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2巻オマケ
気まぐれは起こらない
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「ちょっ、まじかよ、藤森奏楽!」
俺は椅子が横転して爆睡し始めた藤森を起こすと、机に伏せるようにして座らせる。
当の本人は涎を垂らしそうな勢いで口を開いて爆睡だ。
「勘弁しろよ……」
これが好みの女だったら、このまま俺の部屋にお持ち帰り(※勿論手はださないが、今後の布石としてだ)なのだが、藤森奏楽は生憎俺の好みじゃない。気の置けない友人レベルだ。
「あー、こいつん家、どこだったけかなあ……」
ガリガリと頭をかきつつ、さてどうしようかと思ったとき、ブーブーブーと藤森奏楽のカバンのサイドポケットで震えるスマホに気付いた。誰かからの電話だろう。
普段ならそんなことはしないのだが、なんとなく、神の天啓のような気がして、そのスマホを取り出してみる。サイドポケットだしセーフだろう。
着信は【店長】と表示されている。
言わずもがな、今日の藤森奏楽の泥酔原因だろう。
俺は迷いなく電話に出た。
「あ、もしもし」
『……っ』
電話の向こうで、男が息を飲むのが分かった。向こうは男の声が電話に出たことに酷く驚いたのだろう。
「小林さん、お久しぶりです。藤森奏楽の友人の及川昴です」
とりあえず意地の悪いことはできないのでそう名乗ると、
『ああ、及川君か……』
と、小林さんの安心した声が返ってくる。
「今日、駅前で藤森と飲んでるんですけど、なんか藤森、酔っぱらって寝ちゃって。
悪いんですけど、小林さん、迎えに来られますか?」
『分かった。どこの居酒屋?』
快く小林さんは快諾してくれた。
ホッとしつつ電話を切ると、着信履歴23件とかいうのが見えて、間違いなく全部、小林さんなんだろうなと思うと苦笑いを禁じ得ない。
「くっそ、リア充じゃん、藤森奏楽」
悔しいので藤森奏楽の頬をつついてやると、「ううう……むにゃあ」と可愛らしくクタリとしたので、俺は別の意味で苦笑してしまう。
あくまで友人ではあるけれど、俺と藤森奏楽は性別が違う。
にもかかわらず、この無防備さ。
小林さんも泣きたいところだろう。
事実、本社で会ったときは、バリバリ俺を警戒している節があったから。
「きちんと捕まえていないと、俺が気まぐれ起こすかもしれませんよぉ?」
ここに向かって走ってくるだろう小林さんを思いながらそう呟くと、俺は藤森奏楽の寝顔をつまみに、温くなってしまった酒を干す。
俺は椅子が横転して爆睡し始めた藤森を起こすと、机に伏せるようにして座らせる。
当の本人は涎を垂らしそうな勢いで口を開いて爆睡だ。
「勘弁しろよ……」
これが好みの女だったら、このまま俺の部屋にお持ち帰り(※勿論手はださないが、今後の布石としてだ)なのだが、藤森奏楽は生憎俺の好みじゃない。気の置けない友人レベルだ。
「あー、こいつん家、どこだったけかなあ……」
ガリガリと頭をかきつつ、さてどうしようかと思ったとき、ブーブーブーと藤森奏楽のカバンのサイドポケットで震えるスマホに気付いた。誰かからの電話だろう。
普段ならそんなことはしないのだが、なんとなく、神の天啓のような気がして、そのスマホを取り出してみる。サイドポケットだしセーフだろう。
着信は【店長】と表示されている。
言わずもがな、今日の藤森奏楽の泥酔原因だろう。
俺は迷いなく電話に出た。
「あ、もしもし」
『……っ』
電話の向こうで、男が息を飲むのが分かった。向こうは男の声が電話に出たことに酷く驚いたのだろう。
「小林さん、お久しぶりです。藤森奏楽の友人の及川昴です」
とりあえず意地の悪いことはできないのでそう名乗ると、
『ああ、及川君か……』
と、小林さんの安心した声が返ってくる。
「今日、駅前で藤森と飲んでるんですけど、なんか藤森、酔っぱらって寝ちゃって。
悪いんですけど、小林さん、迎えに来られますか?」
『分かった。どこの居酒屋?』
快く小林さんは快諾してくれた。
ホッとしつつ電話を切ると、着信履歴23件とかいうのが見えて、間違いなく全部、小林さんなんだろうなと思うと苦笑いを禁じ得ない。
「くっそ、リア充じゃん、藤森奏楽」
悔しいので藤森奏楽の頬をつついてやると、「ううう……むにゃあ」と可愛らしくクタリとしたので、俺は別の意味で苦笑してしまう。
あくまで友人ではあるけれど、俺と藤森奏楽は性別が違う。
にもかかわらず、この無防備さ。
小林さんも泣きたいところだろう。
事実、本社で会ったときは、バリバリ俺を警戒している節があったから。
「きちんと捕まえていないと、俺が気まぐれ起こすかもしれませんよぉ?」
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