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2巻オマケ
ケンタの仕事
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「はい、カンリョー!」
ドガアン!と一つ、大きな音と共に転がる、串刺しにされた化け物。芋虫を巨大化したようなソレは、世界樹の力が届きづらい、世界の端程増えてくるという。
今回のこの芋虫は、神殿の討伐隊でもなかなか手に負えないということで、ケンタが呼ばれた。
ただ、異世界からきただけ。
それだけで特別視される力は、この世界に来た当初よりはずっと弱くなってきた。きっと記憶と共に、薄れていく力なのだろう。
(残酷な世界だよなあ)
限定チートがあるうちに、この世界で居場所をみつけろなんて、優しいんだか優しくないんだか分からない。しかも、力がなくなってからは後は独力で強くなっていくしかないというのだから容赦ない。
この世界にきた巫女でもあるスズカは、ケンタよりも随分年上だが、やはりこの世界にきた時、苦労しながら自分の居場所を作ったという。
0号神官の嫁なんてやっているのだから、甘い蜜だけすすっていればいいだろうに、それでも彼女は自分の力で生きていく道をみつけた。
(俺はどうすればいいかな)
母はケンタに「好きなものになれる大人になりなさい」と難しい注文を付けてきた。
「こんな世界に来てしまったのだから、自分がなりたい大人になりなさい。それくらいあって、ちょうど人生の帳尻合わせが出来るくらいよ」
笑いながら、でも決して暗くならずにそう言った母。
ケンタ自身としては、ラフレ姫の国に厄介になる選択肢はない。母が言ったとおり、子供をつくる為だけに生きるなんて、まっぴらごめんだと思う。どこかのハーレム小説で読んだことはあるが、それと実際の現実は違うだろう。
生きがいは自分の中に作りたい。
「何になっかなあ……」
ため息を吐きながら、それでも帰りの管車をホームで待つ。地下鉄のような、だけど地下鉄の様に暗くはない、ほんわりと温かい蛍光緑の空間は、世界樹の根の中だという。それ程大きな樹だとは思えなかったが、大きい木なのだ。道管と師管を管車が走れるほどに。
『間もなくホームに管車が入ります。赤い線の内側にお下がりください』
日本とよく似たアナウンスがホームに響く。日本と似ていて、だけどやはり色んなことが違うこの世界。
それでも、この管車のシステムは驚くほど、日本の世界と似ていた。きっと、こちらの世界に来た日本人がある程度のレベルまで底上げしたのだろう。
日本の電車とよく似た管車は、レールではなく樹液の中を船の様に走りぬけてくる。
ふと、小さい頃、父と電車を見に行ったことを思い出した。あの時は、「将来の夢は電車の運転手」なんて言っていたものだ。
「……運転手、ね……」
一瞬、過った考えに、パアッと視野が広くなっていく。
それはただの気まぐれに思いついた思い付きでしかなかったかもしれない。
だけど、まるで最初からそうだったように、しっくりと、ゆっくりと、自分の中に根差していこうとするものを、ケンタは心の中で感じながら、到着する管車を眺めていた。
ドガアン!と一つ、大きな音と共に転がる、串刺しにされた化け物。芋虫を巨大化したようなソレは、世界樹の力が届きづらい、世界の端程増えてくるという。
今回のこの芋虫は、神殿の討伐隊でもなかなか手に負えないということで、ケンタが呼ばれた。
ただ、異世界からきただけ。
それだけで特別視される力は、この世界に来た当初よりはずっと弱くなってきた。きっと記憶と共に、薄れていく力なのだろう。
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限定チートがあるうちに、この世界で居場所をみつけろなんて、優しいんだか優しくないんだか分からない。しかも、力がなくなってからは後は独力で強くなっていくしかないというのだから容赦ない。
この世界にきた巫女でもあるスズカは、ケンタよりも随分年上だが、やはりこの世界にきた時、苦労しながら自分の居場所を作ったという。
0号神官の嫁なんてやっているのだから、甘い蜜だけすすっていればいいだろうに、それでも彼女は自分の力で生きていく道をみつけた。
(俺はどうすればいいかな)
母はケンタに「好きなものになれる大人になりなさい」と難しい注文を付けてきた。
「こんな世界に来てしまったのだから、自分がなりたい大人になりなさい。それくらいあって、ちょうど人生の帳尻合わせが出来るくらいよ」
笑いながら、でも決して暗くならずにそう言った母。
ケンタ自身としては、ラフレ姫の国に厄介になる選択肢はない。母が言ったとおり、子供をつくる為だけに生きるなんて、まっぴらごめんだと思う。どこかのハーレム小説で読んだことはあるが、それと実際の現実は違うだろう。
生きがいは自分の中に作りたい。
「何になっかなあ……」
ため息を吐きながら、それでも帰りの管車をホームで待つ。地下鉄のような、だけど地下鉄の様に暗くはない、ほんわりと温かい蛍光緑の空間は、世界樹の根の中だという。それ程大きな樹だとは思えなかったが、大きい木なのだ。道管と師管を管車が走れるほどに。
『間もなくホームに管車が入ります。赤い線の内側にお下がりください』
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それでも、この管車のシステムは驚くほど、日本の世界と似ていた。きっと、こちらの世界に来た日本人がある程度のレベルまで底上げしたのだろう。
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ふと、小さい頃、父と電車を見に行ったことを思い出した。あの時は、「将来の夢は電車の運転手」なんて言っていたものだ。
「……運転手、ね……」
一瞬、過った考えに、パアッと視野が広くなっていく。
それはただの気まぐれに思いついた思い付きでしかなかったかもしれない。
だけど、まるで最初からそうだったように、しっくりと、ゆっくりと、自分の中に根差していこうとするものを、ケンタは心の中で感じながら、到着する管車を眺めていた。
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