にハマった状態で見つかったそうです。」いくぶん答えにくそうに言うピエン。
「え… そうなの… なんか、勇者ともなると… 想像を超える最後を迎えるのね」
「水路が塞がれて区画が水浸しだったそうです」
「そこ?」苦い笑いするリリア。
「実は、酒癖が悪く、酒場でもよく俺は勇者様だって気炎をあげて喧嘩していましたし、大変なお方でした」
「ま、まぁ普段はすごい人だったんでしょ?魔物を退治し、魔法と戦闘に長け、ギルドのリーダー的存在」ピエンに問いかけるリリア。
「戦闘技能はあり、剣は多少強かったようですが、魔法は使えませんでしたね。勇者として迎え入れられてすぐ、自堕落で何もしない生活になって酒に入り浸りでしたから、問題解決するどころか、勇者様自身が大問題でした」ちょっと笑うピエン。全く表情も変えないディルハン。
「全然笑えない… そんな人とっとと追い出せなかったの?」
「身辺調査して迎えた時はまともそうだったらしいのですがね。一度国で正式に宣誓までして迎えてしまった勇者を追い出したら王国のイメージダウンですし、勇者様がいてくれるだけでも対外的には政治効果があるようですし」とここまでピエンが言ったときにディルハンが苦々しく口を開き始めた。
「悪いが、今では王国の誰もが勇者の子孫に勇者たる実力があるなんて思ってもいなし、期待もしていな。ただ、伝説の勇者の子孫を国が保護しているって事実が他国へのアピールと宣伝に繋がり、民も安心してくれるだけです。が、ここ連続してあまりにも勇者が酷い状態が続き、管理室の規模は縮小され、予算もなくなる一方が現状です」
「ゆ、勇者ってそんなんなの?」何とも言えない表情のリリア。
「昔は有事には勇者の血が目覚め、なんて信じている人もいたが、そんな事は実際にはごく稀な例。勇者の子孫でなくても努力で勇者以上の働きをする人間の方が圧倒的に多い。そもそも伝説の勇者だって、生まれは平民として生まれて、勇者となったわけなのでこちらも仕事として行っている以外、勇者の子孫が王国に貢献できるなど全く期待してもいない」
「ディルハン…さん… でしたっけ? ずいぶんよね」
雰囲気を察してかピエンが割って入った。
「あ、でも実際にかなりの確率で高い魔法能力は戦闘技能を身に着ける勇者家系もあるんですよ」
「そうなの?そうよね。そうあってもいいわよね」普段は勇者の血筋を疎ましく思っていたリリアだが、あまりの評判を聞いて、ちょっとピエンの言葉に喜んだ。
「はい、伝説の勇者誕生からちょうど今年で100年。勇者だって人間、家庭を持ち、行きずりの恋もし、子供を授かり、その子孫達がいますが、本家のかなり直系のかたは代々勇者の実力を備えているみたいです。」
「ソルディア家系?それならそっちを候補に連れていったら…」と、首をかしげるリリア。
「それがソルディア家はフリート帝国にしっかり囲われていて、わが国では手出ししかねる状態のようです」
「はぁ… いっそ、そんな制度なくしたらぁ?」リリアは眉を寄せながら呆れながら言う。
「少なくとも今の国王は、勇者様を最低でも一人お迎えすることにより、政治的な意義を見出しているようで…」ピエンはそこまで言うと、ハッとして続けた。
「あ、でもリリア様はシェリフとしての戦闘技能、弓も出来るって話ですし、文字も計算も出来るんですよね?けっこうまとも… いや、資質は備わっていると思います」
「伝説の勇者エジン… ねぇ…」大きく胸を揺らしながらため息するリリアにピエンが付け加えた。
「リリア様なら少なくとも男性国民には人気出ると思いますよ」
リリアはまじまじとディルハンとピエンに目を配った。ディルハンは相変わらずうつむいて沈黙している。ピエンは屈託ない表情でリリアを見ている。
ちょっとした間を馬車の車輪とバネの音がうめいた。
リリアは車窓の外に目を落とすと、もう一度胸を弾ませながらため息交じりに呟いた。
「都に着いたらお肉買ってとっとと帰ろうかな…」
「その場合、徒歩でお帰りください」ディルハンの声が車室内に響いた。
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