異世界コンビニ

榎木ユウ

文字の大きさ
上 下
93 / 121
2巻オマケ

ケンタの仕事

しおりを挟む
「はい、カンリョー!」
 ドガアン!と一つ、大きな音と共に転がる、串刺しにされた化け物。芋虫を巨大化したようなソレは、世界樹の力が届きづらい、世界の端程増えてくるという。
 今回のこの芋虫は、神殿の討伐隊でもなかなか手に負えないということで、ケンタが呼ばれた。

 ただ、異世界からきただけ。

 それだけで特別視される力は、この世界に来た当初よりはずっと弱くなってきた。きっと記憶と共に、薄れていく力なのだろう。

(残酷な世界だよなあ)

 限定チートがあるうちに、この世界で居場所をみつけろなんて、優しいんだか優しくないんだか分からない。しかも、力がなくなってからは後は独力で強くなっていくしかないというのだから容赦ない。

 この世界にきた巫女でもあるスズカは、ケンタよりも随分年上だが、やはりこの世界にきた時、苦労しながら自分の居場所を作ったという。
 0号神官の嫁なんてやっているのだから、甘い蜜だけすすっていればいいだろうに、それでも彼女は自分の力で生きていく道をみつけた。

(俺はどうすればいいかな)

 母はケンタに「好きなものになれる大人になりなさい」と難しい注文を付けてきた。

「こんな世界に来てしまったのだから、自分がなりたい大人になりなさい。それくらいあって、ちょうど人生の帳尻合わせが出来るくらいよ」
 笑いながら、でも決して暗くならずにそう言った母。

 ケンタ自身としては、ラフレ姫の国に厄介になる選択肢はない。母が言ったとおり、子供をつくる為だけに生きるなんて、まっぴらごめんだと思う。どこかのハーレム小説で読んだことはあるが、それと実際の現実は違うだろう。
 
 生きがいは自分の中に作りたい。

「何になっかなあ……」
 ため息を吐きながら、それでも帰りの管車をホームで待つ。地下鉄のような、だけど地下鉄の様に暗くはない、ほんわりと温かい蛍光緑の空間は、世界樹の根の中だという。それ程大きな樹だとは思えなかったが、大きい木なのだ。道管と師管を管車が走れるほどに。

『間もなくホームに管車が入ります。赤い線の内側にお下がりください』
 日本とよく似たアナウンスがホームに響く。日本と似ていて、だけどやはり色んなことが違うこの世界。
 それでも、この管車のシステムは驚くほど、日本の世界と似ていた。きっと、こちらの世界に来た日本人がある程度のレベルまで底上げしたのだろう。

 日本の電車とよく似た管車は、レールではなく樹液の中を船の様に走りぬけてくる。

 ふと、小さい頃、父と電車を見に行ったことを思い出した。あの時は、「将来の夢は電車の運転手」なんて言っていたものだ。

「……運転手、ね……」

 一瞬、過った考えに、パアッと視野が広くなっていく。
 それはただの気まぐれに思いついた思い付きでしかなかったかもしれない。

 だけど、まるで最初からそうだったように、しっくりと、ゆっくりと、自分の中に根差していこうとするものを、ケンタは心の中で感じながら、到着する管車を眺めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。