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2巻オマケ
彼氏彼女
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「今度の休み、どこ行こうか?」
帰り支度をしている最中、自分も上がったらしい店長は、そんなことを言いながら、私を背中から抱きしめてくる。
「まだ寒いですよね……」
「じゃあ、俺んち来る?」
「……下心がありそうなので、勘弁してください」
「ん。今は勘弁してあげる」
彼氏彼女と晴れて呼び合う関係になった途端、店長の甘やかっしっぷりは、箍が外れたように私を溺れさせる。
溺愛タグ、つけていたっけ?と私が心配してしまう位。
クルリと顔を後ろに向ければ、ちゅ、と軽く唇をあわされた。
「店長!」
いくらみんな帰った後で、閉店している店の休憩室とはいえ、それはどうかと睨み付ければ、店長はとろりとはちみつを溶かしたみたいな甘ったるい笑顔で私を見ている。
「ん?」
分かっているのに、分からないふりをしているのが腹立たしい。
「店長、こういうのはお店ではしないでください」
そう言って、その重い腕をどければ、店長はすぐに私から離れてくれた。
「ごめんね、ソラちゃん」
「ごめんねって思ってないくせに」
「うん。幸せ過ぎて怖いくらい」
満面の笑みでそう言われては、何も返せない。私はため息を吐くと、そのまま店長の手を握って、「帰ろう?」と言った。
「うん、帰ろうか」
私の家までの短いデート。だけど、店長も私も楽しみなソレ。
最後に忘れ物がないか確認して、コンビニの裏口から出ようとした瞬間、
「ソラちゃん」
と呼ばれて、顔を上げると、また「ちゅっ」とキスされた。
「店長!」
「へへへへ」
「──という、夢を見たんですが、どうして俺は触手に拘束されているんですかね」
「ええと、モノローグが私なところが凄く気持ち悪いんですけど。もう一度言います。勝手に私を乙女にしないでください。マジで気持ち悪いです」
触手にがんじがらめにされた俺は、キスさえもできない恋人に必死に手を伸ばすが、俺の恋人は冷たい目で俺を見下ろすと、
「自・業・自・得」
と可愛らしい唇でそう言った。
「じやあ、ボウちゃん。また明日ね」
『ソラサマ! マタ明日!』
嬉しそうにギリギンテ改が答えているのが憎らしい。しかし、触手に簀巻きにされ、床に転がされている俺に、動ける力はない。
俺が作った触手の筈なのに、どうしてこうなった!
「ばいばーい」
「ソラちゃああああああんっっ!!」
バタン、と日本へ向かって、俺のスイートハニーは帰ってしまった。
「おい、ボウ! お前、作り主を敬え!」
『俺ノ目ノ 黒イ内ハ コノ店デ イカガワシイ行為ハ ユルサネェゼ』
「お前に目なんかないだうがぁあああああああああああ!!!」
俺の絶叫は、当然日本には届かない──。
帰り支度をしている最中、自分も上がったらしい店長は、そんなことを言いながら、私を背中から抱きしめてくる。
「まだ寒いですよね……」
「じゃあ、俺んち来る?」
「……下心がありそうなので、勘弁してください」
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溺愛タグ、つけていたっけ?と私が心配してしまう位。
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「店長!」
いくらみんな帰った後で、閉店している店の休憩室とはいえ、それはどうかと睨み付ければ、店長はとろりとはちみつを溶かしたみたいな甘ったるい笑顔で私を見ている。
「ん?」
分かっているのに、分からないふりをしているのが腹立たしい。
「店長、こういうのはお店ではしないでください」
そう言って、その重い腕をどければ、店長はすぐに私から離れてくれた。
「ごめんね、ソラちゃん」
「ごめんねって思ってないくせに」
「うん。幸せ過ぎて怖いくらい」
満面の笑みでそう言われては、何も返せない。私はため息を吐くと、そのまま店長の手を握って、「帰ろう?」と言った。
「うん、帰ろうか」
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最後に忘れ物がないか確認して、コンビニの裏口から出ようとした瞬間、
「ソラちゃん」
と呼ばれて、顔を上げると、また「ちゅっ」とキスされた。
「店長!」
「へへへへ」
「──という、夢を見たんですが、どうして俺は触手に拘束されているんですかね」
「ええと、モノローグが私なところが凄く気持ち悪いんですけど。もう一度言います。勝手に私を乙女にしないでください。マジで気持ち悪いです」
触手にがんじがらめにされた俺は、キスさえもできない恋人に必死に手を伸ばすが、俺の恋人は冷たい目で俺を見下ろすと、
「自・業・自・得」
と可愛らしい唇でそう言った。
「じやあ、ボウちゃん。また明日ね」
『ソラサマ! マタ明日!』
嬉しそうにギリギンテ改が答えているのが憎らしい。しかし、触手に簀巻きにされ、床に転がされている俺に、動ける力はない。
俺が作った触手の筈なのに、どうしてこうなった!
「ばいばーい」
「ソラちゃああああああんっっ!!」
バタン、と日本へ向かって、俺のスイートハニーは帰ってしまった。
「おい、ボウ! お前、作り主を敬え!」
『俺ノ目ノ 黒イ内ハ コノ店デ イカガワシイ行為ハ ユルサネェゼ』
「お前に目なんかないだうがぁあああああああああああ!!!」
俺の絶叫は、当然日本には届かない──。
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