異世界コンビニ

榎木ユウ

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2巻オマケ

どれも重い

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 カランカラン。サクラ亭に珍しく集まるのは、3人の顔なじみたち。
 ジグとレンとスズカだ。

「明日、デートだってアレイの奴、浮かれて日本に行ったな」
 ポツリとジグが言えば、
「あの二人は、つきあっているのか?」
とスズカが問う。
「まだ、のようだが──」
 レンが言葉を濁して、三人でタイミングを計ってもいないのに、同じタイミングで各々の酒を飲む。

「スズカの服の購入を頼んだので、それを買いに二人ででかけるんだろう」
 レンがアレイの明日の予定について説明すれば、ジグが釘をさす。
「あんまり余計な嘴突っ込むんじゃねえぞ」
 ただでさえ複雑な二人だ。下手に刺激をして、ソラの方が過敏になって逃げられる幼馴染なんて、目も当てられない。

「アレイがあそこまで本気なのは初めてだから、つい応援したくなるんだろう。なんだかんだ言って、レンはアレイが好きだからな」
 サラリとスズカがそんなことを言った。ジグはそれを鼻で笑う。
「自分が旧友の惚れた女を掻っ攫った負い目があるから、余計に気になるだけだろうが」
 レンとアレイとスズカの三角関係は、子供の恋愛ごとだったが、それでも甘酸っぱいものだったと、傍で見ていた自分はよく覚えている。
 今では全て色褪せてはしまったが、初めにスズカを好きになったのはアレイだったと知っているジグは、それにいつまでも拘るこの生真面目な幼馴染も、面倒くさいやつだと十分、分かり切っていた。

「何十年前の話をしているんだ。そんな子供の頃の話」
 鞘あての景品だった女は軽やかに昔を切り捨てるが、ジグにはレンの気持ちが全く分からないなりにも、想像は出来た。
 レンは苦虫を噛み潰したような顔で、酒を飲んでいる。図星だった部分もあるからだろう。

「まあ、アレイがうまくいってくれるといいんだがな」
 スズカは弟を思い出すかのように、そうポツリと言った。彼女の日本での記憶はもう当の昔にない。だから、彼女が思い出す弟としての相手は、アレイであり、レンだった。
 その内の一人が、図らずも自分の伴侶となってはしまったが、アレイに対する思いは変わらないのだろう。願うように呟かれた言葉に、レンも深く頷いている。

 親友夫婦がそのように、幼馴染の幸せを願うのは美しい。美しいが、幼馴染なんてそんな綺麗なだけのものではないだろう。

「明日、指輪まで買おうとするに100ラガー」
 ポツリと呟いたジグに、ハッとスズカとレンが目を見開く。

「300ラガーだ。ネックレスかブレスレットといった身に着ける目立つものもを買おうとする」
 レンが追従する。負い目がある割に容赦がないのもこの幼馴染の特徴だ。

「ソラさんの外泊用寝間着を買おうとするに500ラガー」
 最後にスズカがそう言うと、三人はそのまま無言になった。
 

 どれも、重い……というか、嫌すぎる。と三人の心がひとつになった。
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