異世界コンビニ

榎木ユウ

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3巻オマケ

ケンタの心

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「うへ! 何、この空の色!」
 ケンタは空を見上げるなり、思わず叫んだ。

 こちらの空も日本と変わりない空の色だったはずなのに、今、頭上に広がる空はペンキでぬったくったような不気味で重々しい緑色だった。

「これは……」
 隣で走っているジグが言葉も少なに絶句する。
「何? ジグさん、これなんなわけ?」
 ケンタが問えば、ジグは一瞬、口を閉じた後に言う。

「時空の歪みだ。日本と離れる時に起こる現象だ」
「時空の歪み? あの、日本と一回離れる時に起きるってやつ?」
 レンの妻であるスズカがきた後に起きたものだと、学校の授業でも習っていた。
 世界樹はそのようにして、100年に一度程度のスパンで、日本との接続を解除しては、再び違う時間の日本と繋がるのだと言う。

「え? もう、終わったばかりだよね?」
 問いかけるケンタに
「終わったばかりだが、またなるんだろうな」
とジグが返す。
 ピタリ、とケンタの足が思わず止まる。

「何それ。そしたら、俺、お母さんたちともう会えないってこと?」
 直ぐに出てきた答えに、ジグは冷静に返す。
「そうだ」
 この男の、偽らないところがいつもケンタにはありがたく、それはこんな時でもそうだった。

「……」
 ケンタは一度、空を見上げると、また走り出す。今度は先程より早く。
「いいのか?」
 ジグが問いかけてくる。
「だって今戻っても、俺は帰れないし。仕方ないっしょ?」

 仕方ないで済ませられる内容じゃない。

 胸の中はいくつもの言葉が渦巻いたが、それらは全て飲み込んだ。

 今、ケンタに出来ることは、虫獣の被害を減らすことだけだ。

 それが、この世界に住む自分の役割。

 ジグは「そうか」と言うと、足を速めた。ケンタもそれについていく。

 思うことは多々あれど、自分は自分の出来ることをするしかない。

「ケンタ、いつか、いきなり会えなくなる日がくるかもしれない。それはお互いに覚悟しておこう」
 そう言ったのは、コンビニに来てくれた父だった。

「だが、それでも俺たちはお前が幸せに暮らしてくれることを信じているし、願っている。
 だから、お前はお前の出来ることを、精一杯して、悔いの少ない人生を送りなさい」

 悔いのない──と言うのではなく、悔いの少ない、と言った父の言葉が、父らしい、と思った。
 そして、もう日本の記憶にはないが、そういう父を父としてもてた自分を、ケンタは誇りに思う。

 だから今は──。

 走り出す。戦う。

 自分の出来ることを、するしかない。

 ケンタは虫獣の被害が出始めているであろう場所へと、力強く走った。
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