JK LOOPER

猫乃麗雅

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4th STAGE/国を渡ってゆかねばならぬのです。

233.未聞

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私の背中を踏んでいる足に〝ぐぐッ〟と体重を乗せた“黒髪ロングさん”が、

「今、ラクにしてあげるわね。」

そのように告げてきたのです。

もはや“虫の息”である私には、なんの抵抗もできません。

このまま殺されてしまいそうになる刹那でした。

例の現象・・・・が起きたのは。

全てが、ストップするなり、逆回転していったのです。

私も、他者も、風景も、何もかもが、“巻き戻し”されているかのように。

そう。

三重県のホテルで“騎士のハルカさん”に命を狙われた際と同じ状況であります。

この流れで、〝ピタッ〟と止まったのは、実家でした。

[畳敷きの広間]にて。

「じゃあ、許可してあげ……、え?!」

叔母(長女)さんが喋っている途中でビックリします。

どうやら、現在は、台湾に渡る前のようです。

他の人たちも目を丸くしているなか、

琴晴ことはちゃん、これ・・って??」

そう壱紀かずきくんに窺われ、

「あー、やっぱり、記憶が残っているんだね。」

〝ふむ〟と頷いた私は、

「“もう1つのループ”だよ、間違いなく。」

このように答えました。

そうしたタイミングで、私と長女さんのスマホが、ほぼ同時に鳴ったのです。

私は咲凛えみりちゃんからで、叔母の方は旦那さんであります。

双方ともに[タイムループ]に関しての質問でした…。


電話を切り終えた私は、

基山街チーシャンチェで、僕らと別れた後、何かあった?」

聡真そうまくんに確認されて、

「実は……。」

あの事件を語っていったのです…。


「悪者だったんだ。」

信じられなさそうに呟いたのは、陽斗はるとくんであります。

この場が沈黙に包まれていくなか、

「そういえば。」
「咲凛ちゃんて、何やってるの??」
「ここのところ会ってない気がするけど。」
「あと……、お爺ちゃんと、お婆ちゃんも。」

私は、ふと首を傾げたのです。

「あぁー、言ってなかったっけか?」

逆に聞いてきた父が、

「婆ちゃんは“演奏者”で、咲凛は“歌手”という、ジョブ・・・になっていてな。」
「カラオケボックスで、いろいろやってるらしい。」
「弟…、お前とかの叔父さんが動画を撮影して。」
「つまり……、なんだ??」

葵月はづきちゃんにパス・・しました。

それを受け、

「お婆ちゃんが三味線をいて、咲凛ちゃんが歌ってるよ。」
「以外にもポップが多いね、演歌じゃなく…。」
「どちらも〝精神に働きかける能力〟だとか?」
「そのスキルを用いた曲や歌声を聴けば〝落ち込んでいる人を高揚させたり、イラついているときは冷静にできたりとか、不安や恐怖を静めるのと、心の傷を癒せる〟んだって。」
「2人は一緒に活動しているから、効果が倍増するみたい。」
「でぇ。」
「それを、咲凛ちゃんとソウくんのお父さんが収録して編集したものを“WeTubウィチューブ”にアップしているから、いつでも見られるよ。」

このように教えてくれた葵月ちゃんです。

「……、知ってた??」

いささか驚きを隠せない私に、

「まぁ、自分の家族が絡んでいるし…。」
「うちの父親は、もともとの本職からして、そういうのはお手のもの・・・・・だしね。」
「ジョブは“釣り士”になっていたけど、興味なかったみたいだから、2人に協力しているほうが“水を得た魚”みたいになってる。」

苦笑いしつつ述べる聡真くんでした。

〝へぇー〟と反応を示して、

「お爺ちゃんは?」

改めて尋ねた私であります。

すると、暁斗あきとくんが、

「飲食店やってるよ。」
「うちらんとこや、壱紀とかの、親父達と。」
「爺ちゃんは“調理士”になっていたらしく……、とっくに廃業していた他所よその居酒屋を、そこの物件のオーナーと契約して、借りたんだと。」
「つっても、爺ちゃんたちは、11時から14時までの“ランチ限定”でしか運営してないけどな。」
「まぁ、なんにせよ。」
「うちの父親はジョブが“狩猟士”なんだが…、〝ここら辺は野生の動物がいないから無意味だ〟という理由で、爺ちゃんとこで仕込みや配膳に皿洗いを手伝ってるらしい。」
「叔父さんは、“運び屋”になってたみたいで、デリバリーを担当している。」
「ちなみに、最近レベルが上がって〝一日二時間はエネミーに襲われない〟そうだ。」

そのように説明してくれたのです。

…………。

[一般職]の親族が、こうした日々を過ごしているとは思いもよらず、若干ながらフリーズしてしまう私でした―。
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