異世界コンビニ

榎木ユウ

文字の大きさ
上 下
75 / 121
2巻オマケ

触手が嫌いなんて男じゃない

しおりを挟む
 カランカラン、今日もサクラ亭に男たちは集う。

 しかし、今日はちょっと顔向きが違う。いつもの面々に加え、ホッソリとした男が一人、加わっていた。

「あれ、ナシカくんじゃないか」
 アレイはジグの隣で飲んでいるナシカに声をかけと、ナシカは男性にしてはやけに柔和な笑顔で「こんばんは」とアレイに返した。

「どうしたの?」
「いえ、今日はアレイさんに色々と聞こうと思いまして」
「何を?」
「触手ギリギンテの作り方です。勿論、詳しくは神殿の規約にも関わるでしょうが、どう考えても違う効能があるのかと思われる機能を、ギリギンテに見ましたので、是非後学の為に教えていただこうかと……」
「ええ? 俺でよければ、何でも聞いてよ」
 アレイはナシカの問いかけに快く承諾すると、ギリギンテ──ボウに関してのことを話していく。

「なるほど、あの声の機能は元々ついていたわけではないんですね」
「うん。何でか自然に進化したんだよねえ」
「ギリギンテは進化するのですか──! 実に興味深い」
 ナシカは魔術に対しての知的好奇心が強いのだろう。ひたすらアレイの言葉に聞き入っている。アレイもそんなナシカについついボウのことを熱く語る。

「やっぱり巫女を守る為にはあれくらい最強でないと……!」
「そうですね。同意します。
 して、あの白い液体は何でしょうか?」
「え──? 何?」
「本日、ギリギンテから白い液体が吐き出され、それによってハクサ殿下の炎が消えました。恐らく消火作用を及ぼす液体のようでしたが……」

「……」
「どうしました、アレイさん」
「い、いや。それはね──」
 アレイは一瞬顔色を変えたが、直ぐに話を元に戻して、ギリギンテに関してナシカに語った。話を聞き終えた後、ナシカは充実感に満ち足りた顔でサクラ亭を後にした。

「なあ、アレイ」
 沈黙していたジグが、ナシカの去った後にアレイに呼びかける。
「ん?」
「あの、消火液体って、違う目的で作ったやつだろう?」
 幼馴染の考えそうなことだ──と思いながら問えば、幼馴染は「あはは」と乾いた笑いをしてから、
「対女盗賊用のオプションで、一番最初の時に付けといたんだけど、忘れてました……。ただの樹液です。もちろん、消火作用なんてついてないんだけど……。まさか進化していたとは……」
とボソリと呟いた。

「なんというか──」
 ジグが次の言葉を探しあぐねていると、アレイはハッと顔を上げ、
「そうだ、今度うっかりソラちゃんにマッチを持たせて──!」
とあらぬ世界に入りそうになっていたので、ジグはすかさず
「やめとけ。ソラにこれ以上嫌われても知らないぞ」
と突っ込んでおいた。


 こうして、ソラとアレイの仲がこじれないようにしている自分はどれだけ友人思いなんだ、とジグはつくづく実感しながら、酒を干した。


 この残念な古なじみに春が来るのは、おそらく、まだまだ先だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。