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1巻オマケ
防犯カメラと触手
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カランカラン。コンビニの電子入店音とは違う、木のドアに括りつけられたベルの高温な音に、アレイはドアの方を見た。
「よ」
カウンターに座っている自分の横に、現れた昔馴染みはニヤニヤとしながら腰かける。
「あ、いつもの」
ジグがそうマスターに告げると、マスターは勝手知ったるで、麦芽酒をキンキンに冷えた銀ジョッキに注いで、ジグの前に出した。ジグはそれをゴクゴクと喉越し強く飲み終えると、「ふはあ」と間抜けな声をあげる。
いつも待ち合わせなどしていないのだが、仕事上がりにここのバーにアレイが立ち寄る日は、何故か高い確率でジグも飲みに来る。否、ジグが日参しているところにたまたまアレイが来ているのかもしれない。それでも、二人ともこのバーぐらいしか気の置けない場所がないので、いつもここで飲んでいる。互いがいなければ一人で飲むし、互いがいれば他愛ない話をつまみに飲む。
「あれ、あの嬢ちゃん、なかなかタフだな」
率直なジグの感想に、アレイは苦笑いで返す。
「ああいう子だから連れてきたんだけどね」
「今日の強盗騒ぎも、もう慣れたもんだったもんなぁ」
「まあ、絶対、彼女にケガなんかはさせないしね」
それだけの防犯をあのコンビニには敷いているので、不安要素は彼女の精神面だったが、それさえも最初の頃は戸惑いもあったようだが、いつの間にか肝が据わったらしい。今では大して動じない精神が、アレイにも、ジグにとっても好ましく思えた。
「で、だ。言おう言おうと思ってたんだが……」
「ん?」
ジグが珍しく言葉を濁す。物おじしない彼にしては珍しい態度に、横を向けば、ジグは「あー」と諮詢してから、キッパリと言う。
「なんで、あのカメラとやらに触手なんだ?」
「え……?」
昔馴染みからの意外な言葉に、思わずアレイは言葉に詰まった。
「今日、触手に飲まれた盗賊を見ながら思ったんだが、アレ、いけてないぞ」
ジグが首を横にゆっくりと振れば、アレイはグッと酒の入ったグラスを握りしめ、ポツリと呟く。
「……夢だったんだ……」
「……」
「……女盗賊が触手に絡まれると思ってたのに……っ!!」
バッ、とカウンターに伏せるアレイに、ポン、とジグは肩に手を置いた。
「残念だったな……」
今のところ、触手に絡めとられているのは男盗賊しかいない。あのカメラを触手にした苦労は並大抵でなかったことをジグは知っているので、幼馴染の努力が泡に帰したことに深く同情だけした。
そして、こんなことを言う幼馴染を、あの店員が知ることがなくて本当に良かったとしみじみジグは思いながら、今日も男たちの夜は酒と共に更けていく。
「よ」
カウンターに座っている自分の横に、現れた昔馴染みはニヤニヤとしながら腰かける。
「あ、いつもの」
ジグがそうマスターに告げると、マスターは勝手知ったるで、麦芽酒をキンキンに冷えた銀ジョッキに注いで、ジグの前に出した。ジグはそれをゴクゴクと喉越し強く飲み終えると、「ふはあ」と間抜けな声をあげる。
いつも待ち合わせなどしていないのだが、仕事上がりにここのバーにアレイが立ち寄る日は、何故か高い確率でジグも飲みに来る。否、ジグが日参しているところにたまたまアレイが来ているのかもしれない。それでも、二人ともこのバーぐらいしか気の置けない場所がないので、いつもここで飲んでいる。互いがいなければ一人で飲むし、互いがいれば他愛ない話をつまみに飲む。
「あれ、あの嬢ちゃん、なかなかタフだな」
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「ああいう子だから連れてきたんだけどね」
「今日の強盗騒ぎも、もう慣れたもんだったもんなぁ」
「まあ、絶対、彼女にケガなんかはさせないしね」
それだけの防犯をあのコンビニには敷いているので、不安要素は彼女の精神面だったが、それさえも最初の頃は戸惑いもあったようだが、いつの間にか肝が据わったらしい。今では大して動じない精神が、アレイにも、ジグにとっても好ましく思えた。
「で、だ。言おう言おうと思ってたんだが……」
「ん?」
ジグが珍しく言葉を濁す。物おじしない彼にしては珍しい態度に、横を向けば、ジグは「あー」と諮詢してから、キッパリと言う。
「なんで、あのカメラとやらに触手なんだ?」
「え……?」
昔馴染みからの意外な言葉に、思わずアレイは言葉に詰まった。
「今日、触手に飲まれた盗賊を見ながら思ったんだが、アレ、いけてないぞ」
ジグが首を横にゆっくりと振れば、アレイはグッと酒の入ったグラスを握りしめ、ポツリと呟く。
「……夢だったんだ……」
「……」
「……女盗賊が触手に絡まれると思ってたのに……っ!!」
バッ、とカウンターに伏せるアレイに、ポン、とジグは肩に手を置いた。
「残念だったな……」
今のところ、触手に絡めとられているのは男盗賊しかいない。あのカメラを触手にした苦労は並大抵でなかったことをジグは知っているので、幼馴染の努力が泡に帰したことに深く同情だけした。
そして、こんなことを言う幼馴染を、あの店員が知ることがなくて本当に良かったとしみじみジグは思いながら、今日も男たちの夜は酒と共に更けていく。
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