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2巻オマケ
触手が嫌いなんて男じゃない
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カランカラン、今日もサクラ亭に男たちは集う。
しかし、今日はちょっと顔向きが違う。いつもの面々に加え、ホッソリとした男が一人、加わっていた。
「あれ、ナシカくんじゃないか」
アレイはジグの隣で飲んでいるナシカに声をかけと、ナシカは男性にしてはやけに柔和な笑顔で「こんばんは」とアレイに返した。
「どうしたの?」
「いえ、今日はアレイさんに色々と聞こうと思いまして」
「何を?」
「触手ギリギンテの作り方です。勿論、詳しくは神殿の規約にも関わるでしょうが、どう考えても違う効能があるのかと思われる機能を、ギリギンテに見ましたので、是非後学の為に教えていただこうかと……」
「ええ? 俺でよければ、何でも聞いてよ」
アレイはナシカの問いかけに快く承諾すると、ギリギンテ──ボウに関してのことを話していく。
「なるほど、あの声の機能は元々ついていたわけではないんですね」
「うん。何でか自然に進化したんだよねえ」
「ギリギンテは進化するのですか──! 実に興味深い」
ナシカは魔術に対しての知的好奇心が強いのだろう。ひたすらアレイの言葉に聞き入っている。アレイもそんなナシカについついボウのことを熱く語る。
「やっぱり巫女を守る為にはあれくらい最強でないと……!」
「そうですね。同意します。
して、あの白い液体は何でしょうか?」
「え──? 何?」
「本日、ギリギンテから白い液体が吐き出され、それによってハクサ殿下の炎が消えました。恐らく消火作用を及ぼす液体のようでしたが……」
「……」
「どうしました、アレイさん」
「い、いや。それはね──」
アレイは一瞬顔色を変えたが、直ぐに話を元に戻して、ギリギンテに関してナシカに語った。話を聞き終えた後、ナシカは充実感に満ち足りた顔でサクラ亭を後にした。
「なあ、アレイ」
沈黙していたジグが、ナシカの去った後にアレイに呼びかける。
「ん?」
「あの、消火液体って、違う目的で作ったやつだろう?」
幼馴染の考えそうなことだ──と思いながら問えば、幼馴染は「あはは」と乾いた笑いをしてから、
「対女盗賊用のオプションで、一番最初の時に付けといたんだけど、忘れてました……。ただの樹液です。もちろん、消火作用なんてついてないんだけど……。まさか進化していたとは……」
とボソリと呟いた。
「なんというか──」
ジグが次の言葉を探しあぐねていると、アレイはハッと顔を上げ、
「そうだ、今度うっかりソラちゃんにマッチを持たせて──!」
とあらぬ世界に入りそうになっていたので、ジグはすかさず
「やめとけ。ソラにこれ以上嫌われても知らないぞ」
と突っ込んでおいた。
こうして、ソラとアレイの仲がこじれないようにしている自分はどれだけ友人思いなんだ、とジグはつくづく実感しながら、酒を干した。
この残念な古なじみに春が来るのは、おそらく、まだまだ先だ。
しかし、今日はちょっと顔向きが違う。いつもの面々に加え、ホッソリとした男が一人、加わっていた。
「あれ、ナシカくんじゃないか」
アレイはジグの隣で飲んでいるナシカに声をかけと、ナシカは男性にしてはやけに柔和な笑顔で「こんばんは」とアレイに返した。
「どうしたの?」
「いえ、今日はアレイさんに色々と聞こうと思いまして」
「何を?」
「触手ギリギンテの作り方です。勿論、詳しくは神殿の規約にも関わるでしょうが、どう考えても違う効能があるのかと思われる機能を、ギリギンテに見ましたので、是非後学の為に教えていただこうかと……」
「ええ? 俺でよければ、何でも聞いてよ」
アレイはナシカの問いかけに快く承諾すると、ギリギンテ──ボウに関してのことを話していく。
「なるほど、あの声の機能は元々ついていたわけではないんですね」
「うん。何でか自然に進化したんだよねえ」
「ギリギンテは進化するのですか──! 実に興味深い」
ナシカは魔術に対しての知的好奇心が強いのだろう。ひたすらアレイの言葉に聞き入っている。アレイもそんなナシカについついボウのことを熱く語る。
「やっぱり巫女を守る為にはあれくらい最強でないと……!」
「そうですね。同意します。
して、あの白い液体は何でしょうか?」
「え──? 何?」
「本日、ギリギンテから白い液体が吐き出され、それによってハクサ殿下の炎が消えました。恐らく消火作用を及ぼす液体のようでしたが……」
「……」
「どうしました、アレイさん」
「い、いや。それはね──」
アレイは一瞬顔色を変えたが、直ぐに話を元に戻して、ギリギンテに関してナシカに語った。話を聞き終えた後、ナシカは充実感に満ち足りた顔でサクラ亭を後にした。
「なあ、アレイ」
沈黙していたジグが、ナシカの去った後にアレイに呼びかける。
「ん?」
「あの、消火液体って、違う目的で作ったやつだろう?」
幼馴染の考えそうなことだ──と思いながら問えば、幼馴染は「あはは」と乾いた笑いをしてから、
「対女盗賊用のオプションで、一番最初の時に付けといたんだけど、忘れてました……。ただの樹液です。もちろん、消火作用なんてついてないんだけど……。まさか進化していたとは……」
とボソリと呟いた。
「なんというか──」
ジグが次の言葉を探しあぐねていると、アレイはハッと顔を上げ、
「そうだ、今度うっかりソラちゃんにマッチを持たせて──!」
とあらぬ世界に入りそうになっていたので、ジグはすかさず
「やめとけ。ソラにこれ以上嫌われても知らないぞ」
と突っ込んでおいた。
こうして、ソラとアレイの仲がこじれないようにしている自分はどれだけ友人思いなんだ、とジグはつくづく実感しながら、酒を干した。
この残念な古なじみに春が来るのは、おそらく、まだまだ先だ。
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