異世界コンビニ

榎木ユウ

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1巻オマケ

ケンタのソラ

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 この世界に、独りだと言われたら、きっと俺はどうにかなってしまったんじゃないかと思う。

 勇者だなんて崇められて、綺麗なお姫様にチヤホヤされて、馬鹿な大人はたくさんいるけどみんなそれなりにはいい奴で。

 でも、胸の奥の、どうしようもない寂寥感だけは、誰にも分かってもらえない。

「ソラさんに会いに行こうかなー」
 ラフレ姫にそう言うと、ラフレ姫は辺りを見回してから、
「そうですね……。別の日にしませんか?」
と珍しく俺の意向に沿わない答えを返した。
「何で?」
「えっと……」
「もしかして焼き餅?」
 俺が冗談めかしてそう言えば、ラフレ姫は「もう」と口をとがらせて、
「からかわないでください」
と可愛いことを言う。
 少しだけ年上の女の子。きっと恋愛対象になってもおかしくない。
 だけど、今はそんなことを何故か考える気にも慣れなくて──。

「ソラさんに会いに行きたいなー」
 思い浮かべるのは同郷の年上のお姉さん。
 同じ国に住んでいた名残。

 きっと、俺一人だけだったとしてもなんとかなったのだろうとは思う。
 でも、誰かが自分と同じ気持ちで、自分と同じ環境でいてくれると言うのは、とても、とても、重い。

 恋愛的な意味では好きでも何でもないけど、あのお姉さんのコンビニに行くと、昔いた場所を忘れないでいられるような気がして、俺は今日もコンビニに行く。
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