異世界コンビニ

榎木ユウ

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3巻オマケ

世界樹の心

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 最初は、どうして懐かしいと感じるのか分からなかった。

 ただ、その『巫女』と呼ばれる人間は、今までのどの巫女よりも懐かしかった。

 側にいるだけで、世界樹は安らいでいく。

 子供たちの駆け回る声。

 懐かしい声。

 「早く大きくなあれ」
 巫女がそう自分に話し掛ける声。


 その巫女は、どこか違う。そう思った──


 気が付いたのは、本当にギリギリ。
 己と日本との絆が、まさに断ち切られる、その瞬間だった。


 あらゆる力を使って、手繰り寄せた。

 二度とその時間が手に入らないことだけは、我慢できなかった。

『ソラサマー!!』
 時空の中に埋もれていく奇妙な同朋を掬い上げ、その意識をも利用した。


 アイタイ。
 会いたい。
 あいたい──


 根を伸ばす。絡める。

 二度とその娘を離してはならぬ、と心が誰かに同調する。


 それが誰なのか、呪いと毒で混濁した世界樹には判断がつかなかったが、己のみに起こる全てを利用して、


 もう一度、その世界と自分を繋いだ。


 一瞬だけ離れてしまったせいか、時間が少しばかりずれてしまった気もしたが、それでも同じ時代に繋がれた。





 ああ、私のルーツはここだったのか。

 世界樹は、漸く己のルーツにたどり着いた。
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