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3巻オマケ
愚者か賢者か 2
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「余が王子でなくなったら、そなたたちはどうする?」
その日、珍しく三人で酒を飲む機会があった。
ナシカはハクサの杯に酒を注ぎながら、主の戯れの言葉に耳を傾ける。
「そりゃあ、別の誰かに仕えるんでしょうかねぇ。でも、殿下、殺しても死なないでしょ?」
三人だけの時、ジーストは軽口をたたく。相手が自分の主だとてそれは変わらない。
彼のこの気さくさを、彼の主がいたく気に入っていることもナシカは知っていた。
「余が死ぬまでついてくる気か」
呆れたように笑うハクサは、生まれが王子であるせいか、こんな時こそ気品が漂う。
そもそもこの王子が酒に酔って我を失うことなど、一度たりとてナシカは見たことはなかった。
にもかかわらず、時折、ハクサは外交で、したたかに酔ったふりをして、用意された女を抱く。
愚者か賢者か――
ユラユラと揺れる杯の水面のように、ハクサの人柄は見るたびに変わる。
落ちつかない。
「余が王子でなくなったらと言っておろうが」
「これだけ馬鹿やってるのに王子のままなんですから、これからも王子でしょうが」
ジーストの軽口に、ハクサは「お前なあ」と呆れた顔で笑ったが、ナシカはその目の端に僅かに浮かぶ【何か】を感じ取っていた。
それはおそらく背中を見続けていたジーストも同じだろう。
愚者か賢者か――
見極めはとうに出来ている。
いっそのこと、どこまでも道化として落ちていてくれたら簡単に鞍替え出来たのに、真っ暗な道を進む主を、ナシカは捨て置けないだろう。
いや、自分たちの方こそ捨てられる存在なのだと知っている。
「捨てないでくださいね。私達はあなたの従者なのですから」
珍しく口を開いたナシカに対し、ハクサは少しだけ目を大きく見開いたが、すぐに緊張感のない笑みを浮かべた。
「ウム。余が余である限りそなたたちを優遇しようぞ」
「とか言って、給料には反映してくれないじゃないすか」
「それは余の範疇ではないからな」
「ひっでぇ!」
ゲラゲラと笑いあう、到底主君と従者に見えない二人を見ながら、ナシカは柔らかに微笑む。
愚者か賢者か――
今となってはどうとでもいい、どうでもいいことだ。
その日、珍しく三人で酒を飲む機会があった。
ナシカはハクサの杯に酒を注ぎながら、主の戯れの言葉に耳を傾ける。
「そりゃあ、別の誰かに仕えるんでしょうかねぇ。でも、殿下、殺しても死なないでしょ?」
三人だけの時、ジーストは軽口をたたく。相手が自分の主だとてそれは変わらない。
彼のこの気さくさを、彼の主がいたく気に入っていることもナシカは知っていた。
「余が死ぬまでついてくる気か」
呆れたように笑うハクサは、生まれが王子であるせいか、こんな時こそ気品が漂う。
そもそもこの王子が酒に酔って我を失うことなど、一度たりとてナシカは見たことはなかった。
にもかかわらず、時折、ハクサは外交で、したたかに酔ったふりをして、用意された女を抱く。
愚者か賢者か――
ユラユラと揺れる杯の水面のように、ハクサの人柄は見るたびに変わる。
落ちつかない。
「余が王子でなくなったらと言っておろうが」
「これだけ馬鹿やってるのに王子のままなんですから、これからも王子でしょうが」
ジーストの軽口に、ハクサは「お前なあ」と呆れた顔で笑ったが、ナシカはその目の端に僅かに浮かぶ【何か】を感じ取っていた。
それはおそらく背中を見続けていたジーストも同じだろう。
愚者か賢者か――
見極めはとうに出来ている。
いっそのこと、どこまでも道化として落ちていてくれたら簡単に鞍替え出来たのに、真っ暗な道を進む主を、ナシカは捨て置けないだろう。
いや、自分たちの方こそ捨てられる存在なのだと知っている。
「捨てないでくださいね。私達はあなたの従者なのですから」
珍しく口を開いたナシカに対し、ハクサは少しだけ目を大きく見開いたが、すぐに緊張感のない笑みを浮かべた。
「ウム。余が余である限りそなたたちを優遇しようぞ」
「とか言って、給料には反映してくれないじゃないすか」
「それは余の範疇ではないからな」
「ひっでぇ!」
ゲラゲラと笑いあう、到底主君と従者に見えない二人を見ながら、ナシカは柔らかに微笑む。
愚者か賢者か――
今となってはどうとでもいい、どうでもいいことだ。
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