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2巻オマケ
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「まあまあ、ソラったら本当にすいません」
「すいません、飲ませすぎちゃって……」
自分は飲ませていないけど、ソラちゃんの家ではそんなことは関係ないだろう。事実は酔って泥酔した彼女を、彼氏(仮)が連れてきたと言うことだけだ。
「申し訳ないんだけど、2階のソラの部屋まで運んでくださる?」
「はい」
顔は笑顔だが、内心は汗ダラダラだ。初ソラちゃんの部屋なんて、レベルが高すぎる。
ただでさえ、さっき散々煽られて、この冷たい野外が、全然寒くなくて困ったと言うのに。
「コーヒー、用意しておくから飲んでいって」
そう言うと、ソラちゃんのおかあさんは俺が部屋に入るのも見ずに階下に降りていってしまう。娘の部屋に勝手に……って。それでいいの? それでいいの? 藤森家。
初めて入ったソラちゃんの部屋は、ソラちゃんらしい、シンプルな部屋だった。アイボリーやブラウンで統一されているところは、随分渋いなと思ったが、乱雑な感じはしない。それ程、部屋にいないのか、それともきちんとした性格なのか。
長年同じ勤め先ではあったけれど、こうして彼女の部屋というインナーワールドに入ってしまうと、ソラちゃんとより近くなれた気がして、年甲斐もなく胸が弾んだ。
そっと彼女をベッドに降ろし、布団をかけてやる。流石に服を脱がすようなことは出来なかったが、その内、起きたら着替えるだろう。
乱れた髪をすいてあげて、その頬に、自分へのご褒美替わりにキスをする。ほんのり冷たい、だけどすべすべの頬。ついつい興がのって、そのまま唇スレスレのところまでキスをした。
(これ以上は駄目だな)
自分自身を必死に戒めて、体を起こす。離れがたい誘惑に、彼女の唇に触れたい欲求。
それらを一息吐くことで逃すと、階段をトントンと降りていく。ソラちゃんのお母さんは「あら、早かったのね」なんて、暢気なことを言う。
ソラちゃんのお母さん、寝ている娘と一つの部屋で、遅かったらヤバイでしょうよ……!
言いたい言葉は、彼女のお母さんだと言うことで飲み込んだ。
「初めてのクリスマスだからはしゃいじゃったのね」
ソラちゃんのお母さんはそう言うが、実質は俺とのデートも何もなかった。ただ、酔っ払いの彼女を背負ってきただけ。
それでもソラちゃんのお母さんには、俺が彼女と仕事の後にデートしたのだろうとでも思っているのだろう。
「今朝は、いつもより大きなカバンで、あからさまに仕事に行ったのよ?」
コーヒーを戴きながら、言われた言葉に思い当たる節はない。どういう顔をすればいいのか分からずにいたが、ソラちゃんのお母さんはそんな俺には気付かない。
「親の私から見ても可愛いと思うんですから、小林さんも可愛いでしょ?」
親バカ発言と言えばそこまでだろうが、自分の娘をそこまで堂々と誇れるソラちゃんの母親を、俺は好ましく思う。
「ええ、とても可愛いと思います」
だから大事にしたいし、だから、出来る限り彼女を彼女のままでいさせてあげたい。
「大切に……してくださいね」
願う様に紡がれた言葉に、
「大切にします」
と強く返した。
大切にする。
誓った言葉に偽りはない。例え、それにどんな犠牲を払っても、俺は彼女を最優先にするだろうな、と思った。自分という範囲内においては……。
一瞬過った別の世界の些末なことを、俺はコーヒーと一緒に飲み込んだ。全ては自分の中に納める。その内実は決してソラちゃんには知らせないと誓って──。
「すいません、飲ませすぎちゃって……」
自分は飲ませていないけど、ソラちゃんの家ではそんなことは関係ないだろう。事実は酔って泥酔した彼女を、彼氏(仮)が連れてきたと言うことだけだ。
「申し訳ないんだけど、2階のソラの部屋まで運んでくださる?」
「はい」
顔は笑顔だが、内心は汗ダラダラだ。初ソラちゃんの部屋なんて、レベルが高すぎる。
ただでさえ、さっき散々煽られて、この冷たい野外が、全然寒くなくて困ったと言うのに。
「コーヒー、用意しておくから飲んでいって」
そう言うと、ソラちゃんのおかあさんは俺が部屋に入るのも見ずに階下に降りていってしまう。娘の部屋に勝手に……って。それでいいの? それでいいの? 藤森家。
初めて入ったソラちゃんの部屋は、ソラちゃんらしい、シンプルな部屋だった。アイボリーやブラウンで統一されているところは、随分渋いなと思ったが、乱雑な感じはしない。それ程、部屋にいないのか、それともきちんとした性格なのか。
長年同じ勤め先ではあったけれど、こうして彼女の部屋というインナーワールドに入ってしまうと、ソラちゃんとより近くなれた気がして、年甲斐もなく胸が弾んだ。
そっと彼女をベッドに降ろし、布団をかけてやる。流石に服を脱がすようなことは出来なかったが、その内、起きたら着替えるだろう。
乱れた髪をすいてあげて、その頬に、自分へのご褒美替わりにキスをする。ほんのり冷たい、だけどすべすべの頬。ついつい興がのって、そのまま唇スレスレのところまでキスをした。
(これ以上は駄目だな)
自分自身を必死に戒めて、体を起こす。離れがたい誘惑に、彼女の唇に触れたい欲求。
それらを一息吐くことで逃すと、階段をトントンと降りていく。ソラちゃんのお母さんは「あら、早かったのね」なんて、暢気なことを言う。
ソラちゃんのお母さん、寝ている娘と一つの部屋で、遅かったらヤバイでしょうよ……!
言いたい言葉は、彼女のお母さんだと言うことで飲み込んだ。
「初めてのクリスマスだからはしゃいじゃったのね」
ソラちゃんのお母さんはそう言うが、実質は俺とのデートも何もなかった。ただ、酔っ払いの彼女を背負ってきただけ。
それでもソラちゃんのお母さんには、俺が彼女と仕事の後にデートしたのだろうとでも思っているのだろう。
「今朝は、いつもより大きなカバンで、あからさまに仕事に行ったのよ?」
コーヒーを戴きながら、言われた言葉に思い当たる節はない。どういう顔をすればいいのか分からずにいたが、ソラちゃんのお母さんはそんな俺には気付かない。
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「大切にします」
と強く返した。
大切にする。
誓った言葉に偽りはない。例え、それにどんな犠牲を払っても、俺は彼女を最優先にするだろうな、と思った。自分という範囲内においては……。
一瞬過った別の世界の些末なことを、俺はコーヒーと一緒に飲み込んだ。全ては自分の中に納める。その内実は決してソラちゃんには知らせないと誓って──。
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